フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆巨蟹鬼クレープス・オーガのひみつ
 体重 約8t
 (金属質を含むため。ブルドーザー程度の重さ。象より重い)
 全高 3.6m
 (建物の二階の窓から少し下を見たら目が合う程度。
  内訳:自然起立時の蟹部分 2.5m(脚1.5m + 胴高1m)
     オーガの上半身(へそから上)1.1m)
 甲羅の横幅 2m弱
 歩脚(伸展時) 3m
 (走行時は蟹股(がにまた)なので歩脚は1.5m横に張り出し、残り1.5mで高さを出している。直立も可能(最大全体高4.8m)。座るときは膝を立てて蟹のお尻部分(実際は甲羅と腹部の境だが)を地面につける)
 鉗脚 2.5m
 (うちハサミ部分1.2m。肉厚。ハサミの重量は約100kg)

 まだまだ せいちょうき だよ!
 うまと おなじ はやさで はしるよ。
 ちっちゃな カニがたの しもべを うみだして あやつることも できるよ。
 こガニは なんどか だっぴすると だんだん オーガのじょうはんしんが はえてくるよ。


◆魔導による改造と、自然の復元力(独自解釈)
 通常は現実を曲げる魔導による肉体改造は長続きしない。だからマックスは、魂が抜けた死体に施術することで生体ではなく物品扱いにしてそこをクリアした。また魔導施術の定着を良くするために外科的手法をメインに分子生物学レベルでも不自然さを感じさせないレベルまで改造した。そこに元の肉体の持ち主らの魂を融合させて放り込み、魂の不整合による発狂を術式で先延ばしにしつつ、そのままではただの動死体になるだけなので、神の奇跡で祝福することで無理やり安定化させ、蘇生・再誕させた。この巨蟹鬼の彼女は、文字通りの「彼岸から帰り来し者(リターナー)」である。
 なお言うまでもなく外法で邪法。魔王軍のマッドサイエンティストとか邪教のカルティストとかの所業なんよ。……あっ、そもそもマックス君はマッドでカルトやったわ……。法的にはギリギリ救命措置のための緊急避難が成り立つ、かもしれないが、なんにせよ事後承諾を取り付けるのは必須だろう。

===

◆前話
墓地の巨鬼と巨大蟹を除外して融合召喚! 再誕せよ! クレープス・オーガ!
 


16/n カニ・スタンピード-3(巨鬼部族が一つ、ウラガン部族の戦士 “大嵐(たいらん)の” セバスティアンヌ)

 

 突如、神銀(ミスタリレ)鉗脚(ハサミ)がうなりを上げてマックスへと迫る!

 閉じられた右の第一鉗脚による振り下ろしの一撃(チョッピングライト)の威力は、重量級の鎚を高速で叩きつけるに等しい。

 受ければタダで済むまい。骨が砕け、肉がひしゃげ、二目(ふため)と見られぬようになるであろう。

 

 ── もしも受けてしまえば、だ。

 

「うわっと!?」

 

「……ふむ。貴公、やはり魔法使いにしては随分と使()()な」

 

 ズン、と地面が揺れた。

 勢い良く迫った鉗脚(ハサミ)の一撃は(かわ)され、()()()()鉗脚(ハサミ)が地面を砕いたのだ。

 

 鉗脚を振り下ろした巨蟹鬼の彼女だが、全身の構造を丸っきり変えられ、細胞・遺伝子レベルどころか、魂レベルでも改造された直後に動けるのがそもそも異常ではある。

 通常であれば、しばらくは動くことすらままならず、リハビリにも何カ月もかかるような大手術を受けたのだから。

 それでも()()()()動けているのは、恐らくは、特化した高度な魔導を馬鹿魔力でゴリ押しし、神の奇跡で最後の仕上げにつじつまを合わせ、残った不具合を魔晶に刻まれた本能的に使える再生魔法によって現在進行形で癒しているおかげであろう。

 その “何とか動ける” 程度の状態から繰り出されたにしては非常に重い一撃ではあったが、自己再生が進み、本調子になればこの比ではなくなるはずだ。

 

 

