フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆そのころのエーリヒくん
セス嬢を無事夜陰神の聖堂の窓から送り届けたところを猛禽系の有翼人に見つかって警告もそこそこに蹴りを喰らうも <雷光反射> でギリギリでリアクションに成功。からくも逃げることに成功する。原作より近衛の攻撃への移行が早いのは、巨鬼ベースの魔導生体兵器を撃破可能な戦力との戦闘が想定されていたため、近衛や衛兵の側の交戦までの判断が早くなっていたせいです。しかもいざ会敵してみれば、近衛の魔法は斬るわ、クロスボウの狙撃も斬り落とすわで “こいつガチやん” となるなど。一応エーリヒ君は魔導サークレットの便利機能の一つ、<認識阻害> によって印象をぼやけさせるなどの身バレ対策はしています。
◆前話
魔導院の
空に浮かぶことは、水に浮かぶことの何倍も難しい。
それは空気が軽いからで、私たちの身体が空気より重いからだ。
……当たり前だろうって?
その通り、当たり前だ。
だが、私たち
世界の理に対する違法介入。
すなわち、魔導だ。
私は、上位存在から与えられた魔法チートの権能により造り上げた、縮退炉か核融合炉じみたオーパーツな内蔵魔導炉から、汲めども尽きぬ魔力を汲みだす。
汲みだした魔力を、構築した術式に投入。
それを体内に刻んだ増幅機構によって拡大すると同時、
物理現象を改変し、魔導航空艦の底面付近の空気の密度に関するパラメータを書き換える。
一部の翼をもたない竜種が、泳ぐように空を飛ぶ時の術式の応用だ。彼らはまさに空気を水のように書き換えることで、空を泳ぐのである。
それを魔導師が真似してはならない道理もない。
空気をまるで湖水のように概念変化させ、それにより魔導航空艦が受ける浮力を強化。
航空艦の挙動が安定した。
これでもう墜落の心配はないだろう。
眼下に見える魔導航空艦の短波魔導通信設備に波長を合わせ、その旨を伝える。
……伝え終わった直後に、私の動きに触発された
途端に『げらげらげらげら』と子供の笑い声が航空艦の通信装置のスピーカーから吐き出される。
「……1匹って話じゃなかったのか、ターニャ。殖えてるぞ?」
「あの “
「精密機械や高度な術式を相手に悪戯するには十分な出力は持っている、と」
極光の翅を出して私に並んで飛びながら、頷くターニャ。
……厄介な。
極小の力でも、精密な機構や術式にとっては致命傷になりうる。
カウンターの極意曰く、『威力は先方が備えていればよい』というやつだ。相手の威力が発揮される直前にそれを留めて自爆させる、それができるだけの最小限の威力さえこちらが備えていれば、カウンターは成立する。
例えばだが、回っているエンジンの動きを止めるのには相応のエネルギーが必要だが、その点火装置や燃料供給装置のタイミングをずらしてやることには大したエネルギーは要らない。
そしてそれによって正常なサイクルが阻害されれば、動力を発揮できなくなる。
場合によっては異常燃焼によってエンジンそのものが破損してしまうだろう。
そして
技術の粋である魔導航空艦にとって、これほどの天敵があろうか。
そして西暦世界においてグレムリンが最も猛威を振るい、有名になった由来もまた、航空機に関するものだった。
それゆえ、私の中の転生者の魂がもたらした西暦世界のグレムリンの概念に大いに影響を受けたらしい、この世界の
本当に厄介だな!
