フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆性転換術式の知名度について(独自設定)
性転換術式については、精度・強度はピンキリなれど昔から存在する模様。性同一性障害の一時治療に用いる医療用から、宴会の余興用や、パートナーが性別転換する種族だったのでそれに合わせて逆位相に転換するため、まで用途はいろいろ。いずれにせよ不自然すぎる作用なので長続きはしないのと、押し並べて難易度が高いことからそこまでメジャーではない。噂によるとTS魔法薬服用前提の舞踏会の記録があるとかないとか。え、どっかの死霊がそれを復活させようとしてる? ありえるー。

◆技巧品評会における魔導師の専攻の秘匿について(独自解釈)
切り札は見せないのでセーフ。あとは、所詮は聴講生レベルの研究なので衆目に晒してもそこまで致命的ではないだろうというのが関係者の共通認識。卒論と博論がガラッと違うのは珍しくないし。なおマックス君は魂の1/3が西暦世界のオープンアクセスに馴染んでいたせいで秘匿性に隙があるらしく、ノヴァ教授はその矯正に頭を悩ませている。

===

◆前話
マックス「おーい、ミカ君ー、そろそろ降ろしておくれよー。もうしないよー、セクハラは反省してるよー。おーい」
(↑ 『私は嫌がる同期に無理やり公衆の面前で露出の激しい衣装を着せた下衆です』と書かれた立て札を前に、造成魔術で作られた高い柱から逆さ吊りにされている)
(↑↑ なお普通に抜け出せるが反省の意を表して刑に服している)

ミカ君「まったく、公衆の面前で同期を剥くとか、何考えてるんだか!」(プンプン)
アヌーク同期聴講生「ま、まあその辺で……。実際、私の発表が上手くいったのはマックスの手腕も大きいのだし……。反省してるみたいだし……。視線に慣れればそう悪くも……
ミカ君「そーいう恩をかさに着たやりくちも良くないと思うなあ、僕は! ……あと、ここできちっと(シメ)とかないと次は僕が()かれかねない(真顔)」
アヌーク同期聴講生「あー……(納得)」
 


再編成 編
16/n カニ・スタンピード-1(美しいものを見た)


 

 

 

 ── 北辺の港町で、私は美しいものを見た。

 

 

 一つの死闘の終わり。

 そして二つの生命の終わり。

 お互いに生命力を振り絞った末の、決着。

 すなわち相討ち。

 

 流れる青い血が互いに混ざり合って流氷と岩浜を染め、砕け、ひしゃげ、千切れた肢体が肉の華を咲かせている。

 

 消え逝く命の、その儚い美しさよ。

 

 

 

 魔導院は落日派からの調査依頼で訪れた北辺の港町。

 そこで私は見たのだ。

 神話に語られる陽導神と夜陰神になる前の二柱のように相討ち、しかし神話とは違いそのまま息絶えんとする二つの存在を。

 

 無数の蟹の魔物の屍の上で相討った、ひときわ巨大で強大な蟹の魔物の女王と、巨鬼(オーガ)の雌性体の戦士の姿を。

 

 

 

 ──── その美しい光景を見て私は……────。

 

 

 

§

 

 

 

 北海新航路解放記念パレードや、魔導院の技巧品評会で名を売った甲斐もあり、社交界デビューを済ませたばかりにしては多くの夜会その他に招待されるようになったのは、大きな進歩といって良いだろう。

 私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンは、ちょっとした時の人となり、おかげであちらこちらに縁を広げることが出来ている。

 同時にノヴァ教授が受け持っていた対外折衝の一部に私も付いていくことが出来るようになり、農業同業者組合その他にも人脈を築かせてもらっている。

 

 あ、ちなみにアヌーク・フォン・クライスト同期聴講生は、技巧品評会の発表が好評だったこともあって、無事にスカウトされて学閥の所属になったよ。

 所属学閥は “中天派” のとある閥。

 他閥からは節操なしの蝙蝠とも揶揄される魔導院のバランサーたる派閥だ。

 マルティン先生(エールストライヒ大公)のかつての所属学派でもあったけど、アヌーク同期聴講生が所属したのはマルティン先生の縁ある閥とは別の学閥だね。というか、マルティン先生は自分が政治的な爆弾だからと遠慮なさって自閥は率いてないし。……後押しというか口添えはあったらしいけどね。

