フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆天覧馬揃えと巨蟹鬼
【天覧馬揃え 観覧中】
セバスティアンヌ女史「うーむ。流石は、ライン三重帝国の精鋭たち。食指が動くな……」(← 実際に顎脚から枝分かれした小さな手を蟹半身の口元でわしゃわしゃさせながら)
マックス君「気に入ったのが居たら言ってくれ、ダメもとで交流戦申し込むから」
セバスティアンヌ女史「うむ」(← ここで乱入したら話が早いのでは、と思っているが、そうしない程度の理性はある女)
ターニャ嬢「(これは乱入する妄想をしている顔ですわ……)」
◆電磁気学と電気工学に関する西暦世界技術の再現の進捗
ターニャ嬢「電磁気学や電気工学は、鋭意研究中ですのよ。もちろん素材系も」
マックス君「虚空の箱庭のエミュレータで時間加速して研究してるから割といい線行ってると思う」(← 出力される論文がどんどん難解化しており、理解のために結局エミュレータと同期を繰り返して、時短の代償に人間性を磨り減らしつつある男)
ターニャ嬢「物質の純化や変性、加工に魔導を使えるのが便利すぎますわね」
マックス君「まず電卓を作ってみたところだ。虚空の箱庭ならまだ動くけど……んにゃぴ、基底現実だと妖精のおもちゃになって信頼性が今一つなんだよなあ……あのグレムリンどもめ」
ターニャ嬢「単なる静電気の微小妖精にそうやって名付けをしちゃうとそういう概念として存在固着しちゃいますわよ? おかあさま。……ま、もう手遅れっぽいですが」
マックス君「マジか」
ターニャ嬢「マジですわ」
マックス君はこの世界におけるグレムリン概念の産みの親になったようです。やっちまったなあ! ……とはいえ虚空の箱庭では電子機器が使えるし、そのうち作られるだろうリリカルマジカルな感じのデバイスも、妖精避けできるマックス君や上位権能持ちのターニャ嬢が使う分には問題なさそうではあります。
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◆前話
マルティン先生とアグリッピナ女史に呼び出されたので護衛の
<空間遷移> した先は、どこぞの邸宅のホールだった。
「なっ、貴様、どこから──ッ!?」
どこぞも何も、マルティン先生に所縁のある邸宅なのだろうが。
となると帝都に幾つもあるだろうエールストライヒ公邸のどれかであろうか。本邸か別邸かは分からんが……。
私は、常に張り巡らせている魔導知覚から得る情報で、エールストライヒに連なる使用人が幾人かホールに控えているのを知る。
彼女ら彼らは既に呼子を鳴らそうとしており、そしてまた、制圧用の武器か魔導具かを取り出そうとしていた。
闖入者に対して即座に対応しようとしたあたり、彼らの練度の高さと、そしてこういった魔導での侵入が常に想定されていることが伺える。
三皇統家の一角ともなれば、公邸の抗魔導結界を抜いてまで <空間遷移> で
あー、やだやだ。まったく、権力者になんかなるもんじゃないよねー。
「──ッ 巨鬼、いや、巨鬼ベースの魔導生命……!? そして魔導師……!! どこの手の者だ!」
「ほほう。流石は大公の使用人、良い反応だな。ぜひ後で手合わせを所望したいところだ」
「くっ、いつの間に、間合いに……ッ」
いち早くこちらに対応しようとした、長身栗毛で騎士風装束の女性── 護衛も兼ねる上級使用人だろうか── を射程に入れて、
敵対と見なされない程度の構えで、護衛らしく私を庇うようにして。
だが実態としては、スティーの腕前と、巨蟹鬼のパワーを以てすれば、
射程範囲に捉えられたその女性使用人もそれを分かっているのだろう、冷や汗を垂らして動きを止めている。
だが恐らくまだこの状態からでも手があるのだろう、諦めてはいないようだ。
ちらりと私は周囲を確認する。
流石はエールストライヒ公邸だけあって、ホールの天井は巨大種族が十分にくつろげるくらいに高く作ってある。
きっと空間拡充の魔法も併用してあるのだろう。
スティーは転移後すぐに、己の目と腰元の蟹の複眼でエールストライヒ公邸の使用人たちの位置を把握し、最も難敵と見られる長身栗毛の騎士風の女性を如意鉄棍の射程に入れた。
位置取りも絶妙。
他の使用人たちもスティーの
とはいえ、既に応援を呼ぶための防犯ブザーのような魔導具は押されてしまっているかもしれない。
