フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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前話(ヘンダーソンスケール1.5の方)のあとがきにボツルートの没たる所以(ゆえん)などを追記(長文。原作者様にツイートいただいた感激のあまり。しかたないね!)しました。ご興味あればご覧いただければ幸甚(こうじん)です。

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◆前話
エーリヒ君「………101人アグリッピナ氏大行進!!??? 造成魔導師の総力を結集した、デァ・ベアーリン(帝都ロボ)!? ミカ! これはいったい……私に操縦しろというのか!!? まさか<巨人格闘術>はこの時のための伏線だった、だと!?

 ──── ハッ、夢か………。なんて夢だ……!!

 ……ええと、ああ、確か今日はマックスが失名神祭祀韋編の閲覧に来るとかで私も見張りに同席しないといけないのだったか……憂鬱だ。あの本に魅入られないように<精神防壁>あたりの特性でも伸ばすべきか……? ……ってあれ、熟練度がいつのまにかめっちゃ増えてるような……?」

──── 世界は一巡した……のかもしれない?*1
 

*1
世界が一巡?:アグリッピナ氏による時間遡行魔法(ロールバック)なのか、『終焉と再始の神』の権能による世界リセットが発動したのか、それは定かではない。いずれにしても、もはや何が起こったのかその証明は不可能だ。




12/n 『失名神祭祀韋編』【正気度ポイント喪失:1D8/2D8】-4(ヘウレーカ!ヘウレーカ!ヘゥ──(わかったぞ!わかったぞ!わか……)

 

 Mgr.(マギア)スタールの工房にお邪魔するようになって数週間、季節も冬に移り変わろうという中で、私は順調に『失名神祭祀韋編(しつめいしんさいしいへん)』の解読を進めていた。

 この魔書から侵食してくる認識の毒は強烈だが、なんとか精神恒常性維持術式により影響を抑えられている。

 余程のしくじり(ファンブル)をやらかさない限りは、問題はなく、安定して読み続けられるだろう。

 ……だが、気を抜いたらそのまま精神を侵されて正気を失ってしまいそうな予感もある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。不思議なことだね、この書を通じて霊感も高まっているのだろうか。

 

 とはいえ、もう残りのページは幾何(いくばく)もない。

 

「ふむ。もうすぐ読み終わりそうだな……」

 

「おお! そうか! それは良かった!」

 

 私の独り言に大袈裟に反応したのは、お目付け役として同じ部屋に留め置かれたエーリヒ君だ。

 

 ……まあね、封印匣から出すだけでも妙に人を誘引して止まず、さらに絶えず己を読ませようとするような魔力を醸し出すような本と一緒の空間に居るのなんて、普通は願い下げだろうからね。

 でも赦したまえよ。君も何気に精神抵抗を続けることによって、そこそこ熟練度稼いだだろう?

 アグリッピナ氏に下げ渡されたという片眼鏡(モノクル)も掛けてたから、実際にそこまで危険があったわけでもなかろうしな。

 それに肉鞘(アンドレアス氏)の魔法で影に沈んでいる渇望の剣も守護を投げているし、一緒に影に沈んでいる英霊召喚の魔本── ファイゲ卿の手で魔改造されて生まれ変わった── は所有者の精神を守る加護(バフ)も発揮するようだし。

 

 ちなみに片眼鏡を掛けた彼の手元には作りかけの兵演棋(へいえんぎ)の駒があった。

 小刀に削り粉、それを受け止める敷物の布も。まさかアグリッピナ氏の工房に削り粉を落とすわけにもいかないしね。

 一応作業の許可は貰っているらしいし、掃除するのはどうせエーリヒ君だからそこまで神経質にはなってないようだけども。

 

 こうやってエーリヒ君が兵演棋の駒を作ってるのは何故かと言えば、彼が私の見張りをするにあたり、手持ち無沙汰だというのが一つ。また『失名神祭祀韋編』の誘惑を跳ね退けるためにも、気をまぎらわせるものが必要だったからでもある。

