フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆巨蟹鬼のセバスティアンヌ女史の名前の由来について
そういえば言わずもがなでお察しかも知れませんが、セバスティアンヌ女史の名前は、従者ポジションにするに当たっての名残で、『セバスチャン』を女性名化したものです。一応、フランス語圏でも実在する女性名の模様。セバスティアンヌの愛称はアンナとかスティーとかになるんでしょうか。
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◆前話
マックス君「巨鬼の彼女は危うく呪いで蟹になるところだったが、解呪が間に合って何よりだった*1。そして今回の
港町の物見「アッハイ(貴族……魔法使い……。しかもこの名は確か噂の “海竜殺し”……。怖っ……近寄らんとこ……)」
ウラガン部族にて “
一等巨大で神銀のハサミを4つ持つ大蟹と相討って
神の奇跡により蘇生・再誕した新たな肉体。
鋭い爪先を持つ4本の歩脚が躍動し、その巨体を跳ねさせる。
最初は
接地面積を増大させ沈み込みを防ぐために、足先で物理障壁を小規模展開するのにも慣れて機動に磨きがかかる。
戦場は、魔導によって海が割られて露出した、岩だらけの不整地。
その一面にうごめく大蟹── 大きさは小柄な
衝角、あるいはブルドーザーのブレードのように使う4つの鉗脚をすり抜けてきた大蟹は、神殿の柱のように太い歩脚で蹴散らし、あるいはかんじき代わりの物理障壁を解除した鋭い爪先で串刺しにする。
そして横合いから押し寄せる敵蟹は、巨鬼の両腕が握る鉄棍が砕く。
「だんだんと馴染んできたぞッ!! オオオッ!!」
セバスティアンヌは頭上で誇るように鉄棍を回転させ、腰部関節の柔軟さを生かして左右に旋回しながら己を囲もうとする大蟹たちへと向けて縦横無尽に振り下ろし、それらを粉砕する。
大蟹たちはその武に為す術もなく甲羅を砕かれ、その中身を晒して絶命していくしかない。
射程も、技量も、質量も、違いすぎる。
一方の蟹を叩いた反動で跳ね上がった棍の先が、その勢いを生かして逆側の蟹へと飛ぶ。
また時には棍で払い、敵蟹たちの脚をまとめて叩き折る。
そして要所要所で棍の掬い上げによって近場の蟹を別の蟹にぶつけ、蟹どもの流れをコントロール。
蟹どもが勝っているのはその
セバスティアンヌにはそれができる。
上半身の自らの肉眼と、
これにより戦場の把握と統制を可能にしているのだ。
投げた蟹により敵の軍勢の流れを滞らせ、一部に渋滞させた場所を創り出す。
そして前傾姿勢で4つの歩脚を沈み込ませ、反動を得て歩脚のバネを解放。その渋滞箇所をめがけて、鉗脚を衝角のように構え、螺旋を加えて水平跳躍。
圧倒的質量が、渋滞して団子状に折り重なった大蟹の山へ着弾し、抉り穿って粉砕。
砲撃を受けたかのような衝撃で、大蟹だったものが飛散し、その飛散物がさらに周囲の蟹を殺傷する。
そのような無茶すぎる機動をしても、
高効率化された肉体賦活の生得魔法による作用と、頑丈な合金混じりの甲殻と表皮による防御力の賜物だ。
「おーい! あんまり飛び散らせないでくれ! 回収が面倒だ!」
「ふっ……善処する!」
「いや
転移魔法によって砕かれた大蟹の死骸を回収しているマックスが何か言っているのを無視して、セバスティアンヌはさらに大蟹の大軍へと突っ込んでいく。
だが幾ら倒しても倒し続けても、敵の数が減ったようには思えない。
おそらくは敵側でセバスティアンヌの脅威度判定が上昇し続けており、それに伴い、どんどんと周辺海域から蟹たちが動員される範囲が広がっているのだろう。
ふと、セバスティアンヌの武人としての嗅覚が、戦場の流れが変わったのを感じ取った。
「どうやら大物のお出ましのようだな……!!」
ついこのあいだ、己を真っ二つに割き果たした二対神銀の巨大陸蟹に匹敵する敵の登場を期待して、セバスティアンヌが鋭い犬歯を見せて笑い、舌なめずりをした。
