フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
前話に、◆渇望の剣について(あとがきに追加)+マックス君がやられた時の描写を少し本文に追記しています。
Q.魔剣:渇望の剣の頑丈さについて、どのくらい頑丈なので?
A.高位魔導師が己の切り札で空間ごと捩じ切ろうとしてもそれを意に介さない程度には存在として強固。
この世界の他の魔剣については、原作者様のこちらのツイートのスレッド「有名な魔剣」もご参考まで。
https://twitter.com/schuld3157/status/1378343492905144320
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◆前話
魔剣ちゃん’s ブートキャンプ、はーじまーるよー
えー、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンです。
あの厄い魔剣がエーリヒ君の手に納まって私から
魔導炉の副脳だけだと制御取り返すのにもっと時間がかかってただろうから、頭部喪失後のリカバリーは今後の課題やね。いや本来は即座に復元できるからとりあえずはそれで良いはずだったんですけどねえ……。
あとそもそも頭部喪失しないようにするのも並行して進めないとなあ。
なんか対策考えよ。……肉体自体の強度を上げて硬くするとか、いっそ
しかし、はー、やれやれ、ひどい目に遭ったぜ。
いまは身体制御権も
まったく! エーリヒ君はちゃんと惚れさせた人外を管理して欲しいもんですな!!
私じゃなかったら死んでたぞ!!(死んだけど)
っていうか、アレ、魔剣っぽいけど、ほぼ神剣というか、もはやそれ自体が神のなりかけというか、そういう上位存在っぽい感じのアレでは?
いくら何でもさっくりこちらの制御を奪いすぎだと思うし……。
高位聖職者の奇跡でももっと手間かかるはずだぞ、たぶん。
── で、今度は手からこの妙な魔導書が離れてくれないんですが。なにこれ、持ち運び式迷宮?
魔力がぐんぐん吸われていくのですが。
あと転移発動しようとしてもあの魔剣に縛り付けられてるのか知らんけど全然飛べないのですが……。
えっ。これちゃんとあとで解放されるよね?? 不安になってきた。
とりあえずこの魔本とあの魔剣に呪縛されてるっぽいのは時間経過で解放される保証もないので、自分でも解呪のために並列思考のひとつ使って並行して分析を走らせるとして。
んー、エーリヒ君の方は……一旦は放っておいていいかな。
大丈夫そうだし。
「まてっ、これのっ、どこがっ、大丈夫そうにっ、見えっるんっだっ!?」
『喋る余裕があるようで何よりだなあ、後継者殿! もっと回転を上げるぞ!』
「こなくそぉおおあああ!!??」
うん。大丈夫そうだし。
しかし器用に両手剣サイズの魔剣を片手で操るねえ。
実体の手に重ねるように少し巨大化した<見えざる手>を発動させて握ってるのかな。
相手の幻影体の方が技量が上に見えるけど……まあ、四肢断裂とか内臓破裂くらいならすぐ治せるから安心して戦ってくれー。
心配なのは、
魔法使いが昏倒するくらい魔法使うのは、脳へのダメージが心配だ。
溢血してたりしたら一刻を争う。
<
呪縛のせいでこの練武場めいて整備された庵の庭からすら離れられないから、遠隔視で庵の中のミカ君を診察する。
………うん、とりあえず、致命的なダメージはなさそう、かな。
あるいはさっき魔剣経由で発動させられた治癒魔法で治ったのかも。
念のため継続回復と恒常性維持の魔法を遠隔でかけて、庵の中に清潔な寝床をこさえて寝かせておこう。
ミカ君のような美人が失われるのは世界の損失だからねえ。
無事でよかった。
<
自然に起きるのを待つと同時に、容態が急変したり、起きた時に分かるように術式を設置しておいて、と。
これで良いだろう。
……することなくなったな。
じゃあ魔本と魔剣による呪縛を解析しつつ、エーリヒ君の稽古を見物するかね。
エーリヒ君からは
こっちは君が不用意に異空間にそんな厄い魔剣を棄てたせいで、虚空の箱庭に壊滅的な損害を被ったんだぞ! まったくもう!
