フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
時系列的にはエーリヒ君がテルミット術式で実験区画の標的を熔かして床にも穴を開けちゃったよりは後。年明けの魔導院の技巧品評会よりは前になります。
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◆前話
マックス・フォン・ミュンヒハウゼンは、“もったいないおばけ” に信仰を捧げた!(
なおライン三重帝国の神群に属さぬまつろわぬ神であるため信仰のカミングアウトには注意が必要。もし変なタイミングでバレた場合は聖堂勢力からの印象値にマイナス補正(『貴公は邪悪だ(-4)』)があり得る。
マックス君「普段は『月の満ち欠けと日の昇り落ちに由来する再生の神威を司る眷属だ』とでも言ってお茶を濁しておこうかな」
(誤魔化しがバレると更に好感度減るやーつ)
13/n 年の瀬の諸々-1(技巧品評会に向けて@ライン三重帝国物流ネットワーク研究会)
あの魔剣の迷宮の冒険からエーリヒ君が帰ってきてから数週間。
秋は終わり、冬も徐々に深まって、年の瀬に近づいてきた。
冬となれば、年貢の処理も終わった諸侯たちの社交シーズンということで、帝都にも貴族諸侯及びその縁者に、聖堂勢力の重鎮たちが集まってくる。
もちろん、近隣諸国の使節も。
見栄の都の見栄の城、帝都帝城の本領発揮である。
帝国の基本外交方針は、圧倒的な国力を見せつけて諸国の心を折り、穏便に統合し、また統合した旧国の反抗心を削ぐことにある。
金貨袋で殴りつける、とも揶揄される。
小国の王であるよりも、帝国の藩屏として統合された方が旨味があると思わせるのだ。
また社交シーズンということで、私とターニャの落日派
年明けには、帝国中を見世物として引き回された
社交時期の終わりである冬の終わり春の初めに数年に一度行う天覧馬揃えも予定されており、今回は対になる形で社交時期の山場である年末年始にかけて凱旋パレードを行う予定なのだとか。
確かに輪切りにした状態でもひとつひとつの標本ブロックが大通りを埋めるほど大きく、建ち並ぶ家々の上までも背鰭が伸びるような巨大な獲物は、帝都に集まるお歴々の度肝を抜くだろう。
国威発揚にはもってこいだし、帝国の武威を見せつけることになる。
そして北海航路を狭めていた札付きの魔獣を討伐したことで、帝国は従来より短い新たな航路の開拓に成功したのだということも印象付けられる。
海路の物流が改善したことを帝国の市場も歓迎しているし、景気も良くなるだろう。
きっと帝国は私に払った褒賞金以上の利益を、新たな海路開拓により得たに違いない。
物流インフラ整備と商業、工業の振興。
また、肥沃なライン河流域の穀物生産を背景とした人口。
魔導院という先鋭的な研究開発機関。
経済力・マンパワー・技術力を高めていくことは、国家繁栄の王道でありまた、帝国の基幹を成している。
私たち魔導師は
まあ、そんな風に『選択と集中』で成果が出せるほど、学問の世界は容易くはないが。
広大な基礎研究という裾野があってこそ、実学という花が咲くのだ。
「というわけで、年明けの技巧品評会に向けての対策会議を始めるぞ」
いつものように性別を反転させたアヌーク・フォン・クライスト同期聴講生が、研究会のために貸し切った教室で口火を切った。
技巧品評会とは年明けに行われるもので、魔導院教授や貴族諸侯らのお歴々らの前で聴講生が自分の魔導の腕前を披露する場である。
ここで学派学閥に見いだされたり、貴族や実業家のパトロンがついたりすることもあるのだとか。
そのため、この時期の聴講生らは己の理論を研ぎ澄ませ、技量を磨くのに余念がない。
まあオーディションというか、スカウトキャラバンというか。
あるいは新年かくし芸大会というか。
たぶんそんなノリで捉えておけば、大きく間違っていないだろう。
いつの世も、頑張る若人は年寄りの肴にちょうどいいのだ。
それで研究会に参加する予定のアヌーク同期聴講生もまた、パトロンを求めて参加する口だ。
既に幾つかの閥から写真術式の開発功労者ということでお声掛かりがあるが、さらに上を目指したいらしく、彼(彼女)は大きく意気込んでいる。
「あ、僕は出ないから。課題や論文も溜まってるし」
「そうか。ライバルが減るなら私としてはありがたいよ、ミカ」
「でも相談には乗るよ、アヌーク君。同じ研究会の
今は中性体に戻りつつあるミカ君が早々に技巧品評会の出場辞退を表明する(呼び名は研究会で一緒に研究に取り組むうちにお互いに名前呼びに落ち着いた)。
