フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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もしエーリヒ君が妖精の加護なしに順調に&想定以上に成長していれば、コブラみたいな男になっていても何もおかしくないのだ。(身長192cm、鋼のように引き締まった筋肉、オリンピックに出たら金メダルでオセロ出来るくらいの身体能力……物理ステータスを全部<寵児>レベルまでもってけばイケるイケる!)

===

◆前話
ライゼニッツ卿「遺失呪文:眠りの霧(スリープクラウド)。夢の中へ……きっとあなた方なら、ヘルガちゃんを悪夢から救えます」
 


10/n 霜の妖精ヘルガと優しい世界-3(それは まぎれもなく ヤツさ)

 

 ……?? なんか違和感あったような。

 私は首筋を撫でながら、首をひねった。

 

 入ってきた館の正面ホールを見れば、そこには館の主の肖像画が掛けてあった。

 家族の肖像。中心には幼い娘の、その両脇には両親の。

 あの真ん中の娘には見覚えがある……描かれているのはヘルガ嬢だな。

 

 っていうか、ひょっとしてライゼニッツ卿、ヘルガ嬢の育った屋敷を再現してる?

 彼女がすぐに馴染めるように配慮して?

 普通そこまでするか、って思うけど、ライゼニッツ卿だしなあ……。十分あり得る。

 

「まさかここまでするとはなあ。流石だなライゼニッツ卿は」

 

 筋金入りの変態だよ、ホント。

 でも育った家の再現はトラウマのトリガーにもなる気がするんだけど、そこんとこどうなのだろうか。

 

「君もそう思うだろ? エーリヒく……どぉおおわああああああ!!??

 

「いきなりそんな大声出してどうした? マックス」

 

「え。いや、だって君……背が!!」

 

「背?」

 

 身長推定192cm! 引き締まった筋肉ムキムキのマッチョメンがそこにいた!

 顔は元のエーリヒ君の幼げな容貌を残しているから余計にギャップがひど……ブはぁ!?

 わ、笑うわ! こんなん!

 

 しかもいつの間にか帯剣してるし! 鎧も着てるし!

 帝都でっ! しかも貴族のお屋敷に入るのに! 帯剣できるわけねーだろ!

 

 

 なんだ? 何かおかしいぞ……!

 

 

「ターニャのお兄さん、どうしたんですか?」

 

「あ、ああエリザちゃん。ちょっとこの世界のリアリティラインについて考えを……ぷはっ!?」

 

「おいてめマックス、ひとの妹見て笑うたぁどういう了見だ、ぁあん?」

 

「ちが、ちがうんだエーリヒ君!」

 

 秒で抜剣すんなこのシスコンがよぉ!!!

 ここ貴族の屋敷の中だぞ!!

 常識ってもんがねえのか!?

 

 っていうか違和感ねえのかよ!?

 見ろよエリザちゃんを!

 

「? エリザはいつも通り天使だが?」

 

「こ、こいつなんて純真な目を……!」

 

 ってそうじゃねー!

 

 

 育ってんだろうが! 身体が! めちゃくちゃ育ってるんだよ!

 

 エリザちゃんがアグリッピナ氏並みにグラマラス美女になってるぞ!?

 つーか、身体から下がほぼアグリッピナ氏のスタイルだぞ!?

 

 おっかしいだろうが!!?

 エリザちゃんが「あにさま~」ってエーリヒ君と腕を組んでるが、完全に妙齢のカップルにしか見えねえ。

 頭 痛くなってきた。

 

 

「マックスおかあさま。それより早くヘルガのところへ参りましょう?」

 

「ああ、ターニャ。そうだな……ってお前もか……」

 

「……?」

 

 ターニャに話しかけられて振り返ったら、そこにはターニャの声を発するヒト型の球電(プラズマ)があった。

 もう驚かないぞ。

 

 

 

 そしたら自分の姿はどうなってるんだ?

 

 と思って意識したら、両肩に違和感があって、視覚情報が2人分増えている感触があったから察した。

 そうかそうか3つの魂が混ざってるからそれを表してるんだな、はいはい。

 ……三面六臂って阿修羅像じゃねーんだぞ。どおりで視野が広い。

 

 

「オーケイ、これは夢だ」

 

 ライゼニッツ卿の趣向もだいたい読めた。

 これもヘルガ嬢の治療の一環というわけね?

