フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
前話の後書きで
あと第2次東方征伐はゲリラ戦めいていたらしいので(→ https://mobile.twitter.com/schuld3157/status/1498338456891985920)、馬肢人の弓兵(乙嫁語りのアミルさんを人馬一体にしたような感じ?)が土地勘生かして高所から襲ってきたり、乾燥に強い蠍人とかが夜襲暗殺してきて帝国側は部隊単位で被害を被ったりとかしたのかなあ、などと妄想したり。
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◆前話
魔力供給/近侍護衛の相互契約を締結! バンドゥード卿(+極光の半妖精ターニャ)もやってきたぞ!
セバスティアンヌ女史「魔力供給がなかった場合の成長限界はどの程度なのだ?」
マックス君「蟹の口からもモリモリ食べる前提だけど、君くらいの大きさまでなら普通に成長できる設計だ」
セバスティアンヌ女史「だが私は物を食べるのは上の口からだけと決めている」(キリッ)
マックス君「そこが誤算だったのだよな~。君のサイズだと上の口からだけでは現状維持もちょっと厳しい。成長するにも子蟹を増やすにも足りないどころか、自己貪食作用で縮みかねん」
セバスティアンヌ女史「貴公からの魔力供給があるとどうなるんだ?」
マックス君「私からパスを繋げば、子蟹へのエネルギー供給も軍勢規模で賄えるし、君自身が丘陵級のサイズまで大きくなってもまだ余裕ー」
バンドゥード卿が生命魔導的な意味でセバスティアンヌ女史とその身体にしがみつく子蟹を品定めし、一方でセバスティアンヌ女史が武力的な意味でバンドゥード卿を品定めして、張り詰めた空気が漂う冬の氷海の上空。
そこに浮かぶ物理障壁の足場の上で、私はたらりと冷や汗を流す。
ひぃ、早速問題発生か?
ま、まあいきなり殴りかからなかっただけでも良しとしよう。うん。
私の内心を知ってか知らずか、セバスティアンヌ女史が戦意を隠さずに口を開く。
「……バンドゥード卿とおっしゃったか。
我が名は、ウラガン部族 “
相当な武人とお見受けする。どうか、一手、御指南願えまいか」
「ええ、構いませんよ」
バンドゥード卿はそれを快諾。
あわあわと焦る私を差し置いて、
間合いは、互いの身長を合わせた程度しか離れていない、
私は二人が落ちたりしないように、足場にしている物理障壁の広さと強度を増させた。……どちらかの踏み込みで砕けることがないように、でもある。
ちなみにターニャは既に上空へ退避済みだ。
まさに高みの見物というわけだね。
目端の利くことだ。
さて、セバスティアンヌ女史は如意鉄棍を上段に構え振り下ろしの姿勢。
四つの
さらに歩脚を縮めて身を沈め、いつでも飛び掛かれるようにバネを蓄える。
「……」
「……」
対するバンドゥード卿はあくまで自然体の構え。
まるで歓迎するように緩く開いた両腕を垂らし、掌は前に向けたまま。
お互いに隙を探っているのか、両者が見つめ合うことしばし……。
「無手でいいのか? 魔導師殿」
「来ないのですか? 巨鬼の戦士」
セバスティアンヌ女史が確認を兼ねた挑発。“得物を使わぬとは舐められたものだな” と。
バンドゥード卿も小首をかしげて挑発。“お前は臆病者か?” と。
もちろんセバスティアンヌ女史は安い挑発だと分かっている。
だが、そうまで言われれば乗ってやるのも一興。
彼女が動く。
「ハィヤッ!!」
蓄えたバネを解放し、その重量級の巨体に似合わぬ俊敏さで、大きく踏み出す。
その一歩で、二人の間の距離は埋まった。
セバスティアンヌ女史が持つ如意鉄棍は、パイクのような長射程の長柄武器だ。
つまり、距離が縮まったとはいえ、まだ棍の間合いであって、無手の間合いにはなっていない。
先手は得物を振るうセバスティアンヌ女史が取った。
躍動。
唸りをあげて、踏み込みで生まれた運動量の全てを乗せた振り下ろしの一撃が放たれた。
バンドゥード卿がそれに対応する。
「いい一撃です。しかし、基底現実を超越しなければ私には届きませんよ?」
バンドゥード卿の動きは私にも見えたが、しかし理解しがたい精度だった。
それはまるで彼だけが違う時間の流れに居るかのようですらあった。
いや、恐らくは限界まで練られた肉体が、神経が、常識を置き去りにするような速度を実現しているのだ。
それともあるいは、己の時間を加速させているのだろうか?
