フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
原作者様のTwitterで、帝城を吹き飛ばしかけたときの話とか、別の方が当作を呟いてくださった(そちらも
◆自然と性転換する種族について
魚人系は確かに性転換しそうですね。あとは現実の生物としてはエビ類が性転換するのでその系譜の獣人種がいればそいつらもかも。あとは……雌雄同体の人類種は居るかもしれません、プラトンの『饗宴』に出てくるアンドロギュノス(男と女を背中合わせにくっつけた2頭4腕4足の人類)のようなやつらとか。それかカタツムリ系の獣人種とか……?
あとアヌークくんちゃんのTSへの執念は、きっと慕っていた年長の親族が居なくなってその面影をTSした自分に求めてるとかそういう感じかもしれませぬ(設定はこれからきっと生えるもの)。
>原作者様の「ヘンダーソン氏の福音を ルルブの片隅」のこのあたりのツイートスレッドもご参考
https://twitter.com/schuld3157/status/1460968846328614919
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◆前話
エーリヒ君「窮地に駆けつけるヒーローのロールプレイ、たーのしーい!」
ヘルガ嬢「エーリヒ様……」(ポッ)
マックス君「(エーリヒ君、夢だからってはっちゃけてるけど盛大に墓穴を掘ってるんだよなあ……)」
ヘルガ嬢の悪夢にエーリヒ君がヒーロー着地して乱入して悪役をボコすこと数え切れず。
百や千── いや、万じゃきかない数のヘルガ嬢を救ってきた。
……まあ、途中からは展開の似た記憶を
半世紀以上も醸成され反芻された悪夢の
「残す
「もう終わりか、残念だな」
エーリヒ君(高身長)はノリノリだったもんねえ。
エリザちゃん(ナイスバディ)にも冒険の楽しさを少し伝授できてご満悦だし。
しかも夢と気づかず夢を見てる君らは、私と違って途中経過を結構忘れてるっぽいよね?
ちょっと羨ましいけど、まあいいや。私はエミュレータで演算した自分の記憶と同期する経験積んでるから、こういう長期間の繰り返し作業は慣れてるし。
それはともかく無限に伸びているかのように思えた記憶の回廊も、突き当りが見えてきた。
突き当りには、
だが、その大扉には壮麗な意匠の豪華な錠前がかかっていた。封印されているのだ。
……
「エリザちゃん、ターニャ! バクと戯れてないで次に行こう!」
「えー。おかあさま、もうちょっと~」
「そうですよ、ターニャのお兄さん。もう少しこの子たちを撫でさせてくださいな」
「マックス! こいつらを連れて帰ってもかまわんだろ!?」
構うわ。この兄バカのシスコンめ。
エリザちゃんとターニャが屈んで撫でまわしているのは、バクをデフォルメしたような不思議な生き物たちだ。
そいつらは廊下の左右の壁の扉の隙間から漏れ出る悪夢の黒い靄を食べて、それ以上に広がらないようにしているようだった。
うん。前に私が組んだ<
この絶妙にタレてキモかわいい感じが、魔法チート製の術式っぽい感じがする。魔法チートさんに造形センスを期待してはいけない。
とすると、奥の大扉の封印錠は、私が魔法チートで組んだ術式……をベースにライゼニッツ卿が手入れしたものだろうな。
魔法チート製の魔法があんなスマートでゴージャスな見た目になるはずがないし(せいぜい乱雑に幾つもの板を釘で打ち付けたビジュアルか、扉を雑に熔接したような見た目にしかならんだろうからね)。
でもあんまり悠長にもしてられないからね。
ほら! いきますよ!
<
「「 あああ~~~!!! 」」
「もうそいつらの術式の役目は終わってるんだ。いつまでも働かせるもんでもないだろう」
それに扉を塞いでて邪魔だし。
「だからっておかあさま! 捕まえて食べることはないでしょう!?」
「そうです、ひどいですよ!!」
「まってまってまって。君たちに今の私の姿はどういう風に映ってたんだ?」
食べてないぞ? 食べてないはず。
あとちゃんと私の見た目は修正出来てるよな?
まさかまだ阿修羅像に見えてるんじゃないよな?
そしてエーリヒ君よ、私がエリザちゃんを悲しませたからといって無言で抜剣するんじゃないよ。
怖いからやめなさい。
やーめーなーさーいー。
次に入った
まずヘルガ嬢の気配がしない。
今までは記憶の中に入り込めば、ヘルガ嬢の居場所は気配で分かったのだが、それがないのだ。
「いつもとは様子が違うねえ……」
「普通の部屋のように見えるな。誰かの……当主の書斎だろうか?」
壁一面を埋める本棚。
暖炉では、切り裂かれたヘルガ嬢の肖像や、彼女のものと思われる服やぬいぐるみが燃やされている……。
執務用と思われる質実剛健な机には、
ははーん?