 

 でも流石に人外の見た目はNGでしょ、私とターニャみたいなのはさ。

 

 

 

 仮想身体情報整形調律術式(ばけのかわをはがすな)> ×2

 

 

 

 ……うむ。これでよし。

 私の顔も一つになったし腕は一対だけ。ターニャも普段通りの姿だ。

 

 きちんと魔法チートの権能も作用したようで良かった。

 

 しかしまあエーリヒ君とエリザちゃんの兄妹が『自分の理想の姿』(あるいは相手の好みの姿)に変化しているっぽいのに対して、私とターニャの親子のこの “ヒトの皮を被った人外が押さえつけていた本性顕した” 感よ。

 

 いいけどさ、この、なんていうか、なあ?

 わかるだろ?

 

「おーい、マックス。置いていくぞ」

 

「ああ、すぐ行くよ、エーリヒ君」

 

 というか私以外はこの状況に違和感を覚えていないみたいだな。

 夢ってそんなもんだろ? と言えばそうなんだけど。

 そしたら私の状態は明晰夢(夢だと分かっている夢)を見てるようなもんか。

 

 

((( きこえますか、マックス君……あなたの心に直接呼びかけています )))

 

 

 この声は! ライゼニッツ卿!!

 若干声が遠いような。

 

((( もうわかっていると思いますが、ここは夢の世界です )))

 

 でしょうね。

 他の人は気づいてないみたいですけど。

 一人だけ明晰夢見てるから、ナビゲータ(サブマス)として取り込むことにしたんですか?

 

((( この夢の世界で、あなたたちはヘルガちゃんと仲良くなって、彼女の悪夢をやっつけてください )))

 

 悪夢をやっつける?

 

((( 恐怖と悲劇をひっくり返して、安心と喜劇に変えるのです )))

 

 なるほど! 何となく分かってきましたよ!

 

((( それでは健闘を祈ります )))

 

 

 

 ライゼニッツ卿との念話のあいだもエーリヒ君たちは館を進んでいた。

 いまは先の見えない廊下に踏み入ったところだ。

 無限に続くようにも見える廊下で私たちは立ち尽くしていた。

 

 そしてその廊下にいつの間にか現れた無数の扉……。

 

「これは一体……?」

 

 エーリヒ君(高身長)が呟く。

 私はそれに答える。

 

「冒険だとも、エーリヒ君」

 

「冒険?」

 

「そう。ピンチのお姫様(ヘルガ嬢)を助けに行くのさ」

 

「おお、そうか!」

 

 チョッロ!?

 幾ら夢の中だからってそれでいいのか?

 それとも自分をTRPGのPC1だと思い込んでいるとか?

 

 ……まあいいか。

 話が早い分には問題ない。

 

 

「あにさま! 待ってくださいまし!」

 

 いざ行かん! と駆けだしたエーリヒ君を追って、エリザちゃん(ナイスバディ)も走った。

 

「エリザちゃんの守りはエーリヒ君に任せても良さそうだが……ターニャ、一応気を配っておいてくれるかい?」

 

「任せてくださいまし、おかあさま」

 

 私の頼みを聞いたターニャが、極光の翅を出してケーニヒスシュトゥール荘の兄妹を追いかけて飛んでいく。

 

 

 

 ここから見えるそれぞれの扉の先が、恐らくはヘルガ嬢の記憶、ないしはトラウマに繋がっているのだろう。

 ……扉のある廊下は先が見えないほどに長く、そこから繋がる扉の数は数え切れないほど。

 それはすなわち、ヘルガ嬢が味わった苦難の凄絶さを物語っている。

 

 これは骨が折れそうだ。

 

 

 

§

 

 

 

 まず私たちが入った部屋は、エーリヒ君が呪符の拘束衣に包まれたヘルガ嬢の首を妖精のナイフで切り裂こうとするシーン。

 あー、ヘルガ嬢を解放してしまったエーリヒ君が、一度逃げていったあとに舞い戻ったヘルガ嬢に再び追い付かれた場面か。

 ていうかあのときの首の傷はエーリヒ君がつけたものだったか……。

 

 えーと、この場合は、ヘルガ嬢を助けつつ、かといってエーリヒ君(少年)を成敗! してズンバラリとやる場面をエリザちゃんに見せるわけにもいかないから、穏便にやる必要がある……よな。

 

 あんまり悠長にやってるとまたエーリヒ君がヘルガ嬢の首を不意打ちでざっくりやっちゃうから───

 

「エーリヒ君! 自分の不始末だろ、早く助けてやれ!」

 

「あ、ああ! もちろんだとも!」

 

 あーこっちもトラウマに刺さってたか……。

 だが無理にでも動いてもらうぞ、がんばれPC1(ヒーロー)!。

 

「エリザちゃんも見てるのを忘れるなよ! 合言葉は!?」

 

「ヒロイック&ファンタジー!!」

 

 そういうこと。忘れちゃダメだよ!

