フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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今回から時系列でいうところの「エーリヒ君13歳の春(初春:天覧馬揃え、春:市場で駒屋、晩春:セス嬢家出)」に入ります。

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◆前話
マックス君「海水から肥料成分と真水と塩を大量に取得できます! マグネシウム、カルシウム、リチウム、ウラン、銀、金などなども、ついでに回収可能です」
魔導院・帝国政府「でかした!」
マックス君「ただし現状だと、軌道に乗るまで数カ月は最低でも並みの魔導師100人分くらい張り付けなきゃ魔力が足りません」
魔導院・帝国政府「いやそんだけの魔導師を張り付けるならもっと他にさせることあるわ。うーん、この……」

マックス君(まあ、小規模化・魔導具化して、海水じゃなくて鉱山廃水にも応用しようとかいう研究自体はしてるし、遠海に自分用の工場は確保するつもりだケド)

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マックス君の魔法チートによるインフラ・生産の増強は、無血帝(マルティンⅠ世)魔導宮中伯(ウビオルム伯)体制になるまではあんまり陽の目は見ない感じです(マックス君がまだ聴講生なのと、竜騎帝の予算配分傾向により)。
無血帝ルートじゃなくて、ヘンダーソンスケールの慈愛帝ルートの場合? エーリヒ君(セス嬢眷属)が軍政、マックス君(マルティン先生眷属)がNAISEI(&ビックリドッキリメカ担当)で、ライン三重帝国の版図をイケイケでめっちゃ広げようとする(のをセス嬢に止められる)んじゃないかな……。
 


再仕官 編
18/n クエスト:家出令嬢を連れ戻せ!-1(毒鍋酩酊と、天上人からの招待状)


 

 冬が去り、春になった。

 

「そーいえば、マックス殿。天覧馬揃えとやらがあるのであろ?」

 

 虚空の箱庭で一堂に会しての食事の折り、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)のセバスティアンヌ女史がそう切り出した。

 若干、その口調は緩やかで艶めいており、まるで酔っているようだ。

 

「んー、よくご存じでー」

 

「ターニャが教えてくれたぞ」

 

「はーい! 私がスティーに教えましたー! きゃはは!」

 

 対する魔法チート転生者にして “も教” を奉じる邪教徒であるマックスの口調も、どことなく酩酊したように胡乱気な様子であるし。

 極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)のターニャの様子は明らかに酔客のそれだ。

 

 三者それぞれに強力な代謝能力を備えるため── マックスとターニャは落日派としての身体恒常性維持術式により、またセバスティアンヌはその巨体と強化された代謝能力により── 普通のアルコールでは酔うことなどないはずなのだが……。

 

 彼らが囲む食卓(セバスティアンヌに合わせて非常に脚が長い卓だ)を見れば、そこには大きな鍋で煮込まれる料理が。

 給仕役のホムンクルスが、三人の皿が空になるたびに追加をよそっているが、どうやら複数人でつつく形式の鍋料理のようだ。

 

 ただしその具は、食材に詳しい者からすれば正気の沙汰ではなかった。

 

 春のキノコであるアミガサタケ(モリーユ)はまだいい。

 だが、その他に入っているものの多くは、有毒とされるキノコであった。

 そしてついでのように放り込まれているトリカブトやベラドンナなどの毒草の類。野生種とは若干葉の柔らかさや大きさが違うから、虚空の箱庭で品種改良された栽培種なのだろうか。

 メインの蛋白質としては、フグなどの毒魚の類の身が皮ごと入っている。

 

 となればおそらく食前酒として出されたであろう薬草酒(リキュール)も、毒草を漬け込んだものだったのだろう。

 

 常人が飲食すれば一口で昇天しそうなものだが……。

 しかし常人を超えた解毒能力を持つ彼らにとっては、これくらいの毒を放り込んで初めて、刺激的(スパイシー)な食事となるのかもしれない。

 西暦世界のホモ・サピエンスが、その解毒能力でニンニクやサンショウなどの、他の生物にとっての毒を美味しくいただいてきたように。

 

 春の味覚── 春もまたキノコの旬である── が手に入ったから、少し羽目を外して、ささやかな宴会ということだろうか。

 それかどこぞの未攻略の魔宮で茸の化け物(マタンゴ)でも倒してきたのかもしれない。

 

「そうかー、ターニャは世情に通じていてえらいなー。それでセバスティアンヌ殿、天覧馬揃えがどうしたんだ?」

 

 マックスがターニャの頭をぐりぐりと撫でまわし、セバスティアンヌに真意を尋ねる。

 

「まあ、なんだ。年が変わったころにマックス殿は、“海竜殺し” としてパレードに出たそうじゃないか。今回はお呼びが掛かっていないのかと思ってな」

 

「スティーもぱれーどに出たいんですのよねー?」

 

