フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆別幕について
マルティン先生の家蚕の使い魔
◆
地下空間の決戦後に、セス嬢が「(エーリヒの血、美味しい、おいひい、とまらない……!)」して文字通り死ぬほど血を吸って、エーリヒ君が「(あれ、めっちゃ吸われてる、これ死ぬんでは。あー、でも、きもちいいし、セス嬢になら、まあ、い い か … … )……あなたになら、いいですよ」と文字通り昇天してしまった末に眷属として復活して突入する当SSの
◆
似たようなランダム性と確率の偏りに係る権能かと思われますが、複雑な機械や術式などあくまで物理的・魔導的なものへの介入を経て権能を行使する “
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◆前話
極光の半妖精ターニャ「分別のない悪戯っ子はお尻ぺんぺんですわ~!!」 スパァン!
上空は決着し、そして、
華奢帝
地下も決着し、魔導航空艦アレキサンドリーネ号のお披露目は、なんとか失敗せずに終わったのでした。
「お、覚えてろよ〜!!」
「そっちこそ、このマークがある機械には手を出しちゃだめですわよ! ちゃんと覚えていってくださいまし!!」
「仕方ないから言うこと聞くけど、いい気になるなよ!! あ、そっちの金髪の子はまたね! 遊ばせてもらった術式楽しかったし! でもそっちの
次元封鎖を解除。魔素遮断素材による封鎖も解除。妖精の位相移動を許可。
そうすると、“
さんざん叩かれたお尻を抑えながらであったが。
「消えたか……。ターニャも、ありがとう、お疲れ様。これでまあ、グレムリン除けのお
「いえいえ、何のこれしきですわ。おかあさま。本来であれば調伏して完全に指揮下に置きたかったんですが……」
「まあよほどグレムリンとしての適性があったのか、短い間に相当の力をつけていたみたいだからね、さっきの子は。しかたないさ」
我が娘にして戸籍上の妹であるターニャのお陰で、グレムリン誕生による被害は最小限に抑えられたと言えよう。
そもそもあの
あのグレムリンを調伏できなかったのは、時間が経つうちに、グレムリンの司る属性が、ターニャの司る光波と電磁の権能の範囲から、急速に無秩序や乱雑さを司る領域へとズレていったためだろう。
それほどまでにそちら方向に才能と適性がある個体だったのだ。
この機を逃せばターニャでさえも押さえを利かせることはできなくなるくらいに強大になっていたはずだ。
だからこの時点で捕捉して、グレムリン除けのお
「さて、それじゃあこれから私は──」
私は虚空の箱庭から情報を受信し、同時に取り出した紙の束に、その受信した情報を写真術式で転写する。
「── こいつを届けてくるとしよう」
手にした論文の内容は、先ほどの航空艦の術式異常と、その原因と目される
時間加速した虚空の箱庭のエミュレータで原稿を仕上げたそれは、きっと、いま地上で魔導航空艦に起きた異常の解明と対策に追われている者たちに対する、これ以上ない支援になるはずだ。
もちろん今私が手にしている論文の内容では、
わざわざ自分から犯人だと明かすこともないのだ。……マッチポンプ臭がするので気が咎めてはいるがね。
「おかあさまも真面目ですのねえ。では私はスティーと一緒に虚空の箱庭のお屋敷で休むことにしますわ。流石に疲れましたもの」
「ああ、お疲れ様。ここ最近ずっとだったものな。屋敷にあるお菓子やハチミツは幾らでも食べてくれていい」
「はい、そうさせてもらいます。まあきっとスティーが既に手を付けてますから、ご相伴に与らせていただきますわ。本当にここしばらくずっと追いかけっこしてましたし、お腹が空きましたの……」
ターニャは、極光のような蝶翅をはためかせると、次元に干渉する術式を走らせて、マックス・フォン・ミュンヒハウゼン郎党のアジトである、次元の狭間に浮かぶ広大な基地への帰還路を開いた。