その視線の先では、魔導によって割られて聳え立つ海水の壁を突き破って、今のセバスティアンヌに匹敵するか、さらに巨大な蟹が現れつつあった。
──── あれが統括個体っぽいなあ。
マックスは海を割る魔導と、蟹を集めるフェロモンとテレパシー信号を発する魔導を維持しつつ、
まあ、マックスが本気で魔導を展開すれば、大蟹の軍団をそのまま落とし穴に落とすように虚空の箱庭に送ることもできるのだが……。
実際、ここから離れた海中の別の地点では、集合フェロモンと空間遷移トラップ(海水は選別除外するフィルターを噛ませている)によって、集まる蟹どもを虚空の箱庭に維持した冷凍空間へと直送している。まるでアリ地獄のように。
ここでそうせずにセバスティアンヌに戦場を任せているのは、言わずもがな、彼女のリハビリのためだ。
単なる暴力ではなく、技を用いた闘争をこそ尊ぶ。
であれば、
何せ巨鬼は、戦陣で産湯に浸かり、武を極める中で、戦の中で死んでいくという生粋の戦闘民族なのだから。
それにマックスは、己の落日派としての魔導施術の腕と、己が信じる神の奇跡を信じている。
生まれ変わった彼女は、
偶然か神の導きか出会うことが出来た最高級の素体たちに、現時点で注ぎ込める全てを込めたのだから、そうでなければ困る。
────
マナが豊富な高空にしかいないはずの極光の妖精が、魔法チート転生者の脳髄と縮退炉じみているオーパーツな魔導炉を取り込んで受肉した上に、魔導院落日派の指導と西暦世界の電磁学理論を己の血肉にして生来の魔導にも磨きをかけているから、最近ちょっと洒落にならないレベルで手を付けられなくなっているのは内緒だ……。
さて、マックスが己の血肉を分けた、娘のようなあるいは妹のような半妖精のことに思いを馳せて目を細めているうちに、セバスティアンヌはフィールドボスと思しき巨大蟹との戦闘に入っていた。
魔導によって割られた海水の壁の中から現れたのは、タカアシガニを思わせるシルエットをしたメタリックな巨大蟹だった。
自然直立時の高さはセバスティアンヌと同等か、若干上回る程度。
脚の長さは伸ばせば三間(=約5.4メートル)はあるのではなかろうか。名付けるなら
敵の
それにどうにも、知性面の強化がされているのか、あるいは沈没船か何かから人類種の
これまでは、「敵の蟹どもには武術などないだろうから、
あのような手強そうな相手も居るならば、セバスティアンヌも存分に力を発揮できるであろう。
まだ現状、両者の間合いはかなり離れている。
直接の攻撃が届く距離ではない。
それなのに何故、既に戦闘が始まっているかと言えば、
≪KIIYYYYYY!!!≫
「投石……いや、蟹投げとは猪口才な!!」
その遠距離攻撃手段とは、周囲の大蟹を、長大な鉗脚で掴んで振り回して投げるという、投石器じみた攻撃方法!
水中では水の抵抗により無効な投擲攻撃だが、海底まで空気中に露出したこの状況では有効!
人の重さほどもある大蟹が飛来するのは、まさしく攻城級の攻撃だ!
その蟹投げを受けて、ついにセバスティアンヌの歩みが止まる。
直撃こそしていないが、時間差で放たれた蟹たちが彼女の進路を潰し、さらに魔晶の魔力を暴走させて炸裂して衝撃波を撒き散らして硬直させたのだ。
ここまでセバスティアンヌは敵の大軍をその衝撃力で切り裂いてきたが、それは全て機動による運動量があってこそのもの。
敵中で孤立し、脚を止めた騎兵がどうなるか……。
≪KAAAANNNNNYYYYYY!!!≫
おそらくは「今だ! 掛かれ!」とでも号令をかけたのだろう。
周囲の大蟹の群れが、一斉にセバスティアンヌへと殺到する。
しかも
その間に周囲の蟹たちはまさしく大波のように、足止めされたセバスティアンヌへと押し寄せる。
一匹ずつでは埒が開かないと
蟹たちはセバスティアンヌから離れたところでスクラムを組み、櫓のように自ら積み上がり、小山のようになって進撃してくる。
一番下の個体が潰れようとお構いなしだ!
蟹たちが陣形を駆使し、連携をしている!
指揮個体の有無がこれほど顕著に現れるとは!