 

 それに “ライン三重帝国物流ネットワーク研究会” も、落日派の私と、黎明派のミカ君と、中天派のアヌーク同期聴講生で、ちょうどいい感じにバランスがとれたんじゃないかな。

 中天派が入っていれば、たとえ確執がある派閥同士の構成員でも同じ研究会に居ても良いという風潮、あると思います。

 

 

 

 でまあ、冬の間の社交シーズン中に色々と夜会だの茶会だのにお呼ばれしたわけだけど、その時に私に適当な従者が居ないのが若干問題になった。

 まあ、妹のターニャはまだ貴族籍に復帰していないから、当面はターニャを従者枠で連れていれば体面は持つ。……外聞は良くない気がするが。

 そしてターニャが貴族籍に復籍した後なら、従者として専用のホムンクルスでも調製すれば良いと思っている。

 

 ただ実際、ちょうどよく従者に出来そうな者が居るなら、雇うに越したことはないんだよなあ。

 ホムンクルスだと、この魔法チートボディの郷里の呪医ねえさんの所に残してきた特製のやつみたいに分割思考の一部を割かない限りは、高度に臨機応変で自然な行動ができないだろうからね。たかが従者に分割思考を割り当てたりなんかしたくはないし。

 ……でも分割思考を割かずに下手(ヘタ)打ってホムンクルス(給料不要の人員)だとバレると、従者も雇えない吝嗇家(ドケチ)だと侮られるらしいから難しい。

 

 いっそカリッカリにチューンナップしたホムンクルスなら、高級家具的な扱いで侮られることもないんだろうけど、そうなると素体から厳選したいしなあ。

 そこら辺の悪党を素体にして造り変えたようなホムンクルスだと、どうしても限界があるからね。

 こう、肉体的な性能だったり、魂の格だったり、オツムの出来だったりで。

 

 それにどうせ従者を雇うなり作るなりするなら、ついでだから前衛任せられるような人材が良いなあ。

 それもエーリヒ君(神域剣士)と打ち合えるレベルの。

 

 いやね、高望みなのは重々承知だよ?

 でもどうしてもアグリッピナ氏のところで丁稚やってるエーリヒ君を見てると、従者に求めるレベルが上がっちゃってさぁ。

 そんなエーリヒ君と互角以上に前衛を張れるような戦士なんてそうは居ないのは分かってるんだけどねえ。

 

 しかし一方で、頼れる前衛が居ると色んな局面で安定感が増すのも確かだし……。

 ま、こればっかりは巡り合わせだからね。

 一応我が神である “もったいないおばけ” に祈っておこうか、良縁がありますようにって。

 

 

 手の中で “循環する複数の矢印の意匠” をした聖印を握り、おまじない程度のつもりで祈っておく。

 ……といっても我が神(もったいないおばけ)は、そういう出会いを司る権能は持ってないはずだから、祈られたって困るだろうけどね。

 せいぜい、リサイクルしがいのある廃品と出会いやすくなるくらいか。

 

 

 

 さて。従者については、いい出会いに期待ということで。

 

 

 あと社交の他には、冬の間に、エーリヒ君と相談して色々とアイディア出しながら、魔法チートの権能の性能試験がてらいろいろと冒険に役立ちそうな魔導具だとか、魔剣や魔法のサークレットを制作してみたりしていたよ。

 ほら、冬は内職の季節だし? 色々と試しながら作っていたから、大半は習作みたいなもんだけどさ。

 

 例えば年末の模擬戦の反省会で言っていた、属性剣とか呪詛剣とかも作ってみたり。

 あとは柄に仕込んだ毒薬なり聖水なりの液体が剣身に吸い上げられて滴る、村雨もどきな剣とかも。

 防護のサークレットは、視界を遮らない無色透明の障壁をヘルメット代わりにしつつ、大気解毒や酸素生成の術式や、暗視や聴覚強化の術式なんかも組み込んでみたし。

 他にも水が湧いてくる水差しとか、持ち運び型のコンロ型魔道具だとか、電子レンジじみた調理匣だとか。

 出来が良いのはエーリヒ君に売ってやっても良かったが、エリザちゃんの学費のために節約するとか利殖するとかで、財布の紐は固かった。残念。

 