 一方で、避けた方のマックスは魔導師見習いにして、邪教の神官(イビルプリースト)であるが、同時に <喧嘩殺法> を妙技相当のスケールまで修めている促成栽培の喧嘩師でもある。

 蘇生後(寝起き)身体制御の試し(ウォーミングアップ)程度で振り下ろされた鉗脚(ハサミ)の一撃を避けるくらいは容易いことであった。

 

 それを証明するように、マックスは僅かに半身になって立ち位置をずらすことで、紙一重で鉗脚(ハサミ)を避けていた。

 

「まあ、護身術程度には、ね。しかしとんだご挨拶──」

 

「ではこれは?」

 

「── だ、な? うおっ!?

 

 振り下ろされた右の第一鉗脚が岩浜の地面から持ち上げられるその隙を埋めるように、今度は右の第二鉗脚が掬うように横薙ぎに振るわれた。

 体重移動も用いぬ、鉗脚の筋力のみを用いた手打ちだが、その質量による暴力は驚異的。

 

 だが、それはマックスの手前で大きく上に弾かれ、命中することはなかった。

 

「ほう。これを流すか」

 

 それに巨蟹鬼は感心ひとつ。

 マックスが手を払う動作と連動させて障壁をぶつけて、右の第二鉗脚による薙ぎ払いを受け流したのだ。

 

「── いやはや、少しびっくりした、蘇りたてで、もうそこまで動けるとは。

 でもこれで大体、実力試しは終わったかな? 気が済んだなら、お互い自己紹介とか事情の説明くらいはさせてもらいたいんだが……」

 

「うむ。貴公は話をするに(あたい)する者のようだ。良いだろう」

 

 巨蟹鬼の彼女は、尊大に腕組みを(ガイナ立ち)したままそう答えた。

 その受け答えは堂に入っており、恐らくは彼女は実際に高貴な二つ名を持つ戦士なのだろうと思われた。

 

 

 

 

「……とはいえ、まずは服着てもらわないと、かな。手術中に邪魔だから取っ払ってしまってるし」

 

「ん。おお、気づかなかった。この身体になった影響か、海風でも特に寒くないし、このままでも問題ないのでは?」

 

「いや、私が気にするんだ」

 

 彼女の顔の方を見上げた先でばるんばるんしよるので目の毒だ。

 

 

 

§

 

 

 

 とりあえず魔法でその辺の蟹の死骸の殻だとかを素材に還元して、そこから作った布だのを巨蟹鬼の彼女に巻き付かせていく。

 魔法チート製の、複層構造で断熱性があり、伸縮性に富み、水に浸かってもすぐに乾くという、機能性の高い布だ。

 もちろん肌触りも良い。

 

 

 蟹素材還元繊維化服飾生成術式(シルクよりもスムース、ダウンよりあったか)

 

 

 ぴっちりラッシュガードの上からビキニアーマーを着せた感じになって、露出は減ったが煽情的なのには変わりないような気もするがまあ良いだろう。

 

「おお! 一瞬で服が! しかも随分と肌触りが良いな。これでは直ぐに破けるのでは……おお、伸びる! 意外と頑丈だな!」

 

「……気に入ってくれたなら良かった」

 

「ああ。この布を作れる貴公をうちの部族に持って帰りたいくらいだ」

 

 略奪者の眼光をする巨蟹鬼の彼女に対して、ハハハ、と笑ってごまかしておく。

 巨鬼の部族は、戦に役立つ優れた技能を持つ異種族を集める人材蒐集家的な側面もあるのだ。

 既にロックオンされていて手遅れな気もするがね。

 

 あとついでに造成魔術で、落ち着いて話せるような建物を周辺の岩や砂から作成。

 若干込み入った話になるだろうし。

 

 

 簡易神殿建造術式(ここをキャンプちとする)

 

 

 見た目は帝都で見た神殿の様式や、西暦世界のパルテノン神殿みたいなのを参考にしている。

 もちろん、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)の彼女が余裕を持って入れるサイズだ。

 ……ついでに “もったいないおばけ” を祀る小神殿として我が神に祝福、聖別していただくとしよう。

 

 えーと、循環する矢印を組み合わせた聖印を高いところに刻んで……と。さて、願いましては~~。

 

 

 再建の祝福(きょうとうほ かくほ)

 

 

 これでヨシッ!

