フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
頂いた感想を読んで『逆バニー』ってなんぞ? と調べる。→ 「へ、変態だー!!」となるなど。
さ、さすがに前衛的過ぎるかな、って。
あ、別件ですが、2話前の竜騎帝の襲名世代数を間違って
正しくは竜騎帝アウグスト
……8と4じゃ、倍違うやないか! 失礼しました。
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◆前話
エキシビジョンに引っ張りだこのマックス君「やることが……やることが多い……!!」
(なおその後、TSしてバニーガールコスになった。……ストレス溜まってた?)
聴講生たちには、新年の技巧品評会において、実技や展示のほかに、パフォーマンスを伴う研究発表の機会が与えられていた。
その研究発表系の場所として、舞踏会をやるようなホールの壁際に演壇が
ここで聴講生たちが発表するのだ。
会場ホールの前の方には審査員の机と席が置かれており、観衆用の席も置かれている。
後ろ半分は立食スペースになっており、酒や料理が幾つかのテーブルに配膳されている。
技巧品評会とは銘打っているものの、お偉方にとっては、新年の交流会とその余興を兼ねた行事である。
また、発表時間が限られることから、参加する聴講生らはいくらか選抜されている。
研究発表の概要を事前に技巧品評会の運営事務局に提出し、そこで事前審査を受けて合格した者に対してのみ、発表の機会が与えられるのだ。
聴衆である教授陣らには、無駄にしていい時間はないし、つまらない発表では余興にもならず、文字通りの興醒めだからだ。
ゆえに時間制限の厳しさというのは、発表中であっても容赦なく聴講生に襲い掛かる。
「──であるからしまして、ここより導かれる……」
壇上で論ずる聴講生の声を遮って、カーン、と鐘が一つ鳴る。
「……。以上で発表を終わります……」
発表途中だった壇上の聴講生が、意気消沈して発表を切り上げた。
先ほどの鐘は、強制終了の合図だったのだ。
審査員からの評価が悪いと、最後まで喋らせてもらえないシステムらしい。
逆に評価が良いと、最後まで喋らせてもらえて、鐘も壮麗にメロディチックに鳴らされるようだ。
それを知ったマックスは、前世の西暦世界における “のど自慢大会” みたいだなと思ったとか。
まあ必ずしも審査員の評価が絶対なわけではない。
審査員の数が限られることもあり、鐘一つだからといって本当にダメとは限らないのだ。
運が良ければ発表に興味を持った研究員などが別個に接触してくることもある。
……一応、発表の場までこぎつける時点で、提出された研究概要が一定以上は評価されているということなのだから。
こういうシステムなので、鐘一つが連続すれば後の発表予定時間も繰り上がることになる。
アヌーク・フォン・クライスト同期聴講生が、『時間が前倒しになった』とマックスのことを探していたのはそういう故があってのことだ。
ちなみに事前審査で選外にされた者たちも控室に待機しており、時間がどんどん前倒しにされれば、余った時間で発表時間が与えられることもある。
敗者復活のようなものだね。
というわけで舞台袖。
そろそろアヌーク同期聴講生の発表の番になるというので、メイン発表者のアヌークと、アシスタントの私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンは出番を待って待機している。
何とか無事、アヌーク同期聴講生の発表時間に間に合ったのだ。必要なものも、きちんと準備している。
鐘が絢爛に鳴らされる。
どうやら前の者の発表は盛況のうちに終わったようだ。
素晴らしい発表のあとに出ていくのは一長一短。
出来が良かった前の出番の者と比較に晒されるデメリットと、審査員席や聴衆が温まっているというメリット。
どちらが大きいととるかは、続く出番の発表者の自信のほどに左右されることだろう。
当然、私は後者だ。
聴衆と場の空気が温まっていることを奇貨と捉えた。
「いい具合に会場は盛り上がっている。さあ練習通りやってやろうじゃないか、アヌーク」
「そ、そそそ、そうだな、マックス!」
「いや緊張しすぎ。あと今は女性形だから “マクセ” とお呼びなさいな。
……あ、そうだ、君もバニー服着る?」
「なんでそうなる!?」
「いやほら、開放感でリラックス? 的な?」
「着るか!?」
「あら残念。でも調子戻ったみたいじゃん」
「ぬぐっ。ふん! 礼を言ってやらんこともない!」
そうこうやっている間に、前の発表者は逆の舞台袖の方へと
続いて私たちの出番だ。
進行補助役の聴講生(
そして最低限の礼儀として一礼した直後。
私は脇に抱えていた大きな紙の巻物を宙に放った。
「!」
急な動きに、観衆の目が惹き付けられる。
放たれたのは、縦幅が私の背丈ほどもある大きな巻物で、横幅は広げたところ壇上を右から左まで渡すくらいに長い。
大きな巻物は私たちの頭上あたりに滞空し、スクリーンのように観衆の視線に相対した。
「 <写真術式> 拡大モード」
アヌークが自らの杖を優雅に一振りすると、滞空する大巻物の表面に術式が作用した。
正面の観衆の映像を光学術式で誘導。同時にネガポジ反転。
必要な光以外を遮断し、一瞬だけ疑似的な暗幕を巻物表面に生成。
微かな光で感光するほどに防御力を下げられた巻物表面が炭化し、導かれた光をその身に写し取る。
計算された露光時間が経過し、それ以上反応が進まないように固定。
一連がパッケージ化された術式が走り、壇上で観衆に向かい合う私たちの背後に浮かぶ大巻物に、この会場のパノラマ写真が写し取られた。
「聴講生のアヌーク・フォン・クライストです。この度はこのように、一瞬で光を紙の表面に閉じ込めるこの画期的な術式── <写真術式> についての御紹介をさせていただければと思います」
このインパクト抜群の出だしであれば、鐘一つで中断されることはあるまい。
それは観衆の顔を見れば分かる。
誰もがあんぐりと口を開けて(あるいは開けた口を扇子で隠して)、私たちの背後の大パノラマ写真を見ている。
年貢徴収時期に既に複写術式として提供を受けていた教授陣も、術式を多少なりとも扱ったことがあるからこそ、その精緻にして見事なパノラマ写真の難易度の高さを知っているのだ。
大きな写真を歪みなく撮ろうとすることが、いかに難しく神経を使うことであるか!
