フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・街の噂 : 地下水路には魔導院から逃げ出した魔導生物が徘徊しているらしい。それは左右非対称に歪んだ蟹の身体に女の上半身が生えていて、他の大蟹を従えていて……
・“多頭竜(ヒュドラ)” は侵蝕され、いましも落日派お抱えの諜報組織に変化しようとしていた。(将来的に『死戯卿(しざれきょう)』の一派を帝都から逃がすのに役立つかもしれませんね)
・エリザは兄様(エーリヒ)を死地に連れていくマックス何某のことをガチで嫌ってますのよ。
・あれ? あの航空艦の術式、様子が変じゃね??

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20/n 静電悪戯妖精(グレムリンズ)の襲撃! 魔導航空艦アレキサンドリーネを守れ!-1(杞憂を杞憂のままにするために)

 

 

「(おかあさま! すみません、一匹取り逃がしましたわ!!)」

 

 

 それは私が皇帝臨席の夜会に、航空艦談義のあとマルティン先生の伝手で参加させていただいたときのこと。

 北辺の海岸沿いに領地を持つ貴族家の御令嬢たちが、私の海水鉱山*1献上の噂を聞きつけて── 何処にでも耳聡い者はいるものだ。特に北辺は蛮族の略奪にさらされていることもあり領地発展のネタに目がない── 自らの領地にも “海に咲くロータス(海水鉱山施設)” を誘致したいと私との縁を深めるために好意的に話しかけてきていた、その談笑の最中。

 

 電光が私の脳髄を孕ませて生まれた、娘ともいうべき半妖精にして戸籍上の妹、極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)のターニャから <思念通話> の術式で泣きが入ったのを受信した。

 と同時に、帝城の北の大露台から見上げた帝都上空に滑り込んできた巨大な航空艦の姿も目に入った。

 魔導の羽を何枚も伸ばして宙を滑る航空艦は、まるでSF世界の産物のようですらあった。

 

 航空艦のその威容は、“星毯庭(北の大露台)” に招待された客たちの度肝を抜いた。

 サプライズは大成功というところ。

 夜会に臨席している皇帝、竜騎帝アウグストⅣ世はこの演出の成功に上機嫌で笑っている。

 

 私は多重併存思考の一つで航空艦の到来に興奮する── あるいは恐怖する── ご令嬢たちの相手をしつつ、別のもう一つで <思念通話> の術式を練り、ターニャに返事をする。

 

「(取り逃がしたっていうと?)」

「(私が追いかけていた “静電悪戯妖精(グレムリン)” のことですのよ!)」

「(ああ、私が基底現実でウッカリ概念付与してしまって進化したやつ……)」

 

 私たちは、虚空の箱庭における世界エミュレータ内でシミュレーション実績を積み上げることにより、電磁気学その他の、前世の西暦世界の科学に着想を得た理論を再発見する試みを行っている。

 魔素の存在などにより西暦世界通りの結果になるとは限らないのが面白いところで、非常に研究のし甲斐がある。

 その成果として、現在はトランジスタをはじめとする各種電子部品も生産可能になっており、それによる電卓などの試作を行うにまで至っているのだ。

 

 それを虚空の箱庭(神格の影響が薄く、妖精も居ない空間)から、基底現実に持ってきてみると、妖精たちが “恰好のおもちゃがやってきた!” と群がって、めちゃくちゃに遊び始めたというわけ。

 最近、どうやって察知しているのか、虚空の箱庭から出てくるときに妖精が出待ちしていることが多かったのが敗因だ。

 お菓子や砂糖やハチミツを持っていることが多いのを学習していやがるのだ、妖精たちは。

 

 そしてそこに集まった妖精たちのうち幾らかが、私とターニャが「グレムリンが…」云々と話しているのを聞きつけて、そこから着想を得て、精密なるものを狂わせる悪戯妖精へと自ら特化していったのだ。

 このグレムリンたちは基本的には電子機器を狂わせるが、それに限らず精密な機構や魔導術式を持つもの全般に興味を覚えるようだった。

 

 

 

 そこまで思い起こしてハタと気づく。

 

 

「(──── そういえば、空を飛んでいるあの航空艦も、精密機器の塊だよな)」

「(だからマズイって言ってるんですのよ!!)」

 

 なるほど。

 

 納得を覚えると同時、空に浮かぶ魔導航空艦── 確か皇后さまのお名前を戴いて “アレキサンドリーネ” と名付けられている── が纏う術式群が、盛大に乱れたのを知覚。

 まだ物理的な影響までは現れていないが、招待客のうち魔導的に優れた “眼” を持つ者たち── 払暁派の研究員アグリッピナ・デュ・スタール卿を含む── が、その後の惨劇を予期して一気にその顔を引き攣らせた。“この世の終わりだ……” と囁く声も聞こえる。