ここからがライゼニッツ卿のシナリオの本領発揮ということかな。
じゃあ私もサブマスとして円滑な進行に協力するとしましょう。
「おーい、みんな。この手記を見てみよう。きっと何か書いてあるはずだよ(棒)」
白々しい感じで私が呼びかければ、いの一番にエーリヒ君が寄ってきた。
「へえ、いかにもって感じだな」
そして目星も振らずにいきなり手記を開いた。
……妙な魔本じゃなくてよかったな、エーリヒ君。
開いたとたんに魔物や呪詛が出てきたり、精神が囚われるようなものもあるから、エリザちゃんは真似しないようにね。
こういう怪しいところの本は、もっとよく観察してから開くようにしましょう。
「はーい。
メッ、です! というエリザちゃんの仕草にエーリヒ君が胸を撃たれて倒れた。
その
墓碑銘にはシスコンここに眠るとでも刻めばいいかね?
……それはともかく、手記を読もう。
エーリヒ君、君もいつまでも寝てないでほら立って!
「これは……この館の主、ヘルガのお父様の手記ですのね」
立ち上がったエーリヒ君の横から手記を覗き込んだターニャの言うとおり。
この手記を書き記したのは、ヘルガ嬢の父親のようだ。
エーリヒ君がページを捲る。
「最初は普通の手記だな。幸せな── いかにも妖精が憧れて宿りそうな幸せな家庭だ」
「湖でボートに乗ったり、クロスグリを摘んだり……楽しそうですね、兄様」
「だけど、途中から雲行きが怪しくなる。ここだ」
私は日記のある文章を指で示した。
ヘルガ嬢の母親── この手記の主の妻が、病で伏せるようになったのだ。
手を尽くすが、病状は回復しない。
何より進行が早かった。
もし少しでも病の進行が遅ければ、あるいは、呼び寄せた癒者が間に合っただろう。
この手記の主には、高名な魔法使いを呼び寄せるだけの人脈も資金もあったのだ。
ただ、時間だけが足りなかった……。
「闘病
「……ヘルガ嬢の妖精の力が目覚めた、というわけか」
渋面を作ったエーリヒ君の言うとおり。
眠っているうちにベッドから浮かび上がってしまったヘルガ嬢を見た父親は何を思ったか。
「── 『妻だけでなく、この上、私から娘まで奪うのか!』……ですか」
手記に荒々しく書きなぐられた文字を見て、ターニャが憂鬱げに溜息をついた。
「ヘルガ嬢も母を亡くした衝撃で、妖精側に相がぶれて覚醒したのでしょうけれど……タイミングが、ねえ」
私も思わず溜息が出た。
これが父の側にもっと精神的に余裕のあるときであれば、まだ冷静に受け止める未来もあったのだろうに。
だがしかし、妻の闘病から葬儀と緊張状態が続き、擦り切れかけていたヘルガ嬢の父親の精神は、それを受け止められなかった。
……いや。『攻撃』として受け取ってしまった。
邪悪な妖精が、ヘルガを奪っていった。
愛する妻の忘れ形見である娘が、乗っ取られていた。
── そのような妖精の暴挙を、許すことはできない。妻にも、申し訳が立たない。
「『だから私は、妖精を剥ぎ取って、娘を取り返すことにした』……あとはこれまでに私たちが見てきたとおり、というわけか」
ページを進めたエーリヒ君はこれまで見てきたシーンを思い出したようだ。
魔法薬や術式を駆使し、ヘルガ嬢の肉体を殺さぬように、しかし妖精の要素を物理的に、あるいは魔導的に剥ぎ取らんとする顔の見えぬ何者か……。
しかも現象を操る妖精の強大なる力を封じ続けながら。
古今東西の術式を駆使し、あるいは神の奇跡を請う言葉を故意に歪めて運用し、古竜種の血を触媒にしてまで呪詛を刻んで。
あれは妄念に囚われたヘルガ嬢の父の姿だったのだろう。
「だがこれが事態の全貌だとは思えないな、私は」
「マックス……何が言いたい?」
「手記の主は、魔導の素人だ。半妖精の何たるかも知らない。だから、結論が間違うことに疑問はないさ」
「ああ……魔導に携わる者でもなければ、詳しいことは知らないだろうからね」
「── だが、実際の術式の施術者はそうではないだろう? あれほどに高度な術式を使うのであれば、半妖精の何たるかも知っているはずだろう」
「それは、確かに」
「だがその施術者は 『生まれた時から混ざっているから “本当の娘さん” は、目の前のこの子だけです。ナニかをどれだけ剥ぎ取っても、人間に戻るなんてことはありません』 だなんて、恐らくそんな常識的な言葉は吐かなかった」
狂気を一人で保ち続けることが、如何に難しいか。
怒り続けることなど、普通の人間には不可能だ。
しかも、この間まで愛していた娘の形をしているものを── 妻の面影のある娘を、自らの手で拷問してまで……ことを成そうだなんて。
それよりは『悪い魔法使い』が唆したのだと考えた方が、随分と納得がいく。
善良な父親だからこそ、魔法使いの悪意に抗うことは難しかっただろう。
「黒幕がいる、なんてのは、チープ過ぎる思い込みかもしれないがね」
そうであった方が、幾らか救いがあるかもしれない。などと思って私は肩を竦めた。
「……まあ、サイコパスが平穏な一家に入り込んで、洗脳じみた手法で支配して、お互いを傷つけ合わせる、なんてのは、聞かない話ではないが」
「私はそういう可能性を疑っているよ」
「……ならば、セオリーからすれば、次はその魔法使いの手記でも出てくるのだろうか」
きっとね。……そうですよね、GM?