…………セバスティアンヌの素体が素体だけに、微妙に
そして怒涛の如く襲い来る、幾つもの動く “蟹の山” がズザザと崩れ、ついにセバスティアンヌは埋まってしまった……。
機動力を奪われた騎兵の末路とは、そういうものだ。
雑兵にたかられ、そして死んでいく……。
だが、セバスティアンヌはその程度でやられるほどの、並みの戦士であるのだろうか?
「
否!
その程度の窮地で死ぬような戦士に、“
連続した動きを旨とする流派であるからこそ。
動きを止められた時の対応手段がある!
動きを止められた窮地を生き延びることこそが、達人の最低条件なればこそ。
特に熟達した使い手は、己の動きが止まった状態から威力を創り出す術にもまた長けている。
それは僅かな身の沈み込み。
または脚を屈する重心崩し。
あるいは総身の微かな躍動。
ありとあらゆる関節の捻り。
それによって生じる運動量を、あるいは角運動量を。
踏み込みにより大地に反射させ、肉体に伝達させ、関節で増幅させ。
威力として放つ!!
「すなわちこれぞ発勁の奥義である! 破ァ!!」
まるで火山が噴火したかのように、セバスティアンヌを封じ込めていた大蟹の山が吹き飛んだ!
ゆるりと脱力して動くセバスティアンヌの動きがピシッと止まるたびに、発勁により蟹の山が吹き飛ばされていく。
そして一度動ける隙間が広がれば、あとはまたセバスティアンヌの独壇場に逆戻りだ!
≪KIIIYYYAAA!!??≫
「蟹よ! きっとお前は優れた指揮官なのだろう! だが武芸者ではなかった! それが貴様の敗因よ!!」
大蟹の山から飛び出したセバスティアンヌが、生得魔法による重力制御と簡易障壁の足場によって宙を駆ける!
そしていよいよセバスティアンヌの接近を止められないと悟った
≪KAAAANNNIIIYY……≫
「惰弱! 貧弱! 軟弱! そこで前に出ぬから、貴様は死ぬのだ!!」
セバスティアンヌが逃亡を許すまじと、大きく如意鉄棍を振りかぶる。
それに対抗し、
≪KIIIYAAAAGGGOOBOBBBOO‼‼‼≫
「我が武芸の前に、かような苦し紛れが通じるか!!」
空中から落ちるセバスティアンヌは、自らを撃ち抜かんとする高圧の棒水を、盾にした
あまつさえ、その反動を回転力に変換し、そこからさらに如意鉄棍の威力へと変換!
……だが、間合いに捉えるには、少し足りない。
いつの間にか子蟹の手によって如意鉄棍の先に装着されていた青龍偃月刀のような刃を足してなお、届かない。
セバスティアンヌの感覚は、海壁の中に退いた
「ふっ、その程度は計算の内よ! 伸びろ! 如意鉄棍!!」
≪GGGAAANNNIIIYYYYY!???≫
セバスティアンヌが空中に足場を展開して、最後の踏み込みとする。
恐るべき大跳躍からの加速、そして化勁による敵威力の吸収と縦回転、それらを余すことなく如意鉄棍の先端に付けた刃に伝えるための空中
如意鉄棍に籠められた【伸縮】の概念が効果を発揮し、間合いがさらに伸びる。
セバスティアンヌの得物の長さすら計算に入れて退避した
生物の大抵の急所は、正中線沿いに存在する。蟹もその例に漏れない。
セバスティアンヌの如意鉄棍(with青龍偃月刀アタッチメント)は、狙い過たず、
「他愛なし……! さあ、では喰い残しを平らげるとしよう」
残心したセバスティアンヌは、最後の踏み込みに使った簡易障壁を解除すると、統制を失って混乱する蟹の軍勢のもとへと落下した。
その途中で壁のようにほぼ垂直に生み出した簡易障壁を四つの歩脚で蹴ると、砲弾のように横からの軌道で蟹の軍勢に突入した!
そこからはまさに蹂躙であった。
戦場でのリハビリのおかげで、セバスティアンヌの
一方で統率個体を失い、烏合の衆になり果てた蟹どもには、勝ちの目は少しも残っていない。
ましてや、セバスティアンヌのリハビリという目的を果たしたマックスが、ついに周辺海域の掃討に本腰を入れ始めたのだ。
集合フェロモンと精神感応を用いて誘因し <空間遷移> により転送するというトラップが全力稼働すれば、落日派教授バンドゥード卿から申しつけられた、海中の魔宮までの露払いも、文字通り時間の問題だ。
マックスは腕組みして頷いた。
「ん。勝ったな。魔宮本体はバンドゥード卿に任せるとして、そろそろお呼び出しできるように先触れを飛ばしておくか」
ミッションクリアだ!