であれば、これ以上面倒なことになるまえに、誤解を解かなければ。
なんてったって、こちらは正式な招待を受けているんだからね。
これ以上騒ぎが大きくなると、エールストライヒ公邸の使用人のみなさんの失点にもなるだろうし、早期に身の証を立てることが、ひいては彼らためでもある。
正式な客人を侵入者扱いするとか、やっちゃいかんことだからね……。
「あー、マルティン先生から
堂々と、招待状と、それに同封されていた割符を掲げて、私はそう言った。
同時に思う。
──── 「これたぶん、マルティン先生、使用人たちに私を招待したこと伝えてないっぽいよな」 と。
「先ほどは失礼いたしました」
騎士装束に身を包んだ長身栗毛の女性の上級使用人── メヒティルトと彼女は名乗った。姓を名乗らないということは平民上がりの叩き上げだろうか── に謝られたあとのこと。
そのメヒティルト女史に先導されて、私はマルティン先生の待つ応接室へと向けて、エールストライヒ公邸の廊下を歩いていた。
柔らかく歩みを受け止める毛足の長い絨毯に、数々の品の良い調度品たちが、エールストライヒの権勢を物語っている。
後ろからは、歩脚を畳んで重力制御術式でホバー移動する
彼女は私の護衛であり従者でもあるので当然だ。
流石に応接室の中までは入らず、控えの間で待ってもらうことになるが。
「いえ。私も魔導師として落日派の末席におりますから、事情は想像できます」
研究に熱中すると社会性スキルが死ぬんですよね、わかります。
実際、いま以てマルティン先生に、館の者からは、私の招待について直接の確認はとれていない。
だが特製の割符と、招待状に記されたサインまであれば間違いなかろうということになった。
難儀な主君を持つと大変だね。
「そうおっしゃっていただけると……」
胃の腑のあたりを押さえながら、メヒティルト女史が答える。
慢性のストレス性胃炎持ちかな?
まともな神経で不死者の魔導師(しかも皇帝経験者)の雇われなんてやってりゃ、そうもなるか。
おかわいそうに……。
「あー。先ほどはこちらの護衛と対峙して肝を潰したでしょう。お詫びに少しだけ、我が神に貴女の健やかなるを祈らさせていただければ」
「……これはお恥ずかしいところを。お気遣いはありがたく、しかしお客様のお時間を割いていただくわけには……」
無意識に胃を押さえていた手を下ろして、メヒティルト女史が微かに羞恥に頬を染めた。
「いえいえ。日ごろから気苦労も多かろうと思いますし、無理もないかと。お気になさるのであれば、むしろ私の気が済むと思って少しだけ祈らさせてくださいな」
「……そうまでおっしゃられるのであれば……」
こういう苦労人な感じの人って、つい同情しちゃうんだよなあ……。
私の中の異世界人の魂がそう囁くのか、あるいは邪教信仰者の方の魂が持つ慈悲の心によるものか。
まー、いずれにせよ、傷つき毀れたものを治す/直すのは、
<
メヒティルト女史は、エールストライヒ家の配下だけあって、どうやら夜陰神の信徒であるようだが、別に他神の信徒だからと言って、必ずしも奇跡の行使が制限されるわけでもなし。
私がくるりと円環する手印を切って、“もったいないおばけ” に願った奇跡は、無事に発動。
対象を万全の状態に回帰させる奇跡が、メヒティルト女史の胃炎はもとより、慢性の疲労を癒やした。
……ストレスの原因を根本的に取り除けない以上は対症療法に過ぎないが、それは仕方ない。
宮仕えの悲しい所よな。『すまじきものは宮仕え』、ってね。
「お、おお……、ありがとうごさいます、ミュンヒハウゼン卿! これまでになく身体が軽い……!」
「それは良かった。我が神の加護が貴女にありますように。……やはり貴女のようなお美しい方は、胃を痛めて眉間を寄せているより、そうやって安楽に笑ってらっしゃる方が似合っていますよ」
「そ、そのような世辞を申さないでください……」
「世辞などと。本心からですとも」
「お戯れを……」
意外と褒められ慣れてないのか、あるいは予想外に体調回復で好感度を稼げたのか、恥じらう様子を見せるメヒティルト女史。
エールストライヒ家で雇われるくらいだから、メヒティルト女史の顔はかなり整っているし、このくらいは言われ慣れてると思ったのだが。
意外と社交の場には出ていないのだろうか。それか内向きの仕事をしているだけなのかもしれないし、普段は帝都詰めではないのかもしれない。