……まあ少し擁護するなら、そもそも私の虚空の箱庭がアグリッピナ氏の廃棄用の座標にあるから、その系譜を汲むエーリヒ君の廃棄座標も近かっただけなんだろうけどね。いやどういうアルゴリズムで空間遷移による廃棄先決めてるか知らんけど。
となると虚空の箱庭も移動させた方がいいなあ……似たようなことがまたあったら困るし。防衛体制とか、施設配置も今回の事故を教訓に考え直さないと。少なくともフライホイールはもっと研究所から離そう……。
それはともかく、エーリヒ君の方は、権能の熟練度的にもオイシイんだし、私が居れば死なない限りは治癒復元魔術で元に戻してやれるんだから、安心して腕を飛ばしたり臓物を溢したりすると良いよ!!
ついでにエーリヒ君の喉が渇いてもお腹が空いても魔術で補填してあげるし、排泄物は大も小も転移魔法で取り出して捨ててあげるし、睡魔や疲労は賦活術式で消してあげるから、無限に戦えるなぁ、あっはっは!!
── ま、頑張りたまえよ! ほら、しっかり。きみならできるよ(笑)
ケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒの親友にして、中性人の魔導師見習いであるミカは、爽やかに目を覚ました。
そしてすぐに意識を失う直前の状況を思い出した。
「エーリヒっ!!」
思い出して、飛び起きた。
我が友 エーリヒは誘い込まれて追い込まれた魔宮の、その主である魔剣の持ち主である冒険者……の骸と戦闘になっていたはずだ。
己の最後の魔力を振り絞って、敵手の斬撃を妨害するためにワイヤー生成の魔法を使ったが、果たして友は仕果たしてくれただろうか。
いや疑う余地もない、我が友エーリヒがしくじるわけがない。
確かに自分は、彼が魔剣使いの骸の肩を破壊し、魔剣を握る腕を斬り飛ばしたのを見た。
それを覚えている。
「だ、大丈夫なはず……。僕の身体もきちんと処置されているようだし、ここは既に魔宮ではないみたいだし……」
少し落ち着いて周囲を見れば、自分は清潔なシーツが敷かれたベッドに寝かされているのに直ぐに気づいた。
しかも限界まで魔力を振り絞って七孔から噴血していた悲惨な有り様も、すでに治療されているようだった。
肉体に疲労はなく、魔力までも充溢し、今すぐにでもまた魔法を練ることができるくらいに調子がいい。
周囲の瘴気は祓われ、魔宮のもとになっていたであろう庵に戻っている。もう無秩序に部屋が増殖したりはしていない。
この庵こそが、著名な複製師である樹人のファイゲ卿が言っていた、さる冒険者の庵だろう。
元はと言えば、エーリヒが彼の雇用主であるスタール卿から申しつけられたお遣いの品を渡す交換条件に、ファイゲ卿から、この冒険者の庵へ赴いてその冒険者がこれまでの冒険を記した手記を回収するという依頼を受けたのだ。
……とはいえ、森がこのようなことになっているなど、ファイゲ卿は全くご存じではなかったはずだ。
かの御仁はそのような悪辣な方ではないし、もしご存じであれば、そもそもそのような依頼をするはずもない。
だが、ここが森の中ならば、少し疑問がある。
「一体、誰が僕に治癒を……?」
重篤な魔力枯渇による反動損傷は、身体の内側にダメージを与えるため、治療が難しい。
単なる外傷ではなく、そもそも傷自体が見えず、深いところにあるためだ。
特に頭蓋の中の脳が傷つけば、その治療は一刻を争い、また困難を極める。
改めて自分がどれだけ危ない橋を渡っていたか認識し、背筋に氷柱を入れられたような心持ちになる。
よくも何事もなく生きているものだ……。
実戦における魔力枯渇を経験したことで、自分の限界というものを感覚として学ぶことが出来たのは収穫だが、それは生還した今だから言えること。
……だが同じ状況に陥れば、己はきっとまた同じことをするだろう。
他ならぬ我が友 エーリヒのために。
それだけは間違いがなかった。
そしてそこで疑問が出てくる。
重篤な症状を呈していたであろう自分を治療したのは、何者か?
