フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆巨鬼(雌性体)の従者適性について
マックス君は前衛系従者が欲しかったみたいだけど巨鬼の戦士階級はそもそも従者付けられる側なんですよねえ……。巨鬼の矜持的にも従者みたいな下働きはしないでしょうから、護衛を主任務にして、夜会などには体面上必要だから着いてくだけって感じが妥協点でしょうか。実際、マックス君としても、体面を保つために見映えする人員が必要なだけですし、西暦世界の記憶もあるので本当に従者の仕事を誰かにさせたいわけでもないですし……。
姿については、カニアーマー式の方がコンパクトになるのでそちらにするか迷ったのですが、モビルアーマーとか重量四脚的なアトモスフィアの下半身蟹型の方がロマン成分(と肌色成分)が多くなると個人的に判断したので、下半身異形型を採用しました。え、閉所戦闘苦手そう? こいつが暴れた時点でそこは強制的に開放空間にされるから問題ないな、ヨシッ!

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◆前話
美しい ものを見たから その姿 永遠(とわ)に一つに 繋ぎ留めたい
 ──── マックス 心の短歌
 


16/n カニ・スタンピード-2(融合! 改造! 再誕せよ! 巨蟹鬼(クレープス・オーガ)!)

 

 巨鬼の戦士と、二対神銀の巨大蟹。

 両者は相討っており、もう今にも命の灯は消えようとしている。

 

 それも当然だろう。

 彼女らは死闘の果てに、満身創痍という言葉すら生温い、文字通りの死に体となっているのだから。

 

 巨鬼の戦士を見れば、得物の大剣は手放してはいないものの、腰……いや、腹から下を潰されて引き千切られてしまっている。

 唯一かろうじて千切れていない(ハラワタ)のみが、分断された上半身と下半身の間を繋いでおり、それが、巨大蟹の頭部神経節に突き立てた大剣を握ったまま支えにした上半身と、千切れて落ちた下半身の間の架け橋となっている。

 今も巨鬼特有の青い血がぼたぼたと流れ出して、その命を失わせている。

 落ちた下半身、大剣を支えにしてぶら下がる上半身のどちらも、ひどい打ち身のような傷があり、巨大蟹のパワーの凄まじさを物語っている。

 だが一方で、大きな傷は身体を真っ二つにされた最後の一撃だけのようだから、この巨鬼の戦士の技量も相当だったのだろう。

 

 

 巨大蟹の方もこれまた悲惨な有り様だ。

 

 二対四本あった鉗脚(ハサミ)は一本を残して関節部分から切り落とされており、二対の歩脚もほぼ全てがひしゃげて用を為さなくなっている。

 砕け、斬られたところからは、薄青い体液が流れ出している。

 オール状に変化した一番後ろの歩脚(遊泳脚)も、その扁平で頑丈な形状を生かした回転薙ぎ払いを迎撃されたためだろう、大きく斬り込みが入ったように破損している。

 

 劣勢だったであろうこの蟹がどうやって相討ちに持っていたのかと注意してよく見れば、普段は折り畳まれている腹部(いわゆる蟹の『ふんどし』)の部位が開いており、周囲には子蟹……だったものがバラバラになって散乱している。

 なるほど、この二対神銀の巨大蟹は、指揮個体であり母体でもあったのか。

 

 通常、蟹は非常に小さなプランクトンの幼生から大きくなっていく(ゾエア→メガロパ→稚ガニの順。蟹らしい形になるのは稚ガニの段階から)。

 しかし、サワガニなどは卵の中で稚ガニの状態まで育ってから生まれる。

 この巨大蟹も陸上進出のためにサワガニと同様の生態を持っていたのか、子蟹の状態で産み落とせるようだ。

 果たして子蟹を抱えながら戦っていたのか、地上侵略の尖兵としての機能でその場で緊急生産したのかまでは分からないが。

 

 そしておそらくは至近距離から未成熟の子蟹を()()して隙を作り、そうして出来たチャンスを、温存が叶った最後の鉗脚(ハサミ)で捉えたのだろう。

 発射については、指揮個体の支配能力により、子蟹の体内の魔晶を暴走でもさせて何らかの魔法現象を発生させたか、あるいは子蟹の片側の歩脚を自切させてその断面から体液をジェット噴出させでもしたか、単に自前の腹部の抱卵用の腹肢で弾いて飛ばしたか……いずれにせよ何らかの方法で勢いを付けさせ、己にトドメを刺さんとする巨鬼の戦士めがけて飛び掛からせたのだ。

