フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
前話あとがきに『◆
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◆前話
陸蟹としては海蟹の跳梁跋扈に反対である。
──── ゆえに殲滅する。した。
海中に広がっていた蟹の軍勢を倒し、それらの遺骸を虚空の箱庭に収納した私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンと、その従者候補の
その私たちはいま、先の蟹どもの発生源である海中魔宮の直上の空に、物理障壁の足場を作って浮かんでいた。
海風が冷たく凍え、身を切る寒さだ。
だいぶ沖合に来ても、流氷が非常に広い範囲を覆っているのは変わらない。
まったく、蟹どもも春まで大人しくしておけってんだ。
<
内心で悪態をつきつつ半透明の物理障壁から見下ろした先には、魔法で海水を排斥して露出させた魔宮の領域があった。
魔法によって海水を排除して、こちらが攻めやすいように、かつ、内部の敵が干上がるようにという作戦だ。
ちなみにこの魔導は、先ほどまでモーセのように海を割って道を作っていた魔導を、再利用して変形させたものである。
さらに言えば、このように範囲を絞れば水潮神の勘気に触れる可能性も低くなるだろうという配慮でもある。
大規模な現実改変において効率を追求するには、神群への配慮が必要不可欠だ。
さて、これで、海水の浮力を当てにした生態であろう海中魔宮の怪物たちは、俎板の鯉とまではいかずとも、上手くいけば大半を無力化できるだろう。
もちろん、魔宮の中は異空間なので、周囲の水が引いても、内部は海水が満ちたまま、ということも考えられるが、まずはやってみないと始まらないしな。
その目当ての魔宮だが……。
「砕けた蟹の亡骸が積み上がって出来ているのか……? どう見る? 雇い主候補殿」
「おそらくは
海底に積み上がる藻に覆われた白い殻の集積物、それが海中魔宮の外観であった。
魔宮の現実歪曲作用により空間ごとコピペするように増殖したにしても、その元になったと思われる砕けた殻の量は尋常ではなさそうだった。
恐らくは積み重ねられた被食者としての怨念とか無念とかそういうアレが魔素の集積を呼び、ここを魔宮にしたのだろう。
討伐された
「ゴミ捨てついでにここが魔宮化すれば、さらに蟹の数も増えて一石二鳥、ということだったのかもしれん」
ひょっとしてこれは、蟹の養殖のために造られた、天然ではない亜竜謹製の魔宮……?
あの
それとも一部の年経た亜竜種は、こういう農耕じみたことを自然とやるのだろうか。
「
「おーい、マックス殿? それでいつまでここでこうしていればいいんだ。今のこの身は、魔宮のような瘴気に満ちた場所にも入っていけるのだろう? このまま攻略しに入ってはいかんのか」
思考の海に沈みかけた私を、セバスティアンヌ女史の声が引き戻した。
「ん……ああ、すまない。魔宮本体の攻略は、うちの学閥の教授に任せるから手をつけないようにな」
「むぅ。承知した。だが、それならせめて何か摘まめるものは出ないのか? 口さみしいぞ」
「おっと。失礼、気が利かなかったね。すまんすまん」
何か出すにしても片手で持てるものが良いな。
というわけで、取り出しましたるは、カニカツバーガー~~!
大蟹の身を切って下味をつけて衣をつけて揚げたものと野菜類をバンズで挟んだものだ。
自家製ピクルスがアクセントだ。
とろり濃厚チーズとの組み合わせが、冷えた身体にはよく沁みる!
カニクリーム
「ほほー、食べやすいし身体が温まるな。これは良い」
「……その大きさだと一口だな、流石は巨鬼」
「こんなうまいもの、蟹の方の口から食べさせるのは惜しいしな。うむ、おかわり!」
味覚の繊細さは上半身の巨鬼の口の方が上だ。
下半身の蟹の口には蟹の口なりの味覚があるのだが、実際は腰元から伸びる触角の方が風味が分かったりもする。
一応、蟹の口に備わった顎脚にも、五指を備えた手を分化させているし、そちらの方が細かく器用に動かせるはずだ。いっそ刺繍か何かに手を出してみては?
