フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆虚空の箱庭でのエミュレータの限界について
取得可能技能および到達限界がマックス君の才能素質に左右されるため、エミュレータから経験をダウンロードする方法も万能無敵とはいかないようです。具体的にはいくら時間かけても体術や剣術を<達人>や<神域>に持ってくのは無理な感じ(マックス君にその方面の才能がない)。あと長期間のエミュレート結果をロード・同調する際に、人間性が削れる恐れも高いです。人間性を捧げよ!(鍛練時間ではなく魔力と人間性を代価に熟練度に変換してるイメージになります。魂が削れない分まだましですが……。通常はエミュレータから成果物データ(レポートや、改良品種のDNAマップなど)だけ取り出す運用をしていて、経験の同期によるスキル習得は避けています(精神が磨滅するリスクがあるので)) また、エーリヒ君と違ってピンポイントでスキルを習得できるわけではないのと、スキル名とか効果とか取得条件とかが見えてるわけではないので、スキル・特性でコンボを組むのも手探りになります。さらに恐らく、スキル習得過程で附属してくる周辺技能が干渉し合って、なかなか理想の構築には至らないのではないかな……という想定です。

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◆前話
マックス君は<喧嘩殺法>を<妙技>相当まで習熟した!
※主に徒手格闘の他、塩や酒などの食卓・室内・街中のその辺にあるものを武器にした攻撃や、道路・壁・水路などの構造物を利用した攻撃をはじめ、無刀取り等にも習熟。屋内戦闘や都市部での戦闘に高補正。マックス君が魔法で生み出す特殊形状武器もだいたい効果範疇に入ってくるようだが、長物はスキル補正が薄くなる。
(同時に、周辺関連スキル<威圧>、<武器隠匿>等を<熟練(スケールⅣ)>程度で会得。また、周辺関連特性<苦痛耐性>、<荒んだ雰囲気(チンピラオーラ)>等も会得)
(幸い、特性<荒んだ雰囲気(チンピラオーラ)>の効果は、スキル<礼儀作法(上流階級)>を習得済みのため打ち消されました)

マックス君「社交界デビューで皇帝経験者(大公)とエンカウントするから魔導院では気を抜けないぜよ」
 


13/n 年の瀬の諸々-6(銀髪銀眼の元中天派教授(マルティン・ウェルナー・)にして吸血種大公閣下(フォン・エールストライヒ)

 

 社交界デビューの晩餐会にていきなり皇帝経験者とお会いすることになろうとはね……。

 

 しかも隠居しているお方でもなくて現役バリバリの公爵家当主でもあるお方に。

 私が緊張するのも仕方ないだろう。

 まあ招待者名簿でお名前は見つけていたから、ここで会うのはあり得ないわけじゃないと少しは心構えもしていたが(まさか本当にいらっしゃっているとは)、それでも心臓に悪い。

 

 吸血種の一族であるエールストライヒ公爵家出身の皇帝は、陽導神の裁き(たいようのひかり)にその身を晒して不死を返上しない限りは存命である。

 そのため500年を超えるライン三重帝国の歴史の中で排出された皇帝経験者の方々には現在も社交界で活動している方もそこそこ多い。

 もしかすると他の大公らにもふとした拍子に知己を得る機会があるかもしれないから、今後も社交界に関わるなら覚悟が必要だろう。

 

 ああもちろん、吸血種の大公の方々は、積極的に政治に関わったりはしない。

 別の役職── 例えば三皇統家の当主── にでも就いていない限りはほぼ自ら進んで隠居状態だ。せいぜい好みの分野の振興のためにパトロンになったりというくらいか。

 皇帝経験者が口をそろえて『玉座は拷問椅子』と宣うように、ライン三重帝国の政治のトップの座に1期15年を場合によっては複数回勤めておいて、それでもまだ政治に関わろうという者は居ない。『もう政治なんてこりごりだよ~』というわけだ。なお次期皇帝の適任者が居なければフツーに担ぎ出される模様。

 帝国は極度の成果実力主義の国家であるからね、他に適任が居ないなら仕方ないね!

 

 

 まあ至尊の座についての悲哀は置いておいて。

 

 いまはこの機会にしっかりとコネクションを結んでおくのが重要であろう。

 特に今回は師匠であるノヴァ教授の伝手でもあるため、師匠の顔を潰さないようにしっかりとせねば。

 ……それに主要穀物の改良品種の件や、トンネル掘削用使い魔の穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)のアピールもせねばな!