 

 それにより一瞬だけ巨鬼の動きを邪魔した隙を突き、巨大蟹は最後の力を振り絞って素早く鉗脚(ハサミ)を動かし、巨鬼の胴体を捉えて、バツン! と真っ二つ、というわけだろう。

 しかし巨鬼も上半身だけになってもあきらめず、執念で巨大蟹の頭部額域を己の大剣で破砕し、剣身を深く突き刺し神経節を破壊したのだろう。

 

 

「ああ、素晴らしい。素晴らしい戦いがあったのだなあ……この身が震えるほどに感動しているよ……。そしてそれゆえに、両者とも、このまま朽ちさせるのは惜しい。──── もったいない!!」

 

 元の状態に治すのは、私の魔導と奇跡をもってすれば、容易い。

 だが、それは、この素晴らしい戦いを無に帰すことに他ならない。

 巨鬼の戦士の力戦も、巨大蟹の最後の足掻きも、その全てを無かったことにするのは、忍びなかった。

 

 戦いの証を、この終わりの美しさを、万分の一の残渣であっても、私は残してやりたいのだ。

 写真や、剥製ではなく、生きた形で!!

 

「……そうだ。互いの身体を繋いでやろう。一つにしてやろう」

 

 巨鬼が巨大蟹の頭部額域を砕いた証はそのままに。

 巨大蟹が巨鬼を上下半身を二つに割いた証もそのままに。

 

 美しい戦いの果てとして、青い流血が交じり合ったその結びとして。

 

 この闘いの苛烈さをその身に納めた新たな姿として再誕させよう。

 

 

「そうと決まれば、まずは魂魄の捕獲と、肉体のパーツの保全からだな!」

 

 

 魂魄捕縛活性維持術式(ヴァルハラはここにあり)

 

 死亡遅延活性維持術式(しごこうちょくはむようです)

 

 

 

 肉体を離れようとした霊魂を呪縛して確保。それ以上の崩壊をしないよう保護。

 不可視の力場が死せる二体の肉体を包み、それ以上に “死” という現象が進行しないように(とど)める。

 

「そして現時点のそれぞれの身体の損壊状況や、そもそもの生体構造、遺伝情報をスキャン。それを虚空の箱庭のエミュレータに投入して、疑似時間加速して新たな身体を速やかに設計する!」

 

 

 生体情報全面取得術式(あらたなるかどでのために)

 

 情報投入加速設計術式(つよくおおきくさいてきに)

 

 

 魔力により隅々まで走査される巨鬼と巨大蟹の二体。

 そこから得られた情報を、虚空の箱庭のエミュレータ術式へと投入する。

 

「設計開始。エミュレータ内では、検証最適化と同時に、基底現実で施すための効率的な術式手順の検討も行う……!」

 

 深淵にこそ誉れあり──── 落日派の会派哲学の名のもとに。

 潰えた者どもに再生の光を────“もったいないおばけ” へ捧げる信仰のもとに。

 美しいものを留めるために──── この異世界と2度目の生に感謝を込めて。

 

 さあ、この死闘の果てに相応しい、より美しくそして強靭にして無比なる一つの生命を作り上げよう!

 

 

 

§

 

 

 

 というわけでこちらはエミュレータ内でデータを受け取った再現意識体(コピー)の方のマックスだ。

 基底現実から切り離された虚空の箱庭で術式を走らせることにより、数十万倍にまで時間を圧縮加速している。

 まあ精神と時の部屋とかあーいう感じだな。

 

 それでは早速、遺伝情報や魔晶、肉体の構造の解析レポートを作成しつつ、設計構想を進めていくぞ。

 

 今回のコンセプトはズバリ、多脚型機動兵器だ。

 

 え? 従者にするつもりなんじゃないのかって?

 大きいと不便だろうって?

