フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
ライン三重帝国の世界って、アブラハムの宗教が幅を利かせていないヨーロッパ史なので、Civ的な感じで技術ツリーが滞らず進んでくれると思うのですよね。
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◆前話
アヌーク・フォン・クライスト同期聴講生「熔鉄クラスの熱量を投射できる丁稚……? 丁稚とは……?? うごごごご……」
マックス君「それはともかく技巧品評会の準備を進めようか」
ミカ君「僕も協力するよ」
マックス君「じゃあこの際どいステージ衣装を着てアシスタントを……」
ミカ君「それは却下で!」
あたり一面の雪景色。
ここは北方離島圏を望む帝国北方の山中の窪地。
人里離れて吹雪くその場に、ひび割れのような空間の
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「さあて、じゃあ始めようか。エーリヒ君」
一方は短い金髪に深海のような碧眼の少年。
身に纏うのは偏執的なまでに術式陣が編み込まれたローブ。
手に持つ捻じれた竜骨の杖は、
そして、首から下げているのは、曲がった矢印を循環するように組み合わせた、見覚えのない聖印。
溢れんばかりの歪んだ魔力。
非ざるべき神聖。
そしてその奇妙な調和。
おなじみ我らの魔法チート転生者、マックスである。
「応とも。いつでもいいぞ。こちらも最初から全力で行く……── 来い、魔剣よ!」
もう一方は、長い金の髪に、子猫の眼のような色の瞳をした少年剣士。
エーリヒと呼ばれた剣士は、己の影から禍々しい肉鞘に収まった魔剣、そしてその剣帯に連なる魔本を召喚した。
うぞうぞとした生物的な動きで剣帯が彼に巻き付くと、彼が着こんだ煮革鎧にラインを接続し、吊るされた肉鞘に内蔵された魔導炉からの魔力をそのラインを通じて導いた。
魔力が通り、鎧が
肉鞘から供給された魔力が、鎧に刻まれた魔力回復補助術式と、身体賦活術式、疲労回復術式を起動させたのだ。
これらの術式は、消耗を補填し、エーリヒを常にベストコンディションに保つ働きをする。
長い金の髪の少年が、一目見て悍ましいと万人に感じさせるであろう漆黒の魔剣を抜く。
肉鞘が惜別の嘆きを上げ、魔剣は主人に相応しい身幅に己を縮め、斬り愛の歓喜を人外の狂った思念によって奏で始める。
さらには恐らく魔法の補助具なのだろう魔本がパラパラとページをはためかせながら浮かび上がった。
呪われた魔剣士のような外見だが、その実、彼は神剣を操る剣の申し子である。
「こちらも本気で行くよ。
だけど
── 折角だものねぇ。
そう呟いたローブの少年── マックス・フォン・ミュンヒハウゼン── が、竜骨の杖を振るった。
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マックスが放った術式によって、山間の窪地が整えられる。
雪混じりの大地は乾くとともに、固く踏みしめられた練武場のようになった。
視界を塞いでいた吹雪は直ぐに止み、この窪地を照らすように雲間に穴が開く。
そしてまるで神話の一場面のように、エンジェルラダーの光が天から降りて、対峙する2人の少年を照らしだした。
「それじゃあエーリヒ君が魔剣の迷宮や肉鞘アンドレアス氏のブートキャンプで得た熟練度を費やして練り上げた
「ああ、やはり実戦形式で使っておかないとな……
「とはいえ魔導院の下級の実験室じゃ力不足……実際、実験室を壊したんだってねえ? 丁稚の身ではそれより上位の実験室の申請も難しい。……だけど、私みたいなの相手だと遠慮せずに済むものね? 転移で人里離れたところに飛ぶことも出来るし、何があっても大抵は治せるし」
「否定はすまい。
「まあいいさ。私も “魔導と奇跡の調和” を模擬戦闘で試してみたいし、交換条件も吞んでくれるっていうしね」
「ああ、助かる。その交換条件とやら── この模擬戦で得た権能の熟練度の使い道── については、そちらの要望を聞こう」
「確か死闘であればあるほど、熟練度は貯まるのだっけ? せっかく要望を聞いてもらうなら、ドカンと熟練度を使ってほしいからなあ……ひひひ、腕の一本や二本は覚悟してくれよ?」
「それはこちらのセリフだよ、マックス」
「
金髪碧眼の2人の少年、エーリヒとマックスは、10mほど離れて向かい合い、互いの得物を構えた。
──── じゃあこのコインが地面に落ちたら開始ということで。
マックスがいつの間にか取り出していた一枚のコインを <見えざる手> の術式で投げ上げる。
くるくると回るコインが、頭上、円形に晴れた雲間から落ちる陽光を反射する。
高まる緊張。
やがてコインが地面に落ち────
「ハァッ!」
── 同時に、エーリヒは己が握る魔剣を、遠く間合いが離れていたにもかかわらず、裂帛の気合を込めてその場で振り下ろした!