読みを外したら恥ずかしいから当たっててくれ。
「それで、ターニャのお兄さん、この部屋では結局何をすれば?」
エリザちゃんの疑問に答えてしんぜよう。
「ここで助け出すのは、ヘルガ嬢の身体ではなくて、思い出の品ということだろうね」
「ああ、きっとこれだな。マックス、取ってきたぞ」
エーリヒ君がそう言って<見えざる手>で暖炉の燃え残りを引きずり出した。
「肖像画。ぬいぐるみ。可愛らしいお洋服。絵本……」
エーリヒ君が燃えカスを検分する。
灰や炭が崩れるが、仕方ない。
「こんなものまで燃やすでしょうか? もし肉体を取り戻せた暁にもまた必要になるものでしょうに」
ターニャが首をかしげた。
「そのときは一からまた積み上げるつもりだったのだろうさ」
半妖精が使ったものなど、人間に戻ったヘルガには継承させたくなかった、ということなのだろう。
「でも、母親との思い出の品であり、遺品でもあるのでしょう?」
「だから私はそこに別の者の意思を感じるんだよねえ」
ヘルガ嬢の父親を、後戻りできないようにする、そういうどす黒い悪意があるような気がするのだ。
「まあとりあえずは、この壊されて燃えた品々を元どおりに戻そうか」
魔法チートさん、よろしく!
<
これでよし。
じゃあ適当にこれらの品と手記は収納したことにして、次へ行ってみよう。
大扉に行く前に、あとひとつ、廊下を挟んで向かい側に扉があったはずだ。
そしてやって来ました最後の記憶の小部屋。
ここにもヘルガ嬢の気配はない。
代わりにまた手記が一つ。
── 治療のために呼ばれたけれど、私は間に合わなかった。
その言葉から始まった手記は、おそらくはヘルガ嬢の母の治療のために呼ばれた癒者のものだろう。
落日派の流れを汲むらしいその魔法使い(あるいは
『どうしましょう。あの人とても素敵だわ。私、恋をしてしまったかも……』
『でも、奧さんの治療には間に合わなかったから、このままだと帰らされちゃう。もっと一緒に居たいのに、どうすればいいかしら』
『……娘さんが半妖精だったみたい。かわいそうだけれど、取り乱す彼も愛おしいわ』
『── ああ! そうだわ!』
『娘さんを “治療” することにすれば良いのよ!』
『半妖精をヒト種に戻すなんてできっこないんだから、治療はずっと終わらないわ。きっといつまでも彼と一緒に居られるわね』
『うふふ』
『うふふふふ……。ついでに彼の中にある奧さんと娘さんとの思い出も消してしまいましょうか……』
『そうね、それがいいわ。施術は彼にも手伝ってもらいましょう。私と彼との、初めての協同作業よ』
『ああ、でも安心して。手掛けるからには本気よ、私も。テーマとしても面白いし、本気で娘さんをヒト種に戻すように力を尽くすわ』
『うふふふふふふふ…………』
…………ああもう、ホント落日派はロクなことしねえな!!(なお自分のことは棚にあげるものとする)
ちなみにヤンデる癒者がヘルガ父娘を支配して凶行に走らせたというのは、あくまでライゼニッツ卿脚本によるシナリオであり、真実は不明です(=当作の独自設定です)。
次回はクライマックスフェイズ……のはず!