 

 いーのいーの、どうせ面子だけ立てばいいんだから、従者としての実務はさせる必要はないのさ。

 デカくて強そうで美しい護衛を従者枠で引き連れてれば、社交界ではそれだけで十分な武器になる。

 少なくとも舐められることはなくなるだろうさ。

 

 日常生活の不便が出ないようにってのも設計段階で十分考慮してくつもりだしな。

 

 

 じゃあまずは分析だ。巨鬼の方から行くか。

 

 巨鬼の方は、十分以上に熟達した戦士だな。

 損壊状況は腰部切断。

 他には打ち身多数。

 

 皮膚や腱をはじめ、身体全体が生体合金で構成されており、心臓横の魔晶による種族生来の賦活魔法と再生魔法により剛力無双を誇る。

 まー、素肌が既に全身鎧のゴムダンパー仕込みみたいな連中だ、そりゃもう強い。

 額にはオーガのトレードマークの二本角。

 縦に割けた瞳孔を持つ金の瞳、美しく均整が取れた顔。

 そして巨体にあってなお比として大きなバスト。

 

 ふむ、やはり美しい……。

 

 まあ無事な上半身を中心に生かす感じだな。

 下半身は……解体して要素を蟹の方に配置して融合させる方向か。

 生殖関連もごそっと下半身側か……破断面が通っちまってるから損壊が激しいが、なんとでもならあな。

 

 あとはあんまり普通の人類種や魔種と違わないから省略。

 

 

 

 さて、次は大蟹の方だな。

 

 こちらも合金混じりの生体装甲で、しかも鉗脚(ハサミ)の先端は神銀(ミスタリレ)になっている。

 脱皮の時は……ははあ、なるほど、外殻の金属成分を極力吸収して再利用するんだな。

 まあ流石に神銀を脱皮のたびに使い捨てにはしないか。

 

 通常の蟹は十脚類の名の通り、五(つい)十本の脚を持ち、内訳は鉗脚一対、歩脚四対になるところだが……。

 この巨大蟹は変異体なのか、前側の二対までが鉗脚(ハサミ)になっている。

 しかも先端が神銀になっているというわけだ。

 終始優勢だった巨鬼(オーガ)の戦士も、この神銀の鉗脚(ハサミ)による一撃必殺のギロチンのごとき攻撃にやられてはどうしようもなかったらしい。

 ファンブルでもしたかね? あるいは蟹側がクリティカルしたか。

 

 だが巨鬼もさるもの、ただでは死なぬとばかりに二対神銀の巨大蟹の額を砕いた。

 その傷は蟹の眼の間の額域を砕いて、頭部方向の神経節に達している……これが致命傷だな。

 じゃあこの辺の砕けた神経節を中心に、要素を巨鬼の上半身側に配置して融合させるか。

 

 傷の周りを見れば、左右の複眼とそれを支える眼柄は内圧で飛び出してるな……。

 第1と第2の触角は無事。

 戦闘を考えると、後方の視界確保のために眼柄を甲羅側に倒せるような溝でも付けてもいいな。

 

 大顎と、第1・第2の小顎は……こっちは額域を砕かれた時に内側からひしゃげてるか。

 まあ仕方ない。

 大顎の前側にある食事を補助する第1と第2の顎脚は、まあ無事か。

 顎部分をマスクのように隠す第3顎脚も無事。

 

 その流れで甲羅の中にある鰓の方を見ると……ふむ。

 やはり寄生虫が居るな。この辺はあとで除去しておかんとな。

 消化管の中や体表の寄生虫も除去だ。

 呼吸効率の向上のために鰓周りはあとで手を入れるとして……。

 

 普段は折り畳まれている腹部も強度は十分。

 抱卵のために腹肢が雌特有の形状をしているな。

 

 体内の方も、指揮個体かつ母体だけあって、神経節と卵巣が発達している。

 

 肝心の魔晶も巨体に似合った巨大さだ。

 生来の魔法としては身体賦活はもちろん、子蟹との精神リンク機能もあるようだ。

 中腸腺……いわゆるカニミソもその巨体に見合ったパワフルさだが、さらに遺伝子レベルの改造により代謝効率を上昇させたほうが良さそうだ。

 

 おっと、脚の方に戻ろうか。

 通常、蟹といえば縦に潰されたような扁平な脚による横歩きのイメージだが、そうではない種類も居る。

 タカアシガニとかがそうだな。あとヤドカリの仲間だが、ヤシガニなんかもそうだ。

 それらは丸太のような丸い断面の脚で、関節も可動域が広く、それによって前に歩くことが可能だ。

 