 

 なにせ巨蟹鬼は、“もったいないおばけ” の祝福を受けて生まれた新種族だからな!

 つまり私と信仰を同じくしてくれる可能性のある、信徒候補でもある!

 虚空の箱庭のホムンクルスたちが捧げる信仰心も少しは我が神の糧になっているが、信徒が多いに越したことはない。

 是非ともこの神殿で我が神の御威光に触れてもらわねば。

 

「ほう、何やら神聖な……神聖、な……?? うーむ、不思議な社だな」

 

 神聖さとともに邪神的な波動を感じているのか、首をかしげる巨蟹鬼。

 とはいえ既にその身体は “もったいないおばけ” の祝福を受けている。

 半ば眷属のようなものだし、嫌悪感も湧くまいさ。

 

「さあさあ、どうか中に入ってくれたまえよ」

 

「貴公は高位の僧でもあるのか? いささか以上に変則的とはいえ我が肉体をこれほど見事に癒やした手腕といい、ますます部族に欲しいな」

 

「期待に応えられるかはともかく、今後のことはこれから話すとしよう。何せお互いにまだ、氏素性(うじすじょう)も名前すらも知らない」

 

「それもそうか」 

 

 

 

 

 

 カツカツと巨蟹鬼の足爪が小神殿の床を叩く音が響く。

 

「そちらに掛けてくれ」

 

「ああ、そうさせてもらおう、魔法使い殿。…………随分上等な、あつらえたような椅子だな」

 

 簡素な礼拝堂に、巨蟹鬼の肉体でも腰かけられるような頑強な台座をあらかじめ作っておいた。

 座面の高さは私の目線くらいかな。

 座るときに負担にならないように、周辺の蟹の死体や空気中の元素から抽出した素材で作ったクッションを座面に置いてある。

 

 ついでに巨鬼に相応しいサイズのカップに淹れた黒茶を虚空の箱庭から呼び出し、彼女の手の届くところに浮遊させておく。お茶請けもね。

 茶の一杯も出さぬなど帝国人の沽券に関わるからな。

 

「じゃあまずは茶でも飲んで落ち着いてから話をさせてもらおうか、戦士殿」

 

 一方で私は、礼拝堂の奥、一段高くなった説教台の方まで歩き、振り返って向かい立つ。

 これで目線の高さが合うな、うむ。

 私も虚空の箱庭から手元に黒茶を呼び出す。

 

 お互いに黒茶を一口。

 

 それではまずは自己紹介といこう。

 

「私は、帝国魔導院の落日派ベヒトルスハイム閥に属する聴講生、マックス・フォン・ミュンヒハウゼンだ。この地には、海中の魔宮の調査にあたって、先遣として参上した」

 

 魔導師(マギア)式の立礼をして、一度言葉を切った。

 

「ここの海には多少因縁がある。夏にこの沖合い遠くで巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)を討伐したのは私だ」

 

「ほう。この港町でもその噂は聞いたぞ。雷鳴に倍する爆発の中で、光り輝く巨人が巨大な海竜を討伐したと」

 

「正確に言えば、私が用意した擬巨人光体を、知り合いの凄腕剣士に操縦してもらって討伐したわけだが」

 

「……つまり討伐で技量を示したのは、その剣士の方だということか」

 

「ま、そういうことだ。諸事情あってその剣士の名は伏せられているがね。私の技量はせいぜい “そこらのチンピラ+1” って程度さ、さっき見せたとおり」

 

「ふん。韜晦してみせるじゃないか。そもそも貴公の本質は魔法使いで、さらにどこぞの神に仕える高僧というわけだろう? きっと貴公ひとりでも討伐できたのではないか」

 

「否定はしないよ」

 

 

 私はニヤリと笑って、巨蟹鬼の彼女に手番を促す。

 こちらは自己紹介したんだから、次はそちらの番だ。

 

「まずは命を拾ってもらった礼を言おう。あの傷では助かっても二度と戦えるまいと思っていたが、またこうして立ち上がり、武を揮えるとは望外の幸運である」

 

