フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
魔剣ちゃんの性別は強いて言うなら『剣』としか言いようがないのだと思いますが、当SSでは女性寄りイメージで書いています。でも歴代の主には例えば巨鬼の雌性体も居たと思うので、その時々で男っぽかったり女っぽかったり犬っぽかったりするんじゃないかと。いずれにせよ愛が重い『剣』なのは間違いないですね!
>前話のあとがき没ネタの言い回しなどについて:Elonaもゼノギアスも名作!
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◆前話
(魔剣を納めたまま『Oh…Yeah…♡』とか譫言を漏らす肉鞘を見ながら)
エーリヒ君「さっき戦った幻影体の冒険者殿は、同じ起源を持つハズだがこんなにはっちゃけてなかったと思う」
マックス君「確かに。あと魔本が手から離れなかった時に彼の書いた手記の中身も少し読んだけど、ハードボイルドな感じの印象だったね。
だが……奴は弾けた。……肉体という枷を失ったからかもね」
ミカ君「(……逆に今憑依してるマックス君のホムンクルスを
腹ごなしがてら、魔剣を納めた肉鞘を吊るすために、魔導金属を編み込んだ
さらに魔導金属の鎖を垂らし、百科事典のように重厚な魔本に接続する。
これで、肉鞘に内蔵された魔導炉から、魔本に魔力を導けるようになった。
着用時には着用者にも魔導炉から魔力を流せるから、これを付けてれば魔力切れとは無縁だな。
あと導線が通ったからか、肉鞘に宿った意志が剣帯を自在に動かせるようになったようだ。
……触手かな??
「なんでや。おい、マックス、おい。さらにイロモノになったんだが」
うねうねと剣帯のベルトを動かす肉鞘(魔剣納刀済み)。
器用だなあ。
これはそのうち肉鞘の素体になったホムンクルスたちの脳髄を利用して魔法も使えるようになるんじゃないかな。
「まあ元から鞘は
切り札として一式を
「あのな、実利がすべてに優先するわけじゃないんだぞ」
「え?」
「“え?” じゃねーよ」
だってエーリヒ君、それでも結局強い装備だからここぞという場面では使うでしょ?
君は
何なら既に『呪物を使わざるを得ないくらいに追い詰められたときのカッコいいお披露目の仕方』くらいシミュレーションし始めてるでしょ? 君はそういうタイプの人間だよ。上手く演出してやれば『
「ゴホン。ところでその剣には銘があるのかい? 我が友」
ミカ君が私たちの掛け合いを中断させて話題転換してくれた。
私とエーリヒ君が親しげに見えて嫉妬でもしてるのかしらね、かわいいなあ。
心配することはないけどね。ミカ君はエーリヒ君の親友だというのに間違いはないよ。私はせいぜい、悪友というところさ。
君たちはお互いの危地に駆けつけ合うくらい深い絆をこの魔宮探索で育んだのだろうけど、私とエーリヒ君だとそんなことにはならないというのは確信が持てるね。
「ああ我が友、この魔剣だが『渇望の剣』と呼ぶことにしたよ」
エーリヒ君が答えて曰く、旧い言葉で刻まれていた掠れて消えかけの刻印の一部が『渇望』という意味だったのだという。
折れず曲がらず毀れずのはずの魔剣の刻印が掠れている(劣化しないはずでは?)というのも解せないし、時代考証的に刻まれた文字が使われていた年代が私の推定する鍛造年と合わない気がするのだが、多分その文字が使われていたころの持ち主の趣味に応えてか、魔剣が自ら己に刻んだのだろう。
ほら、メンヘラがパートナーの名前だとか記念日だとかの入れ墨を入れるみたいな感じだよ。
掠れてるのは、その時の持ち主が死んだから、あとの持ち主に合わせて己を変質させるたびに薄れていっているとかそういう感じじゃないかなあ。過去は振り返らない主義っぽいし、この『渇望の剣』は。