 

 

「(……これ、最悪の場合どうなると思う?)」

「(街区一個分はある巨大な魔導航空艦が帝城に突っ込んで爆発して来賓や政府首脳が蒸発するパターンではないでしょうか、おかあさま。それでなくても周辺街区に墜ちただけでも十分以上に大惨事ですわ)」

「(その場合、原因調査されるよね。帝国のメンツ丸つぶれだし)」

 

「(ですわね。きっと帝国の威信にかけて全リソースが投入されるでしょうから、東雲派の教授なんかも駆り出されて、過去視術式か何かで洗いざらい探られてしまいますわ)」

「(……グレムリンの発祥が私にあるってのもきっとバレるよね)」

「(バレないわけありませんわ)」

 

 やばい。

 これを座視するとヤバいことになる……!

 放火魔が火消しをする(マッチポンプ)みたいになってる気がしなくもないが、故意じゃないんだ! 信じてくれ!

 

「(帝国政府にその言い訳が通じるといいですわね……)」

 

 ……望み薄だろう。

 

「(な、なんとか対策しよう。ターニャ、そっちはそっちで、グレムリンの調伏は進めてくれ)」

「(了解ですの! こらっ、待て~~!!)」

 

 

 

 さて私は私で動こう。

 

「ああ、すみません。恩人から呼ばれているようです。失礼……」

 

 ちょうど談笑していた御令嬢方にキリの良いところで断りを入れて、この場から離れる。

 

 

 

 向かった先はスタール卿のところだ。

 

Mgr.(マギア)スタール」

()()の件かしら」

 

 アグリッピナ女史(スタール卿)がちらりと目を空にやった。

 そうです、ソレの件です。

 流石、話が早い。

 

「随分と不安定化してるみたいね、アレ」

「ええ。ですので、最悪の事態になる前に動こうかと」

「ふぅん。妖精の悪戯みたいだけど、()()なことね?」

 

 これ私が関わってるのバレてる?

 

「まったく不運なことですね」

「不運で片づけてくれる連中ばかりなら良いけど」

「ハハハ」

 

 絶対バレてーら。

 あの緑に渦巻く瞳で、時間軸を遡って因果でも見られたのか?

 油断がならないお人だ。

 

「ま、せいぜい頑張んなさいな」

 

 いざとなったら <空間遷移> で逃げられるからか、この外道の長命種(メトシェラ)は、周囲の者の醜態を眺めて(たの)しむことにしたらしい。随分荒れていたのも収まっているようだ。

 醜態を晒すものには、右往左往する来賓たちだけでなく、これから航空艦と妖精相手に奮戦することが確定している私も、もちろん含まれている。

 彼女がここからすぐに逃げないのは、臆病者との(そし)りを受けて嘗められるのが我慢ならないとか、そういう理由もあるのだろう。

 

 ……酒の肴にされるのは内心複雑だが、いざというときに最低限皇帝くらいは逃がしてくれるだろうお人が控えてくれるのは、非常にありがたい。

 さ、流石にいよいよとなれば皇帝くらいは一緒に連れて逃げるよな……? アグリッピナ女史が今後ものんびり過ごすためにも帝国が混乱することは望まないだろうし。

 いや五分五分だな……と思いつつ、五分の保険があれば上等だと考え直す。

 

「それでは失礼します。吉報をお待ちいただければ」

「楽しい見世物にしてくれることを期待してるわ」

「ははは、微力を尽くします」

 

 さあ、始末をつけにいこう。

 

 英雄的な行いでもなく、単なる自業自得に過ぎないが……。

 

 

 空間遷移術式(そらをささえるタイタンになりにいこう)

 

 

 

§

 

 

 

「術式出力低下!!」

「原因は!?」

「不明です!」

 

「ええい、主機出力上昇! 絶対に高度を落とすな!!」

「アイアイサー!」

 

「高度計の表示が乱高下! 計器が当てになりません……!」

「船体竜舎の竜騎を何騎か残せ! 竜の感覚を生かせ! 元飛竜乗りは感覚を研ぎ澄ませ!」

「アイアイサー!!」

 

 魔導航空艦アレキサンドリーネの艦橋は混乱の最中にあった。

 彼らはこの時点では感知しえないことだが、飛行に用いる術式の魔力を、静電悪戯妖精(グレムリン)が底無しに喰らっているせいで、術式のバランスが崩れてしまっているのだ。

 まるで穴のあいた器に水を注ぎ続けるようなもので、今のところはまだ航空艦の主機出力によって漏出魔力を無理やり補っている状況だが、それもいつまで持つか……。

 

