フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
Q. 擬人化する魔導書とかあるのでしょうか? 可愛い女の子型になったりとか。
A. 帝都道中の古本市で見つけた魔本のように、呪詛が取り憑いていて、それが女性型だったりというのはあると思われます(貞子?)。また、なんの酔狂かそれ自体が人造メイドとなるように魔法を編んだ魔導書などもあるかもしれないロボ(違)。妖精や精霊が取り憑いた(あるいは封じられた)本とかもあるかもしれませぬ。魔導院の禁書庫にはそういう本なんだか何なんだかな妙なものがきっとたくさんあるはず。
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◆前話
ミカくんちゃんはエーリヒ君を讃える詩を歌った!
マックス君は何処からか楽器を取り出して伴奏した。
ファイゲ卿は快哉を送った!
「これはいい! 素晴らしい冒険だ! これをもとにひいきの吟遊詩人に一曲仕立ててもらおうと思うが良かろうか?」
エーリヒ君の羞恥心に9999ダメージ!
「どうかご勘弁を……!」
エーリヒ君は英霊召喚の魔本と化した “冒険者の手記” を凄腕複製師の樹人ファイゲ卿に預け、原典を超える複写を作ってもらうことになった。
気合を入れて作るから、素材の手配なんかも考えると出来上がりは概ね冬の入口に差し掛かるころになるだろうとのこと。
出来上がったらファイゲ卿からエーリヒ君宛てに知らせを出してもらう手筈だ。
『帰りの道中もあの魔本を使って鍛えてやろうと思っていたのに』とのこと。
エーリヒ君がホッと一息胸をなでおろしていたのも無理はない。
日刊命の危機では熟練度が伸びても精神が持たないからね。
普通の人間なら<摩耗した精神>あたりのマイナス特性を自動取得するようなところだろうが、エーリヒ君はそうもいかないから猶更だ。
まあ英霊召喚の魔本が返ってきたらきっと修業漬けになるだろうから、そのうち<常在戦場>とかの戦場ストレス軽減系の特性でも取るんじゃないかな?(適当)
で、まあ、『
「ああ。あまり長くこちらに滞在しても仕方ないからな」
「徴税のシーズンが終わると講義も始まるしね」
そうか。では帰るとしよう。
ヴストローの街よさらば!
エーリヒ君とミカ君は、馬を預けていた宿から馬と荷物を取って、街門から出た。
私もそこまでは一緒だ。
あ、エーリヒ君とミカ君、<空間遷移>でその乗騎の2頭ごと送っていこうか?
アグリッピナ氏のとこの馬車馬なら<空間遷移>にも慣れてるだろうし。
「いや結構。また妙なことになっても
「……『例の本』を持ち運ぶにも、変に魔導で亜空間を通るのは避けた方が良いと思うな」
あー、魔宮の帰り道みたいにまた渇望の剣の肉鞘の干渉で振り落としても怖いし、どうにかなるほどやわじゃないにしても『失名神祭祀韋編』の封印匣に刺激も与えたくないというのも分かる。
でも送っていった方が路銀は節約できると思うけど?
「多少の出費も命には代えられないさ」
「我が友の言うとおりだね」
あ、そう? ならいいか。
まあ秋の年貢が納められたなら帝国のキャッシュフロー的にも、そろそろ
そうなればエーリヒ君もそうそうお金に困らなくなるし。
ミカ君は苦学生だけど、きっと今回の道中はエーリヒ君が路銀を出してやるんだろうからそっちは心配ないか。
「じゃあな、マックス」
「またあとで研究会ででも」
じゃあね、2人とも。
私は<空間遷移>で帰るから、また帝都で会おう。
…………。
……。
行ったかな?
じゃあ、
私はエーリヒ君とミカ君を見送ると、再びヴストローの街門を潜った。
街門付属の鐘楼基部に詰める見張りに挨拶し、通りを進む。
……エーリヒ君らはすっかり忘れていたけど、街のすぐそばに魔宮が現れていて、それを討滅したともなれば街を治める貴族なり代官なりから褒賞金がもらえるはずなのだよなー。
私はこれでもミュンヒハウゼン男爵家の末席に名を連ねるから、その辺りの申請も通しやすい。
それに森は資源の宝庫だ。
木材に、茸や木の実といった森の恵みに、狩猟の獲物。
近場の森が安全になったことは、街の発展の観点からもプラスのはず。
「魔剣や肉鞘や魔本を得たエーリヒ君はともかく、それに比べたらミカ君の取り分が少ないからなあ。少しでも稼いで彼女に渡してあげよう」
ミカ君はもっと良いもの食べて良いものを身に着けて己を磨くべきだよそうするべき。
ファイゲ卿からも『心躍る冒険譚を聞かせてくれたお礼』としてそこそこの── 貴族基準で “そこそこ”の── お小遣いを貰ってたみたいだけど、折角だし毟れるところからは毟らないとねえ。
という訳で私は手続きのためにこのヴストローの街の役所の方へと足を向けた。
頭の片隅に巣食った『あの本を手に入れろ! 読め! 早く読め!』という強迫観念をなんとか無視しながら……。
その後、迷宮消滅の褒賞金の手配を無事に終えた私は帝都に転移して帰還。
そして私は『失名神祭祀韋編』を読むための
いや流石にね、頭の中の声が── というか、私の中の邪神信仰者の魂の声が── この短い間にちょっと無視できないくらいに大きくなってきたからね……。
って、完全に『失名神祭祀韋編』に魅入られてるじゃねえか! 封印越しですら影響受けるとか、厄介なのもいい加減にしろ!