 彼女は軽く頭を下げた。

 そして自らの下半身となった金属質の甲羅を撫でる。

 

「この腰から下はあの大蟹だな? これもまた戦傷と同じく死闘の証の一つだと思えば納得はできる。手柄首を干して連ねた首飾りを作るのに比べれば穏当な部類であろうしな。

 元通りに治せなかったのもおそらくは神の奇跡による制約なのだろうから、高望みはすまい」

 

 あー。

 まるきり元に戻すこともできたが、実際のところ、巨鬼と巨大蟹それぞれの肉体を()()()する形の方が、我が神の御心には適うものだったから間違いでもない。

 訂正する必要はないだろう。

 

「何よりまだ戦えるというなら願ってもない」

 

 そう言って、巨蟹鬼の戦士は牙を見せて笑った。

 

「我が名はウラガン部族のセバスティアンヌ(Sébastienne)。“大嵐(たいらん)の” セバスティアンヌだ」

 

 

 

§

 

 

 

 やはり二つ名持ちの戦士だったか。

 

 巨鬼(オーガ)の社会は部族社会で、かつては主要なものだけで80余りの部族があったが、闘争を愛するがゆえに方々から恨みをかったせいで、いまは30余りまで部族数を減らしていたのだったか。あとは零細の部族がいろいろあるらしい。

 彼女らは各部族の代表から成る部族会議を中心とした緩い紐帯で結ばれている。……同時に、かつての二の轍を踏んで滅びの道に走らないように、()()()()()()()()()いくらかは統制されているとか。

 まあ巨鬼のルーツはセーヌ王国のある大陸西方だから、帝国の書物で知れる情報には間違いがあるかもしれないけどね。

 

 その巨鬼らの文化の一つに、“二つ名” の名乗りがある。

 部族会議で認められた戦士に与えられる称号で、部族ごとに異なる概ね五段階の称号が定められているという。

 手柄首の数だとか、会戦に出た数だとかそういうので決められるらしい、と書で読んだが、そこに書かれていた以上に、二つ名を贈られるに当たっては巨鬼社会に特有のいろいろな機微があるのだろう。

 

 門外漢としては、何となくだが、西暦世界のフランスのレジオンドヌール勲章*1だとかの勲章制度に近いのだろうか、と、ふんわり理解している。位階もちょうど5段階だし。

 特に、血筋ではなくその武功によって二つ名の名乗りを許されるようになる辺りは、爵位ではなく勲等に似たものとして捉えた方がしっくり来る気がする。

 あるいは二つ名のランクは、上から順に、元帥、将官、佐官、尉官、下士官、みたいなざっくりした捉え方でも良いのかもしれない。いや、かっちりした軍組織を構成しているわけでもないんだろうけども。

 

 さて。では、この目の前の巨蟹鬼、セバスティアンヌ女史が名乗った “大嵐(たいらん)の” という二つ名は、彼女のウラガン部族において、どの程度の位階に当たるかだが…………まあ、上から2番目か3番目あたりの位階なのだろうと予想する。

 そうでなくては二対神銀の巨大蟹との死闘で示された実力には不釣り合いだろうからだ。

 流石に部族に当代一人いるか居ないかの最上位称号持ちがこんな本拠から離れた帝国の辺境をウロウロしてるわけもないし。

 

 

 

 そういえばこのセバスティアンヌ女史、なんでこんな港町で冬ごもりしてたんだ?

 

 

「ん、ああ、そんなことか。これで部族の中では変わり者として知られていてな。

 闘争もそうだが、諸国の美味珍味を巡って一人、遊歴しているのだ。

 その一環として特に、強大な魔獣を狙って狩っておった。狩って、喰って、我が腑に納める。これ以上の敵手への敬意があろうか、いやあるまい! ああ、流石にヒトは喰わぬぞ?