◆
タカアシガニの学名:Macrocheira kaempferiに、ラテン語の巨大な(ingens)を合わせた学名チックな造語。Macrocheiraは『大きなはさみ』を意味するため、『
広大な海域を統括する個体。いわゆるフィールドボス(実際は他にも何匹か居たが、他のはマックス君のアリ地獄トラップに呑み込まれている)。統率系技能が高い。近接戦闘も弱いわけではないのだが、
魔宮の中には近衛に相当する武力特化の蟹や、女王に相当する増殖特化の蟹がたぶん居るし、蟹状態からさらに変態する適応変化に特化した個体も居ると思われる。
◆中国武術的なアレ(独自設定)
かつて東方から渡ってきた武芸者が伝えた武術の理……という独自設定。
巨鬼が中国武術使って震脚とか発勁とかしたらカッコよくね? というロマンの産物である。セバスティアンヌ女史に属性盛りすぎ? こういうのは盛れば盛るほど良いのです……(火力信者)。
原作では東方の武術など特に今のところ言及されていない(と思う)が、中国武術相当の武術が東にあればやはり長い歴史があるだろうことと、巨鬼の種族的な文化(強者が多義的に好き)を合わせると、どこかで混淆するのもあり得なくもないと解釈した。多分大陸の東には、『仙』と呼ばれる
===
次回はリザルトというかバンドゥード卿への引継ぎと講評、そして御仕着せの侍女服。え、そら夜会に連れてくときはセバスティアンヌ女史にはそれらしい服を着てもらうよ? 脚を畳んで重力制御で浮いて細かい移動は子蟹たちに持ち上げさせれば、多分なんとか室内にも行けるだろうし。
原作WEB版最新話(https://ncode.syosetu.com/n4811fg/226/)では冒険者たちの奮戦が! ああー、イイ。こういう互いの役割がかみ合って強敵を倒すのがTRPGの醍醐味。 ……しかし薬師殿と造成魔導師殿の魔法使い連中のデバフがエグイ。このような連携による封殺は、セバスティアンヌ女史みたいな巨大で強大な敵への対処方法のお手本ですね。
(なおマックス君チームは “
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2022.02.26追記
◆
おおよその死角はエミュレータで時間加圧して設計したときに対応可能にしてあるらしい。
1.甲羅の下全般
オーガの腰=蟹の頭部の複眼の
2.脚の陰
脚の先端等にある感覚器官(表面の感覚毛&関節の弦音器官(chordotonal organ))により気流や振動などを
Q.死角に入られたらどうしますか?
A.セバスティアンヌ女史「脚の間に入られたら上から棍で叩くか、近い脚を浮かせてその脚による連続刺突で串刺しにする。真下に入られたときは
マックス君「カニ・カポエイラ……!?」
セバスティアンヌ女史「そもそもこの巨体に肉薄できる時点で頭のネジが飛んでいる上に技量か身体能力が突出した相当の使い手だろうから、どの程度通じるか分からんがな(そんな敵ばかりならどんなにいいだろうか……!)。基本的には、この身はほぼ騎兵の分類になるだろうから、立ち止まらず引き離して、再度突撃するべきだろう」
Q.そういえば蟹って割とすぐ脚を切り離しますけど、衝撃で自切したりは?
A.セバスティアンヌ女史「自切反射も含めて体内作用はあらかた掌握済み。要は気合いだ」
マックス君「四本しか歩脚がないのに自切するとか意味わからんしな。そもそも自切は逃げるためのものなんだから、十分に成長した巨蟹鬼にはニーズ的にもコスト的にも不要な機能だし。それに関節の可動域拡大と柔軟強靭化と今後の成長のために、オーガの内骨格的な関節構造も複合させてるから、実際はそう簡単に自切できなくなってる」
Q.カニビームは?
A.セバスティアンヌ女史「出せるのか?」
マックス君「まあそのうち? 蟹側の魔晶から出力するためのアタッチメントを開発して着ける構想はある。と言っても私かターニャが乗ればそれで十分に砲台だしなー」