魔宮においては、基底現実の法則が狂うことは有名な話だ。
空間は増殖し、時間流は乱れに乱れるという。
であれば、“探窟卿” とまで呼ばれる魔宮研究の第一人者であるバンドゥード卿であれば、そのような魔宮の作用を再現できていてもおかしくはない。
バンドゥード卿は振り下ろされた棍をそっと押すようにして、最小限の力と動きでその軌道を流した。
如意鉄棍がバンドゥード卿の隣を虚しく叩いて、その反動で跳ね上がろうとする。
だが、それをバンドゥード卿がもう一度ゆるりと押して軌道を変える。
鉄棍が大きく外へと弾かれた。
「!!? おおッ絶技なりや!」
セバスティアンヌ女史が喜色も
だが、崩れるまでには至らない。
セバスティアンヌ女史の脚の数が、不安定な二本足のままであればそれに釣られて体勢を崩したであろうが、今はそうではない。
巨蟹由来の4つの歩脚はその程度で揺るがないのだ。
「知っていますか? 魔宮では滝が逆さに落ちるのですよ」
だがそれは、重力が下を向いていることが前提の話。
“探窟卿” たるバンドゥード卿の何らかの魔法が作用し、現実を改変。重力の向きが変わる。
セバスティアンヌ女史が、宙へと落ちる……! 重力投げの絶技だ。
巨体が、浮いた。
「なんとォ!!」
「おや。そちらも世界の重さの法則を操るのですね」
だがセバスティアンヌ女史の体内魔晶にも重力制御の魔法は刻まれている。
重力操作を本能的に発動させ、相殺。
浮かび上がった己の巨体を、セバスティアンヌ女史は再び落下させた。
ズン、と足場となっていた物理障壁に落着。
「……」
「……」
一瞬……間合いの内側で視線を交わす。
……が、両者同時に構えを解いた。
お互いにダメージはないが、もともと一手という約束だ。
「では確かに一手指南しました。折角ですのでその生得魔法の重力操作、もっと極めてみてはいかがでしょう?」
「……あい
「ええ、機会がありましたらお相手しましょう」
約束の “一手” の応酬が終わり、バンドゥード卿とセバスティアンヌ女史は互いに離れた。
どうやら、気は済んだらしい……。
見ていた私はほっと胸をなでおろした。
まったく……心臓に悪い。
大事にならずに本当に良かった……。
退避していた上空から戻ってきたターニャが、私の傍らに浮かぶ。
そのターニャはと言えば、極光の翅の残滓を背から散らしながら、そのオーロラ以上に目を輝かせていた。
「おおー、スティーは凄いですのね! うちのお師匠にそこまで食い下がれるなんて!」
「むしろ
「そうなんですの? 教授ならそのくらいできるのかと思ってましたわ」
いや、普通は魔導師って、そんなに前衛張って戦えないからね?
……まあ落日派は、肉体賦活術式の多用によってスペックのゴリ押しが利くけどさあ。
確かに日ごろから自分の肉体を弄ってるおかげで痛覚耐性もあるし、ケガや欠損が多少あっても魔法の使用には問題ないような輩も落日派には多いし、近接戦闘もやれなくはない、と言えよう。私も含めてね。
それにしたって突き抜けた実力だよ、バンドゥード卿は……。
流石は教授位を拝命する凄腕の魔導師、ということか。
やはり魔導院の教授は化け物揃いというのは本当だということだろう。
── もちろん本気でやり合ったときに、私が作り上げた
ところで……。
「なあターニャ。“スティー” ってのは?」
「“セバスティアンヌ” じゃあ、長すぎて舌を噛みそうですもの。
「ではまた三日後に転移で迎えに来ればいいのですね? バンドゥード卿」
「ええ。お手間を掛けますがよろしくお願いしますね、マックス君」
「それと念のための確認ですが……、海水を退けて作った魔宮までの道は本当に崩してしまっても良いのですか?」
「はい、やはりサンプルを観察するには、自然に近い状態が望ましいので」
確かに私の魔導が残っていると計測に支障をきたしそうな気はする。
まあ潜るバンドゥード卿本人が良いというなら海水を退けたまま維持しているこの通路は、崩しても良いのだろう。
ターニャも半妖精として物理の相からズレれば問題ないだろうし、魔宮の瘴気に対応するための術式だって教えているから、海水が満ちたところで、バンドゥード卿に同行することは出来るだろうし。
「じゃあまた三日後に。ターニャもバンドゥード卿の足を引っ張らないようにな」
「はーい、分かっていますわ。おかあさまもスティーも、またあとでいっぱいお話しましょうね!」
「うむ、マックス殿のことはこちらに任せておけ」
ターニャにも挨拶をして送り出す。
「では行きましょう。深淵が私たちを待っています」
「はいお師匠様。
おかあさま、それではまた!」
バンドゥード卿とターニャが、渦状に抉られた海水が作り出す巨大な
自然落下する彼らの姿はやがて小さくなり、一番下……死蟹の殻が海底に積もってできた魔宮の前へと着地。
怪我もなくうまく着地できたのか、そのまま魔宮の中へと入っていった。
「では術式を解除する。<解> !!」
それを見届けた私は、海水を押し退けている術式を徐々に掻き消した。
「ほほう。これはこれで大変な見ものだな、雇い主殿!」
「ああ、滅多なことでは見られまいよ」
まるで巨大な透明の柱を引き抜くように、海水が下から轟々と満ちていく。
最下層に再び水が満ちても、魔法の解除はゆっくりと行う。
支えを失った海水が、上から一気に波濤の滝になって崩れると、その反動で津波になりかねないからだ。
ゆっくりゆったりを心掛けて復元させているから、それほど激しい動きではないが、これだけスケールが大きいと見ごたえがある。
しばし時間が経ち、海を穿っていた魔法もすべて解除され、海水と流氷が元通りに戻った。
「さて、それじゃあ三日後まで……」
「蟹三昧であるな? 楽しみだなあ……じゅるり」
「それもあるが並行して回収した大蟹の解体や分別、再利用だな」
「……あの量をか」
「だからあんまり砕くなって言ったんだよ……」
さあて、じゃあこっちはこっちで後始末だ。
虚空の箱庭に回収したザコ大蟹の解体などなど、仕事は山積みなんだぜー。
特にセバスティアンヌ女史には、テンション上がって破砕したやつらの処理を自分でやってもらうぜ!