 この二対神銀の巨大蟹は、後者のような柔軟な関節により前後左右に自在に動くことができるようだ。

 

 最後尾の歩脚はオールのような遊泳脚になっている。

 これはこのままでいいだろう。

 水中適応の他にも、防御や後方の攻撃に使える。

 

 

 

 

 じゃあこれから、この両者を融合させる設計をしよう。

 

 

 まず巨鬼の上半身側は、幾つかの臓器を蟹側に格納させることにする。移すのは主には肝臓や小腸や大腸だ。

 蟹側は、肥大した卵巣の分を少し縮小するだけで、十分なスペースが生まれるからな。

 そして巨鬼の上半身には、抜いた内蔵の分だけ筋肉を詰める。マッスル イズ パワー。

 

 巨鬼の腰と巨大蟹の額部分の接合部だが、十分以上の柔軟性を持たせることにする。

 可動範囲は330度を目指そう。

 真後ろまで見れないと不便だしな。そのために腰骨を分解再配置。

 あと、幾ら脚関節が柔軟に動けるとはいえ、蟹の下半身は、横移動の方が得意なのは確かであるからその対応のためにもね。

 蟹部分は横歩きでも、巨鬼の状態がぐりッと真横を向ければ実質的には蟹に騎乗した状態で突撃してるのと変わりないのだし。

 しかも鉗脚を進行方向に向けていれば、それ自体が衝角のようなものだ。陸上戦艦といっても差し支えないのではないかな。

 

 蟹の各部にも、巨鬼の下半身を分解再配置することで要所に内骨格の形成準備をさせる。 

 今後も巨大化させるには、外骨格式だと限界があるからな。

 だから内骨格との併用式とする。

 

 ……そう、この融合後の肉体には成長限界がないようになる予定なのだ。

 もともと甲殻類には成長限界はない。

 実際には巨大になるほど脱皮不全になる率が上がるから事実上の限界はあるが、理論上は成長限界はないのだ。

 そして融合体はその性質を引き継がせる。

 長生すれば、やがては東方の伝説に言う、島と見紛うほど大きな蟹の妖魔 “ザラタン” に匹敵するようになるだろう。

 大霊峰の巨人どもとも殴り合えるぞ!

 

 ……まあそこまで大きくなるとエネルギー収支が釣り合わないから、魔導炉の内蔵なり鰓から身体維持のための魔素を吸うなりの機能が必須になるが。

 

 そして鰓だな。

 運動性能の確保のためには酸素交換能力の強化が必須。

 目指せ馬並みの巡航速度!

 

 というわけで鰓については現状で左右一列ずつなのを、二列に増設。

 間に縦に仕切りの膜を設け、左右それぞれの鰓について、体前方から体後方まで二本の筒が隣り合うような構造になるようにする。左右二気筒、合計四気筒だな。

 またこの気筒の間の仕切りは、横隔膜に相当する構造になる。

 この仕切り膜を動かすことにより、左右それぞれ二列の鰓の格納空間が互い違いに膨張収縮し、常にどちらかが吸気する鰓を構成するというわけだ。

 

 さらには鰓の各部に弁を設けることで、空気の流れを一方向に制御。

 哺乳類のような同じ気管から吸って吐いてなどという非効率なガス交換から脱却し、常に前から新鮮な空気を吸い続け、常に後ろからガス交換後の空気を吐き出し続けることが可能となる。

 さらにもともと鰓は肺よりも高効率で酸素交換が可能だから、巨体を支える酸素を十分以上に吸収できるだろう。

 

 では次はお待ちかねの魔晶だ。

 まずは魔晶に生得的に刻まれた種族生態としての魔法のアップグレード効率化。賦活、再生、子機とのリンク、金属吸収……。

 そして効率化により空いたメモリを利用した新たな魔法の書き込み。

 

 新たに書き込むのは……重量が増しても脚が沈まないために自前の足場に出来る障壁を任意で生成する単純な物理障壁の魔法。まあ、かんじきを履かせるようなイメージだ。

 そして巨体の重量を緩和する抗重力……いや、応用のために重力操作魔法の方が良いか。重力操作の魔法を書き込む。なんなら脚を畳んだ状態で浮けると面白いだろう。

 鰓を常に湿らせるための水魔法も必要だな……。

 あとは、成長するにしたがって容量に空きが出るだろうから、その都度書き込んでやってもいい。カニビームとかね。

 

