フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆後日の魔導航空艦の主砲論争(独自設定)
竜騎帝アウグストⅣ世「ビーム搭載しようぜビーム。こないだのサプライズ演出みてーなやつ」
無血帝マルティンⅠ世「あれ砲撃専用の炉が必要になるからコスト面で折り合わんぞ。魔力蓄積機構に余剰魔力をチャージして運用する方式も考えられるが、現状だと大容量の魔力を揮発させずに長時間留めることが難しいから技術革新が必要になるのだ」
竜騎帝アウグストⅣ世「じゃあいっそ、それ専用の魔導炉付き換装モジュールを造っちまおう。竜舎モジュールのとこは交換可能だからそこの付け替え用ってことで。主砲モジュールは、使わない間は国境の要塞にでも据え付けて要塞砲にしとけば無駄にゃあならんだろ」
無血帝マルティンⅠ世「ふむ。いや、やはりその分、竣工できる航空艦の数が減るだろう。魔導炉を主機以外に回す余裕はまだない。というか、どうやって主砲の照準をつけるつもりだ? 探知も照準も精度が足りんだろう。どれだけ威力があっても当たらなければ意味がないのだからな」
逆に言えば、竜を墜とせるほどの主砲についてはコスト面と技術面(製造・運用)での折り合いがつけば搭載される見込みがありそうです(それを使って魔獣のナワバリを突っ切って航路開拓することが可能になるかも。大航空時代だ!)。なお
◆前話
欺瞞の幻影を挟んで地上からの視線を遮った上空で。*1
虹色の極光でできた蝶のような翅が、粒子になって夜空に溶けるように流れ出して広がっていく。
「この悪戯っ子……! でも、ようやく捕まえられそうですわ、フフフふふ……」
夜空を彩り発光するオーロラに囲まれ、照らされて、ターニャの幼い美貌が浮かび上がる。
彼女もまた、妖精としての、無邪気な残酷さを備えている。
いや、ヒトとしての肉の殻を得て、その脳髄に電光を走らせることで得た理性は、妖精の本能をより洗練させているとすら言える。
『あはははは!』『捕まえられるものなら』『捕まえてみなよ!』『あは!』『ざーこ、ざーこ!』『すろうりぃ~!』『いたずらにかけては』『わたしがいちばん!!』『“はんぶん” はひっこんでなよ!』
対する
手のひらほどの少女の姿をした妖精たちが次々と集まってくる。
その数は、千か万か。
ろくろく数も数える気もないグレムリンたちは、自分たちがどれほどの軍勢になっているかすら把握できていない。
おそらく現在進行形で魔素遮断素材の糸に絡め捕られて数が減っているのだろうが、それも誤差に過ぎないほどの大群だ。
これだけグレムリンたちの数が多いのは、魔導航空艦の動力源である魔導炉から魔力を掠め取って、パチパチパチリとそこら中にある静電気を媒体にして自らの分身を増やしていったためだ。
そして、これだけの数の暴力でなければ、ささやかな静電気の妖精である己が、上位権限を持った光波と電子の妖精であるターニャに対抗できないと分かっているからでもある。
口では生意気を言っているが、実力差くらいは本能的に把握しているのだ。
でも楽しいので、挑発はする。
そういう後先考えなさがあるのだ、妖精には。
特に、自我を得たばかりの幼い妖精には。
それが何をもたらすのかに、まったく思い至らないがゆえに。
グレムリンたちの安い挑発を受けたターニャの
「へえ。そう……」
極光を引き立てる暗く凍えた極圏の嵐のような声が、ターニャの小さな唇から漏れた。
「優しくしてあげようと思ったけれど、やっぱりダメね。きっちり
『『『『 きゃー! こわ~い! 』』』』
「まったくもって、
夜空を覆っていた
それは視界いっぱいの光弾の奔流。
己の存在基盤であるちっぽけな静電気を溶かし込んで閉じ込めようとするその球電の弾幕を避けようとして、グレムリンたちが散っていく。