「術式の要諦は、皆さまも目にしたことのある “日焼け” です。そうです、あの本をダメにするやつですね」
私は次のパフォーマンスに備えて、窓から一条の太陽光を術式で反射させて導く。
アヌークはさりげなくローブの袖から、水晶を削り出した三角柱── プリズム── を取り出すと、宙に掲げる。
私はそのプリズムめがけて、反射操作した陽光を投射した。
さらに空気中に靄を発生させて、プリズムによって分光された光の軌跡が見えるようにする。
── 壇上に虹が広がった。
「日焼けの原因は光ですが、その中でも特に、虹の紫の外側が原因です。紫の外、紫外線と仮に名付けましょうか。紫外線側の光は、どうも他の赤や黄色の光に比べて、貫通力が強いようなのです。これが紙の組織を破壊し、色を変化させます」
本当はその証明をすべきだが、それを説明すると時間が足りないので割愛。
質疑を受けたら実験情報を開示すれば良いだろう。
「一方で、色づいて見える箇所はそこまで強力な作用を持っていません。この写真術式の肝は、紙の感応性を上げることで、一瞬の微かな光で、日焼けを起こすことにあるのです」
観衆が引き込まれている。
心を掴んだ実感がある!
その後もアヌークは、
「このまま感光させると明るいところほど黒く焼けるため──」
ネガポジ反転の必要性を、反転前と反転後を実際に示してやったり、
「十分精度高い写真によって、書類の複写も思いのままに──」
複写への利用と称して、一瞬で書籍のページを転写して見せたり、
「魔法陣を光を使って描く術式を応用することで羽ペンを用いずとも自在に書類を作成でき──」
ワープロ代わりの使い方を実践してみたり、
「ご覧ください。こちらが遠見の術式で私が見ている控室の様子です。このように術者の視界を投影し──」
応用として遠見の術式で自分が視たものを投影し、それを紙面に固定化してみせたり、
「魔法を使えない者に使わせるために一連の魔法を込めた魔道具を作りました。紙さえセットすれば数十年は使え──」
一連の魔法を魔導具化した試作品を披露したりと、観衆の興味を引き続けた。
特に軍事利用にも事務利用にも民生利用にも幾らでも応用が利くし、悪用方法も山と思いつくことから、質疑時間中は観衆もざわざわとお互いに議論を交わしていた。
その議論の中から出てくる鋭い質疑応答にも、事前にミカも含めて研究会のメンツで想定問答を練ってきたおかげもあり、アヌークは如才なく答えることができた。
そして最後には希望者を壇上に挙げて記念写真を撮ってお終いだ。
私も壇上に上がった希望者数の分だけ写真を複写してやった甲斐もあり、アヌーク同期聴講生の発表は十分成功裡に終わったと言えるだろう。
それを祝福するように鐘が壮麗に連なって鳴り響いた!
というわけで舞台袖に掃ける時間ももったいないので、続いて直ぐに私の出番だ。
<
パチンと
代わりに私は性別を戻してローブ姿に早着替え。
アヌークは一瞬、状況を理解しかねる呆けた顔をしたが、すぐに自分の格好に気づいて顔を赤く染めた。
そして身体を腕で隠して逃走を図ろうとした。
ははは、逃がさんよ? 私はアヌークを逃がさないように素早く隣に移動する。
「な、な、なぜこんな格好に!?」
「アシスタントをやってもらう約束じゃんね」
「普通にローブ姿で良いだろう?!」
「いやいや、似合ってるって。それにさ、私はやったんだからさあ。……ね?」
粘度の高い声音でもって、アヌーク同期聴講生の耳元で囁く。
こっちだってやったんだから、君も当然やるよなぁ??