生半な腕の癒者ではあるまいが、そんな腕の者が都合よく駆け付けられる偶然が起こる確率は低い。
「まさか我が友が治癒術式を操れるはずもなし……」
何でもできてしまいそうな気がする我が友だが、流石にそれはないだろう。
「しかし、となれば一体、僕が倒れた後に何があったのか……?」
その疑問の答えは直ぐに届いた。
『おお、起きたかミカ君。私だ、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンだ。体調に異状はあるか? めまいや頭痛、吐き気はあるか?』
聞き覚えのある声は、魔導院の同期聴講生。
生命操作に長けた落日派に所属する凄腕の魔法使いであるマックス君のものだった。
なるほど、マックス君ならば治療も可能だろう。
彼の馬鹿げた量の魔力があれば、魔力に任せて魂魄の形に肉体を修繕する術式を走らせることも能う。
エーリヒの伝手の中でも、肉体の治癒にはうってつけと言える。
どうやって連絡したか知らないが、きっとこういった事態に備えて、緊急用の信号を発する割符でも持っていたのだろう。
魔宮の封絶が解けて、その割符か何かを使えるようになったから呼び寄せた……マックス君は空間遷移術式も使えるから遠方からでもひとっ飛び。筋は通る。
『おーい? 聞こえてるかー? そっちの音は拾えるから普通にしゃべってくれていいぞー』
「大丈夫だよ、マックス君。特に体調にも悪いところはないと思う」
『それは良かった。
ああそうだ、具合が良ければ、君の使い魔の
「ああ! フローキもそこに居るのかい!?」
『居るよ。主人のことが随分と心配だったようだね』
黎明派の師匠から下げ渡していただいた使い魔用に調製された血統のワタリガラス、北方離島圏のとある島を発見した英雄にちなんでフローキと名付けた
きっと感覚を接続してやれば、フローキにもこちらの無事が伝わるだろう。
「そういえばエーリヒは何処に? 彼も無事なんだろう?」
『エーリヒ君は庵の外に居るよ。私もフローキ君もそこだ。で、エーリヒ君だが、
今のところは??
『まあ<視覚共有>して見ればわかるよ。じゃあ念話は切るね。………あっ』
“あっ” ってなんだ? なんだか聞き捨てならない思念を最後に、マックス君からの念話が途切れた。
無性に胸騒ぎがして、慌てて渡り鴉のフローキとの<視界共有>の術式を走らせた。病み上がりだとか言っていられない!
拝借したフローキの視界を通じて僕の脳裏に飛び込んできたのは、鮮血とともに腕を斬り飛ばされた我が友エーリヒの姿だった────!!
なるほど相討ち狙いね~。
私が治癒できるなら腕の1本2本は犠牲にしても致命の一撃を叩き込めればそれでよし、ライフは1残れば十分で、他はリソースとして扱うってわけだ。
死な
その甲斐あって、敵対手の冒険者── 魔剣の前の持ち主を再現した幻影体── の必殺の袈裟斬りで斬り飛ばされたハズのエーリヒ君の利き腕は、握った魔剣を離さず宙を舞い、そのまま空中でまるで腕だけの見えない剣士が居るかのように動き、幻影体の背後からその首を刈った。
「おお~! やるじゃないか! エーリヒ君!」
「よっしゃああああ! やってやったぞ!!」
腕が切り離され、両手剣を片手で支えるための<見えざる手>も敵手の魔剣(の幻影体)の作用により分解されたが、コストの軽い<見えざる手>は再発動も容易。
直ぐに<見えざる手>を再構築し、魔剣ごと斬り飛ばされた利き腕を掌握。
空中で振るって、敵手の死角から首を刈ったというわけだ。
及第点だったのか、打ち合っていた魔剣も歓喜の思念── おそらく歓喜だろうと思われるが思考形態が違い過ぎて理解はできない── を撒き散らす。
まあ純粋に体格・筋力・技量の面で格上な相手(エーリヒ君のアドバンテージは魔法が使えることくらいか)に勝ちを拾うには、一発逆転の相討ち狙いくらいしかありえないものなあ。
とはいえ、この試合においては凄腕ヒーラーの私が居るから、負傷は気にしないで済む。
その状況下なら相討ち狙いも立派な戦術よ。
ま、実戦ではよっぽどじゃないと使っちゃいけないけどもさ。
さーて、そしたら治療治療。
エーリヒ君は終わったつもりになってるけど、まだまだ魔剣ちゃん側の選手はたくさん残ってるからね~。
さっきの魔剣ちゃんの歓喜の思念も、無理に訳すなら『スゴイスゴイ! じゃあもっと!』って感じだし。
私がエーリヒ君の腕を繋げて失った血や魔力を補填して万全の状態に戻そうとしたところで、冒険者の庵の扉が勢い良く開いて、人影が飛び出してきた!