幽世の世界に逃げ込もうとしても、無駄だ。
そちらも既に、ターニャの月光蝶の翅が伸びて掌握している。
基底現実の中を逃げるしかないのだ。
グレムリンたちは散り散りに逃げていくが、それで逃げられるものでもない。
存在としての強度、つまりは出力が足りないグレムリンの量産分身体たちから順に逃げきれずに被弾し、数を減らしていく。
もちろんグレムリンたちも精一杯の抵抗をする。
『もー! あっちいけー!』『いけー!』
電場の偏りを造って、それによって弾幕を誘導。
『分身ガード!』『ぬわー!?』
あるいは、味方たる分身を盾にしての回避。
『曲がれ!』『精密なればこそ、狂え!』
そして、精緻精密なる誘導であるからこその、悪戯妖精としての干渉能力による
同じ分身体でも、その宿す力の差のためか、あるいはこれまでにどれだけ新たなその権能を── 静電気の権能からはみ出した
やがて数を減らすグレムリンたちが、追い詰められて一つ所に集められる。
それが一点に集まっていく。
『むー!』『こうなったら!』『『『 合体だ~~!! 』』』
そして、もともと一つから殖えたグレムリンの分身たちが、再び一つに重なっていく。
幽体が重なるように、静かに、優雅に。
パチパチと静電気が弾けるような音が何百と重なる。
やがて、万雷の拍手に包まれるかのような音の中から、その唯一が生まれた。
乱雑無章の妖精グレムリンの唯一。
最初にして最後の一匹。
数百のグレムリンの魔力を束ねて、その存在位階が肥大化する。
いまこの瞬間だけは、上位権能持ちのターニャに対して対抗できるほどに。
大きさも、元の手のひらサイズから、ターニャと同じくらいの少女の大きさになった。
当然、それだけの無理をしている。
長く保つものではない。
いましも器に収まりきらない余剰分の魔力が、穴の空いた皮袋のように漏れ出し続けている状態だ。
だがその僅かな時間で決着をつけるしかないと決意しているのだろう。
あるいはそれ以上に、勝ち切る自信があるのか。
それとも逃げるだけなら何とでもなると思っているのか。
『もー、邪魔しないでよね! こっちはただ遊んでただけなのに!』
「はぁ。貴女はまだ立場が分かっていないようですね。やはり限度と分別というものを刻まねばなりません」
妖精の少女たちが、夜空を背景に己の権能で創り出した弾幕を放ち、舞い踊る。
(弾幕シューティングだなー、これなー)
ちょうど少女たち同士で戦っているという点では東方系だろうか。
あるいは弾幕の鬼畜さ具合的には、
夜空の月は下弦半月、
とはいえ地力の差が大きいし、ターニャの方は私にも内蔵されているオーパーツな魔導炉食わせてあるから、隠の月の調子に依らずとも、魔力が尽きることはない。持久戦ではターニャが有利。
何より、虚空の箱庭で私とともに、この世界における電磁気学を研究して検証してきたターニャは、自らの権能への理解が深い。
妖精としての天然自然の能力として権能を扱うそれ以上に、ターニャは段違いの発展性と応用性を手にしているのだ。
天才的な魔導師として術式を練り、あるいは練らずして直感的に高位妖精として出力任せの力押しで攻めるターニャ。
それに抵抗して現象を顕現させ、あるいはターニャの術式を逆用して戦うグレムリン。
幾何学模様の光が、無数の球電が、折れ曲がる稲妻が、一面の極光が。
夜空を埋め尽くした。
その間にも、私は地引き網を引き絞るかのように、夜空に流した魔素遮断素材で紡いだ糸を手繰って、その包囲網を狭めていた。
グレムリン……つまり故障の概念の擬人化なんて、ちょっと野放しにはできないので。
まあ、グレムリンの発祥に私も強くかかわっているため、自業自得の側面が強いのだが。
それに今は静電気の妖精としての側面が強いからターニャの権能で抑え込めているが、乱雑無章たる無秩序の方向にスキルツリーを伸ばされると、それも上手くいかなくなる可能性がある。