 それでここへは、風の噂に海竜の肉が上がったと聞いて、どうにかそれを食えぬものかとやってきたのだ」

 

 ──── “まあ空振りに終わってそのまま雪で足止めされたのだが。なあ、竜殺し殿?” と言って、セバスティアンヌ女史は呵々と笑う。

 ……一方でその眼は何かを期待するように炯々と燃えていた。

 

「あー、そういう……」

 

「ちなみに治療と蘇生の影響か、私はとても空腹だ」

 

「はい」

 

「とても、とても。空腹だ」

 

「……それは奇遇ですな。私もちょうど空腹を覚えておりまして。よければご相伴いただければ嬉しく存じます、セバスティアンヌ殿。もちろん、私が討滅した巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の肉もつけましょう」(棒)

 

「おお、かたじけない! この一飯の恩は戦働きで返そうぞ! 病み上がりだが調子は良いし、膂力は増したようだから、技量が落ちたとしても役に立てるだろう」

 

 調子の良い(ひと)……でも嫌いじゃないわ!

 式典で分けてもらった巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)の肉と、さっきそこで甲殻を素材にしたときに中身を回収しておいた蟹の肉があるから、それを中心に虚空の箱庭の方でホムンクルスたちに料理させるか……。

 魔宮産の蟹でも残留魔素を処理すれば全然食えるし。

 

 …………あれ、このセバスティアンヌ女史、これまでは魔素の吸収過多の問題はどうしてたんだ?

 魔獣食いは、普通の魔種の場合は、下手したら魔物堕ちしかねんのではないか。

 聞いてみるか。

 

「セバスティアンヌ殿の助力が得られるならありがたい! できれば今後も私と契約してもらいたいところだが……まあ、海中の魔宮までの露払いを手伝ってもらったときの相性で判断してもらっても遅くはないか。

 ……ところで、その、魔獣の肉を食すのは、大丈夫なので? いまのその身体は魔素への耐性を強化しているから問題ないが、まえの巨鬼の身体では、“狂を発する” おそれがあったのでは?」

 

「ははは、これは異なことを言う。── その程度を恐れて美食を極められるか!」

 

 わあ、この(ひと)、変人だな!

 言うなれば、河豚の可食部位を実食して見極めたり、美味なら毒キノコでも食べるタイプのチャレンジャーだ!

 

 私の中の異世界人の魂が、なんか勝手に共感している……!

 そういえばこの異世界人の魂も、食に拘りがあるんだったか。

 

「ところでマックス殿。この大蟹と一身になった身では、魔素について気にしなくて良いと聞こえたのだが?」

 

「ああそうだとも。そのクレープス・オーガの身は魔晶が二つある。ゆえに、いわゆる “穢れ” を片方に押し付けることで、ずっと正気を保つことが出来るのだ」

 

「つまり?」

 

「魔獣肉食べ放題」

 

ウォオオオオオーーーー!!! ……っと失礼。つい喜びのあまり戦吠えを。それが本当なら、この身体になって良かった……」

 

「それほど喜んでくれたなら、祝福してくださった我が神もお喜びだろう。

 では料理ができあがるまでの間に、いまのセバスティアンヌ殿の身体の機能について説明させてもらってもよろしいか?」

 

「ああ、そうだな。色々と前とは違っているようだし、貴公から聞くのが最も適切であろう」

 

 説明することは結構いろいろある。

 

 理論上は肉体の成長限界がないこととか。

 生得的な魔法が高効率化され、さらに物理障壁や重力操作や水生成や精神リンクが追加されていることとか。

 子蟹を産めることとか、それとは別に孕めることとか。

 あとは構造的にどこがどう変わったのか、ひいては、どこが急所で、どこが急所でないのか、とか。

 

「そういえばセバスティアンヌ殿は二足から四足になったことで、技量の心配をされていたが、そこまで心配は要らないであろうよ」

 

「それはどういう?」

 

「我が神は何かが無駄になることを大層お嫌いだ。つまり、セバスティアンヌ殿が巨鬼であったころの技量が失われるのは “もったいない”とお考えのはず。……ま、それがどういうことかは、腹ごしらえをして、海中の魔宮までの露払いをするうちに理解できるだろう」

 

 つまりはキャラクターシートの再構築(リビルド)

 きっと熟練度の振り分けを再構築して、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)流の体捌きをそれなり以上のレベルで身に付けさせてくださってるはず。