やがて長ずれば、“不協和音と無秩序”、すなわちエントロピーの増大に関する権能すら得るのかもしれない。
だが、今はただの、些細な悪戯を行うだけの妖精だ。まだ何とかできる今のうちに押さえてしまいたい。
グレムリンの概念を
「それでおかあさま、どうするんですの?」
「惹き付け、燻し出して、捕まえる。協力してくれ」
「ふふ、もちろんですわ!」
ターニャの疑問に即答する。
まともに戦うつもりは、最初からない。
魔導航空艦を巻き込む恐れがあるし、そもそも小妖精とはいえ、妖精は妖精。
現象の擬人化である以上は、真正面から相手取るには、この惑星や周辺宙域すべての同種現象を調伏するつもりで挑まなくてはならない。無謀だ。
まあ負けるとまでは言わないが、ちょっと……いやかなりの難事業となる。
これがターニャが相手取る場合だと少し話が異なる。
彼女は光波と電磁の妖精であるため、グレムリンの上位に当たるのだ。
つまり部下眷属として指揮下に組み込むことが可能となる(もちろん完全に統制できるわけではないが。気分は保育士さんだ。)。
もっとも、そのためにはグレムリンを捕まえてお説教して、
「大抵の子は直ぐに捕まえられたんですけどねー。いま楽しそーに航空艦で遊んでるあの子は、一等に逃げ足が速くて、一等に悪戯を楽しんでいて、手ごわいんですのよ」
「グレムリンとしての適性が高かった……才能があった、ということか」
ますます、そんな才能のある個体を逃がすわけにはいかなくなった。
力をつけられると、今後の帝国の魔導航空艦の発展や、魔導機械の発展に確実に影響する。
もちろん、私たちが作ろうとしている電子機器の発展にも、だ。
「だが、それならそれで、むしろ丁度いい」
「とおっしゃいますと……?」
「悪戯好きの妖精として極まっているのだろう? ならこっちも本気で遊んでやろうってだけさ」
グレムリンちゃーん、あーそびーましょー! ってね。
<
次の瞬間、空に広がる絢爛なる光のタペストリ。
幻獣の虚像、架空の光景。
それらが躍動感を持って現れ、消え、幾何学模様に還元され、それを割るようにまたモチーフが現れる。その繰り返し。
見栄えだけは迫力満点。
込められた術式は複雑怪奇。
しかし実態は、殺傷能力のない魔力と光の幾何学模様と
きらきらひかって、わちゃわちゃしていて、いかにも遊びがいがありそうに映るだろう。
つまり恰好のグレムリンの餌になるというわけだ。
魔導航空艦の下部から飛び出した竜騎たちが、空に浮かび上がった光の道に沿って、あるいはそれらに交差するように飛んでいく。
美しく絢爛に、どんな高級な絨毯よりも複雑に織り込まれた光の模様が、刻一刻と姿を変え、その中を竜が飛ぶ。
星を自在に浮かべて操るような、空いっぱいの
そこからさらに変化して、現れるのはまさに絵画の中から現れたかのような空想の世界。
英雄譚を模したのか、山野のような背景のもと、虚像の巨人が浮かび上がり、しかし空を翔ける唯一本物の竜騎によって打倒される。
恐ろしくも精巧な、空の即興演劇。
だが精巧すぎる幻影が、現実と虚構の境を消していく。
見ればおそらく虚像なのだろう巨竜が、魔導航空艦の行く手に現れた。
航空艦と同じ、街区一個分もあるほどの巨体を持つ竜。
帝城の “星毯庭” から見上げる来賓たちが口に手を当て、御令嬢たちは小さく悲鳴を上げた。
それほどの真に迫った、存在感のある巨竜だった。
航空艦の機械的な存在感とは違い、そこに息づいているという迫力があった。虚像であることを忘れるほどに。
──── このような竜を倒せるのだろうか?
来賓たちの胸の
空の女王を飾る、無数の光玉。
星の河を纏ったような彼女は、その光を弾丸に模して放出した。
いくつもの幻想的な流れとなって虚像の巨竜へと殺到する色とりどりの光弾。
それが竜の
そして一部の光は、まるで渦巻くようにしてアレキサンドリーネ号の船首部分に集結しつつあった。
そして、発射。
光の奔流が、虚像の巨竜を貫いた!
ま、全部ただの演出なんですけどね!!!