 まあいわゆる内職ですなー。

 こうやって作った駒を、休みの日に表通りで店を広げて売るとそこそこ良い収入になるのだという。

 お金だけでなく熟練度も稼げるし、一石二鳥の趣味なのだとか。いや君、巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)討伐の褒賞金渡してあげたから懐温かいだろうに……。

 

 

「毎度付き合ってくれてありがとうなー、エーリヒ君。あと少し。これを最後まで読めば、きっと何かが変わる気がする」

 

「……本当に読み切ってしまっていいのか? 碌なものではあるまいに」

 

「確かにそのとおり、碌なものではないよ。

 ……でも、私が求めるものだ」

 

 実際とても勉強になる。

 

 信仰の秘奥と言って差し支えない内容であるし、我が恩神である “もったいないおばけ” も恐らくは名を失った神、あるいはその眷属であろうことを思えば、この『失名神祭祀韋編』の内容は、非常に重要である。

 神の名を失わせる術に通じることは、また、失われた名を取り戻す術に通じるということだ。

 “もったいないおばけ” は特に復権など望まず、次元の狭間でモノを拾って造り変えること、ただそれだけで満足なのかもしれないが。

 

 それでも私を救ってくれたことには変わりなく、であれば、信仰するのも当然のこと。

 そして信仰する者としては、もっと自由に “リサイクル” を楽しんでいただくべく、力を取り戻していただきたいと願うのも当然のこと。

 “もったいないおばけ” が特に望まぬとしても、拒絶されぬ限りは尽くすのみ。

 

 なにせ、私を救ってくれた神(あるいはそのような何か)が歴史に埋もれたままというのは、もったいないからねえ。

 

 信仰の道とはつまるところ自己満足に過ぎないと私は思う。カッコよく言えば克己の道と言えるが。

 打算なく、徹頭徹尾自己完結すべきもの。

 ときに神の意向にすら左右されず。

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 ………??

 いや、この思考はちょっとダメな気がする。いや、()()()()()()()()()()()()()……? 奇妙な感覚だ。

 ── うん、狂信ではなく、敬虔なることを心掛けよう。自らを律することが重要だ。

 

 あと、魔法チートの権能に附属する約束された魔導の才能とは違い、信仰の道は、こう、一つ一つ積み上げているという達成感と充実感があるのだよな。

 手ごたえがあるというか、歯ごたえがあるというか。

 そう、やりがいがあるのだ。

 

 

 

「……マルチクラスは強いものな? マックス」

 

「いやそういうんじゃないから、エーリヒ君。信心の道は打算じゃないから。ほんと、そういうんじゃないから。

 ……まあ、使えるものは使うけど」

 

「結局使うんじゃないか」

 

 そらまあ使うよ。

 使わないと “もったいない” からねえ。

 今はまだ、信仰する神から何か奇跡を遣わされたわけではないが。

 それでも、もう少しで、きっと……『失名神祭祀韋編』を読み終わればきっと、何か壁を越えて、開眼できる気がする。

 

「さて。でも今日はここまでにしようか」

 

「おいおい。今日ここで読み終わる流れじゃないのか」

 

「はははー、いやもうこれ以上読むとほら、侵蝕率がね?」

 

「はっ。そんなタマかよ、君が」

 

 いやいや油断するのは良くないぜー。

 最後まで読み終わったらどうなるか分からんじゃないか。

 読み終えたのをトリガーに、頭の中に納められた知識が有機的に組み上がり、それによって『失名神祭祀韋編』に籠められた何か冒涜的な真実に気づいてしまうかもしれないし?

 

 そうならないように、日常に一旦返って、十分に正気を取り戻しておかないとね。

 

安全第一(セーフティ・ファースト)。というわけでまた明日なー」

 

「いやホントに帰るのかよ」

 

 そりゃ帰るよ! すまんね!