「む。うむ。まあ、そうだな。……だ、だが出られずとも良いぞ。強者を品定めする良い機会であることだしな」

 

「もー、素直じゃないんだからー。うりうり~」

 

 酔っぱらったターニャが <見えざる手> の術式に電離気体(オーロラ)で色を付けて、それを伸ばしてセバスティアンヌの頬をつつく。

 どうやら随分と二人は気安い間柄になっているようだ。

 

「あー、残念だが今回は出ない。そういう(パレード参加の)話があったのは確かだがな。諸事情で無しになった」

 

「む、残念だ」

 

「まあ仕方ない。もともとミュンヒハウゼン男爵家の部隊は、天覧馬揃えに出るような御歴々に比べると見劣りするからな」

 

巨大海蛇竜(ヨルムンガンド)討伐のときは功労者だったので主役でしたけどー、確かに家の実力としては足りてませんものねー」

 

「ターニャの言うとおり。鎧やら馬やら武器やら、国威高揚という目的から考えると、男爵家の装備じゃすこぅしばかりレベルが足りない。あと今代の男爵様も、今後もずっと武名を売りにするつもりもないみたいだしね」

 

「そうか……残念だ……」

 

「ま、代わりにと言ってはなんだが、当日は良い席を確保しておくから期待しておいてくれ」

 

 ライゼニッツ卿からも一等見晴らしのいい升席に誘われているが、さすがにセバスティアンヌの巨体を押し込めるには狭いからと辞退して、別に席を取っている。

 セバスティアンヌは上背があるから後ろの方でも良いし、マックスとターニャもセバスティアンヌの甲羅の上に乗れば問題ない。

 パレードの後にセバスティアンヌから、見初めた強者との手合わせの手配を所望されるかもしれないが、マックスはそれをできる限りで叶えるつもりだ(絶対に叶えられるとは言っていない)。

 

 

「あ、そういえばターニャ。ヘルガは馬揃えの日にどうするか聞いているか?」

 

「ヘルガはデートだと浮かれていましてよ! エーリヒ様とエリザと一緒について回るんですって。あ、支度金は渡しておきましたからご安心を」

 

「ふーん、ならこちらがこれ以上に気を回す必要はないか。あれ、でもミカ君もエーリヒ君に誘われてるとか言ってたぞ」*1

 

「それも織り込み済みみたいでしたわよ?」

 

「それなら良いが……」

 

 戸籍上の妹に当たる霜の半妖精(ライフアールヴ)ヘルガの恋のライバルの多さを憂慮しつつ、マックスは自分の皿に盛られたキノコを口に運ぶ。

 

「強い者に魅力を感じるのは自然であろぅ。あのローレンの “つばつけ” を受けた相手であれば、さもありなん、というところよ」

 

 セバスティアンヌの巨鬼としての価値観では、ケーニヒスシュトゥール荘のエーリヒ(神域の技量を持った凄腕剣士)が引く手数多なのも当然なので、特に気にすることもなく食を進める。

 

「まあ最終的に苦労するのは私じゃあないし……まいっか!」

 

 節操なくフラグを立てるあの金髪が悪い、と割り切ったマックスは、食事(毒入り)と会話に集中することにした。

 

 

 

§

 

 

 

 天覧馬揃えから数週間。

 

 そのあいだ、セバスティアンヌ女史の修行相手の確保のためにエーリヒ君から “英霊召喚の魔本” を借りて、過去の『渇望の剣』の担い手を呼び出したり。

 呼び出した担い手の中に、いくつかの滅んだ巨鬼の部族の戦士たちがいたりして、その絶えた武芸の復古や、武術理論の吸収と、ウラガン部族の東方武術とそれらを融合させることにセバスティアンヌ女史が精を出したり。

 遠くの魔物を仕留めに行くセバスティアンヌ女史を <空間遷移> で現地まで送って、彼女が仕留めた獲物を美味しく調理したり。

 セバスティアンヌが子蟹たちの操作がてら、武術の動きを刷り込ませたり、産卵してその数を増やしたり。

 

 ターニャはといえば、海水から抽出したリチウムを使った電池の研究をしたり。

 その他微量元素と魔導合金の組み合わせによって、魔導的作用ナシで超電導になる素材を私と一緒に探索したり。

 半導体素子の作成が可能か、基底現実における電気的な物性の調査をしたり。

 あと、磁場的に安定するのかセバスティアンヌ女史にべったりくっついたり。

 

 私は私で、バンドゥード卿の手配で魔剣:螺旋剣(シュピラーレ・ケルパー)の閲覧が叶ったので、それを解析して試作品を作成したのをエーリヒ君に試し斬りしてもらうために渡そうとしたら、なんか知らんがその試作品に重なるように転移して現れた『渇望の剣』に断ち割られたり。

 穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)の改良と個体数増加と、実験的な多数個体同時運用のシミュレートに取り組んだり。

 これまでに作成した術式のレポートを作成して、ノヴァ教授にレビューしてもらってブラッシュアップしてるうちに研究員への昇格試験の話をいただいたり。

 セバスティアンヌ女史の巨蟹鬼(クレープス・オーガ)の身体に不具合が発生してないか定期的に検査したり。

 

 必ずしも成果が出たことばかりではないが、そうやっているうちに冬は完全に去り、春の陽気が眩しい時期になった。

 

 

 

 

 そんな中で、私は一通の招待状を受け取った。

 しかも虚空の箱庭に直通の、空間の“(ほつ)れ” を開けられて、そこを通してだ。

 

 いつの間に魔導的なピンを付けられたんだ……? 怖いんだけど……。

 

「……マルティン先生から招待状……は、とても光栄だけど、なんでアグリッピナ氏との連名??」

 

 あの二人って面識あったんだ?

 若干疑問に思いつつも、『疾く参上せよ(意訳)』と記された招待状を前に、しがない男爵家の末席にして魔導院聴講生でしかない私に断るとか待たせるとかいう選択肢はない。

 

「“スティー。急に出仕しなくてはならなくなったからついてきてくれたまえ”」

 

 最近、ターニャに倣って私も愛称で呼ぶようになった護衛の彼女を <思念通話> で呼び出す。

 流石に従僕か護衛の一人も付けねば格好がつかないだろうと思ってだ。

 まあ、聴講生として呼び出されたのであれば従僕や護衛は不要だろうが、よほど急いで書かれたものなのか、貴種としてか聴講生としてか、遇される立場が良く読み込めなかったんだよな。

 

「お呼びか、マックス」

 

「そうだよ。── お、既に着替えているね。それじゃあ行こうか」

 

 すぐに廊下から声がした。

 スティー(セバスティアンヌ)には巨体を着せ替える魔導試着室を与えているから、それを使って早着替えしてきたのだろう。

 騎士風の装束に身を包んだスティーと廊下で合流する。

 

「行くのは良いが、一体どこへだ?」

 

「上の立場の方からお呼び出しでそちらまで。ご丁寧に <空間遷移> の座標が分かるものと、阻害結界を通るための割符も同梱されてたからね。<空間遷移> で飛んでいこう」

 

「ふむ。了解した」

 

「話が長くなって待たせるかもしれないけど、持たせてる <思念通話> の魔導具で連絡取ってくれれば応えられると思うから」

 

「承知」

 

 スティーに軽く事情を説明しつつ、ノヴァ教授にマルティン先生に呼び出された旨の手紙を認めて飛ばし、同時に指定座標への <空間遷移> の門を開く。

 

 

 空間遷移術式(およばれしましょう、そうしましょう)

 

 

 さてさて、何の用なのやら??

 

*1
天覧馬揃えデート(エーリヒ side):原作書籍版4巻(上)にて加筆されたエピソード。書籍版においてはミカの対人トラウマの緩和と、エリザの人見知りの緩和、友人/妹自慢など一石何鳥かを狙った感じのエーリヒ君の一手。当SSにおいてはマックスのTS術式暴発により魔導院におけるミカくんちゃんのトラウマが緩和されていることもあり、ミカ君の側にもヘルガが参加するのを受け入れる精神的余裕はあろうと思われる。ミカ君が男性体なのでぱっと見の人数比はダブルデートだが、実態は矢印が全員エーリヒ君に向いているので、書籍版より修羅場度が上がっているのでは? という気がするネ。




 
◆新機軸の航空艦の理論について議論する天上人
マルティン公「航空艦を抗重力術式で横向きに重力加速度掛けて水平方向に()()させつつ、機体前面に、空気を限定移送する空間遷移障壁を張って空気を吸い込んで空気抵抗を無効化! これならイケる! 我、天才!」
アグリッピナ氏「なるほど完璧な理論ッスねぇーーっ。卿と私が千人居ても魔力が足りないことに目をつぶればよォ~~~~」

マルティン公・アグリッピナ氏(( …………そういや馬鹿魔力の持ち主で、かつ空間遷移の使い手に心当たりがあるな?? ))

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原作WEB版最新話(https://ncode.syosetu.com/n4811fg/229/)、更新されてますね! マックス君みたいな三位一体の魂の有り様も作中世界観的にあり得て良さそうっぽいのでやったぜ(ガッツポ)、って感じです。マックス君は(1/3)+(1/3)+(1/3)って感じですが、死戯卿は1+1+1って感じなので、そこの差はやはり愛の成せる業でしょうね。愛です、愛ですよ、エーリヒ君。愛は神の奇跡を超えるのです。(死戯卿は中性人の可能性あるな、とも思ってたので“そっちかー!”って感じでした)
 

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