かつては、無理やりに空間を維持・隷属させたために魔素が荒れ狂っていたその箱庭も、居住区画においては、穢れを嫌う妖精や魔種たる巨蟹鬼が過ごせるように清澄な魔素が満ちるようにと調整されている。
あの美食家でもある
しかも食べれば食べるだけ成長していくから贅肉にならないのと、所詮オーガの上半身の口で食べられる量の上限は体の大きさに比したらたかが知れているため、肥満の心配もなく食べ放題な状態だ。
料理を作るのは、マックスが作った
この虚空の箱庭の拠点には、マックスが作成した
箱庭と言いつつ既に帝都の街区数個分くらいの用地を確保しつつあり、そこには様々な区画が設けられており、相応に
この箱庭には、研究区画や居住区画はもちろん、魔法で品種改良された農作物・畜産物を育てて収穫する農場区画もあり、食料供給は万全。
素材自体も最上級である上に、料理人として何百年と修業を積んだエミュレーション結果を素体にダウンロードした人造人間が作る料理は、最上級品と言って過言ではない。
「ではおかあさまも、ほどほどになさいましね」
「ああ、そうするよ。心配ありがとう、ターニャ」
「いえいえ。そしたらお先に失礼しますわね、いとしいひと」
投げキッスして虚空の箱庭へと消えていったターニャ。
その姿が消えると同時に、空間の裂け目も消えた。
「……さて行くか」
それを見届けた私は、魔法によって帝城の方へと静かに夜空を滑空して戻ることにした。
決して出頭するのが嫌なわけではない(嘘)が、なぁに、多少遅れたところで構うまい。
帝都を見下ろす遊覧飛行で癒されるくらいの時間は許されるだろうさ……。
さて私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンは、昨夜の航空艦お披露目の式典を何とかかんとか無事に終わらせたことを受けて……事情聴取のために帝城に呼び出されて、
当然だ。
そうなる前に先手を打って夜中に帝城を訪問して、自ら進んで情報提供してきたのだから。面倒ごとは早めに片付けるに限る。
……自首って言うな。まあ似たようなものだが。
“グレムリン除けのおまじない” の図面も渡してきたし、あとは魔導航空艦付きの魔導師が良きように取り計らってくれるだろうさ。
「ミュンヒハウゼン卿……」
「!? メ、メヒティルトさん?!」
そして徹夜して帝城から出ようとした私がばったり会ったのは、今にも死にそうな顔をしたエールストライヒ公爵家の家臣である、あの麗人メヒティルト女史であった。
しかもきちんと治してあげたはずの胃炎が、まーた再発しているし。栗毛の髪も艶を失って、目元はひどいクマで落ち窪んでいる。彼女の主家である
きっとメヒティルト女史も昨夜の魔導航空艦のお披露目の晩は、大変な……本当に大変な思いをしたのだろう。
「ああ、これはちょうどいいところに……。卿の配下であるセバスティアンヌ殿にも当家の内のことでご助力いただいたので、その件で礼を申し上げなくてはと──」
「いやいやいや。まあその件は聞き及んでいますし、結局うちのスティーもそこまで役に立ったわけでもないでしょう」
「いいえ、いいえ。セバスティアンヌ殿のお陰で、脅威度の目安もつきまして、諸々が上手く回りましたので……」
あー、言葉は濁しているけれど、
敬愛するお嬢様を早く見つけたいメヒティルト女史にとっては、援護射撃になる情報をもたらしてくれたから恩義に感じてくださってるのか。なるほど。
本当はピンピンしてるけど、重傷を負ったということに偽装してあるから、派閥でもない他家の家臣に危害を加えたことを重く見てるのもありそうだ。
ちなみに私はこの件におけるエールストライヒ公爵家側のおおよその顛末を、虚空の箱庭で休んでいた
そして『約定があるから』と何も語ってくれなかったが、どうやらその最中でエーリヒ君と戦ったらしいことも、スティーの欲求不満(戦闘欲)が解消されていたことから察しはついた。
まーた
ウケる。
そして何だかんだで丸く収まってるぽいのは流石だ。
え、私も巻き込まれてただろって?