 

 私は解読用にまとめているノート── これも魔導書化しかかっている気がする── を畳んで隔離用の亜空間に放り込むと、アグリッピナ氏の工房を辞した。

 

 さあターニャの待つ虚空の箱庭(再建した)に帰るとしよう。

 料理担当のホムンクルスがご飯を作って待っているはずだ。

 

 

 

§

 

 

 

 そして翌日。

 これまで読んだページの内容をまとめたノートも復習したし、また自分なりに頭の中で、書物の中で記述された祭祀や、そこに籠められた意味についても反芻した。

 全体の構成の中から各記述の繋がりについて再検討もしたし、準備は万端。

 

 

 精神厳重保護気付術式(しょうきでまどうしょがよめるかっ)

 

 

 魔導による保護がどこまで通じるか分からないが、自らの精神を守り、また心を乱したときに自動的に()()()を行い喝を入れてくれる術式を構築しておく。

 さらに常駐させている精神恒常性維持術式も出力を上げておく。こちらは、今まで無事に読むのに役立ったという実績もあるし。

 

「何かあれば殴り倒してでも止めるからな、マックス」

 

「ああ、頼んだ。何なら首を飛ばして血を抜いてくれた方が冷静になって良いかもしれないくらいだ」

 

「いやそれ掃除が大変だから」

 

「はは、だよねー。ま、よろしく頼む」

 

 エーリヒ君も万が一に備えて、当身で私を制圧できる位置に備えてくれている。

 <神域>の技量を持つに至ったエーリヒ君なら、私の自動防御等の隙間を抜いてくれるだろうと期待して。

 

 じゃあいよいよ末尾の方のページの解読に取り掛かろう。

 片眼鏡(モノクル)を掛けたエーリヒ君が封印匣の錠を開け、私に席を譲ってくれた。

 うっとむせ返るような、不可視のマナとも違う、おぞましい存在感が、匣の隙間から漏れ()でる。

 

「いざ、最終実見!」

 

 その怖気を揮う存在感を受け流し、私は封印匣を開いて、内に納められていた『失名神祭祀韋編』を取り出した。

 手の中で実際の重さ以上の存在感を発揮するそれを、慎重に台に置く。少しでも影響を減じるよう術式が施されたものだ。

 

 私は昨日読んでいたページを指の腹の感触で探りあてると、過たずに開く。

 

「おお、読める……読めるぞ……!」

 

 一晩じっくりと復習したおかげだろうか。

 最後尾のページに記載された記述が、これまでに私が解読してきた文章と結びつき、明確な意味を持ち始める。

 

 そうか、神の坐す次元と、この基底現実との関係とは……。

 彼ら神々の行動原理、真の目的。

 基底現実への干渉手段。

 そしてそれを断ち切るための基底現実側からの逆干渉手順。

 零落と復権。権能と呪詛。

 

 さらなる上位次元の存在への昇華……!

 烏枢沙摩明王、浄火からの再生。脱皮する蛇(ウロボロス)としてのサタン。あるいは復活するキリスト。

 オメガにしてアルファ(ダッシュ)

 数多の世界において存在する『終焉と再始の神(死と再生の神)』の系譜!

 

 曼荼羅のように連なる数多の世界。さらにそれを入れ子にしたように繰り返す上位階梯と下位構造。

 彼らはそのために世界を運営して……。

 

 せかいのはじまり。

 

 せかいのおわり。

 

 そして、つぎのはじまり。

 

 おわらせるもの。はじめるもの。終焉機構。そうか、42が導かれる所以は……! 宇宙のすべては──!!

 

 

ヘウレーカ(わかったぞ)ヘウレーカ(わかったぞ)I got it!(アイ ガリッ‼) Ich hab' ihn!(イッヒハービン‼) わかったぞ! わか──」

 

「はいアカンやつぅ! 強制終了!!」

 

「── へぐっ!?」

 

 

 エーリヒ君が神域の技量で振るった渇望の剣の腹で殴られて、私の意識は霧散した。

 ふふ、魂の視座を文字通りに別次元に飛ばしていた隙をつかれたとはいえ、この私の意識を一撃で刈り取るとは、やるじゃない……。

 流石は剣聖、<神域>の剣士。

 

 だが、私は確かに掴んだぞ、この世界の仕組みの秘密の一端を……。

 

 

 

§

 

 

 

「みごとなフラグかいしゅうでしたね」

 

 ジト目のエーリヒ君に、私は苦笑を返しつつ頭を掻いた。

 