 

 ちなみにデビューのために着飾った今の私の格好だが特筆すべきことはない無難な服装だし── 強いて言うならシュッとしてる感じだ── 失礼は無いはず。

 師であるノヴァ教授の仲介に、相手方のマルティン・ウェルナー・フォン・エールストライヒ大公教授からの返しもあったため、直答を許していただき、魔導師式の立礼の姿勢を崩さず、口上を述べる。

 師匠らは気安い仲だからわりとフランクにやり取りしていたが、それは当然初対面の私には適用されないのだから、丁寧にやらねばね。

 

「我が師よりご紹介に与りました、落日派ベヒトルスハイム閥にてディーター・フォン・ノヴァ教授の配下で聴講生として魔導を学んでおります、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します。本日は拝謁の栄誉に与り恐悦です、マルティン先生」

 

「うむ。特に差し許す。まあこの場には大公でも公爵家当主でもなく(いち)教授として参加している。そう固くならず肩の力を抜き給え」

 

「はい、いいえ。至尊の座にかつて在りし御方を前に礼を欠くとなれば家門の恥」

 

「よい」

 

「は」

 

 ……いやね、一回は固辞するのが礼儀なのだよ。

 貴族の社交って面倒だよね?

 でもこれはお互いにそのプロトコルが分かっているか、つまり、話すに値する格を持っているかどうかを確認し合うための儀式なんだから仕方ない。

 

 格付けチェックに失敗したら?

 まあ、その程度のヤツとして扱われるだけだよ。

 

 ちなみに複雑怪奇な宮廷語もその一環であり、一説には外国のスパイを炙り出すために無駄に発音を難しくしているのだとか。

 薩摩言葉かよ。

 

「もともとは南で試したという超極早生の小麦の品種の件を聞き及んでいてね。是非とも話を聞きたいと思っていたのだ」

 

「その件でございましたか。試算通り、初夏に小麦を刈り取った収穫後の畑にて種撒きをしたものが、秋の中頃にまた収穫できたと現場からは伺っています。ぎりぎり従来品種の種撒きに間に合う頃だったと」

 

 超極早生小麦の実証試験については、農業ギルドの伝手を辿って南方の農家で試してもらったものだ。

 その結果として色々と問題点も明らかになりつつあるのだが……。

 地力の回復の問題はもちろん、単純に労力の問題もある── 現場の一部からは『1年間休む暇もない!』と大不評だ── し、また、使用水量の加算増大による水利権の問題に、収穫後の麦を乾かして貯蔵する設備の問題もあるのだ。その他にも色々と。

 

 つまり、肥料と、農業機械と農薬と、水利土木と、貯蔵設備に殺鼠剤と、余剰生産の加工設備と流通の問題だ。

 どれもある程度解決の道筋は見えているが── こういうときに虚空の箱庭のエミュレータで仮想的に社会実験して先んじて問題を潰しておけるのは私の強みだ(長命種(メトシェラ)も似たようなことが出来るが)──、実際に取り組んで行きわたらせるためにはそれこそ国家レベルの体制が必要だ。

 

「うむ。穀物の収量増加はこの帝国にとっても非常に重要であるからな。それにディーター君に聞くところ、マックス君は他にも色々と使()()()()()を抱えているそうじゃないか」

 

「は。非才の身なりに研鑽させていただいておりますれば」

 

「北海航路の解放然り、非常に私好みの成果を君は既に出してくれている。それに私的な研究会のテーマも興味深い。提出されている論文も読ませてもらったが、新機軸のものが多く、私も非常に刺激を受けた! このような若人が育っているのは、魔導院ひいては帝国の財産であるとも!」

 

 なんかめっちゃこわいくらいにひょうかされてる。

 

 でも悪い気はしない。

 これがただの政治家による評価であれば、だから何? (おだ)てて厄介ごと押し付ける気ですか? ってなもんだが、この人はただの政治家ではない。

 政治的な問題を魔導院に持ち込まないために、自らの閥こそ率いていないが、押しも押されぬ魔導院の教授であり、特に使い魔を始めとする生命と魔導の親和に関する分野においての知見が深く、尊敬に値する。

 

 例えば完全に品種として確立された魔法生物である三頭猟犬(ドライヘットヤークトフント)を普及させ、都市警邏のレベルを何段階も引き上げたのはマルティン先生の功績だという。

 他にも私が以前アグリッピナ氏の蔵書から借りて読ませてもらったマルティン先生の論文集、それに記されていた無脊椎動物系の使い魔化に関する覚書は、穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)の研究に色濃く反映されている。