そんなことを話しつつ、虚空の箱庭から追加のカニクリームコロッケバーガーを取り出して渡してやる。
「ほら、追加だ。……だが上半身の方の口から食べるだけだと足りなくなるぞ? なんせそれだけの巨体を支えなければならないのだからな」
周辺海域で掃討した大蟹たちがあのサイズの身体を維持できていたのは、正直なところ、魔宮からの魔素供給で賄っていたからに他ならない。
そうでなければ周辺の食べ物を喰いつくしてもなお足りずに共食いして自滅していたはずだ。
性能的には成長限界はないが、実質的には食事によって取得できるカロリーによって成長限界が訪れるはずだった。
「一日中食べ続けるわけにもいかんだろう?
蟹の口からも食べるのに慣れた方が良い」
「無限に食べられるなら願ったり叶ったりだが?」
美食家的にはそうしたいのだろうが、巨鬼の欲求は食欲のみではない。
セバスティアンヌ女史も、それは例外ではない。
「いやいや、セバスティアンヌ殿……それじゃあ戦う暇も稽古の暇もなくなるぞ。しかもこれからどんどん身体は大きくなるから食べねばならぬ量も増える」
「おっと、それは困る。解決策はないのか?」
実はある。
一つは蟹の口からもモリモリ食べること。
もう一つは……
「まあ、私と契約して有り余る魔力を供給すれば解決するが」
というよりも、最初からセバスティアンヌ女史に私と護衛契約してもらうためにワザと
魔力貯蔵量に優れた魔導師とともに居ないと十全に
「であれば契約させてもらおう。貴公とならば相性も良さそうだ」
そんな思惑を見透かしてか、あるいは気にしないのか、セバスティアンヌ女史はあっさりと契約を受諾した。
「……そうか。ありがとう、契約を受けてくれて」
「なぁに、問題ない。こちらは闘って我が武を供する、そちらは魔力や食事を供する。そういうことであろう? よくある傭兵契約だ」
「まあ概ねはその認識でいい、不自由はさせないとも。付け加えれば、筆頭従者……というか私設護衛として会合にもついてきてくれ。立っているだけでいい」
「むぅ……供回りか……男の真似事は苦手なのだが」
西暦世界でも宝飾品のように華美に飾られたフットマンが社交界に連れられていたように、美しい側仕えを披露するのはライン三重帝国における貴族世界でもステータスである。
そして
巨大すぎて小回りが利かないという面では従者としての役割は果たせないかもしれないが、それは子蟹か私のホムンクルスにでもやらせればよかろうし。
子蟹だって、精神リンク魔法を辿って私が操作しても良いわけだし。
「…………むむむ。会合とやらの料理は食べられるのか?」
「もちろん。私が会場から <空間遷移> で護衛や従僕の控室に送ってやろう」
会場によっては魔導妨害が酷い場合もあるだろうが、そんな中でも見咎められず転移魔法を使うのは、私にとっても良い訓練になる。腕の見せ所だ。
転移魔法が使えないときは、普通に <見えざる手> に適当な使用人の幻影を被せて浮かせて運べば良いし。
「むむむ。……では、あとは着いていった会合で他の貴族の護衛に腕が立ちそうなのが目についたら、そいつとの立ち合いを手配してもらっても?」
「確約は出来ないが、善処しよう」
余人の目を入れない決闘の場なら、本来は帝国の許可が必要な四肢再生術式も使ってもバレないだろうから、腕が飛ぼうが何しようが私が治せば無かったことに出来るしな。
セバスティアンヌ女史が目をつけるほどの武人であれば、その矜持ゆえに闘いから逃げることもあるまいし。
この条件も何とかできる公算は高い。
「ふーむ、それなら……」
「ついでに言うと、衣装はこちらの指定のものを着けてもらうからな」
「……いいだろう! ではそういう感じで契約を結ぶとしよう」
よーし、言質は取ったぞ~~!
ふふふ、近衛風の衣装とか、カッコかわいく着飾ってやるんだ……!!