 

 

 

 ともあれ、社交シーズンたる冬も終わりに近づいたある日のこと。

 徐々に春の足音が近づき、寒さが緩んできたように思える時期だ。

 ……まあ寒さが緩んだ気がするだけで、実際はまだまだ寒いのだが。

 

 

 

 そんな初春というにはまだ早い程度の時期に、私はターニャの師匠でもあるバンドゥード卿から直々に呼び出されていた。

 いつもどおりに素敵な仮面を召してらっしゃる。

 

大暴走(スタンピード)? ……ですか?」

 

「そうです、マックス君。大暴走(スタンピード)です。心が躍りますね」

 

「はい、ええ、まあ。確かバンドゥード卿は魔宮関連に造詣が深いとは伺っていますし、稀なことではありますから私も非常に気になるのは同じですが。

 ……しかしそれ以上にマズい事態なのでは?」

 

「そのとおりです。本来なら」

 

 大暴走(スタンピード)

 何らかの悪条件が重なって発生する魔物の大発生のことだ。

 

 バンドゥード卿は何らかの伝手で、いまだ雪が解け切らず交通が遮断されがちな冬であっても、その大暴走(スタンピード)の情報を仕入れて来たらしい。

 実際、妹のターニャや師匠のノヴァ教授から、ちらりとバンドゥード卿の得意分野は聞いたことがあるから、そのような伝手を持っていても不思議ではないと思った。

 魔宮。ダンジョン。それがバンドゥード卿の得意分野だ。

 おそらくは真の専攻は、魔宮を利用した(あるいは踏み台にした)()()なのだろうけれど。

 

「“本来なら” ということは、バンドゥード卿がおっしゃるその大暴走(スタンピード)は、恐れるようなものではない、と?」

 

「ええ、そうです。端的に言いましょう。

 大暴走(スタンピード)を起こしたのは、()()()()()です」

 

「ははあ、なるほど。であれば生息圏は重なりませんし、溢れた魔物が陸に押し寄せることもない、と」

 

「いえ、押し寄せてはいるのですよ」

 

「そうなのですか? 海岸一面に鮫でも流れ着きましたか? それとも竜巻で巻き上げられた鮫が降ってきたりしましたか?」

 

「なぜ鮫を推すのです? いえ、それはともかく。今回の大暴走(スタンピード)の主役は、蟹の魔物だそうですよ」

 

(カニ)

 

「ええ。蟹ですよマックス君」

 

「確かにそれなら陸も歩けますね」

 

「それに蟹は種類によってはひどく群れますからね」

 

「確かに脅威です」

 

「いまはまだその脅威に曝されているのは北辺の小さな港町一つに過ぎませんが、春になり海氷が解けるとそうもいかなくなるでしょう」

 

(たし)カニ」

 

「……ツッコミ待ちでしょうか?」

 

「何がでしょうか、バンドゥード卿」

 

「いえ、何でもありませんよ、マックス君」

 

 というわけで、バンドゥード卿の情報網によると、北方の港町が、流氷を割って現れる蟹の魔物に襲われているらしい。

 カニだー! ってわけね。

 

「まあというわけで、その発生源と目される魔宮に行きたいのですよ。

 軍や他閥に先行して大暴走(スタンピード)中の魔宮を調査できる機会など、そう何度もあるわけではありませんからね」

 

「分かります。おっしゃるとおり希少な機会かと」

 

 だとすると、私が呼び出されたのは……。

 

「お察しの通り、マックス君には、先遣として現地調査と、溢れている魔物の露払いをお願いしたいのです。

 海中の魔宮といっても、正確な場所も分からず、蟹の魔物の大群を割いて向かうのは骨ですからね」

 

「ええ。その程度でしたらお安い御用です。バンドゥード卿には、いつもターニャがお世話になっていますからね」

 

「君の師匠のノヴァ教授には私から話を通していますから、その点は御心配なく。報酬も弾みますよ」

 

「期待しておきます」

 

「ターニャ君からは、君は最近魔剣造りに凝っていると伺っていますから、禁書庫の螺旋剣(シュピラーレ・ケルパー)の観覧申請を出しておいてあげましょう」

 

「おお、それは助かります!」

 

 特級の魔剣である螺旋剣(シュピラーレ・ケルパー)

 気になっていたんだよなあ!

