フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆ぷちヘンダーソンスケール0.75 ver0.1 魔導理論実証航空艦 マクシミリアーネ級
艤装済みの航空艦の構造をした
主機はそもそも備え付けられておらず、ひとりの
なおその後、当該魔導師(落日派)が、自らのクローンを作って炉心&制御中枢業務を交代させて時おり休んでいたことが発覚したため、当該魔導師のクローン数人(三交代勤務)と予備魔導炉の組み合わせを主機とするマクセ級極超音速航空航宙艦として晴れて制式量産化されることとなる。
また、量産型であるマクセ級の就航前後から、グレムリンと呼ばれる悪戯妖精による航空艦の故障現象が多発するようになり、それが人口に膾炙するに伴って、航空艦に限らず、精密機械や魔導具の故障が一時期増加した。その後、機構学や魔導工学の発展に伴い、グレムリンの介入の余地を極限に減らした『正しい設計』が可能になったため、故障件数は落ち着いていく。
マクシミリアーネ級及びマクセ級は、抗重力式の推進術式を採用しているため、大地の重力圏を振り切って宇宙空間の探検を行うことが可能である。しかし月面探査計画をはじめとした探検計画は、夜陰神の領域を直接的に侵すことによる神格顕現(夜陰神本体及び妻の御神体を侵されることに激怒するであろう陽導神本体の顕現)を懸念して保留されており、僧会を通じて神格群との慎重な対話が継続されている。
===
◆前話
お嬢様の御付きとして帝都に到着してからの近況報告をしようと本邸に来たらなし崩し的にマックス君・セバスティアンヌ女史の主従の案内をすることになったメヒティルト女史「長年の胃痛が……治った!!」
※メ
うおおおお!? 一瞬で魔導航空艦の炉心代わりに酷使される未来が走馬燈じみて見えたぞ!?
こ、これは軌道修正しないと、死ぬまで魔導航空艦のお守りをさせられるやーつ!!
そんなのは御免じゃ!
はい! マルティン先生!
ご意見宜しいでしょうか!!
「ん。何かね? 述べたまえ」
許可を得られたので発言する。
「はい先生! これまでの議論に参加していないので分からないのですが、何のための航空艦の術式検討なのでしょうか?
「ああ、そうか、確かにその前提が共有されていなかったか……。発端はだね──」
そもそもの発端は、航空艦の
航空艦は試験艦が作られてから30年ほどの比較的若い技術で、大型艦は今以て帝国でも3~4隻しか作られていない(数にブレがあるのは竣工中のものがあるからだ)。
しかも1番艦は若い竜に興味本意に絡まれて酷いことになり、2番艦もグリフォンの群れに襲われて座礁するという有り様だ。制式量産はいまだ遠い。
とはいえ、大きな外洋港を持たないライン三重帝国にとっては、空という新たな航路の開発は、それらの危険を押してでも国策として推進するに余りある魅力を放っているのもまた事実。
そのためこの航空艦をきちんと “行って帰って” お遣いさせるために、緊急時の対応手段を検討したい……というところから、マルティン先生とアグリッピナ女史の議題は展開していったのだとか。
マルティン先生のアイディアとしては、空間遷移を用いた障壁や、短距離転移による緊急避難が使えるのではないかとお考えで、その参考に、空間遷移魔法の使い手でもあるアグリッピナ女史を別件で召喚したついでに意見を聞いてみたというわけだ。
私が呼ばれたのは、その二人の議論が白熱する中で、“理論上可能なれど消費魔力的な観点で不可能” と判断される技術が浮かび上がってきて、“そういや馬鹿魔力の持ち主おったな” となったためらしい。
「なるほど。つまり、竜種やその他、空を縄張りにする幻獣種による干渉を受けずに、行って、帰って、できれば良いわけですね」
「そういうことになる」
「で、あれば、私も一案申し上げてもよろしいでしょうか」
「忌憚ない意見は我も望むところであるとも」