「では早速、魔力供給のパスを通す。念のためマーカーとして装身具を身に着けてもらいたいが……」
「脱皮の時に邪魔にならないところというと限られているだろう?」
「まあな。無難に耳たぶにピアスでも通すか」
「それでいい」
「じゃあ失礼して」
先ほど蹴散らして回収した蟹たちの亡骸に含まれていた神銀などの魔導合金を抽出して、簡素なピアスを創り、マーカーとして仕立て上げる。
ついでに幾つかの魔導具としての機能も持たせることとする。
それを鋭く尖らせ強化して、
彼女はそれを身じろぎの一つすらせずに受け入れた。
ピアスをつけるために至近まで飛び上がった私と視線が交わる。
「これでよし。次は……」
<
「……む。何かが通じた感覚があるな。これが魔力経路か」
「力が満ちるのが分かるかい? これで貴殿の身体維持に支障はなくなった。私の寿命なんて何とでもなるし、やがて貴殿のその身が大霊峰の巨人どもに伍するまででも付き合うさ」
あの美しい死闘を演じた君ならば、きっともっと美しいものを見せてくれるだろうと期待している。
「それは楽しみだな! この身になっては佳き敵手を得るのに苦労しそうだと思っていたが、やがて大霊峰の巨人とやりあえるのであれば、我が人生の闘争に張り合いが出るというものだ」
実際のところ、強くなり過ぎた
血沸き肉躍る闘争を求め、技量を高めた果てにあるのは、好敵手すら滅多にいない孤高の飢えだ。
彼女たちは、技量を高めるほどに、満足から遠ざかるという矛盾を抱えている。
だから彼女たちは、自分たちを楽しませてくれる好敵手をことのほか大事にする文化を持つという。
「ではまあ末永い付き合いになるよう互いに努力しよう。
……コンゴトモヨロシク、セバスティアンヌ殿」
「ああ、よろしく願う。マックス殿」
さてそれでは、欲しいと思っていた前衛系護衛── しかも
ちょうど先方からもこちらへ来る準備が整ったということで思念通話が返ってきた。
バンドゥード卿の系列で学んでいる我が娘たる極光の半妖精のターニャも向こうにいるようだ。
「では <空間遷移> の門を開く。……くれぐれも失礼のないようにな」
「ああ、心得ているとも」
「頼んだぞ? いくらバンドゥード卿が、闘争相手として魅力的に映っても、いきなり攻撃を仕掛けてくれるなよ?」
「信用したまえよ、雇い主殿!」
……ネタ振りじゃないからな??
<
そして、仮面の教授が現れた。
かつて私の存在を
ふたりは空間の解れから現れて、ふうわりと空中に展開したこの足場の上に着地した。
「マックス君、露払い御苦労でした」
「おかあさま、お疲れ様でしたわね? きちんとお留守番できましたのよ? 褒めてくださいます?」
「は。ご依頼は果たしましてございます。
……それとターニャ、置いていったのをそんなに拗ねないでくれたまえよ」
同じ閥とはいえ系列の違う教授であるバンドゥード卿を相手に、私は畏まって答える。
そんな中、ターニャがヒラリと飛んできて纏わりつく。
置いていったのは仕方なかろうさ、魔素の汚染具合によっては半妖精の君にはつらい環境なのだから。
それにバンドゥード卿の側の準備の手伝いもあっただろうに。
「ええ、ではこれにて現地検収も完了ということで。
報酬として、既に禁書庫の
「おお! 早速手配いただきありがとうございます……!」
バンドゥード卿から渡された割符を受け取る。
禁書庫の魔剣! 魂への作用の研究として申し分ない題材だ。
「善き出会いもあったようですね。何よりです」
そしてバンドゥード卿は、私の後ろに控える
自らが信仰する “もったいないおばけ” の加護による仕上げありきとはいえ、生命を玩弄する落日派魔導師見習いとして現状持てる技量を注ぎ込んだ自信作でもある。
素直に褒められると面映ゆい。内心の照れを出さぬように上手く謙遜して返せただろうか? 少し自信がない。
さてそれでは、簡単に状況を説明して、この場を引き継ぐことにしよう。
一応、スタンピード自体は継続しているはずだから、バンドゥード卿のオーダーには従うことができているはずだ。
あとは魔宮の専門家であるバンドゥード卿が、何とでも良いようにしてくれるだろう。
そうして引継ぎがひと段落して、ターニャが話しかけてきた。
「それで、おかあさま。こちらが新しい護衛の方になりますの?」
「ああ、そうなる」
「じゃあ、もうわたくしが従者の真似事をしなくても良くなりますのね? 最初は目新しくて良かったんですけど、最近少し面倒でしたもの……」
「そういうことだ。今までありがとうな」
「いえいえ。案外早く後任が見つかって何よりですわ」
ターニャには従者関係では面倒を掛けたから、何か埋め合わせが必要だな。
こんど一曲 “妖精とのふしぎなおどり” を踊るのをねだられたら応じてやるか……。
さてそれじゃあターニャにセバスティアンヌ女史を紹介しないとな。
……そういえば後ろは静かだけど、早速立場をわきまえてくれているのだろうか?