通常であれば空振りに終わるはずの斬撃。
あるいは、剣の間合いで攻撃したとしても、
無意味に終わるべき斬撃のはずだった。
だが、さにあらず。
「がっ……?!」
振り下ろされたエーリヒの魔剣の一撃と全く同時に、マックスの正中線に、赤い斬線が走った!
「どうせ死にはすまいと信じているぞ、マックス! だから、まず手始めに真っ二つにさせてもらう!」
射程:
皆さんもお好きでしょう?
もちろん私も大好きだ。
マックスの身体に縦に走る赤い斬線に、私は確かな手ごたえを覚えた。
完全に
できれば複数の <見えざる手> に持たせた剣を <多重併存思考> で操って、同様の斬撃を
何をしたのかというと、言葉にするなら簡単だ。
“斬撃を飛ばした”、ということになる。
数多の創作物で出てくる、剣による遠距離攻撃。
私が行ったのはそれだ。
だが、斬撃を飛ばすといっても、魔力や真空波を飛ばすようなものではない。
<戦場刀法> が最上位の <神域> の技量に至ってようやく解放された、形なき概念すらも斬るためのアドオンを獲得したことにより、私は
すなわち、
しかも、世界を捻じ曲げる魔導でもなく、神の助力による奇跡でもなく、純粋に、
<神域> の技量とは、文字通りに、神の領域── 現象としての斬撃概念を操る領域── の末端に手を掛け入門したという証明である。
ゆえに私はこの <次元斬> とでも呼ぶべき “初見殺し” にして “わからん殺し” を成立させることができたのだ。
もっとも、常に通常攻撃全てが <次元斬> に出来るわけではない。
── 少なくとも、まだ、今のところは。
<神域> の技量に、距離概念を斬るための高価すぎるアドオン群を得て、そして神に愛された者しか到達しえない <寵児> 級の <器用> のステータスに、その極まった器用度を膂力や瞬発力といった斬撃に関する他のステータスによる判定箇所に代入できる <艶麗繊巧> の特性を組み合わせ、さらに剣という存在を極めた “渇望の剣” を用いて、それでも少しでも体調が万全でなければ放つことが出来ない、まさしく人の手による奇跡の斬撃。
気力が充溢し、体力と魔力とスタミナが万全の理想状態でなければ成功の目はない。具体的には、自動回復特性が付与された煮革鎧を起動させていないと無理だ。しかも <見えざる手> は全てオフにして。
だが、
将来的には通常攻撃全てを <次元斬> にしたいものだが、その領域に至るには文字通りに天文学的な数値の熟練度を要求される。
剣の道の頂はいまだ遥か遠くにありにけり、だ。
しかも <次元斬> は、その特性上、それ単体ではただの極まった概念切断級の
つまり──
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<
「お、おお。ビックリした。エーリヒ君、何だいこれ? 斬撃が飛んできた……いや、急に現れた? 興味深いな……」
── 斬ったあとに治されてしまえば、意味がない。
正中線から割断されたはずのマックスは、何ごともなかったかのようにその即死級の傷痕を修復して見せた。
さらには己の身を二つに
残渣をかき集めた程度のものだから空間を越えた斬撃を為す性能は失われているだろうが、そこらの名剣よりはよほどよく斬れるだろう。
しかし死にはすまいと思ってはいたが、実際に無事だと溜息が出そうだ。
私の手の中の “渇望の剣” も、<次元斬> が決まった時の快哉とは打って変わって、不満そうな思念を流す。
ああ、分かるよ、会心の一撃だったものな。私だって悔しいさ。まあ、まさか本当に殺せてしまっていても問題だが。
もしも私の技量が伸びれば、【距離】と同時に、【命数】や【魂魄】などの他の概念を斬断できるようになるだろうが、現時点ではそのように複数の概念を同時に斬ることは出来ない。
【距離】を斬るために特化したアドオンの構成だからな……。
というか、普通の敵ならこれで終わっているはずだろうしな……。