 都市の地下で下水や汚泥の処理をする巨大スライムである “汚濁の主宰者” の開発に当たっても重要な助言をしたとかいう逸話もある。

 なんなら第二の師匠と崇めても良いくらい影響を受けているし、実は心の中ではそれなりに前からこっそり “マルティン先生” 呼びだったりする。わざわざそんな内心の動きを口にはしないが。

 

 

「君ももう粗方のあいさつ回りは終わっただろう? ぜひ場所を変えてもっと詳しい話をしようじゃないか!」

 

「は。誠に幸甚です。ご一緒させていただければと存じます」

 

「うむ、では早速。すでに配下の者に別室は確保させているからな。ディーター君はどうするかね?」

 

「誠に残念ながら農業同業者組合の方にこの後誘われておりまして、顔を出さないわけにもいかず」

 

「そうか、ディーター君も大変だな」

 

「……あの、もし宜しければ、私の妹も誘わせていただければと思いますが、いかがでしょうか」

 

 電磁気分野の関係などについては、ターニャが居た方が心強いのだが。

 あれもこれからの魔導の発展と、地下(じげ)への普及のためには必要な研究分野だと私は確信している。

 ……まあ、私の内の魂の欠片の一つが西暦世界の電気万能の時代を知っているというアドバンテージを得ているからという理由ももちろんあるが。

 

「確か君には半妖精の妹御がいたのだったか」

 

「はい」

 

「うーむ。まあ止しておいた方が無難であろうな。妖精は生理的に吸血種を嫌うものであるがゆえ」

 

 そういえば、陽導神を騙して “不死” を掠め取ったが故に陽の光から呪われたという縁起(はじまり)を持つライン三重帝国の吸血種*1は、自然概念の化身である妖精とは相容れないという話があったか。

 “自然の有り様から神の手により歪められ温血の血を吸わねば生きられぬと定められたなど、悍ましいにもほどがある” みたいな感じだろうか。

 歪められた摂理の体現であるが故に、妖精たちは “なんかきもちわるい” という印象を吸血種に対して持つという。

 例外的に、それを超える愛着を生前から── 吸血種は血を吸い血を与えることで自らの力を分けて定命を転化させて殖えることが能う── 持っていたりすると、生理的な嫌悪を超えて寵愛を与えることもあるそうだが。

 

「それにああまで楽し気に、そして美事(みごと)に踊っているのに水を差すのも気が引ける」

 

 マルティン先生が優雅に手を差し向けた先には、可憐に踊る極光の半妖精が居た。我が戸籍上の妹にして実態としては娘に近い女の子……ターニャだ。

 大人びた長手袋をして、大きく背の開いたドレスを着て、その背から蝶のごとき極光の翅を生やし、どこで見つけて来たのか金髪碧眼の貴種の子らを男女問わずとっかえひっかえしつつ踊り続ける様子は、とても楽しそうだ。

 この日のためにと用意されたローブはどこに、と見れば取り巻きにしたらしきどこぞの家中の金髪の子に持たせているのが見えた。

 まあ、光波と電子を司る妖精が本性であるターニャからしてみれば、権能で脳内の電荷の動きから思考をちょっと読んでやってタイミングよく望む言葉をかけて淡い好意を抱くように誘導することくらいは軽いものだろう。

 

 社交界デビューで軽くハーレムじみたものを形成するのはちょっとどうなのと思わなくもないが……。

 ほんま何しとるん?? という目で見たら、<思念通話> で『所詮一夜限りの踊り相手ですわ。私が愛しているのはおかあさまだけですからご安心を』という念話がウィンク付きで飛んできた。はいはい。いや心配してるのは(そこ)じゃなくて体裁と風聞の方だよ。……ま、楽しんでいるなら何よりだ。

 

「ああ、お恥ずかしい限りで……。ですが確かにおっしゃるとおり、あれを邪魔するのは気が引けますね」

 

「であろう?」

 

 ターニャの本能に忠実なはっちゃけた様子を見て、こちらも肩の力が抜けた。

 それに会話のための小部屋に下がれば、余人の目も減るし、密かに尊敬する教授と存分に意見交換ができると思えばむしろ昂揚する。

 いろいろとご意見を伺いたいことはたくさんあるのだ。

 

 

 

§

 

 

 

 結局小部屋に下がった後、私とマルティン先生のあいだでは話題が尽きることがなく……。

 半日が過ぎ、1日が過ぎ、3日が過ぎ、1週間が過ぎ……。気づけばいつの間にやら年が明け、新年の巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の凱旋パレードの日は目前に迫っていた。

 