なお私の中の魔導師の魂は、『これでもっともっと働けるねえ、よかったねえ』と暗黒微笑を浮かべている。
まあ、それも一面の真実ではあるが……。
ともあれこれで、いきなり闖入したことの悪印象は払拭できたであろう。
……どうせこのあと、スティーとメヒティルト女史は同じ部屋で待機することになるのだろうし、心証を良くしておくに越したことはない。
応接室の扉の前に立つと、私が持つ割符に反応してか、厳重に施されていた遮音結界が解除され、錠も開いた。
「スティー、では行ってくる。長引くようであれば帰っても良いぞ。どうも中からは連絡できても、外からは連絡を受けられそうにない」
「了解した」
施されていた結界の構成を見るに、余人に邪魔されたくないとき用の、外界から完全に遮断するための結界のようだ。
たとえ帝都が燃えていても気付かず引きこもることができそうな強度がある。
それでも内部からの連絡なら通りそうなあたりは、良くできている。
メヒティルト女史が、私が持つ結界解除キーの割符を物欲しげに見ているが、勝手に渡すわけにもいかない。
すまんねー。
「じゃ、いってくる」
私は、尊敬するマルティン先生と、人類最高峰の頭脳を持つだろうアグリッピナ女史が待つだろうその応接室へと足を踏み入れた。
「おお! 良く来たな、マックス君!」
「ああ、よくきたわね……」
応接室で私を出迎えたのは、銀髪銀眼の美丈夫── マルティン先生だ。
同じ部屋には絶世の美女── やはりアグリッピナ女史も居たか。
よほど興味深い話をしていたのか、マルティン先生は目がキラキラしている。
ああうん、研究者の目だね。
対照的にアグリッピナ女史は、若干うんざりした風だ。
お二人で面と向かって会話してるあいだは顔を取り繕っていたのだろうけれど、疲れが出たのだろうか。
とはいえ、マルティン先生の視線が私の方を向いているからそちらを見てないにしても、顔に出すとは油断しすぎでは?
「早速だがマックス君、君を呼んだのは他でもない。抗重力術式と空間遷移障壁の合わせ技で、空気抵抗を無視して無限に前方に
「はい、お呼び立ていただき光栄です。
御下問の件は、理論的には不可能ではなさそうですが、聞くだに既に論の時点で膨大な魔力を消費しそうな気がいたします」
「うむ、それはそうだろうとも。して、
「は、はあ。まあ、何とでもなるかとは思いますが……」
内蔵魔導炉の直列励起に、虚空の箱庭に増設した魔導炉からの直結出力。
概算だが、問題なく稼働させられるだけの出力を供給できるだろう。
足りなきゃ足せば良いしね。
オーパーツじみた小型超高出力魔導炉を量産できることを明かすつもりはないので、私のことは、宇宙戦艦でも運用できるくらいの超越的出力を突然変異的に宿した人間として、魔導院には認識されているはずだ。
「おお、やはりか! であれば技術実証艦として一隻仕立て上げることも……」
……あー。ヒートアップするマルティン先生の様子を見るに、回答をミスった気がしてきたが、もう後の祭りだろうか?
アグリッピナ女史が私のことを「明日の朝には航空艦の炉心に括りつけられる運命なのね」って冷めた顔で見てきてるし……!?
や、やべえ。
これ、なんとか軌道修正しないと、航空艦の艦長という名の人身御供にされてしまう!?
時系列的には、まだ、セス嬢は家出してません。青空市場で駒屋を広げているエーリヒとは何局か指したあたりかな。
メヒティルト女史、苦労人で好き……。たぶん書籍五巻でセス嬢が「在俗僧に、私はなる!」って言い出したので、胃が爆散したのではないかしら。不憫かわいい。ところでメティヒルトで良いんですよね? メヒティルト? 追記:感想でのご指摘の通り、修正しました! でも書籍四巻下でも表記ばらついてるんだよぉ……(終章ではセス嬢視点でメティヒルト呼び(1回)で、他のシーンでは名乗り含めてメヒティルト(3回))。まあ、ググるとメヒティルトは史上の人物もヒットするから多分こっちですね。
さて、炉心パーツ化を避けるためにマックス君が考え出した案とは?
マックス君「えーとあのあの、ま、まずはシミュレーションとかからですね……!!?」
次回、『あと1ターンだけ……』、の予定です。
シナリオをぶっ壊しかねないエネミーどもは、まとめて閉じ込めておこうねえ……。