 実物を見れるのは非常にありがたい。

 

「では早速向かおうと思いますが、場所はどのあたりなのですか?」

 

「それは、こちらをご覧ください」

 

 バンドゥード卿は、<写真術式>と魔法陣を光で描く技法を組み合わせて、懐から取り出した紙に帝国北辺と思われる地図を映写し、固着させた。

 すっかり使いこなしているあたり、流石の魔導の腕だ。

 

「あれ、ここは……」

 

「ああ分かりましたか? マックス君が巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)を討伐した辺りに割と近いのですよ。

 恐らくは発生源である問題の魔宮は、かつての巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)のテリトリーの中にあるのではないでしょうか」

 

「ふーむ。ひょっとすると……」

 

「マックス君。何か気づいたことが?」

 

「もしかすると、ですが。巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の主食って、その蟹の魔物だったのではないでしょうか、バンドゥード卿」

 

「なるほど。魔宮自体はずっと昔からあって蟹を産んでいたけれど、今になって大暴走(スタンピード)を起こしたのは、それを食べていた巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)という捕食者が居なくなって、増殖数が被食数を上回ったから、という可能性ですか」

 

「あるいは巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)が居なくなったことで、アレが魔素を吸い上げていた魔素溜まりが肥大化して新たな魔宮が生まれただけかもしれませんが」

 

「いずれの場合でも、この大暴走(スタンピード)の親玉が成長すれば、討伐前の巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の立ち位置に納まる可能性もありますね」

 

「ありえますねえ」

 

 ふむ。あまり名声に興味があるわけではないが、また北海航路に蓋をされるのも業腹だ。

 これもまた合縁奇縁というものだろう。

 では、バンドゥード卿の依頼を受けて、魔宮の位置の確定のための現地調査と、そこまでの露払いをするとしよう。

 

「急いだほうが良さそうですね。それでは早速転移し、調査と露払い、果たして参ります」

 

「ええ、よろしく頼みますね。マックス君」

 

 

 

§

 

 

 

 そして転移した先で、私は美しいものを見た。

 

 

 一つの死闘の終わり。

 そして二つの生命の終わり。

 お互いに生命力を振り絞った末の、決着。

 すなわち相討ち。

 

 流れる青い血が互いに混ざり合って流氷と岩浜を染め、砕け、ひしゃげ、千切れた肢体が肉の華を咲かせている。

 

 無数の蟹の魔物の屍の上で相討った、ひときわ巨大で強大な蟹の魔物の女王と、巨鬼(オーガ)の雌性体の戦士の姿を、私は見た。

 消え逝く命の、その儚い美しさを。

 

 

 

 

 おそらく経緯はこうだろう。

 

 流氷を割って現れた無数の、人の腰までの体高がある大きな蟹の魔物。

 その脚や甲羅は、海中の浮力を当てにした華奢なものではなく、明らかに陸上を志向した強靭なもの。

 海の中が飽和したため、陸に勢力圏を広げんと、陸上適応して満を持して上陸したのだ。

 一応泳ぐためにか、一番後ろの脚はオールのようなヒレになっている。

 残りの脚は上陸後に前後左右に自在に動くために、強靭で柔軟な関節を備えている。

 

 そして横歩きではなく、柔軟な関節を生かして、まっすぐに進む大蟹の大群。

 

 行く先には不幸にも、帝国北辺の小さな港町があった。

 

 

 だが不幸中の幸いにして。

 そこには流浪の巨鬼の戦士が、雪に足止めされて逗留していたのだ。

 しかも一騎当千のつわものが。

 

 なけなしの貯えを以てその港町は、巨鬼の戦士に依頼したのだろう。

 “どうか街を守ってください、戦士様” と。

 

 流氷の割れ目は細く、出てきた蟹どもはまだ広範囲には広がりきっていない。

 この状況なら、蟹どもを駆逐するのはそう難しくはなさそうだ。

 

 とはいえ雑魚を幾ら潰しても武功にはならぬ。

 いくら大蟹の鉗脚(ハサミ)が強靭でも、大鬼の生体金属の皮膚を破れはしないし、ましてや骨や腱を切るなど不可能だ。

 さりとてこのままでは冬の宿が蟹に(ついば)まれて無くなってしまう。

 仕方なしにか、あるいは別の理由でか、重い腰を上げた巨鬼の戦士の目に、そいつの姿が映ったのだ。

 