と言っても、特に奇を衒うわけではない。
基本的な発想は、抗重力術式と空間遷移障壁の組み合わせを採用する場合と同じだ。
つまり、速度は何物にも優越するということ。
「竜やその他を置き去りにする速度で直進し、もしぶつかったとしても逆にこちらの硬度で破壊してやればよいのです。つまり、推力と強化術式に全振りですね!!」
「それを検討しなかったわけないでしょう。現状の術式では速度も硬度も限界があるからこそ、新機軸の推進方法を検討する必要が生じたのよ」
アグリッピナ女史が呆れたように注釈を入れてきた。
……食いついてくるあたり、結構あなたもこの話題、興味深く思ってますよね? 実は。
「ええ。ですので、浮揚については術式を用いない形式を取ります」
「へえ? そうしたらどうやって浮かぶのかしら」
「推力の一部を浮揚力に変換して飛ばします。具体的にはこのように」
私はちらりと部屋の暖炉の煤と、水差しの中の水を意識する。
こういうのは実物を見せた方が早い。
<
炭素を暖炉の炭や煤から、また、水素を水差しの水から補給し、<変成> の術式によりプラスチックの被膜と骨組みを形成。
骨組みには強化材料として、同じく暖炉の炭から <変成> させたカーボンファイバーを添加。
それを模型飛行機の形に整えながら出力する。
次の瞬間、私の手元には、ポリエチレンの膜と、カーボンファイバーで強化されたプラスチックの骨組みの組み合わせで形成されたライトプレーンが現れていた。
昔懐かし、ゴム動力の竹ひご模型飛行機── の、プラスチック製・動力無しバージョンだ。
それをゆっくりと投げて、部屋の隅へと飛ばしてやる。
ライトプレーンは、ゆっくりと室内を飛んでいく。
マルティン先生とアグリッピナ女史の二人の鋭い視線を集めながら。
魔力消費がないことを
「空を飛ぶ大型の種族はほぼ魔法を併用しているので意外に思われるかもしれませんが、単に飛ぶだけでしたら、術式は不要なのです。あの模型のように」
私は、壁際まで飛行を続ける総ポリエチレン製のライトプレーンを指し示しながら続ける。
「翼を取り巻く空気── 流体の動きによって、推力の一部が浮揚力に変換されます。本体の大きさや速度によって流体の振る舞いが変わるため、飛行に必要な翼の大きさというのは必ずしもこの模型の比の通りにはなりませんが」
「つまり、浮揚力を機体構造によって器械的に確保し、その分のリソースを剛性強化と推力強化に注ぎ込むのね?」
「そうなります。術式が単純で済む分、制御も抗重力術式などに比べれば簡単になるかと。そして圧倒的速度で追跡者を振り切り、またはその機体剛性で敵を撥ね飛ばせばいいのです」
速度と剛性に特化するため、航空艦というよりは、加速し続ける鏃、みたいな感じになりそうだが。
触れるもの皆傷つける……そういう感じだ。
「制御難易度は本当に下がるかしら。出力の増大に従って、制御が複雑化するのは避けられないはずよ。あと、高速化に伴って、測位の難易度も上がるはず。自己位置を見失って遭難、という別の危険が生じるわ。……それに、速度が足りないときは墜ちるのではなくて?」
流石アグリッピナ女史は鋭い。
失速からの墜落は西暦世界の航空機の(あるいは物理法則がもたらす不可避の)大きな構造的欠陥だし、高速機動が現在位置の把握を困難にするのも確かだろう。
失速時の安全性については、速やかに、何があろうと増速して揚力を取り戻させるしか解法はないかもしれない。
いや、翼の周囲の空気の粘性に作用してレイノルズ数を操作したり、乱気流を整える術式があれば何とでもなるか……?
この世界では、物理法則は可変なのだし。
あと、測位については、現行のライン三重帝国における航空艦の測位システムがどうなってるか分からないが、私からは少なくとも姿勢制御用に三軸の回転型ジャイロスコープの提案はするつもりだ。*1
方位については、当面は羅針盤を使うしかないだろうかね?