 ではいざ! お姫様を助けようぜ!

 

 

 俊敏性超々向上術式(かいとうさんじょう、えものはあなた)

 

 

 敏速に関する諸能力を総合的に上昇させる付与魔法を受けたエーリヒ君(高身長)がまさに疾風迅雷の動きで、悪夢の中のかつての自分へと迫る。

 少年体のエーリヒ君が持つ、物理的な干渉を貫通する “妖精のナイフ” は鍔迫り合いを許さない── であればそれを持つ少年体エーリヒ君の腕を、高身長エーリヒ君が剣の腹で丁寧に受け流し、その隙に剣を振るうのとは逆の手でヘルガ嬢を抱きかかえた。

 

 そのタイミングを逃さず、すかさず私がヒーリングと衣装チェンジの魔法をヘルガ嬢に向かって放つ。

 

 

 呪具破壊再利用衣装生成術式(おひめさまはドレスでなくては)

 

 

「あ……あなたは……?」

 

 月下に映える騎士と姫。

 ドラマティックだろう?

 エーリヒ君のキトンブルーの瞳に引き込まれて、ヘルガ嬢は陶然として誰何した。

 彼女もこの日までの安静と治療のお陰で、少しは精神の安定を取り戻してはいるらしい。

 

「助けに来ましたよ、お姫様。薄暮の丘まではご一緒できませんが、それより私と踊りませんか?」

 

 王子の笑みでエーリヒ君(高身長)が答える。

 

「あー! ずるい! エリザも! エリザも一緒に踊ります!」

 

「あらあら。それでしたら翅が要りようですわね? <月光蝶の翅>をみなさんに!」

 

 我慢できずに飛び出したエリザちゃん(ナイスバディ)がエーリヒ君の腕を取るように空中に飛び出し、それをフォローするようにターニャが飛行補助の術式をかける。

 夜間飛行。月下で踊ろう。

 

 

 夜空で踊る彼らの歓声を聞きながら、私も笑みを浮かべる。

 

 …………さて、しばらく踊れば、この記憶(シーン)はこれで解決かな?

 

 

 頃合いを見て次の記憶(シーン)に行こう。

 

 

 

§

 

 

 

 場面転換。

 

 

 今度はどこだ?

 

「ここは……廃館の隠し部屋だな」

 

 エーリヒ君(高身長)が答えるには、彼がヘルガ嬢を見つけた部屋だという。

 

兄様(あにさま)ぁ……ここは、とっても良くないところです……」

 

「とても強力な魔法の封印ですのね」

 

 半妖精に特化した封印部屋のせいか、エリザちゃん(ナイスバディ)とターニャが居心地が悪そうにしている。

 ここはヘルガ嬢の父が、その財力と執念の総てを傾けて作り上げた牢獄だ。

 彼女ら半妖精コンビには毒だろう。

 

 結局、半妖精のヘルガは、彼女の父からは娘として認められることはなかった。

 そして、『妖精の部分を剥ぎ取ってやれば、娘が、愛する妻の間に生まれた忘れ形見のヒト種(メンシュ)の娘がこの手に帰ってくるのだ』と信じて狂った父親による愚行の集大成が、この隠し部屋だ。

 

 幾ら “剥ぎ取っても” 娘の肉体が死なぬように編まれた、封印の術式。

 部屋中びっしりと覆いつくすそれは、凄まじい狂気と妄念を(たた)えていた。

 そこに封じられた夢の中のヘルガ嬢は、ミイラのように呪符で覆われ鋲を打ち込まれ、磔架に楔で貫かれて括り付けられている。

 意識がないのか、封じられているのか、身じろぎもしていない。

 

「こんなところに閉じ込められては気分も良く無かろうね」

 

 この記憶の場面では、ヘルガ嬢を解放してやる必要があるのだろう。

 