「エーリヒ!!」
「ミカ!?」
飛び出してきたのは
エーリヒ君の親友であるミカ君だ。
あ、今のうちにエーリヒ君を治しとこう。
再会の抱擁に片腕が無いのは良くない。
<
2人で感動の再会をしてるとこ悪いけど、魔剣ちゃんはまだその辺の
早く準備しないと、
その証拠に、貼り付いたように私の手から離れない魔本が、追加で魔力を吸収し始めている。
『おーん? なんじゃい、そこの
魔本から次に現れたのは、背の低いまるで巌に手足が生えたかのような男の幻影体。
坑道種の剣士だ。おそらく彼も、魔剣の主だったのだろう。
『……って戦場で
だが坑道種の筋力量からすればこの程度の剣の重さは、振るうのには何も支障はない。
大鎚に比べれば軽いものだからだ。
坑道種の剣士は魔剣(幻影体)を顔の横、耳の高さほどに掲げて構え、大地の反動を強く得るために足腰を沈めた。
「エーリヒ! 後ろッ!」
『チェィィストォーー!!!』
初太刀必殺!
一般に足が遅いとされる坑道種とは思えぬ一瞬の踏み込みは、もはや水平跳躍に近く、瞬きの間に距離を詰める!
だが万全のエーリヒ君は<雷光反射>の特性で辛うじて反応し、<見えざる手>の全力駆動でミカ君を抱えて跳んだ。
剣士としての感覚が、この初太刀を受けてはならないと見抜いたのだ!
エーリヒ君はミカ君を<見えざる手>に任せて柔らかく宙に放ると、彼自身は魔剣を抜いて、坑道種の幻影体に対応しようとする。
だが二
「こいつも強いッ……!?」
「エーリヒ君に言ってなかったっけ。この魔本から出てくるのは、その魔剣の歴代の主とか、その主が苦戦した相手とかだよ」
「何だとっ、さっきので終わりじゃないのか!?」
「終わりにしたいなら、君の掌中の魔剣を説得しなよ。
頑張って説得してくれたまえよ~。
私は私で魔本から手を離せるように解呪を試すからさー。
結局その後、見かねたミカ君が、私が魔本を持っている方の手を極細ワイヤーで絞るように切り離して、それでようやくお終いにできた(まあ流石に切断時は賦活術式は限定閉止しておいたよ)。
いやー、ミカ君が目を覚ましてくれてよかったよかった!
それがなきゃ私が神剣の呪縛を解呪するまでにエーリヒ君はあと十何回かは重傷を負う羽目になってたね!
◆英霊召喚の魔本(独自設定)
とある冒険者の手記を触媒に魔剣の迷宮を折り畳み、さらに魔剣の記憶を注ぎ込んだ幻影体召喚の魔導書。
魔剣・渇望の剣の歴代の主や、彼ら/彼女らが倒してきた強敵を召喚することで、彼らを相手に血沸き肉躍る鍛錬ができる。なお召喚された幻影体は自律稼働だが、開始や終了のコントロール権は魔剣の方にある。
歴代の魔剣の主は皆少なくとも<神域>の剣技を操る剣士であり、幻影体は彼らの全盛期の肉体に最盛期の技量が乗った姿で召喚される(老年の達人が若返ったようなもの)。手に持つ魔剣の幻影体は、本物ほどではないが頑強で魔法を斬る程度は出来る。
一応は、渇望の剣ちゃんの方も
現れる幻影体を何度か打倒すると、歴代の担い手たちは徐々に本気で相手をしてくれるようになる。彼らの本気を引き出した上でもなお打倒することが叶えば、彼らは力を貸してくれるようになるだろう。
最終的には<神域>の技量の剣士たちによる軍団が出来上がる、かもしれない。
なお燃費は最悪の模様。これは特殊な
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次回は “魔剣の迷宮” 後始末と報酬(
原作WEB版も更新されてる!(219話目) やっほい! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/219/
さらに祝・書籍版5巻発売決定!!! おめでとうございます!
あと今日は
→ きてるぅ~ https://ncode.syosetu.com/n4811fg/220/ (陰謀を)漢探知とはたまげたなあ。