 そもそも自然現象として恐ろしいほどの魔力を生来持っているはずの妖精が、他から魔力を喰らうこと自体が異常事態ではあるのだが。

 しかし、いったい何のために? 何に備えて? 静電悪戯妖精(グレムリン)自らの保有魔力だけでは抵抗できないほどの脅威が迫っている、ということなのだろうか。

 

 だが、魔導航空艦アレキサンドリーネの乗員たちはそんなことを考える余裕はない。

 航空艦の技術はまだ成熟しきっていないため、乗員たちは常に遺書を書いた上で乗船している。

 この身が墜ちて果てることは覚悟済み……だが、落ちる先が帝都、いわんや帝城など、到底許容できるものではない……!

 

 必死の操船を行う船員たちは、がくがくと揺れる船体にしがみつき── この状況でも操船継続できるように至る所に手すりを付けるべきだと生き残ったら進言しようと幾人かが強く思った── 必死の努力を続けている。

 絶対に、絶対にこの船を墜とすわけにはいかない……!!

 

 その間にも、既定のプログラムに沿って出し物は進行する。

 進行させなければならない……! 帝国の威信にかけて。

 帝都上空への魔導航空艦の到来に続いては、船底部分の竜舎から飛竜隊が飛び出して練度の高い編隊飛行を披露するパートだ。

 

 本来であれば『お前の国の首都上空に展開して竜騎で制圧なんて余裕なんだぜ』という砲艦外交ならぬ制空外交のデモンストレーションになるのだが、今の乗員たちの気分としては、救命艇となりうる飛竜が減っていくとしか思えず自ら命綱を切るような心持ちだ。

 だが帝国でも最上の船員として選ばれただけあり、みっともなく錯乱するような者は居ない。

 

「くっ、異常事態の時の行動目標の優先順位を明確化しておくべきだな……!」

「ええ、無事生き残ったらそのように進言しましょう」

 

 今のところはなんとか、破滅手前の小康状態というような航行具合だ。

 だが、新造艦ゆえの実運用経験の浅さのため、これが『まだいける』なのか『もうだめそう』なのかの判断もつかない。

 

 ……もしその判断が間違っていたら……。

 

 未曽有の大惨事となるだろう。

 竜騎帝の名は地に落ち、墜落帝などと不名誉な名で歴史書に記されることになりかねない。

 そのきっかけとなる墜落事故を起こした乗員など、家門からしてみれば末代までの恥……!!

 

 忠誠心、恐怖心、生存欲求、騎士道精神── さまざまな感情がせめぎ合う中で、乗員たちはベストを尽くす。

 

 

 そして、その努力が報われる時が来る。

 

 

 大気密度濃厚化維持術式(まるでしずかなこめんのように)

 

 

 いかにも怖気を誘う細かな揺れが、スゥっと収まった。

 乗員たちのうち、湖水運送から引っ張ってこられた者たちは、慣れ親しんだ感覚に瞬間的な安堵を覚えた。

 これは、()()()()()()()()()()()()()()()()()だ……!

 

 船内に備えられた短波魔導通信設備が、何かを受信して音声を吐き出し始めた。

 

『こちら魔導院。こちら魔導院。貴艦周辺の大気の密度を上げた。疑似的に水に浮かんでいるようなものと考えてほしい。墜落の心配なし。繰り返す。墜落の心配なし。これより原因の排除に移る』

 

 航空艦を支えるほどの魔導術式を、恐らくは個人で……? 魔導院の教授は化け物ぞろいだというが、本当だったのか! と安堵の中で戦慄する乗員たち。

 

 ともかく、当面の危機は去ったようだ。

 専門家が動いているのであれば、こちらもプロフェッショナルとして仕事をするだけだ。

 

「いまのうちに艦内確認急げ!」

「アイアイサー!!」

 

*1
◆マックス君の海水鉱山:海底魔宮の跡地から魔素を汲み上げて運用される、超巨大な蓮の形をしたプラント。海水から塩類、真水、貴金属、希少元素を抽出して貯蔵する。一度造り上げてしまえば半永久的に富を産出する、魔法チート謹製の近海タイルの地形改善。




 
まさか、教授どころか聴講生が単身対処に当たっているとは思うまい……。知らぬが仏というやつですね。

次回、空中戦。そういえばターニャと共闘するのってあんまりなかった気がしますね。

===

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原作WEB版も更新されてましたね!
https://ncode.syosetu.com/n4811fg/237/
そういえばエリザルートのヘンダーソンスケールってまだ出てないのですよね(妖精狼ルートはウルスラルートだと思っている派なので)。おそらく、エリザメインの薄暮の丘キャンペーンが今後あれば実装されるのではと思いますが……。
 
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