「いやあ、面目ない。あ、精神分析(物理)、あざっす」

 

「どもども……っていうか、人はあんなに分かりやすく発狂するものなのかとビックリしたよ。……実はネタを挟む余裕あったりしたのか?」

 

「いや、マジのガチだった。助かったよ、エーリヒ君。君を目付として置くようにしてくれたアグリッピナ氏にも感謝を」

 

 おかげで正気の内に留まることが出来た。

 

 私が意識を失ったのはほんの数瞬に過ぎない。

 エーリヒ君の当身で気絶した直後に、異状を感知した()()()の術式が、私を気絶から復帰させたのだ。

 

 発狂しかけても発動しなかった精神復帰術式だが、無効化されていたわけではなく、発狂を異状として認識できない状態になっていたようだ。

 気絶という、発狂とは別方向の異状に対してはきちんと反応したのがその証左でもある。

 原因は不明だが……あるいは私の中の “邪神信仰者の魂” が、発狂/狂信(それ)を魂の奥底では望んでいたから、とかであろうか。

 

 まあ、今はきちんと正気に戻ったから問題ない。

 なにも、もんだいは、ない。

 おれは しょうきに もどった!

 

 

「それでマックス、収穫はあったのか?」

 

「うむ。世界の真理を語るには音声という形式も、帝国語の語彙も、そのためにかかる時間も全く不足であるから省略するが──」

 

「そこは別に聞きたくもないから結論()よ」

 

「まあ、無事に私の恩人── 恩神である “もったいないおばけ” とのパスを再構築できた。

 つまり、こちらの信心は向こうに届くし、向こうの気が向けば “奇跡” を遣わして貰えることになったわけだ」

 

「ほー」

 

「分かりやすく言うと、Lv1神官(プリースト)になったわけだな」

 

「なるほど。“ただしエネミー専用信仰、それもキャンペーンボスになる系の”、みたいな?」

 

「ハハハ、こやつめ。ぬかしおる」

 

 いや多分そうだけども!

 しかし身も蓋もねえな、そう言われると。

 

「それで何が出来るようになったんだ?」

 

「まず使えるようになったのは、魔導消去系の奇跡だな。神という世界の管理者側の基本技能だし。ただ、気を付けて使わないとまずは自分に掛けてるバフを分解しそうな予感がしているから、扱いは練習しないとな」

 

 例えばまかり間違って、内蔵魔導炉をしまい込んでる各経絡の亜空間維持魔法が解除されたりなんかしたら全身破裂するだろうからね。

 

「……不便なのでは?」

 

「最初のうちは仕方ないさ。だがファイゲ卿が手配してくださった封印匣みたいに、魔導による封印術式と、神の奇跡による祭祀封印は共存可能なわけだし、魔導と奇跡を並立させる技術自体はあるはずだからね。こればかりは研鑽を積むしかあるまいよ」

 

 あとは他の恩寵としては、リサイクル系の行為判定にも補正がつくっぽい。これは純粋にありがたい。

 

 さーて、それじゃあこれからも積極的に功徳を積んでいく(リサイクルしていく)としようか!

 




 
というわけでマックス君が神官Lv獲得しました。ヘンダーソンスケール1.5の方の邪神官マックス君がLv15 Over だとすればこっちは漸くLv1というところ。奥義書読んで正気度ロール成功して漸くLv1とは? という気もしますが、エネミー専用信仰を獲得するならこんなもんでしょう。
またマックス君の場合、魔導的な強化だと身体-魂魄バランス崩れて魔法チートの権能を失いかねないので(そういやそういう設定あったな……)、これ以上人類種の限界を超えて身体強化して頑健度上げるには、主に奇跡を運用していくことになろうかと思われます。落日派的には邪道かもですが。

次回以降は、社交界デビューやら、研究発表会やら、ヨルムンガンド討伐凱旋(with 天覧馬揃え)やらその辺の流れに入る予定です。つまり原作小説4巻。なおマックス君はツェツィーリア嬢とは面識は持てない模様(転移持ちと合流したらそこで話が終わるので……)。
 

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