 孤独、そして誰にも助けに来てもらえない絶望。

 これはそういう記憶(シーン)だ。

 

 だが、恐らくは解放には正式な手順が要るし、加えて解放後にすぐに介抱できるように集中治療室( I C U )並みの設備を整えておかなければならないだろう。

 それを怠るとどうなるか、というのは現実でヘルガ嬢をエーリヒ君が解放した際の顛末を思い返せば十分だ。

 狂ったヘルガ嬢は、正気を失ったまま、本能的にこの居心地の悪い部屋から飛び出して、空の上、(なばり)の月から降り注ぐ魔力を求めて飛んで行った。

 そうならないようにしなくてはならない。

 

 

 封印解除再利用治癒転換術式(ここをアイシーユーとする!)

 

 

 部屋全体の封印術式を、定められた順番で魔力に還元し、それを元にヘルガ嬢への魔力補給のための魔導炉や、清潔なベッド、そして肉体と精神の麻酔治癒術式陣に変換する。

 ヘルガ嬢が(はりつけ)にされていた刑架も、その呪具や術式ごと解体し、魔力源として再利用。

 彼女が目を覚ます前に、麻酔して眠りに就かせる。

 

 

「私もお手伝いします! <やすらぐかおり>」

 

 エリザちゃん(ナイスバディ)も妖精としての権能を発揮して香りを介した安眠・リラックスの術式を編んでくれた。

 匂い、香りというのは、非常に記憶に残りやすい原始的(プリミティブ)な感覚だ。つまり条件付けにはもってこいでもある。

 その権能を操る彼女が夢の中へ付いてきてくれたのは心強い。

 

 

 現実ではここからさらに、悪夢を除いた眠りによる精神の安寧が数日必要だろうが、ここは夢の中。

 時間の経過は都合よく無視できる。

 

「……ぁ……ぅ……」

 

 小さい呻き声とともに、ヘルガ嬢が目を覚ます。

 

 そこにエーリヒ君がベッドに横たわるヘルガ嬢の手を握り、彼女に声をかける。

 役割分担だ、私は裏方にして演出担当。エーリヒ君が主演男優。

 

「お姫様、気分はいかがかい?」

 

「ずいぶん、楽だわ……。……あなたは……? どこかで、会ったことが、あるような……」

 

「勿論! あなたが苦難の時は、私を想ってください。必ず駆け付けます。いまこのように」

 

「そう。そうですのね……ありがとう」

 

 力強い笑みを見せるエーリヒ君(高身長)に、病み上がりのヘルガ嬢が淡く微笑んだ。

 

「私はヘルガ。あなたのお名前をおうかがいしても? 騎士様」

 

「ヘルガ嬢、私はケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒと申します」

 

「エーリヒさま……」

 

 

 

「そして私はエーリヒ兄様の妹、エリザと申しますのよ。お友達になりましょう?」

 

 いい雰囲気になった二人に、エリザちゃん(ナイスバディ)が我慢できずに割り込んだ。

 ヘルガ嬢が目をきょとんと丸くした……が、すぐに気を取り直してしとやかに対応した。

 

「エリザさん、とおっしゃるのね。綺麗な金髪……ええ、ぜひお友達になりましょう、私でよろしければ」

 

「うふふ。ええ、よろしくおねがいしますね?」

 

 エーリヒ君(高身長)が何故か鳥肌の立った腕を(さす)っているが、うん、頑張ってくれ。

 その修羅場まではフォローできない。

 耳飾りも怒ったように揺れてるけど、知ーらね!

 

 

 さて、しばらく歓談したら、次の記憶(シーン)へ行こう。

 

 まだまだ先は長いぞ!

 

 

 

§

 

 

 

 そして次の記憶(シーン)

 

 拷問器具で肉を削がれて叫ぶヘルガ嬢、その処置室の扉を破って突入した騎士!

 逆光に包まれたその孤独なシルエットは──!!

 

「え、エーリヒ様……!」

 

「助けに来たよ、フラウ・ヘルガ!!」

 

 突入したエーリヒ君が、鎧袖一触、拷問吏を切り飛ばす。それらは血も出さずに黒いモヤとなって散った(エリザちゃんが見ても安心な表現だね!)。

 そして私が間髪いれずに治癒術式を走らせる。救出完了です、サー!