抑え込むのならば今しかない。世界に伝播していってしまう前に、捕まえてしまわなくては。
『あはは! たーのしぃっ! でもなんで戦ってたんだっけ? まいっか! あはははは!!』
「このおバカ! 限界以上の魔力をぶん回しすぎて知恵熱でアホになってますわね!? さっさと降参しなさい!」
『あはっ。ダーメっ! いうこときいてあげなーい! もっとおどろーぅ!!』
「話が通じませんわねっ!?」
ターニャが追い詰めたおかげで、グレムリンの方の動きもだんだんと精彩を欠いてきた。
これならもう後は時間の問題だろう。
私の方でも魔素遮断素材による包囲が完成したしな。これで万に一つも逃がすことはありえない。
まあそもそも人間の営みによって生まれた機械だとか術式だとかに対する故障現象の妖精ということだと、今のこのライン三重帝国ではなかなかに司る対象の数も限られる。
魔導院関係がぶっ飛んでるだけで、現状はせいぜい水車動力程度で、内燃機関も生まれていないのだから。
主な動力源は、人力か畜力だぞ。あとは立地によって水車と風車。精密機械とかそういうレベルには達してはいない。
これが竈の妖精だったりすれば、家の数だけ竈もあるから、そこそこ力も増すのだろうが。
グレムリンだと、なあ……。
機械が溢れた西暦世界ならまだしもそこら中に情報端末や電化製品や機械の乗り物があったのだろうから、位階も高くなるのだろうが。生まれ落ちるのが早すぎたとも言える。さすがに中世レベルだと、ねえ。
…………いや、ひょっとすると、かつて栄えたという古代魔導文明の時代には、それらの魔導機械を狂わせるような
今、ターニャにいよいよ撃墜されそうになっているグレムリンも、実は遥か古代の超文明の時代の名残を残しているのかも……なんてね。個体として才能に溢れていただけでなく、零落した個体が今まさに力を取り戻している最中なのかもしれない。
私の魔法チートの権能がアカシックレコード的な何処かから引っ張ってくる術式にも、古代文明時代のものがどうも混ざってるようだし、あり得なくもなさそうだ。
いよいよターニャとグレムリンの弾幕の応酬が激しくなってきた。
見るものを惚れ惚れさせるような弾幕だ。
全体としてみれば、ターニャが優勢なのは変わらず。
グレムリンの方は精彩を欠いて久しい。
だが、グレムリンの悪戯、故障、乱雑さに係る権能は、いわばカウンター特化。
ターニャが術式に込めた魔力が、グレムリンのカウンターによって至近距離で暴発させられれば、いくらターニャであっても大ダメージを負う可能性はまだ残っている。
それに言えば、これまでも追い詰めたところで逃げられてきたという、負の実績もある。
油断は大敵だ。
……が、まあ、大勢はもう決まっただろう。
あとはゆっくりと、この飛び交う美しい弾幕を眺めさせてもらおうかな。
……ほう。
おー。
綺麗なもんだなー。
お、いけいけいけいけ!
そこだ!
おしい!
いまだ!
かわせ!
やれ!
──── おー! やった、よしっ! ターニャがグレムリンを捕まえたな。これで一安心だな。
『いったぁい!? ひゃん!? ちょっと!? やめっ!?』
「反省なさいまし! 反省なさいまし! 私たちが作った電子機械を! 狂わせて! 壊して! 悪い子!」
『あうっ!? ひゃん?! やんっ!?』
スパァン! スパァン! スパァン!とグレムリンの肉を打つ音が夜空にこだました。
ターニャによる尻叩きの刑である。
つまりお仕置きの時間だ。
『うー。だいたいそっちに指図される謂れはないでしょー?! 悪戯するのは妖精の本分だよ!!』
「限度ってもんがあるって言ってんですのよ!」
『壊れる方が悪いでしょーー!!?』
「開き直るんじゃありませんことよ!!」 スパァン!