 

 

 そいつは── 巨鬼自身と同じ金属質の生体装甲を持った怪物は──、流氷を割って現れた。

 

 金属の甲殻を持つ、巨大蟹(ボスがに)だ。

 上陸したそいつの甲羅の高さは、ヒト種(メンシュ)の背丈よりも高い。

 巨鬼の戦士から見ても、己の胸の高さのあたりに、その巨大蟹の甲羅から突き出た目があるだろうというのが分かった。

 さらにその重厚な鉗脚(ハサミ)を振り上げれば、優に巨鬼の背丈を超えるであろう。

 

 しかも突然変異か、四対ある歩脚のうちの一対が鉗脚(ハサミ)になっており、都合二対四本の鉗脚(ハサミ)を持っている。

 歩脚の最後の一対は、オール状の泳脚になっているが、その大きさと鋭さは、まるで大鉞(おおまさかり)のようだ。

 

 しかも二対四本の鉗脚(ハサミ)の先端は、神秘的に蒼く、そして銀色に輝いている。

 

 神銀(ミスタリレ)

 

 まさかとは思ったが武器の目利きには自信のある巨鬼だ。

 その輝きを見間違えるわけもない。

 あれなるはいかなる金属も跳ね除ける不壊(ふえ)の金属! 神銀(ミスタリレ)である!

 

 

 動く大岩のような巨体に、金属混じりの天然生体装甲となった甲殻。

 後ろには大鉞のような一対の泳脚。

 大岩のような甲殻を支えるのは、槍の穂先のように鋭い爪を備えた二対四本の、丸太のような歩脚。

 そして、神銀の切っ先を備えた二対四本の重厚な鎚にして剣たる鉗脚(ハサミ)

 その鉗脚(ハサミ)の攻撃は、巨鬼(オーガ)の生体装甲すら容易く貫通するだろう。

 

 おそらくはあれが、この上陸部隊の蟹どもの統率個体か。

 己の武勇の糧にするべき強敵を認めた巨鬼の口角が上がり、牙をむき出しにして笑う。

 

 そして巨鬼は足元の大蟹を蹴散らしながら、二対神銀の巨大蟹へと突進し。

 二対神銀の巨大蟹は、その四つの大鉗脚(ハサミ)を開いて構え。

 

 

 激突。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 ──── 死闘の末に。

 

 

 巨鬼の下半身は唯一残った大鉗脚(ハサミ)によって潰されるように切断され。

 しかし、残った巨鬼の上半身は己の得物で二対神銀の巨大蟹の頭部を砕き。

 

 壮絶に。

 凄絶に。

 

 二対神銀の巨大蟹と、巨鬼の戦士は相討ったのだ。

 

 転移した私が目撃したのは、まさにその相討ちの瞬間。

 命の炎が激しく燃え上がり、そして消えるその刹那。

 

 

 ──── その美しい光景を見て私は……────。

 

 

 この両者がこのまま死して朽ちるのは “もったいない” と、そう思ってしまったのだ。

 




 
◆巨鬼の戦士
原作には登場していないオリキャラ。
エーリヒ君に “唾つけ” してるガルガンテュワ部族のローレン女史とは別部族だけど、部族会議で面識あるかも? くらい。
たぶん名乗り口上は雄叫びで代替する系の部族(寡黙系)。
下半身がダメになった。
(巨鬼のスケール感はオーバーラップ文庫さんのこちらのツイートの画像が分かりやすいですね。
 https://twitter.com/OVL_BUNKO/status/1284853256414351361/photo/2

◆二対神銀の巨大蟹
カニだーーー!!!
地上侵略タイプの尖兵たちの指揮個体。魔宮パワーで強化されている。
合金混じりの甲殻や腱は、実質巨鬼。
頭部がダメになった。


マックス君「これニコイチできるな……」
(↑普通に治せよ……)


次回、倫理観/Zero。だって落日派だもの。
下半身異形系女性キャラのエントリーは原作リスペクトですことよ!(原作書籍版5巻のワザマエな書影を見ながら)
 

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