まあセバスティアンヌ女史の腕なら、いままでに貴種の護衛の経験もないわけではないだろうし……。
と、振り返ってみれば────
「…………ほう……なるほど……ふむ……。マックス殿といい、魔法使いというのも案外侮れぬ……」
「おやおや? この蟹は貴女の子供ですか、かわいいですね」
って、セバスティアンヌ女史がバンドゥード卿を品定めして無意識に
バンドゥード卿はバンドゥード卿で新しい検体を見るような目でセバスティアンヌ女史の子蟹を見てるゥーーー!!?
あああああああああああ!! ふたりとも、そういうのは後にしてくれ/ください!?
バンドゥード卿のコートや仮面の下の身体は、ふさふさモフモフしているらしい。2000年は戦えるとか何とか。
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それはそれとして原作のコミカライズが発表されたり、2022/02/25発売の書籍版5巻が大量書下ろしだったりして、やったぜ! って感じです。東方征伐関係とか貴族・領地関係の設定も沢山補完されて私得以外の何物でもない。
コミカライズ……正直、二次創作でちょろっと描写するのに中世の服飾回りの資料を調べてみてそれでも分からーん! となってマックス君の舞踏会の服とか『シュッとしてる』みたいな描写でお茶を濁したのに、コミカライズとか担当漫画家の内田テモ先生資料の山に潰されてしまわない? 大丈夫なのかしらと心配しつつ期待しつつ。応援してます!
そして書籍版5巻において明らかになったウビオルム伯爵領の州都が “ケルニア” で、ベアーリンから直線距離で約500km……。まあ、やっぱりケルンですよね。……ってガチで要衝中の要衝じゃねーか!! アラ・ウビオールムということで、メタ的にはアグリッピナ(ローマ皇帝クラウディウスの妻)繋がりだったわけかー。それにしても外国子女を叙爵して与えるような場所じゃないにも関わらず与えられてしまうアグリッピナ氏の優秀さよ……。
あと巻末のアグリッピナ氏のキャラ紙の特性欄ェ……。まあ確かに時間の秘密に触れようとしたら、角度に潜む猟犬に目を付けられるのは必然という納得もあったり。でもそうするとアグリッピナ氏をして差し違える覚悟が必要になるラ卿は、角度の猟犬ごと凍らせられる超抜級概念魔導の使い手なのだろうということになり、やっぱり魔導院は人外魔境だなあとの思いを新たにするなど。
今回の書籍5巻のアグリッピナ氏の戦力を鑑みるに、当作のマックス君邪神官ルート(HS1.5)では、アグリッピナ氏はエーリヒ君が近くに居て足手まといだったので本領発揮できないうちに魔導 対 神威の相性で出し抜かれてしまった、というあたりの解釈をしとけばなんとかあり得るラインに収まるか……?
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WEB最新話も更新されてますね! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/227/
第二次東方征伐、かなり地獄めいた戦争だったのだろうなあ……。従軍した貴族的には死戯卿の力を借りるのにも、倫理がなんぼのもんじゃいって感じだろうし。そして理想に燃え、技術があっても、放逐されてしまっては、
ところで当作世界線では落日派がマックス君のおかげで種苗ビジネスなどのぶっとい金脈を獲得しているのですが……。あれ? 死戯卿が反乱勢力に与する前に資金提供できちゃう……?