あと一番大事な高度については、電波か光を下に放って大地からの反射で測距するのが妥当かな。
できれば人工衛星をいくつも浮かべて、GPSを運用できるようにしたいが……。
流石にそれは難しいだろうなあ……技術の階段をすっ飛ばしすぎてる。
……高空には
まあそれ以前にGPSによる正確な測位のためには、正確に同期した時計の製作が必要なので、例えば、電磁気学の研究を進めて、安定した周波数を取り出して、圧電効果を利用した水晶振動子からクオーツ時計を作って……ってしないといけないし……欲を言えば原子時計が欲しいが……。*2
ついでに水晶振動子の応用で振動型ジャイロも作って、回転型ジャイロよりも交換頻度の低い加速度計の制作もしたいし……。
いやそもそも、流体力学についての論文を発表するのも必要か? 加速度から位置を割り出すための数学的ツールである微積分については発展してるから、今さら注記は要らないだろうけど。
ちらりとアグリッピナ女史の顔を見る。
……流体力学については必要ですね、はい。そりゃ要りますよねー。
ひぃ。や、やることが多い……虚空の箱庭のエミュレータでは時間計測とかはシステム側に組み込んであったから盲点だったんだよな……。
基底現実側でも、自分ひとりで実験するときは時間計測用の術式を走らせて済ませてたし。
だから、私の魔法チート無しでも動く汎用的な高精度計測機器は、まだ開発中なのだ。
……その計測魔法を魔導具化しても良いんだが、燃費悪そうなんだよな……それにある程度は機械的な構造も併用した方が魔力消費的にリーズナブルだろうし。
「というか我、この素材を創り出した錬金術式も気になるのだが? 軽くて頑丈……見たことのない素材だ。── おお、本当に魔導無しで飛ぶのだな」
いつの間にかマルティン先生がライトプレーンを <見えざる手> で回収して、ふわりと投げてらっしゃった。
あー、高分子というか、いわゆるプラスチックってやっぱり未知っすよね。元素周期表もまだ無いか、あっても学閥で秘匿されてるだろうからなおさら。
いま作ったライトプレーンに使ってるのはポリエチレンだから、分子の構造自体は単純(水素が両脇についた炭素が無数に繋がった鎖型)だし、油脂なり 炭と水なりがあれば、比較的簡単に作ることは出来るんだよなー。
というわけで、個人的には非常におススメの素材だ。燃やすと燃えるから火気注意だが。
「えーと、その素材はあれです。
「ほほう……だが原料は何を? 何か手に持っていたようには見えなかったが、これは既に基底現実に完全に固着している上に、マックス君の魔力の発散もかなり少なかった。触媒は?」
「……炭と水です。無理をすれば空気中の成分からも生成できますが、やはり、まとまった量の原料があった方が楽ですね」
「なるほど、なるほど」
はい、これもレポートにまとめた方が良さそうですね。
どんどんやることが増えていくけど、航空艦の生きた炉心として運用されるハメになるよりはマシなはず……。
ここを乗り切ればなんとかなるわけだし。
それに、レポート自体は既に、時間加速したエミュレータ内で、私の再現意識体に原稿を作らさせ始めている。
出来上がったそれを写真術式で基底現実に出力すればいいから、もう間もなく用意できるだろう。
なお、論文を自分でも理解して目の前の二人に説明するために、エミュレータの再現意識体との同期は必要な模様。
人間性を捧げよ……!
…………もってくれよ、私の
「模型の素材についてはともかく、貴方が言っていた、推力と剛性に全振りした機体は実際使えるのかしらね」
お、良いとこに眼をつけましたね、アグリッピナ女史。
そう、いくら議論しても、これじゃあ机上の空論どまりですものね。
そういう貴女の た め に !!
ここに高度なシミュレータがあるじゃろ?
<
<
私たち三人の前の空間に、大きく画面が投影された。
「これは……?」
「実際に術式を航空艦に組み込んだときにどうなるか、それを実験できるように仮想の工廠と空を用意しました。ひいては仮想の国も」
「なるほど、
そうこれは、時空の狭間にある虚空の箱庭で運用している世界エミュレーション術式を、基底現実に取り出したものだ。
不完全に過ぎるとはいえ、世界創造にも繋がりかねない術式なので、神々の勘気を恐れて基底現実で走らせるのは避けていたが、結界に守られたこの部屋の中なら問題ないだろうと踏んでのこと。
…………い、いきなり神々から天罰執行のために使徒が送られてきたりはしないよな…………?