「むぅ……」
「蟹の他にもいろいろ混獲しちまったものもあるしさー、
「本当だな? きっとだぞ? 信じるぞ、マックス殿」
安心しなよ。二言はないからさ。
……まあ、味の保証まではしないが。
海底アリ地獄でトラップした中には、有毒のもあるかもしれないが、少しだけならセバスティアンヌ女史の巨体ゆえに致死量に行かないだろうし、毒素分解能力も強化してるから中毒はするまい。
むしろ、
「とにかく、だ。虚空の箱庭に案内しよう。ああ、セバスティアンヌ殿用の屋敷も作らねばだな」
サイズが合わねえからな、流石に。
「おお、
「貴殿は私の護衛なんだから泊まり込み用の宿を手配するのは雇い主として当然だろう」
えーと、虚空の箱庭は汚染魔素の充満した重霊地だけど、セバスティアンヌ女史が通りそうなところは魔素的にクリーンにして、もし万が一別区画に入っても、汚染魔素の整流蓄積機能が備わっているから魔物化の心配はない。大丈夫、大丈夫。
じゃあ自慢の箱庭にご案内しますかねー!
──── そして三日後。
海中魔宮の位置へセバスティアンヌ女史を従えて <空間遷移> で迎えに行くと、そこにはげんなりしたターニャと、仮面で見えないものの非常に満足げなバンドゥード卿が波に揺れる流氷の上に立っていた。
周辺海域から、魔宮の気配も失せている。
バンドゥード卿の表情を見るに、どうやら良いサンプルなりデータなりを得られた、ということだろう。
一方のターニャの表情を見るに、それなり以上に大変だったようだが。
さて、私の方はと言えば、大蟹の解体に次ぐ解体で相当量の素材が溜まったし、特に魔晶が大量に手に入ったので、魔導具制作の研究が捗りそうだ。
セバスティアンヌ女史は解体ばかりでグロッキーだが……。
気分転換にと彼女の御仕着せを作りに帝都に飛んだのも、上手い気分転換にはならなかったようだし。
やはり巨蟹鬼たる者、戦わなければ欲求は果たせないと見える。
手っ取り早く、帝都の冒険者ギルドに対戦相手募集の依頼でも出してみるかな……?
集まるかどうかは分からないが。
それはともかく、たくさん手に入った魔晶でどんな魔導具を研究しようか。
いや、折角だから、この辺の領地の代官に海中魔宮討滅を手土産に折衝してみるか。
海水からカリやリンなどの肥料原料を抽出する魔法や、あるいは金などの微量溶存元素を抽出する魔法、そういうことが出来る魔法を封じた魔導具の製作と、そしてそれらの工業化について。海辺で研究したいことは多いし、それらの研究をするための簡易拠点を置かせてもらえないか頼んでみるとしよう。
……それが認められなかったら、沖合の海底を魔術で隆起させて人工島でも作って、そこで研究するつもりだ。
海水鉱山をはじめとする研究を諦めるつもりはない。
種苗ビジネスを大きく実らせ巨大利権に育て上げるためには、肥料の工業生産も重要だからね!
蟹編は今話まででひと段落。異形系な巨女(単為生殖可能)が出せて大満足……。
あと「ヘンダーソン氏の福音を」の二次創作するならやっぱりオリジナル種族出したいですよねえへへへへむしろノルマだよ! 的なアレでもありました。
ではようやくですが次から原作書籍版4巻のセス嬢御家騒動編に入っていければと思います。
なおこの騒動におけるマックス君の立ち位置は、どちらかというと帝室側(エールストライヒ公爵家側)になる予定。
エーリヒ君なりミカくんちゃんに対して、マックス君陣営がどのようにかち合うかというと、それは未定な状態ですが……。