……狂信者ゆえ致し方なし? そうね。ありがたい経典を探しに砂漠を越えて山脈登って……ってするくらいは信仰者にとっては正気の内だからね。
とはいえ、だ。
いくら何でもエーリヒ君に対して『殺してでもうばいとる』なんてことはしたくないし、ましてや彼の手から雇用主であるアグリッピナ女史の手に移れば、それも不可能になるし。*1
まあそもそもの話、伝説の武器みたいに一人しか使えないものでもなし、『失名神祭祀韋編』なら単に内容を見せてもらえば良いだけだ。
奪う必要はない。
アグリッピナ氏に共同研究を申し入れてもいいし、彼女が読み終わった後に、お金を出して買い取るように交渉しても良い。
穏便なやりようは幾らでもある。
私は冷静だ。れいせいだ。
というわけで、まずはアグリッピナ氏あてに面会の先触れの手紙を出すところからかな……。
無礼にならないように本朝式の宮廷語でしっかりしたものを書いて、誰かに添削もしてもらった方が良いか。
添削はノヴァ教授にでも頼もう。あの人あれでこういう根回し関係も得意だし。
見せてもらう対価に何か私の方でできる限りのことはあらかじめ用意しておいた方が良いか……少なくとも
あとで政庁に行って手続きしてこよう。
対価として一番いいのは、交換条件にできるような稀覯本をこちらも用意しておくことだけど……。
あとで広域占見術式だとかで何処かにアグリッピナ氏好みの稀覯本がないか探ったり、禁書庫の収蔵品を触媒にして因果遡行術式で姉妹品を探したりしてみるか……。
あるいはその過程で、この脳の奥の疼きを癒やすような別の書物に邂逅するかもしれないし。
── ああそうだ『失名神祭祀韋編』に限らず、並行して禁書庫で失名神やなんかのことを本腰入れて調べてみよう。
そうしよう、それがいい。
そしたらエーリヒ君が帝都に戻ってきたら、うまいこと合流して、アグリッピナ氏に仲介してもらうようにしよう。
あわよくばそのままなし崩しに彼がアグリッピナ氏にブツを献上する場に居合わせられれば……。
私は算段を積み上げる。
そうしている間は、飢えのような渇きのような、この魂からの焦燥が紛らわせられるから。
代償行為に過ぎないにしても、気はまぎれる。
短慮を起こしてはならない。
少しの手間で、きっと目的は達せられるのだから。
アグリッピナ・デュ・スタールは怠惰な
面倒ごとなど嫌いだし、大概の面倒は蹴散らせられるだけの力もある。
「はぁ~、どうしようかしらね、コレ」
自室だからと薄いネグリジェのみ身に纏ってカウチにごろりと寝ころんだ彼女の手には、本朝式の宮廷語が並べられた書簡が。
完全な黄金比の肉体をだらしなく放り出しながら、工房に届いたその書簡をひらひらと振り、彼女は気だるげに溜息をついた。
差出人は、帝都帰参の道中で拾って自分もいくらか世話をした魔導師見習いだ。
名前は……マックス? 確かそう。宛名欄を見るか、本腰入れて思い出せば確実だが──
弟子のエリザの友人だという極光の半妖精ターニャはよく工房にも遊びに来るので覚えているが、その兄の方はこのところ閥が違うこともあって疎遠だった。
丁稚とは時々つるんでいたようだが、こちらにまで絡むことはあまりなかった。
無視するのが一番簡単だが……。
「無視するともっと面倒なことになりそうよねえ」
狂信者。
アレはその素養がある。
しかも殺すのが面倒な程度には頑丈だ。
粘着されてもかなわないし、アレはアグリッピナの師たるあの生命礼賛主義者にも伝手があるから、まかり間違ってあの死霊経由で直々にお達しが来るようなことになれば面倒極まる。
──── だから連れて行くなと釘を刺したというのに。
知られぬように気を回したのに無駄になったな、と思考を回し、
まあ見せるだけなら構うまい。
向こうは対価を払うと言っていることだし。
対価に貰うのは、金でも良いし、アレがいい感じに面白く七転八倒するように適当な難題を投げても良い。
ああ。“貸し一つ”、だ。それがいい。
いずれそのうち教授に上り詰めるだろう相手に貸し一つと考えれば、悪くない。
定命の者はせかせかと生きる。
瞬きする間に教授にくらいはなるだろう。
そのくらいでなければわざわざ世話を焼いて貴族位を投げた甲斐もない。
「見せるのを口実に、ついでにうちの丁稚を巻き込んでやっても良いかもしれないわねえ」
きっと面白いことになるだろう。
享楽主義者の
今日明日にでも丁稚は帰参するだろうから、その時にでもマックスも同席させようか。うん、それがいい。
そうと決まれば “諾” の返事を書いてやろう。
アグリッピナはカウチに寝そべったまま生得的な<見えざる手>の魔法で紙とペンを引き寄せると、
◆アグリッピナ氏が『失名神祭祀韋編』を求めた理由(独自設定)
アグリッピナ氏が『失名神祭祀韋編』を求めた動機は、当SSでは単なる好奇心4割・丁稚弄り4割・『終焉と再始の神』を祀っていると思われるこの本から彼女の研究テーマである時間遡行魔法の着想を得られるかもと予期したから2割、と想定しています。『終焉と再始の神』は、螺旋を成す時間という