航空艦の設計にあたっては、本当は風洞実験でもやるのが確実なのだろうが、とりあえずこの場は演算で済むならそれでよいのだ。模型を作る手間も省けるし。
演算の再現精度が気になるところだが、おそらく問題ないはずだ。……魔法チートさんがやってくれました。
それに、ここには優秀な頭脳と膨大な経験を持つ
「いかがでしょう。これを使ってリアルタイムに意見を反映しながら航空艦をデザインして、その実現性を議論するというのは? あるいはそれぞれがデザインして、出来上がったそれを講評する形でもかまいませんし」
「それ以前に、この術式には気になるところがあるから、少し手を入れたいわね。まだ術式理論が甘いんじゃなくて?」
「ほう。全員で同じものを見ながら作業を進められるのは良いな。齟齬が減る。あとは経済性の評価や、対魔獣性能の評価も可能なのかが気になるが」
アグリッピナ女史が早速術式のダメ出しをし始め。
マルティン先生は、浪漫に振り切れていた回路が少し現実的思考に戻ってきたのか、経済性その他のパラメーターも気になってきたらしい。
「スタール卿、手直しは大歓迎です。精度が上がるに越したことはありませんから。
マルティン先生、この術式では、建造や運用にかかるコストもパラメータとして算入して演算可能です。飛行可能かどうかの確認だけではなく、それを現実社会に投入したあとの動きについても演算させ、数ヶ月単位で時間を進めつつ、その時々で政策を打ち、それをまた演算対象となる仮想の小世界に反映させることもできます。こちらも演算結果に違和感がありましたら補正いただければ助かります」
「ふむ……よかろう。しかしこれはひょっとして、演算結果の確認や補正に、東雲派のような未来視の術式を取り入れているのかね? 実に興味深いな!」
「いちいちこんな術式作らなきゃ未来予想もできないなんて、
マルティン先生とアグリッピナ女史に説明したところ、二人ともどうやらノリ気になってくれたようだ。
机上の空論であーだこーだ言ってるだけでもイメージを通じあえるくらいに二人とも頭良いんでしょうけど、こちとらまだその領域には至ってないのです……。
こういう補助ツールでそのイメージを都度都度具現化しないとついてけねェんスよ……。
……まあこれで私が航空艦に括りつけられるような未来もなくなっただろう。
実物を作らなくても、シミュレーションで大部分を済ませられることを実感してもらえれば、航空艦専属ということにはなるまい。
そうして私にとっての当面の危機が去れば、いまの状況は奇貨そのものだ。
帝国でも指折りの魔導研究者とともに、議論を深め、術式の精度向上に取り組めるのだからね!
術式の秘匿についてノヴァ教授からまたお小言をいただきそうだし、航空艦の人身御供を避けられてもまた別のフラグが立ったような気がしなくもないが、なんとかなるやろ!!
ではお二人にはじっくりと、そしてどっぷりと、
Civはホント時間泥棒やでえ。
ともあれこれでマルティン先生もアグリッピナ女史もマックス君も、帝都に航空艦が飛来するまではカンヅメだな! ヨシ!(なおマックス君には虚空の箱庭の統括を行っている副脳とか、エミュレータ内の再現意識体とかもあるので、本体不在時はそいつらがある程度のレスポンスを返すぽいです)
いずれにせよやはりマルティン公爵家の配下諸君からマルティン先生への連絡はつかないままの模様。なんならコレ航空艦が来る段になっても出てきてくれるか分からんぞ……。
そして “定命が混ざれば食事やらなんやらで休憩が挟まるからこの場も早めに終わるだろう” とひそかに皮算用していたアグリッピナ女史ですが、マックス君は恒常性維持術式のおかげでそーいうの不要なためアテが外れた格好です。
現在、セス嬢の家出まであと1日というくらいの時系列ですね。(=書籍四巻(上)の中幕の直前くらい)
次回は家出令嬢を、エールストライヒ公爵家の控え室組(メヒティルト女史たち+セバスティアンヌ女史)が追い掛け始めるとこまで行ければいいなあ。
===
書籍版第六巻リリース決定とのことでめでたいですね、楽しみですね!