巨竜が現れたように見えたのも、ただの光による幻影、ホログラムだ。
現実に現れたわけでは、もちろんない。
魔導航空艦から光の弾幕や、波動砲じみた光条がぶっ放されたのも、単なる演出。
アレキサンドリーネ号にはそんな機能は
やってることは規模がでかいだけで、子供の
遊んでいる最中の子供たち自身だけが見ることの出来る、空想の光景を、しかし光を操ることで夜空というキャンバスに浮かび上がらせているのだ。
だがこの規模だ、自在に操れるならば、絶対に楽しいに決まっている。
そしてあれもこれもすべて、悪戯好きの妖精を誘き出すための仕込みである。
夜空いっぱいの、楽しそうな玩具。
それを支える無駄に複雑な術式。
親和性が高い電光の属性。
……なんなら今演出している私ですら既に楽しいからな!!
とはいえ、楽しんでばかりもいられない。
これで餌は用意できた。
次は妖精たちを巣穴から燻し出す番だ。
私の眼には、興味津々に魔導航空艦の壁の中から半分顔を出している、
あと一押しというところだろう。
だから私は魔導航空艦の座標およびそこに重なる余剰次元の位相空間に向けて、妖精が嫌う魔導波長を照射した。
<
魔導航空艦の乗員や設備には影響させず、妖精だけが嫌う魔導波長をぶつけたのだ。
それも別位相にずれても関係なく直撃するようにして。
やられた妖精たちはたまったもんじゃない。
直ぐにうぎゃ~と、蜘蛛の子を散らすみたいに魔導航空艦から這い出してきた。
わらわらと出てくるが……一体どれほどの魔力を魔導炉から掠め取って
妖精にとっての怪音波じみた魔導波長により叩き出された彼女らは、しかしそれで踏ん切りがついたのか、夜空を埋め尽くす映像投影術式に夢中になった。
よし!
この宙域から逃げた
もちろん、魔導航空艦の中に残っている妖精たちも。
ここで一網打尽にしてしまえば、懸案が片付くというわけだな!
『(もう嫌な音はしませんの?)』
『(ああ、もう止めたぞ、ターニャ)』
妖精の嫌う魔導波長を聞かないように耳を塞いで縮こまって防御態勢を取っていた
相性的に考えても、格上の妖精として上位概念を操るターニャには、
だが再び逃がさないためには、今いる
その間にも、魔導絵巻の術式の一部が、
だがそれすらも計算通り。
遊びに夢中になっている間に、背後の
さて、美しく、そして可憐に戦おう。
その真剣さが、妖精たちを欺く一手となる。
その一方で、狡猾な蜘蛛のように罠を編もう。
かつてターニャになる前の
羽虫を捕らえる蜘蛛の巣を。
<
光の幻影に混ぜて、魔素を通さない糸を、夜空に流す。
竜騎の演目は終わっているから、彼らに絡まることはないのは確認済み。
魔導航空艦も、既に帝城の上空は脱した。もし墜落しても最悪の事態にはならないだろう。
招待客たちの度肝も抜いた。成果は上々。
あとはうまいこと
そのための蜘蛛の巣のような罠は、静かに、光に紛れて遠くからこの空域を閉ざし始めた。
夜空を埋め尽くす
単体で完成した術式というよりは、それ自体を道具として使うための、いわばツールとしての術式なのだ。
私が準備した幻影、虚像が、流れ落ちる流星のようになって消えていく。
その次の瞬間。
私は夜空に浮かぶ幻影がこれ以上の耳目を集めないようにと、地上との間に魔法の幕を引いた。
<
今宵は航空艦のお披露目の場。
これ以上の注目は不要というもの。
妖精たちを調伏する過程を、衆目にさらす必要はない。
それに────
「まったく、よくもまあ
──── 夜空一面に広がる
竜騎帝「うぉー! なんかビーム出た! かっけー!」
典礼部局長「なんやこれ知らん……怖ぁ」
造船部局長「なんやこれ知らん……怖ぁ」
なお
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特典ダイス&ダイストレー付き原作小説6巻が無事完売とのこと! めでたい!
そしてWEB版も更新されてましたね! https://ncode.syosetu.com/n4811fg/238/ ←エーリヒ君成長回(成長回だいすき)。<概念破断> を載せた神域剣技で複数回攻撃してくる上に