もうミカ君は黎明派の教授にその才を見いだされているため、ここで躍起になって師事すべき教授やパトロンを探す必要はないのだ。
そしてそれは私も同じ。
そういう意味では特に技巧品評会で披露する必要もないのだが……。
「マックス、君は出るのだろう?」
「まあね。凱旋パレードに出るなら、技巧品評会にも出て、畳みかけるように名を売っておけとノヴァ教授からは言われているよ」
「ふむ。そちらはどの術式を披露するんだ?」
「今のところの予定では、落日派ベヒトルスハイム閥に入るときの論文に出したやつのパフォーマンスをするつもりだよ。
“微視的世界の紹介”、ということで」
私の方のネタは、術式を駆使して、光学的に、電子探査的に、
身近な未知の世界である、顕微鏡的な世界をビジュアルで分かりやすく見せることで、観衆の印象に残ろうという策略である。
「なるほど……インパクトは大きそうだな」
「どうだろうな。知的好奇心は惹けるだろうが、もっと分かりやすく国益や実経済への影響をイメージできる出し物の方が受けは良さそうだ。そっちもそういう意味で見栄えする術式を披露したいって言ってただろう?」
「確かアヌーク君は写真術式とその応用にするって言ってなかったかい? それで十分目を惹けると思うけど」
ミカ君の問いに、アヌーク同期聴講生は頷く。
「そうだ。写真術式で聴衆の様子を写したり、使い魔の視界と同調させた航空写真をその場で撮って見せたりする予定だな」
「良いんじゃない? 見た目にも映えるだろうし。
……でも対策会議って言うからには、何か心配事でもあるのかい」
「……インパクトが薄くないか? と思ってな」
そう言われて、ミカ君と私は顔を見合わせた。
「なんだいなんだい、弱気になってアヌーク君らしくもない」
「写真術式の受け自体は問題ないだろうよ。ビジュアル的に分かりやすいし、使い魔との同調による空撮は軍事的な成果に繋がることを容易に想像させるだろう。複写用の簡易な術式としても、税収の事務処理のときから既にその恩恵に与っている教授や研究員らも多いだろうし。それでいったいどうしてインパクトが足りない、ってことになるんだよ」
私が深刻な顔をするアヌーク同期聴講生に問えば、彼(彼女)はこう返した。
「いや、実験区画の仮標的を熔かし落とすような術式が使われた、らしいと聞いてね……」
「なんだいそれは物騒だね……って、仮標的を熔かし落とした……?
あ、まさか……」
「ミカ君、それ、そのまさかだと思うよ」
私とミカ君には、アヌーク同期聴講生が心配するダークホースに心当たりがあった。
あの金髪のあん畜生だ。
私は溜息一つ、彼(彼女)に安心させるように言って聞かせる。
「それなら心配いらない。その術式を使ったやつは技巧品評会には出ないから」
「……どうしてだ? この時期にそんな術式の実験をしたなら品評会に出るためじゃないのか?」
「そもそも聴講生でもないしな、そいつ」
「??? いや、魔導院の実験室を使ってるのにそんなわけないだろ。まさか研究員だったとでも?」
あー、まー、そういう反応になるよな。
というか改めて言葉にするとどういう立ち位置なのか良く分からん奴だよな……。
「違う違う。スタール卿のとこの丁稚だよ、私とミカ君の友人でもあり、ライゼニッツ卿の被害者仲間でもある。実験室でやらかしたのはそいつだ」
アヌーク同期聴講生とは顔合わせる機会がなかったのだったか?
てっきりライゼニッツ卿のところで一度くらい顔を合わせているものだと思っていたが。
「で、丁稚……??」
「そう、丁稚。だから心配しなくていい」
「それよりせっかくこうして集まったんだから、ついでに品評会での演出を詰めようじゃないか、アヌーク君」
そうしよう、それがいい。私もミカ君の話題転換に便乗することにした。
話し方や演出によって、聴衆の印象は大きく変わってくるからな。
あ、最後に聴衆を並べて記念撮影、というのも良いかもしれない。
そしてそれを急いで複写して参加者全員に記念として配るのだ。
絶対に印象に残るはずだ。
あるいはヘルガ嬢やエリザちゃんのような綺麗どころに頼んでアシスタントをしてもらって壇上を華やかにするとかも有効だろう。ああ、ミカ君もどうだい? あ、ダメ? そう……。
いや、アヌーク同期聴講生も十分美麗な容貌だがね?
なお、“丁稚が戦術級だか戦略級だかの熱量の術式を……? 丁稚とは……??” といまだに混乱するアヌーク同期聴講生が復帰するまで、しばらくの時が必要だった。
気持ちは分かるよ、うん。
メリー・ユール!(一日遅れ)
次回は技能を成長させたエーリヒ君とマックス君とのわりとガチめの模擬戦闘のご様子をお届けする予定。
ほら、技能伸ばしたら軽くテスト戦闘したくなるやん? 的な。