……ま! この考察は全く違って、どこかしらの彼方の世界で鍛造されたただ一振りの剣が魔剣になるまでのあいだに刻印が掠れていき、魔剣になった時点でその掠れた状態のまま固定されてしまった、とかもあり得るけど。
言語が帝国語のもとになった古語に似てるのは、この世界の言葉と地球の言葉が似てることから推察すれば、他の世界でも似たような言語があっても不思議じゃないんだから、魔剣が最初に鍛造された世界にも似た言語があったんだろう。ともすれば、上位存在たちが管理する無数の世界たちに共通するテンプレートでもあると考えればしっくりくる。
そうなると、刻まれた言語が同じだからといって、同じ世界の出身とは限らないのだよなあ。
「ちなみに肉鞘の方は『アンドレアス』さんと言うらしいぞ、エーリヒ君」
「なんで分かるんだ?」
「魔本化した手記に記名してあった」
魔剣:渇望の剣の元の持ち主であった冒険者、アンドレアス氏(現在、魂が肉鞘に憑依)は非常に勤勉でマメな人物だったらしく、事細かに自らの冒険のことを手記に残していた。
そしてその手記には初めの方に記名されており、そこから私は彼の名前を知ったのだ。
あ、英霊召喚の魔本は、魔本となった今でも、もとの手記の内容を残しているぞ。
良かったな、エーリヒ君。そもそもこの森に踏み入った目的である “冒険者の手記” を回収できそうで。
優れた複製師であるファイゲ卿ならば、魔本化した手記でも扱いを間違えずに読むことが可能であろうし、これでお遣いは達成だ。
後半になるにしたがって、注ぎ込まれた渇望の剣の記憶による歴代
古語とも違う恐らくはこの半神的存在が用いる世界の原初に根差した神聖言語のようなもので記されているのだろうと思う。
それを研究するのも、世界の法則を解き明かすためには、面白いかもしれないね。
「まあとりあえずソレも持って森から出ようか。ここよりも街の宿で休んだ方が良いだろう?」
「なあ持って行かなきゃダメか? コレ」
「置いていってもどうせついてくると思うがね……。それに置いていってヘソを曲げられても困るだろ」
あと多分だけど、魔宮の外にいたという
さらに言えば魔本の中に折りたたまれた迷宮に惹かれてゾンビどもは集まってくると思うし。
というかその肉鞘に憑依したアンドレアス氏が誘引して君に動死体をぶつけたがってる気がする。後輩をカワイガリたいんだな、きっと。
ああ、まあ、私が<空間遷移>して森をスルーして街まで送れば済む話なんだが……。
「なあマックス君、流石に見た目はどうにかならないのかい? いくら何でもぶら下げるには悪趣味だよそれ、街に入れてもらえないんじゃないか?」
あー、ミカ君の懸念も分かる。
あからさまに厄物だものな。
「仕方ないにゃあ。君がそう言うなら」
「おい。私の時と扱いが違わないか、マックス」
「当然だろ?」
ミカ君のお願いなら無視できないよなあ。
魔宮の謎解きで高難易度の問題を用意できるくらいに生前は知識豊富で頭の回転も速かっただろう肉鞘アンドレアス氏なら遅かれ早かれだったろうけど、後押ししてやるか。
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肉鞘に繋がってうねうねしていた剣帯を掴むと、編み込まれた魔導金属を伝わせて術式を走らせた。
多分生前は魔法は使えなかっただろうアンドレアス氏だが、今の肉鞘には焦点具も兼ねる魔導炉(亜空間格納式)が内蔵されている。
勤勉なアンドレアス氏なら、魔法を使える素養があれば、その才能を修練して鍛えてモノにすることだろう。たとえ人の形を失っていたとしても。手記から受けた彼の印象から、私はそう思う。
だから私はそれを後押ししてやることにした。
剣帯から流し込んだ術式が、アンドレアス氏の依り代となっている肉鞘まで伝わり、彼に魔法の術式とその発動のさせ方を習得させる。
びくんっ、と剣帯と肉鞘が跳ねて、直後に大人しくなった。
たぶん流し込まれた術式知識を咀嚼して己のものにしているのだろう。
「これでヨシッ!」
ビシッと指差し確認して終了!