 魔晶を持つ魔種として致命的なのが、魔素汚染による魔物堕ちなので、その対策も施す。

 というか、魔宮生まれの蟹の魔晶は最初から汚染されているから、必然的に、その汚染が逆流しないように一方向に整流してやる必要がある。

 ついでに、巨鬼の側の魔晶の過剰魔素を、蟹の側の魔晶に送り込むように調整。

 魔物堕ちの心配はこれでなくなるだろう。具体的には私の虚空の箱庭(汚染魔素重霊地)に突っ込んでも平気なレベルで。

 

 えーと、口は両方とも生かすか。

 巨鬼の口だけだと足りなさそうだ。栄養補給のメインは下半身の蟹の口で、特に味わいたいときは上半身の巨鬼の口を使う感じだな。

 で、蟹の口の顎脚は、内側に格納される第2顎脚の方は器用度を上げるために人間の手の構造にして……。

 

 そして神経系の融合。

 特に蟹側の子蟹との精神リンク魔法を巨鬼側でもコントロールできるように魔晶とともに調整。

 巨鬼側の脊柱の神経索を特に強化し、蟹側の脳に当たる神経節との連絡を迅速強靭化。

 各脚の根元に神経節を作り、副脳として運用。

 

 蟹の眼と触角も残す。

 特に蟹の眼は、眼柄を柔軟化させ、甲羅の前後に這わせられる溝を作って格納できるようにしておく。

 これで眼柄を伸ばして這わせれば、身体の下も、後ろも、無理なく見られるようになるはずだ。

 

 あとは生殖巣とか排泄腔とか周りか。

 流石に触角腺からの老廃物排泄からの鰓で塩類・水分再吸収はどうかと思うから、老廃物排泄は総排泄腔に一本化。腎臓機能は巨鬼(オーガ)ベースに発展させれば良し。

 腹肢のうち幾つかを人間の手のように改造して、下の世話がしやすくなるようにして……。

 生殖巣は流石に蟹ほど多産にする必要はないから、大幅に縮小して……。

 ええと、子蟹の卵と、巨鬼の子宮は並立式にするか。卵は総排泄腔から、子宮はそれとは独立して膣を形成させて……。

 すると、卵の方は働きアリ的なイメージで、子宮で孕む方は次代に繋ぐ女王アリ的な感じになるかな。

 一代一種というのはちょっとね。

 

 

 さて、身体の設計はこんなもんか。

 

 あとはエミュレータ内で動かして、細かな不具合を洗い出して……。

 最終的に遺伝子レベルで改造して……一個の生命として完成させる。

 魔術紋様が自然に浮き出るように組み込んだりも面白そうだな。

 

 

 あ、それと武器と治具が要るな。

 武器は基本的には長柄武器として……。

 できれば主力戦車の主砲みたいな射撃武器も必要だよなあ。

 あとは盾?

 ああ、関節部分を守る鎧飾りも必要か。

 鉗脚(ハサミ)で色々持ちやすいようにする治具も考えなきゃな。

 

 まあ何を振り回すかは、巨鬼のお姉さんの本人の好みもあるだろうし。

 

 ああ、意識を取り戻した後にどうやって説明、説得するかって問題があるよなあ……。

 その辺りのシミュレーションも念入りにしないとね。

 

 

 

§

 

 

 

 というわけでエミュレータから上がってきた設計図や手順書がこちらです。

 

 現実時間では数秒だが、エミュレータ内では数年分は設計と検証、フィードバックに時間を掛けている。

 そして、魔法でその成果たる設計と手順の情報を読み取り、外科的に、また、魔導的に施術をしていく。

 

 

 異種融合魔晶肉体遺伝子改造術式(たんじょうむてきのクレープス・オーガ)

 

 

 破壊された肉体を紡ぎ合わせ、再配置し、不足するパーツを急速培養し、遺伝子レベルで変異させる。

 フッ、素晴らしい。我ながら不具合なく完璧な施術ができたと自負している。

 これで肉の器はおおよそ準備できた。

 

 次に、捕縛していた二つの魂魄を紡ぎ合わせながら、定着させんとする。

 

 

 霊体魂魄親和融合術式(めざめよつよきクレープス・オーガ)

 

 

 霊体魂魄の混和を実行。

 だが完璧ではない。まだ細かな点では不自然なところが残っている。

 やはり、新たな生命の誕生も、魂の融合も、究極的には神の御業だからだ。

 万全を期すなら、魔導の徒としては不本意なれど、文字通りの神頼みが必要だ。

 

 

 ゆえに最後に、祝福を。

 我が神の名の下に、洗礼を。

 破綻なき生命としての完成を!