私のはホラ、自業自得というか、
「それにミュンヒハウゼン卿自身も、定命の身であるにもかかわらず我が主人の魔導談議に長くお付き合いいただいて、それにも感謝を……」
「まさか! それこそ礼を言われることではありませんよ。あの高名なマルティン・フォン・エールストライヒ教授と魔導談議ができるなど、
「そう言っていただけると……」
メヒティルト女史がそう言って、胃を抑えて儚げに笑った。
朝日の中に消え去りそうな彼女の笑みを見て、たまらなくなった私は、手印を丸く切って、“もったいないおばけ” に奇跡を請うた。
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うん。
覚醒剤じみたポーションをしこたま飲んで無理やり体を動かしてるのは、常駐の探査術式で察してたし、多分胃痛再発の何パーセントかは私のせいもあるだろうからね。
世界シミュレーション術式で魔導談議が弾んでしまって、尚更に部屋から出てこなかったこととか。
帝都に着いた後のエーリヒ君にいろんな装備を提供したり、無茶な訓練の後に奇跡で重傷を治してあげたりとか、遠方の魔宮やら賞金首やら魔獣やらを討伐しにつれて行ったりして、彼のことをかな~り強化しちゃってたからねえ。
だから少しだけ責任を感じなくもない。
というわけでこの神の奇跡はサービスだ。
これで魔剤の悪影響も、疲労も、眠気も、回復したはず。
「……これは……。かたじけない……感謝いたします……!」
「いいえ。この程度、何ということもありませんとも」
「これでもっと働ける……!」
「それはお止めなさい。……以前も思いましたが、やはり、貴女のようにお美しい方は、安楽になさっていた方がより魅力的ですよ」
減らず口を叩く私に対して、メヒティルト女史は赤面して俯いてしまった。
……かわゆい。
「そういえば、何か御用があったのでは?」
「いえ、ミュンヒハウゼン卿。主君との魔導談議といい昨晩の与力といい、ここまでしていただいたからには返礼のためお招きするのが筋なのですが、生憎と当家の都合が合わず……。また改めてご招待させていただければと……」
申し訳なさげにするメヒティルト女史に対して、私はにっこりと笑う。
ふふふ、帝城の噂話は夜のうちに常駐の探知術式で収集済みなのです。
──── マルティン先生が臥せってらっしゃるのでしょう?
「なっ。ご、存じだったのですか」
「ええ、まあ」
ひょっとしたらさらに貸しを作れるかもしれないし。
純粋に心配だからというのも、もちろんある。
おそらくだが、マルティン先生は、血の力を限界まで消耗してしまった状態なのだろう。
だから再生もできずに臥せっている。
しかも、何らかの事情で、エールストライヒ公爵家の者たちは、自らの温血をマルティン先生に与えることができないと見た。
マルティン先生が自らを苦行に追い込むマゾヒストではない限り、マルティン先生より上位の命令権者から血の提供を禁じられているということだろうか。
他家の家臣たちに対する強制力など皇帝でも持ち得ないから、その推定上位権者は、エールストライヒ公爵家の内部の者ということになる。
当主でもあるマルティン先生より上位の影響力を持ち、かつ家中の者、となると……まあ、該当者はそう多くない。
とはいえ、だ。
その影響力も、私にまでは及ばない。
私はエールストライヒ公爵家の派閥ではないし、もちろん家中の者ではないからね。
それに、マルティン先生に血を与えることを禁じている者についても予測はつくが、勝手な想像でしかない。
私は何も知らない、善意の第三者だ。
そしてマルティン先生をお見舞いに来た、彼を尊敬する聴講生が、あまりに辛そうな彼の様子を見て、自らの血を滴らせて与えるのは、何も不思議なことではない。
「なので、どうかお見舞いに
魔力たっぷりの私の血は、きっとマルティン先生の回復に役立つだろうから。
魔法チート転生者の血を一滴でも口に落としてやれば、瀕死の
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◆ダイレクトマーケティング!
原作書籍版6巻の試し読み来てますねー! → https://over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=9784824002396&vid=&cat=BNK&swrd=
エーリヒ君、お勤めご苦労様です!! いろんな文化圏の御馳走が並ぶと同時、それらの材料が揃うライン三重帝国の帝都の豊かさ、国力を見せつけられた思いでした。
WEB版も更新されてます! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/242/
そういえばミカくんちゃんとマルギット女史は、漂白卿ルートでも仲良さげであったなあ(原作小説3巻の末尾の方の挿絵、良き)。癒者による重傷の治療描写も篤くて助かります。