怪訝そうなエーリヒ君とミカ君の視線にさらされる中で、アンドレアス氏が憑依した肉鞘と剣帯が、ゆらりと浮き上がった。
さらに肉鞘を構成している骸のうち一つの頭蓋が喋り出す。
『今の
最初に口を開いたときの口調とは打って変わって(賢者タイムか?)、威厳のある口調で肉鞘のアンドレアス氏がそう言った。
「えーと、つまり」
『こういうことだ。── <浮遊透明化>』
肉鞘のアンドレアス氏が魔法を行使。
うねる剣帯と鎖でつながった英霊召喚の魔本とともに、空中に浮かび上がると、徐々にその姿を薄れさせていく。
「おお。見えなくなった」
『見た目が問題なら見えなければよい。状況終了、<透明化解除>。
他にはこういうこともできる── <影空間遷移>』
魔剣を孕んだ肉鞘は透明化を解除すると、エーリヒ君の足元の影に “とぷんっ” と飛び込んで姿を消した。
影を出入り口にした亜空間に遷移したのだ。
「……マックス君、何をしたんだい? アンドレアス氏とやら、いきなり魔法を使えてるけど」
「特に大したことじゃないよミカ君。術式をアンドレアス氏に教えてあげただけさ。肉鞘の素体が私の予備パーツも兼ねたホムンクルスだったおかげで、
実際はまだアンドレアス氏自身が魔法を一から構築して使っているのではなく、肉鞘を構成している骸の脳髄に刻んだ術式を、スイッチをオンオフするようにして発現させてるのだが。
アンドレアス氏の生前の冒険ではその手のオンオフするタイプの魔導具を使うこともあったようで、比較的簡単に使い方は分かったらしい。
そのうち自分でも勉強して使えるようになるのではなかろうか── 透明化して魔導院の講義に潜り込んだりとかもするかもしれないね。ちょっとした魔導院の七不思議に数えられそうだな……。
「じゃあ森を出ようか、皆の衆!」
みんな荷物は持ったな!?
ワタリガラスのフローキ君もミカ君の肩に捉まってるし、忘れ物ナシ!
エーリヒ君たちが滞在していたヴストローの街── 帝都の北西へ早馬で2日ほどの距離に位置する人口8000ほどの小規模な街だ── へと向けて転移すべく、魔法を練る。
<
私たちは空間の
意図したとおり、特に目撃者はいなかった。
市中に転移しないのは、入市税
「さあてエーリヒ君、ぜひそのファイゲ卿に私のことも紹介してくれよ。『
「エーリヒ?」
返事がないエーリヒ君を不思議に思ってミカ君と二人で辺りを見回すが────
「え? いなくない?」
「エーリヒ? 我が友?! ── マックス君、一体どういうことだい!?」
「あっれ~~~??」
エーリヒ君、
まさか亜空間にぶちまけたってことはないと思うんだけど……。
<
慌てて探索術式を走らせると、反応は直ぐに見つかった。
あー、良かった。
亜空間に落っことしてたらどうしようと思って焦った……。
「見つけた。森の中だね。街から庵に向かう途中、中間地点あたりか」
「良かった……。しかしなんでそんなことに……。君が術式に失敗したとも思えないけど」
「たぶんアレのせいじゃないかな……ほら、
「あー……」
あり得るよなあ。
お、探査術式に敵性反応アリ。
エーリヒ君めがけて森の中に広く配置されていた動死体が集まってきてるっぽい。
うっわ、よくもまあこんだけ誘引して捕殺したもんだ。これ全部、魔剣の迷宮に誘引されてそのまま死んだ奴らか。
魔宮の中に居たのは選りすぐりの精鋭であって既に英霊召喚の魔本に吸収済み……外に残ったのは選外の有象無象とはいえ、この数はしんどいかもねえ。
英霊召喚の魔本も稼働してるな。
……森の中だし、かつての魔剣の持ち主の誰かが相対したことがある高レベル斥候でも召喚してるのかもしれん。
敵か味方か、というと、
……察するに、魔剣ちゃん’s ブートキャンプの第二弾、ゲリラ戦編かな?