『ひゃぅん!?』
まあじっくりここから “お話し合い” をして、グレムリン特攻の妖精除けの刻印とかの取り決めをしたい所存。
妖精との紳士協定(淑女協定?)ということだ。
ある特定の定められた刻印がなされたものには、できるだけ悪戯しない、ということを取り決めることで被害を少なくしようというわけである。
……私たちとしては、自分たちの作る製品、ひいては帝国内の機械類に対しての干渉を控えてもらえば最低限、目的達成だからな。
他国? 知らん、そんな事は私の管轄外だ。
単なる静電気の微小妖精程度のままなら、ターニャが指揮下に組み込んでしまえば良かったのだが、このグレムリンのように、静電気から拡張して “故障” の概念を広く司るように進化してしまうと、微妙にターニャの電磁の系列から外れるようなのだ。
というわけで、説得タイムであるよ!
これで電子機械その他の精密機械類の普及も、スムーズに進められるようになるはずだ。
魔導航空艦のお披露目もなんとか無事に……無事に? 終わったし、グレムリンを発生させてしまったことの後始末もなんとかなったし。
いやあよかったよかった!
◆
静電気の微小妖精のうち、故障だとか乱雑さだとかの概念に適性が高かったものが進化した姿。
古代魔導文明の時代にも似たようなのは居たのかもしれないが、古代文明の衰退によって姿を消しているのか、現代では確認されていなかった。
精密な機構、電子回路、魔導術式その他に干渉し、故障する余地があれば故障させる。グレムリンが居なくても壊れるときは壊れるが、その助長をするイメージ。
位階が上がれば、熱力学第二法則を司るようになったり、機械への統制を強めて
とりあえずは、帝国内においてはグレムリン除けの刻印が普及することで、自然に壊れる以上のペースで壊れることはそんなになくなるはず。
◆そのころエーリヒ君
負傷もなく計画的に下水へ逃れたあと、
影収納から属性魔剣や不死者殺しの魔剣を取り出すなどしつつ、初手から渇望の剣による『次元斬』で攻撃して、己の脅威度を証明し、仮面の奇人を最初から本気にすることに無事(?)成功。
仮面の奇人が使い魔の三頭猟犬などを前衛にするのに対抗して、エーリヒ君も『英霊召喚の魔本』から在りし日の渇望の剣の使い手たちを召喚。
……まあ、しばらくすると仮面の奇人の空間攪拌攻撃が通常攻撃化するので対処が間に合わなくなって結局やられるわけですが。通常攻撃が回避不能範囲攻撃で装甲貫通攻撃のお義父さんは好きですか?
あとの流れは概ね原作と同様です。なお、エーリヒ×セス嬢急進派のイミツァ嬢の暗躍により、慈愛帝ルートの派生確率が急上昇していますが、当SSでは原作ルートを正典として扱います。
===
原作小説6巻(通常版)予約開始とのことです。https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824002396&vid=&cat=BNK&swrd=
次のヒロインは人馬娘ディードリヒちゃんでございますのね。故郷までの道中記のクソ単発シナリオの群れも気になっていたので助かります! あと、当SSにおける原作5巻相当分では、マックス君が
WEB版も更新されておりましたね。いつの間にかなろうの『いいね!』機能解禁してくださっているので、既に評価付けた人も最新話や過去話に『いいね』して応援しような!→https://ncode.syosetu.com/n4811fg/240/ ついに組事務所を構える剣友会……!
===
次回以降は、今回のサプライズ演出の後始末やら、マックス君の研究員昇任やら、魔導副伯就任打診イベントあたりになりそうです。でもなあ、華奢帝フランツィスカ様も好きだからどうにか出したいんだよなあ……(原作5巻冒頭のミカ君ちゃんとフランツィスカ様の絡みはとても良かったです)。