フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
原作はWEB版も書籍版も楽しいよ!
◆前話
今後の目標
・死なない
・好奇心を満たす
・リサイクル推進
無事に現実世界のライン三重帝国の辺境に帰還した。
……ので、今後の方針について考えていこうと思う。
恒常性維持術式のおかげで飲み食いの心配は要らないし、暑さや寒さに震えることもない。まあ今は春だからそこまで心配いらないが。
身体の表面に薄く纏わせている障壁のおかげで毒虫に刺されるおそれもないし。夜闇も暗視術式で見通せるし。そもそも眠る必要もない。
じっくり考える時間はある。
現在地はどこかの
時刻は……私が次元の狭間に放逐されてから数日経った夕暮れ時、というところだろうか。
生命操作系の術で、森の下生えを増強・操作。
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繊維を編んで中を綿毛で満たして大きなクッションのようなソファを仕立て上げる。
生命操作系の術式は、虚空の箱庭で散々検証したからこれくらいはお手の物だ。
出来上がったそのフカフカにボフッと身体を投げる。あぁ~、気持ちいいんじゃ~。
「……死なないこと。好奇心を満たすこと。リサイクル推進。これがまあ基本方針として」
具体的な動きとしては、まずは三重帝国魔導院に入ることを目標にすべきだろう。
あそこは魔導の最高峰であるわけだし、そもそも公的に大手を振って魔法を使うためにはあそこで学んで
「魔導院で学ぶのに必要なのは、最低でも年額30ドラクマだったか」
ちなみに年額30ドラクマというのは、一般的な農民の年収の6年分にあたる。
加えて人気の講師に師事しようと思えばもっとお金がかかるだろう。
教科書代、触媒代、服飾費、生活費と考えれば年額30ドラクマでは足りるまい。
「金策が必要だな」
あとこの身体の方の戸籍はもう使えないだろうから、それもどうにかしなきゃならんか。
三重帝国のちゃんとした臣籍があるかどうかで、社会に紛れ込むときのハードルが段違いだし。
戸籍作りから始めると必要な資金も時間も段違いになるから、上手いこと誰ぞに成り代われれば手っ取り早いんだが。
元の身分だと故郷の皆さま方には不義理してるし、裏稼業に手を出してるしで、綺麗な身でないというのがなんとも……。
自分が発起人の隊商(奴隷商も兼ねる違法行為もやる隊商)は、私が次元の狭間に追放された時の騒動で捕まってしまっただろうし……。
恐らくは私はその時に死んだことになっているはず、だが……。
「ッ!!?」
いや、私を次元の狭間に放逐した
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慌てて自分に纏わりつく魔導的な痕跡を消去し、付いているかどうかも分からない追跡用の魔導を破壊する術式を放つ。
……。
……手ごたえはない。
考えすぎか?
あの
まあ懸念を一つ解消できたからヨシとしよう。
「できれば、この身にまつわる
裏稼業に手を染めていたこと。
故郷の代官や荘の名主に不義理したこと。
出身の荘の女衆への禊。
恨みつらみや悪い評判というのは馬鹿にできない。呪詛を伴う関係が残っているのはちょっとした不安要素ではある。魔導的な観点でも。
既に破綻していずれ捨てる戸籍ではあるが、きちんとケジメをつけるべきだろう。
乗っ取った方の魂たる私に、肉体の方のやらかしは関係ない―― というわけでもない。だって今は私の肉体だし。特に私の中の邪神信仰者の魂と異世界人の魂が、ケジメをつけて身綺麗になれと言っている。
で、あれば。
「……一石二鳥狙ってみますかね」
この肉体がこれまでに犯した悪事を知ってる
それにきっと違法行為に手を染めているような奴らのことだからたんまりお金も溜め込んでいるはずだ。
汚いお金はお救いしてお清めしてあげないとねえ。
ということで、自分の記憶や縁をとっかかりにして、この肉体の元の持ち主に関係する悪党の根城を探すための探査術式を発動する。
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ライン三重帝国辺境の交易の結節点の一つである、とある街。
そこそこ大きな街であるからこそ、街の経済からアガリを得たり、出入りする人々に紛れたりして裏稼業に勢を出す輩が跋扈する余地がある。
つまりこの街にも裏稼業の人間たちが根城を構えていた。
だがそれも今日で終わりだ。
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門番は、暗黒街の奴らが怒涛の勢いで街を出ていくのを、
忌々しい暗黒街の連中。後ろ暗い犯罪者ども。
末端を潰しても居なくならないし、一息に潰してしまうには大きすぎるし街に食い込み過ぎている。
そんな忌々しい連中がなぜか次々と街の外へと出ていっている。
例えばさっきの集団は、この辺で一番大きな縄張りを持つ奴らだった。