 

 

 再誕の祝福(ハッピーバースデー トゥー ユー)

 

 

 加護の光に包まれ、かつて私の魂を破綻なく混ぜ合わせて再誕させてくれたあのときのように、巨鬼と巨大蟹の融合体(クレープス・オーガ)が祝福とともに完成する。

 

「おお…………素晴らしい…………」

 

 私がその厳かな光景を見て感涙に咽ぶなか、ついに再誕した彼女は目を開いた。

 

 

 

§

 

 

 

 彼女はその四つの歩脚で立ち上がり、甲羅の上に伸びる美しい上半身を伸ばし、よく回る腰を生かして自らの身体を睥睨した。

 確かめるように何度も手を握り、そして、同じように触角や眼柄(がんぺい)、鉗脚を動かす。

 

 そして自らの足元に佇み、深海のような深い蒼の瞳を潤ませるローブの少年を認め、問うた。

 

「……魔法使い」

 

「なんだい、美しい巨蟹鬼(きょかいき)……クレーブス・オーガの君」

 

「いろいろと言いたいことはあるが、問いたいことは一つだ」

 

「なんなりと答えようとも」

 

 

「この身はまだ闘えるのだな?」

 

 

「もちろんだとも! 君さえ望めば永劫にね!!」

 

 その問いに、深海の目をした魔導師は満面の笑みで是を返した。

 

 

 




 
巨蟹鬼(クレーブス・オーガ)さん「戦えるならまあ良いか。命を助けてくれたみたいだし」

===

巨鬼(オーガ)
大陸西方出身の魔種。デカい、硬い、強い!
女の方が大きく強い。男は女の補助に回る。
闘いを尊ぶが故に、闘争の果てに幾つもの部族が滅んでいる。
また様々な理由で闘えなくなった場合、彼女ら巨鬼は自刃するという。
それほどに、『戦闘=人生』というのは彼女らの価値観に重く組み込まれている。No battle, No life.
ということは逆に言えば、戦えるなら大体のことはおっけーになるのでは? という解釈。


巨蟹鬼(きょかいき)クレープス・オーガ(独自設定)
狂った魔導師の手による精巧な混合種(キメラ)失名神(もったいないおばけ)の祝福が合わさることで確立された巨鬼の亜種にして新種。完全に新種として確立したため、身体操作なども違和感がなくなっている。
巨鬼の上半身に、巨大蟹の下半身を持つ。
ビジュアル的には、ガンダム00に登場するモビルアーマー:アグリッサに、モビルアーマー:ヴァル・ヴァロのハサミ型クローを四つ生やして上半身を擬人化したみたいな感じ。
・アグリッサ → http://www.gundam00.net/tv/ms/09f.html

優れた心肺能力と身体能力を生かして馬並みの速度で突進してくる騎乗巨鬼という戦場の悪夢。ファンタジー世界に現れた主力戦車(メインバトルタンク)。分厚い装甲は火砲すら弾くが、優れた身体能力により弾くまでもなく砲弾を鉗脚で摘まんで止めることが可能。塹壕も平気で乗り越えるし戦術級の魔導も装甲で受けるし疲労もしないしもちろん方陣でも城壁でも止まらない。
閉所に追い込めばいい? 残念、大抵の障害物は粉砕する上に生得的な物理障壁を足場に宙を歩くし、重力操作で短時間なら空を飛ぶ。
肉薄して鰓の吸気口の弁が開いたタイミングで炎熱攻撃(モロトフカクテル)を何度か叩き込めればワンチャンあるかも。つまり対策はだいたい対戦車戦闘と同じ。

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次回以降はお互いの自己紹介とか護衛契約とか魔宮攻略(試運転かねた露払いまで)とかになる見込みです。
 

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