 

 

 

§

 

 

 

 助けた後のインターバルに親睦も深めつつ。

 

「あら。ターニャちゃんは私の妹なんですか?」

 

「ええ、養子ですけれども。ヘルガお姉さまと呼ばせてもらっても?」

 

「もちろんよろしくてよ。私も妹が欲しかったんです……でも、あれ……お父様はそんなことおっしゃってませんでしたし、おかあさまは……」

 

「ああ……。ヘルガお姉さまは、覚えてらっしゃらないのですね」

 

「おっと、ターニャ。そこまでだ。少しずつやっていかないとね」

 

 一足飛びにネタバレさせようとするターニャを止める。

 ヘルガ嬢の母が亡くなっていること、父が狂気に囚われたこと、そしてその父に認められずヘルガ嬢が苛まれたこと……全容を受け止めて消化するためにはまだ、段階が必要だろう。

 そのためにも、徐々に徐々に、この悪夢を紐解いて、塗り替えなければ。

 

「ええと、あなたは? エーリヒ様とよく一緒にいらっしゃる……」

 

「私はマックスという。まあ、ターニャと同じで、君の兄にあたるよ。血は繋がっていないがね」

 

「そうなのですね……エーリヒ様もですが、あなたも綺麗な金髪に、深い湖のような青い瞳……」

 

 ── お父様のアイスブルーの瞳とも、エーリヒ様のキトンブルーの瞳とも違いますのね。

 

 

 

§

 

 

 

 また別の記憶(シーン)

 

 妖精の相を分離させるという苦杯をあおらされようとするヘルガ嬢。

 グッと一気に飲み干し……気づく。

 

「……あ、甘いですわ……」

 

「ふふふ。すり替えておいたのさ!!」

 

「エーリヒ様!!」

 

 物陰から現れたエーリヒ君が、苦杯を飲ませようとしたローブの悪役(恐らく落日派の流れを汲む魔法使い)を蹴散らすと、安心させるようにヘルガ嬢に笑いかける。

 夢の中の約束通りに、ヘルガ嬢のピンチにはエーリヒ君が駆けつける。

 それを刷り込んでいく。

 

 ……さあ、次の記憶(シーン)だ! どんどん行くぞ!

 

 

 

§

 

 

 

 そうやって同じような場面、似たような場面で、私たちは繰り返し繰り返し、ヘルガ嬢をご都合主義的に助け、親睦を深めていった。

 丁寧に丁寧に、悪夢を塗りつぶしていった。

 

 最後の方は、ヘルガ嬢も、悪夢のオチに現れる騎士様(エーリヒ君)を待つお姫様の役どころを楽しむくらいになっていたから、私たちの労力は報われているのだろう。

 ハッピーエンドが約束されたピンチは、単なるスパイスに成り下がるのだから。

 

 だが対症療法的に悪夢のオチを変えても、根治には至らない。

 

 しかし悪夢の周りを塗りこめていけば、やがてはその中心が浮き彫りになる。

 すぐにヘルガ嬢も気づくだろう。

 

 

 悪夢の根源。

 狂った父の存在に。

 

 

 ── 対決の時は近い。

 




 
夢の中でノリノリでロールプレイするエーリヒ君の巻。

===

◆TS術式補足(次に本文中で触れらる機会が来るのがいつになるか未定なので)
自然に性別転換する種族は中性人(ティーウィスコー)を始めとして他の文化圏にも居るらしいので、彼らの生態を研究したうえで魔法的に再現すれば、精度や持続時間が上がる可能性があります。
また、時間をかけて施術することで、細胞(染色体)単位・臓器単位で外科的・生理的な作用も全て複合的に利用して身体及び世界にじっくり馴染ませることによる永続化も可能かもしれません(年単位の施術になるでしょう)。
あるいはそこまでやるなら、最初から逆位相の性別で調整したホムンクルスに魂を移した方が早いかもしれませんが、これは魂と肉体の不整合による発狂の危険もあります。
その他にも、男性化したときの精液を魔法的処理をして保管し、女性化したときの胎内で人工授精させることで疑似的に単為生殖も可能かもしれませんね(人間ではなく家畜の品種改良という観点からは、1個体でも優れた形質が確保できれば系統確立しやすくなるので便利かもしれません)。
マックス君はそこまでTS術式を突き詰める気はありませんが、アヌーク・フォン・クライスト同期聴講生はひょっとすると、そこまでやる気があるかも……?
 

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