まさかマックスにメタ張るためだけにこれ以上に剣でゴリ押しするようにアドオンを積むのも効率が悪い。
多分にロマンもあって <次元斬> を編み出したが、私は
孤剣で足りぬなら、それは魔法の手管で補うべきだろう。
「至高の一撃で足りないなら、次は手数と火力だな」
「いひひ、来なよぉ、存分に。新技能の実戦証明ってことで、とりあえず全部受けてあげるからさぁ」
「その言葉、後悔するなよ!!」
私は肉鞘に宿るアンドレアス氏に <思念伝達> し、影空間に格納していた武器や触媒を取り出させる。剣の柄などが影から浮かんでくる。
影から突き出た6本の剣を、同じく6本の <見えざる手> に握らせて、<多重併存思考> により己と同じだけの技量を持たせて振るわせる。
これにより、<神域> の技量を持つ剣士が、本体の私を合わせて7人。それぞれに連携して襲い掛かるというわけだ。
しかもそのうち6本は、身体を持たないが故の緊密にして変幻自在の連携を行うのだ。
さらに小さく小声で「ウルスラ、ロロット」と
まだ昼間だが、幸いにして隠の月は満ちている。
夜闇の妖精ウルスラは、願いを聞き届けて、影から浮かび上がったテルミット術式を内に刻み触媒を仕込んだ苦無や、その他の焼夷・爆裂系の触媒を仕込んだ暗器を、夜闇の権能により <見えざる手> ごと隠蔽してくれた。
風の妖精ロロットの加護も合わさり、風切り音のひとつも漏れることは無いはずだ。きっと
6本の剣が <見えざる手> により空中に浮遊して切っ先をマックスに向ける。
そして妖精の加護により不可知となった、決戦用の術式を込めた暗器を持った2つの <見えざる手> が隙を窺う。
「行くぞ!」
「来なよぉ」
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私が準備をする間に、マックスも準備を進めていた。
熟練度を注いでより詳しく魔力を視ることが出来るようにした私の眼には、先ほどよりもさらに厚みと枚数を増したマックスの障壁が視えている。構造的な弱点が生じないように常に流動するように術式が組まれているようだ。
だが同時に、私の <心眼> が、それでもなお障壁の弱所を詳らかにする。
やれる。
浮遊する剣で障壁の弱所に穴を穿ちあるいは偏らせ、それによって生じた穴や意識が偏って手薄になった方向から暗器を投入。灼熱や焼夷や爆裂の術式で吹き飛ばす。
ああ、やれるとも。
「はぁあああああ!!!」
私は待ち構えるマックスに向かって、<
【いつもの恒例】マックス君死亡、9話ぶり6回目【ヘンダーソンスケール1.5はカウントせず】
1話に納まらなかったので次回、模擬戦後半です。
え? マックス君の性能がほぼ不死者だから、VSマルティン公の予習になってる? まさかあ。
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◆<次元斬>(独自設定)
距離関係なく斬撃を視界内(感知範囲内)の任意の場所に出現させることが出来る。
障壁の内側、鎧の内側にも斬撃を飛ばせるため、装甲が意味をなさない。そして距離が離れているので反撃不能、また極まった技量により回避も不能。
魔導でもなく、奇跡でもない。純粋に極まった技量(+山盛りのアドオン)により、【距離】という概念を斬ったため可能になったものである。
今のところ、
・体力魔力スタミナ満タン(=実質的に初太刀限定。<見えざる手>を併用するなど以ての外)
・渇望の剣を使用
という条件下でのみ使用可能。
初見殺しのロマン技。実運用としては、遠見の術式などで感知範囲を拡大してからの
ただ、今後も極め続ければ、通常攻撃がすべて<次元斬>になる上に、他の概念も同時に斬れるようになるはず。それまでにかかる熟練度を思えばヒト種の寿命のうちにその境地に辿り着くのは現実的とは言えないが……、エーリヒ君の巻き込まれ体質と彼の権能の仕様を思えば不可能とも言い切れないだろう。