<空間遷移>に干渉したのが渇望の剣か、それとも肉鞘のアンドレアス氏か、いやあるいは両方かも知らんが、何にせよスパルタだな……。
あの性質の悪い魔宮の核になっていたアンドレアス氏の監修が入ってバージョンアップした第二弾となると……その難易度は推して知るべしだねえ。
がんばれエーリヒ君! 骨は拾ってやるぞ!
ミカ君「いや助けに行こうよ」
マックス君「えー、どーせ無事でしょー」
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◆魔剣ちゃん’s ブートキャンプ 第二弾
森の中のゲリラ戦編、ソロチャレンジ。
転移魔法に介入して森の中に放り出してからの完全不意打ちスタート。
雑魚
ついでに自然を操るドルイドの召喚幻影体が移動阻害を絡めたデバフを撒く。あらゆる藪が茨の鉄条網と化し、一足先が唐突に泥沼となり機動力を殺してくるのだ。ドルイドと森の中で戦うのは自殺と相違ないと言われる。
たいへんおつらい。
肉鞘に憑いたアンドレアス氏曰く『俺ならできたぞ?』とのこと。
エーリヒ君「
◆
魔剣・渇望の剣の前の持ち主の冒険者。渇望の剣のことを唯一無二の相棒として数々の冒険をこなしたが、魔剣の後継者を見つけられずにいたことの未練を抱いたまま森の庵で孤独死。その妄執と魔剣の魔力が冒険者を誘引する作用を持った魔宮を生み、自ら魔剣を託すに相応しい後継者を選定すべくラスボスとして立ちふさがる。魔宮の中の謎解きギミックとかノリノリで設置したんじゃないかな。御眼鏡に適わなかった者たちは、動死体として魔宮の防衛に加わることになる。
なおエーリヒ君とミカくんちゃんが攻略するまでに、三桁に迫るかそれ以上の犠牲者が出ていると思われる。多分、帝都周辺の街の冒険者ギルドからは、帝都に行って一旗揚げようとした腕のいい冒険者の一部の消息が分からなくなることが多い気がするとか、そういう情報を得ることが出来るだろう。まあ冒険者の消息が知れなくなることなど珍しくもないのでどこまで把握されているか不明だが。
名前は原作小説では未登場なので、アンドレアス(英語だとアンドリューに相当)という名は当作のオリジナル。
晴れて魔剣ちゃんと同じく “器物” になり、ずっぷし♂
生前は恵まれた体格、<神域>の剣術*1、数多の経験による引き出しの多さ、頭の回転の速さと臨機応変さを持ち、冒険者としては最上級の技量を持っていたが、彼の名が詩人により歌われたのはもうずいぶんと昔の話だ。
今は、骸を捩じって束ねたような禍々しい肉鞘を依り代とし、内蔵魔導炉*2の魔力によって生前使えなかった魔法を使い、透明化して背後霊のように付き従ったり影を経由して潜伏・転移できるようになった(他の魔法は勉強中)。魔導伝達可能な剣帯を触手のようにうねらせ、付属の英霊召喚の魔本によって、やろうと思えば魔宮を流出・展開できる。つまり今の主が死んでも、自在に影転移で出歩いて次の担い手を探しに行けるし、選抜のための試練として今回のエーリヒたちの冒険と同様の魔宮に取り込んだりもできる(下手に首都で魔宮展開すると国が滅ぶな……*3)。二度と最愛の魔剣が担い手に握られないまま放置されることのないようにと肉鞘のアンドレアス氏は尽くすつもりである。たとえ世界が潰えようとも、彼はかつての愛剣と共に在ることを望んでいるし、それが出来るようになった。
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そういえばこれで
次回こそ『
※韋編:文字を書いた木簡や竹簡を皮の紐で綴った古代の書物