 いやほら、私は魔法チートの術式で、マルティン先生は吸血種の種族特性で、どちらも食事も排泄も睡眠も要らないからさ、つい興が乗って……。

 

 

 おかげでいまだに直径が人の背丈ほどにも至らない穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)の活用法として、複数匹を並べて川幅河底を拡張して運河として整備するのに使うことや、往来可能な地下道まで行かずとも地下水路や下水路としては既に十分な径の大きさがあることから、帝都近隣村落の上下水道の普及に活用の道があるのではないかというアイディアもいただけたし。

 大きさが足りねば数で補う。それは王道ではあったが盲点だった。

 数を揃えれば現状の多少物足りない大きさのものでも使い道はあるということだな。

 

 むしろ運用しながら育てていく形にすれば、最終的には超巨大なサイズにできるだろうということだった。

 そうすれば本来企図していた馬車や鉄道用のトンネルも作れるだろうとのこと。

 小さいものは小さいなりに、そして大きいものは大きいなりに使い道があるということか。

 うむ、勉強になった。

 

 他にも私からは “汚濁の主宰者” に有機リンの回収機能を付加したり、北海の海岸に海水からのカリ分などの金属成分その他を回収するための魔道具を備えた工場を作るのはどうか、というアイディアを話してみたりもした。

 これはもちろん、新品種の育成に必要になる化学肥料の原料を賄うためだ。

 帝国全土の肥料需要を満たすためには、従来の堆肥だけでは足りないからね。どうしても工業規模の生産量が必要となってくるはずだから。

 

 他にも写真術式が行政の効率化に寄与した件が褒められたりなど、いろいろと脱線したが、流石に年明けはまた別の外せない祝賀がお互いにあるということで、それでようやくお開きになったのだ。

 

 ……まあ実際、私には巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の凱旋パレードの準備に当たっての大役もあったしな。切り上げ時だったと言えよう。

 その御役目の概略だけ言うと、寒さ厳しい冬の帝都でわざわざパレードを行うにあたり、典礼局は私の馬鹿魔力を当てにしたということだ。

 

 

 

「……その準備もあるのでそろそろ写真撮影は切り上げていただきたいのですが、ライゼニッツ卿」

 

「せっかく騎士風に仕立てた装束がとっても似合っているのですよ!? ここで撮らずにいつ撮るというのです!」

 

「パレード本番で撮ってくださいよ……」

 

「それはそれ! これはこれ! です!!」

 

「そんなぁ……」

 

 屋敷の一つも建ちかねないくらいのコストを掛けた衣装を用意してもらっている手前文句も言いづらいんだよなあ……。

 まあ転移すれば間に合うくらいの時間には解放してくれるだろうから今暫くつきあってあげますか……。

 

*1
吸血種の起こり:その地で支配的な神群によって異なる形態の吸血種が在るという。地球でも “血を吸う魔性” には地域によって差があり、様々な種類があるように。




 
マルティン公に自ら利用価値をアピールして過労死ルートに突っ込むマックス君の巻。君は、無血帝世界線でも慈愛帝世界線でも体制側で使い倒される運命にあるのだ……(ユニットとして便利すぎるので)。

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◆小ネタ:エーリヒ君の苦悩
1.君も『もったいないおばけ教』に帰依しよう!
エーリヒ君「権能を立ち上げたら、いつの間にか信仰・奇跡カテゴリに『もったいないおばけ教』が追加(アンロック)されていた件について。この私が、すでに布教されていた……だと……? い、要らねえ~~~。あ、でもこの神が齎す奇跡を習得すれば熟練度の振り直しが出来るっぽい……? でもなぁ~~~……!」

2.エーリヒ君は冒険狂い
エーリヒ君「エリザの学費に、故郷への仕送り……ヨルムンガンド討伐褒賞金500ドラクマ(金貨五百枚)の使い道は幾らでもある。でも確かに、マックスが言ってた属性付与魔剣や防護付与額冠(サークレット)もあってもいいよなあ……うーん。とりあえずマックスに見積もりだけでも聞いてみるかなあ……。いやしかしどうにかこれを元手に利殖するという手も……うーんでも装備も……」
※500ドラクマは、豊かな農家100戸分の年収にあたり、一方で優秀な魔導院教授の年俸の1/3程度に相当する。

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次回以降は凱旋パレードや技巧品評会の予定です。

『面子は命より重い……!』な原作WEB版最新話も更新! そういえばWEB版でミカくんちゃんの使い魔のワタリガラス、フローキ君の名前が出たのは初めてですね。書籍版から逆輸入。
https://ncode.syosetu.com/n4811fg/222/
 

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