 あるいは他の改造後に無駄になってしまう特性やスキルの熟練度も最適化して、並列思考や空中機動だとかの新たに必要な特性やスキルに関する才能を増設したりもしてくださっているだろう。

 

「ふむ。まあ戦場では馬肢人(ツェンタォア)の猛者と(まみ)えたこともある。それらとまるきり同じとは言わずとも、四つ足の武術の理はある程度想像がつくゆえ、目途は立てられそうだが……」

 

「──── 得物の問題、か」

 

「然り。どうも膂力も増したようだし、大蟹の甲羅の上から振り回すには、これまでの大剣では長さも重さも不適当であろうよ」

 

「まあそれについては、幾つか私が試し用の武器防具を提供しよう」

 

「……鍛冶師に伝手が? この身丈に合う得物となれば特注であろうに」

 

「私自身が魔剣鍛冶なのだよ。そこそこの腕だがね」

 

「ほう、それはそれは。得物の出来次第だが、ますます部族に連れ帰りたくなりそうだ」

 

「それならしばらく私の護衛として(はべ)ってくれれば、考えよう。あるいは多少能力が落ちるが、我がシモベを派遣してもいいだろうしな」

 

「それもまあ、お互いの相性を見てから、か」

 

「うむ。

 ──── ああ、まずは前菜ができたようだ。さあ、いただこうか、セバスティアンヌ殿」

 

 私は虚空の箱庭から、出来立ての料理を、給仕役のホムンクルスらとともに <空間遷移> で出現させた。

 

 

 腹が減っては何とやら。さあ、腹ごしらえだ!

 

*1
レジオンドヌール勲章:フランスの名誉軍団国家勲章。上から「グランクロワ(Grand-Croix):大十字」、「グラントフィシエ(Grand-Officier):大将校」、「コマンドゥール(Commandeur):司令官」、「オフィシエ(Officier):将校」、「シュヴァリエ(Chevalier):騎士・勲爵士」の5等級。




 
巨蟹鬼(クレープス・オーガ)のセバスティアンヌ女史「うーまーいーぞーーー!!」

Q.そこらに転がってた蟹を使った料理って共食いでは?
A.セバスティアンヌ女史「美味いからヨシ」
 マックス君「そもそも蟹って共食いする生き物じゃん?」

===

巨鬼(オーガ)の部族と、その中での二つ名のランクについて(一部独自設定)
原作で登場しているローレン女史、ロランス女史の出身部族である『ガルガンテュワ部族』(大咽(おおのど)(大喰らい)を意味すると思われる部族。元ネタはパンタグリュエル物語の巨人ガルガンテュワからだろうと思われる)では、二つ名は、
 果敢なる → 不羈なる → 不屈なる → 勇猛なる → 剛毅なる
の順に高貴になる。
ちなみにエーリヒに “つばつけ” したローレン女史は、“勇猛なる”(上から二番目)の二つ名を持つ。

オリキャラのセバスティアンヌ女史の出身部族として設定したウラガン部族(大嵐を意味する部族)における二つ名は、
 疾風の → 烈風の → 颶風の → 大嵐(たいらん)の → 狂飆(きょうひょう)
の順に高貴になると想定している。(部族名含めて独自設定)

なお、現在の姿の写真を添えた顛末を、故郷の部族会議に送れば、「いやおまえ、これはもう別の部族として独立しろよ、ぜんぜん別物じゃねーか」という話になると思われる。そのときは、セバスティアンヌ女史が変性した地である帝国北方における荒ぶる嵐の女神の古名であるラーンにあやかって、『ラーン部族』とでも名乗るのだろう。

===

四つ足には四つ足の戦い方・武術があるので、次回はそのお披露目の「カニ無双」になると思います。

原作書籍版5巻の試し読みだったり、カラー口絵のピンナップが出てますよー。
https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824001085&vid=&cat=BNK&swrd=
 すごいぞ……試し読み部分が既に全部書下ろしだ……。あとランサネ様の描いたピンナップのライゼニッツ卿がとってもイイ笑顔してるのでこっちも笑顔になっちゃいますね!(なお倍返しされるもよう)
 
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