実際そこそこ観衆の受けもよかったしな、さっきアヌーク同期聴講生のアシスタントをしてても。
ほら今も、物見高い観衆が興味を持ってくれているようだよ?
審査員たる教授陣にとっても、人間心理上、女の子のアシスタントがついていた方が、男だけよりは好印象なのは確かなのだし。かわいい女の子は全人類に特攻があるから。
「じゃあ次は私の発表だ。段取りどおり頼むよ?」
「うぅ~、わ、わかった……」
もじもじするとそれはそれで需要があると思うから、堂々とした方が良いと思うけどなあ。
ま、ともかく、次は私の発表だ。
ちょうどアヌークの発表で光の分光についても触れてくれたし、紫外線よりも短い波長のエックス線を使った二重螺旋の画像の解説にも繋げやすくなった。
この日のために幾つも見栄えのするプレパラートも作成してきているし、死角はない。
「ではお立合いの皆さん。これからはこの私、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンが、ミクロの世界をご案内いたします!」
──── 最も身近にある未知ともいえる、微視的な構造の数々を、ご覧ください!
池の水の微生物、鉱物結晶の拡大、花粉や胞子、血液中の細胞、蝶の鱗粉、羽毛の構造、そしてとれたてほやほやの雪の結晶。
細胞の中の染色体に、それを構成する二重螺旋。あるいは肉体の蛋白質の構造。
珠玉のプレパラートを、拡大し、空間投影して一挙公開だ!
──── そして私もアヌーク同期聴講生と同じく、満点の鐘の音に祝福されながら発表を終えることが出来た。
うむ、十分に名を売れたと判断していいだろう!
アヌーク同期聴講生もアシスタントお疲れ様!!
◆質疑応答の例
・アヌーク・フォン・クライスト同期聴講生の場合
Q.飛行可能な使い魔の視界を借りれば簡単に航空地図が作れるのでは?
A.そうですね、作れます。
Q.作りましたか?
A.国法に触れるので帝国国内のものは作っていません(=外国のものは作った)。
・マックス・フォン・ミュンヒハウゼンの場合
Q.途中で二重螺旋構造、遺伝に関する話がありましたが、これは飛竜などを含むすべての生物に適応されるのですか。
A.恐らくはそうだと思われます。魔導や神の奇跡による変性との関係は今後の検討課題ですが。
Q.改良品種の野菜などを別ブースで出店していたようだが、そちらにもこのミクロの知見は活用されているのか?
A.そのとおりです。二重螺旋の直接的な操作は、今後の生命操作における重要なアプローチの一つだと考えています(=
◆技巧品評会における評価科目ごとの特色(独自設定)
・攻撃系:一番盛り上がるので、盛り上げノウハウが蓄積されている。他の科目に比べても最もイベントらしい様相を呈する。司会進行もこなれている。
・抗魔導系:魔導嫌いの極夜派の影響が強いため、参加者に対する講評が辛辣なことで有名。絵面は地味めだが解説はガチなので玄人好み。
・生産系:学生の文化祭レベル~企業の技術展レベルまで出展者のレベルはピンキリ。商会の意を受けたスカウトマンも多く来訪。わちゃっとしている。ゴーレム相撲みたいなイベントもあり。
・研究発表系:学会。それかTED Conferenceみたいな感じ。プラスしてのど自慢大会の途中評価の鐘のシステム。最後まで発表できても質疑応答タイム「この分野は素人なのですが……」が待っている。
◆ライン三重帝国とセーヌ王国の領土について(考察)
雑にライン三重帝国=ドイツ、セーヌ王国=フランスあたりの領土を持ってる国家だって理解してましたが、時代設定が中世前期モチーフなら、ライン三重帝国=東フランク王国(メルセン条約後の領土)中心で、セーヌ王国=西フランク王国(メルセン条約後の領土)中心と見るのが妥当なのかもですね。(ただ「帝国には大きな不凍港の外洋港」がない、というあたりからすると、ライン川河口のロッテルダム辺りは独立しちゃってるか、小氷期のタイミングがズレててそのあたりまで冬は海が凍るかのどちらかでしょうか。それかドラゴンや海生モンスターが居座ってるか、いや、ライン川だと
すると、WEB版のマルスハイム動乱編は、元中部フランク王国あたりの地域の土豪連中の反乱(再独立運動)、ということになるのかしら……。
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今回で技巧品評会は終わりです。技巧品評会、書籍版5巻で詳しく掘り下げられてて全然違ったらどうしよう、と思いつつ書いてました。
次はマックス君に前衛系のオリキャラ従者を付ける話を入れて、その後にツェツィーリア嬢のお家騒動編ですね。