その先頭を走っていた奴は、大きな
その後を追うのは、同じファミリーのはずの奴らだ。下っ端から幹部まで勢ぞろいだ。「テメエ待てやこら!」 「舐めてんじゃねえぞ!」 「金庫の中身奪ってタダで済むと思ってんのか!!」などと怒鳴りながら駆けていく。
そして市外に出て、やがて見えなくなった。
次に出てきたのはさっき出ていったファミリーの次に大きなところのやつらだ。
先頭を駆けるのは顔面を蒼白にした男。手には血まみれの得物を持っている。
後を追いかけるのは、やはりそいつと同じファミリーの奴ら。「拾ってやった恩を忘れやがって!」 「オヤジ刺しやがって! ぶっ殺してやる!!」 「待てやゴラァッ!!」と口にしながら追っていく。
そんなことがしばらく続いた。
そして誰一人として帰ってはこなかった。
その騒動と時を同じくしてひっそりと、牢屋からもいつの間にか囚人が居なくなっていたが、書類上は処刑済みとして処理されていて、誰もそれに違和感を覚えなかった。
ふっ。一般人相手なら魔法を使えばこんなもんよ。
頑張れば街一つ分の常識改変だってできちゃうチートだからな(ただし魔法抵抗が弱い相手のみ)。
流石に街中でやらかすとそれはそれで手配されるから市壁の外に誘き出したわけだ。
領邦をまたいだ捜査はほとんどされないからな。そのお陰でこの肉体のもとの持ち主の悪事もばれなかったわけだし。
なお精神系の魔術は大抵が “禁忌” とされているのはさておくとする。
今回はバレないように探知妨害や痕跡抹消もパッケージにしてるから多分平気さ。
多分ね。魔導院の教授クラス相手だと分かんねえけど。
そんな私は目の前に積み上がった金貨や証文や宝石の山を見ながらにやにや笑いを押さえきれなかった。
「ふふふ。これだけあれば魔導院に入るに当たって当面は問題なかろうさ」
やったことは大したことじゃない。
因果を辿って縁のある悪党を遠隔で催眠支配して資金を盗ませたりして持ってこさせ、同じファミリーの奴らには何をおいてもそれを追いかけるようにという暗示をかけただけだ。
普通はファミリー総出で追いかけたりはしないだろうが、暗示にかかっていてはそんな違和感も覚えなかったらしい。
そうやってこの辺で縁のあった悪党どもの根を絶った。仕舞いだ。
どさくさ紛れに巡察吏詰所の書類も改ざんして、念のため私の肉体の元の持ち主についてもきちんと死亡したことにしておいた。
え?
街から出てきた裏組織の構成員どもをどうしたかって?
ひひひ。人間の肉体や魂ってのは、魔導的には使い道がたくさんあるんだぜ?
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虚空の箱庭に突っ込んだから後で色々する予定だ。
「旦那! 生きててよかった! あっしらを助けてくれると信じてましたぜ!」
とか言って縋り付いてくるのは、私の身体の方が率いていた隊商の副長……まあ、こっちを裏稼業に引きずり込んでくれやがった小悪党だな。元隊商のやつらも一緒だ。
これだけ金があれば何だってできる、さすが旦那だ! とか何とか言ってるが。誰もお前らに分け前やるとか言ってないだろ。
ついでだからと巡察吏の牢屋から逃がしてやったわけだが――
「別に助けるわけじゃない」
「へ?」
「分からないか? このまま私は死んだことにして足を洗おうと思うんだが、それには私のことを知ってる奴らが邪魔だろう? お前たちのような」
「…………!?!?」
今更気づいたようだがもう遅い。
裏稼業との縁は潰しておくに限る。
そして潰すときは
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これから真っ当に生きるためにも、私の所業をこんな下衆な輩に知られているのはまずい。
だってこいつとは付き合いも長いから、私の故郷のこともバレているし、悪行も全部知られてる。
巡察吏の調書は改竄しといたが、何処からどう情報が洩れるか分からない以上、こいつらには速やかにかつ確実に死んでもらわないと困る。
故郷にこれ以上迷惑はかけられない。
それに虚空の箱庭を任せる小間使いが欲しかったところだ。
私のことを多少でも知っている人間を素体にしたなら、使い魔としてのパスも繋ぎやすいかもしれないしな。
どうせ放っといても縛り首だが、それならこちらで使ってやっても同じだろうさ。
「もう身体が動かないだろう? なに、そう心配するな」
「……ッ!!?」
「すぐに何も分からなくなる」
「……ッ!! ……!! ……ッ……!!??」
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お前たちの身体も魂も、私がリサイクルして有効活用してやるからさ。
◆ライン三重帝国魔導院における「禁忌」
扱いに慎重を要する、特段の技量が必要、アホに触らせるな、程度の意味合いと思われる。
場合によっては神様を怒らせて天罰執行のための使徒を派遣されることもあるので、限度を見極めて使おう。