フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

83 / 160
 
◆各学閥は時間の秘密を手に入れられたか(独自設定)
禁書庫に収められた「時間の秘密についての入門解説書」の閲覧自体は、学閥の長レベルであれば問題なく認められます。申請があり、それが認められた場合はもっと下位の実力のものでも。ですが魔導師の(ちまた)は自己責任。どうなっても知りませんよ?
まあ、学閥を率いるほどでなくとも多少戦闘のできる教授級の魔導師であれば問題はないでしょう。例えばライゼニッツ卿であれば猟犬を概念級の凍結術式で凍らせて悠々と読めるでしょうし、解説書から得た知識で時間すらも凍らせられるようになるでしょう。各学閥の長であれば、猟犬の爪牙を乗り越えて時間の秘密の一端を掴めたはずです。
なおこの解説書を読んだ極夜派や黎明派の教授たちは「これはもっと厳重に封されるべき」と考え、猟犬によるセキュリティにすら不満を抱き、自分の閲覧後にさらに強固なセキュリティを付加した可能性が高いです。
著者の何某(マックス君)「やべえ。見るたびにギミックが盛られていってる……」
なお時間遡行魔法理論の提唱者であるアグリッピナ氏は、気に食わない上司(ライゼニッツ卿)が時間の秘密の世界に入門した(≒さらに殺しづらくなった)ことと、その時期を早める入門解説書を作った著者(マックス何某)に対してご立腹の模様。
アグリッピナ氏「余計なことを……」

===

◆前話
時間の秘密に触れる者に襲い掛かるイッヌ!(前話にマックス君の残機が減った旨を追記しました)
それはそれとして魔導宮中伯アグリッピナ氏は、魔導副伯マックス君を呼び出したようです。
マックス君「嫌な予感がする……」
 


23/n 沙漠(まで/から)愛をこめて-2(東行の辞令)

 

 ウビオルム伯爵に呼び出されて急ぎ <空間遷移> して彼女の屋敷を訪れた私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼン魔導副伯を待ち受けていたのは、妖艶な美しき長命種(メトシェラ)だった。

 

 彼女こそは時間の秘密に触れた者。

 汚穢(おわい)を纏った角度の猟犬の使役者にして、魔導院払暁派教授。

 また無血帝の信任篤き魔導宮中伯にして、私の上司──── いや、鬼上司である。

 

「仰せによりただいま罷り越しました。ウビオルム伯」

「ようこそミュンヒハウゼン副伯。呼ばれてすぐやって来る殊勝さも含めて、私は貴方のことを高く評価しているわ。もちろん陛下も」

「は。ありがたき幸せ」

 

 知ってるー。

 これ無茶振りするときの前段~~。

 

 おい部屋の端で含み笑いしてる従僕!*1 見えてるぞ。こっちは常駐術式で視界拡張してるんだからな。

 

「そこでそんな優秀なあなたに、やって欲しいことがあるのよ」

 

 ほら来た。

 

「まずは此れ」

 

 アグリッピナ氏が辞令の書かれた紙を銀盆に載せて、従僕のエーリヒ君に持たせて寄こす。

 

(……がんばれジャパニーズビジネスマン♪)

 

 おおっと意趣返しかい?

 だけど巻き込まれないと思っているのかい、エーリヒ君。

 

(笑ってられるのは今のうちだぜ従僕(サーヴァント)

 

 小声でやり取りをするエーリヒ君と私。

 

 そっと銀盆から書状を受け取り、開く。

 

 内容は。

 

「魔導航空艦に載せる『新型魔導炉』の研究開発拠点の探索……」

「そ。私も落日派の閉鎖循環型魔導炉の実験結果を見たわ……。あの爆弾もどき。

 でも夢がある。打ち捨てるのは惜しい……ということで、それを制御可能な範囲に仕立て直すのも私の仕事になったというわけ。魔導航空艦にはそれを載せる予定で動いているわ。

 けれど、実験には失敗がつきもの。まさかまた魔導院の地下でやらせるわけにもいかない。となれば……」

 

 言わんとしていることは察せられる。

 都市丸ごと吹き飛ばしかねないものについての実験を再び行うとなれば、まず帝都では許可が下りるまい。

 何せ本当に吹き飛ばしかけた前例があることだし。

 

「吹っ飛ばしても惜しくない土地でやれ、というわけですね」

「御明察。沙漠の真ん中なんか良いんじゃないかしらね」

「つまり東に行け、ということですか」

 

 前世の西暦世界で、砂漠の真ん中で核実験をやっていたようなものだろう。

 なるほど、あのうっかりメイドなイミツァ嬢の予言はこういう風につながるわけか。

 

「陛下は研究拠点の作成までこちらにお任せいただけるそうよ」

「……丸投げが過ぎるのでは? あるいは全権委任ととらえても?」

「己の能力と責任が及ぶ範囲で、辞令の解釈範疇に納まるのであれば、如何様にも。それだけ能力を買われているということよ。腕の見せ所ね?」

 

 ふむ。全権委任として考えれば、まあそこまで悪くはない、か。

 恐らくは帝国政府としては小規模な出張所のような研究拠点を作り、帝都とは私の <空間遷移> で繋いで行き来させる想定なのだろう。予算を貰えるとしても、その程度の額に抑えられてしまうだろうことは想像に難くない。

 財務部局が吝嗇なのは仕方のないことだ。……あるいはアグリッピナ氏が管轄する事業の方にリソースを吸われすぎているか? そこは色々とありそうだ。

 だがまあ、帝国政府の思惑通りにやる必要もない。

 

 むしろ無血帝マルティン先生としては、私にそこからの逸脱を望んでいるのだろう。

 それゆえの、解釈の余地がありすぎる曖昧な指令。

 

 例えば東方交易路の新たなルートを開拓して地下鉄道を通して研究拠点()()までの物流を確保しても良いわけだ。

 物流ネットワーク研究会の成果を見せるいい機会かもしれない。

 

 帝国の国庫を傷めず国益になるなら、帝国政府も事後報告になってもとやかくは言うまい。

 開拓費は持ち出しになるだろうが、私に限っては物資も人員も何とでもできる。何も障害にならない。

 

 海洋魔宮を幾つも攻略して確保したその跡地に建てた海洋鉱山からは無尽蔵に資源を得られるし。

 質量を融かすタイプのオーパーツな魔導炉により、エネルギーゲインも制約無し。

 虚空の箱庭に抱える人員は、ホムンクルスによって構成されるとはいえ一地方都市に匹敵する。私自身が移動宮廷を抱えているようなもの。

 

「むしろそれだけの巨大事業にする気なら、お金の巡りも意識なさいね」

「……まあ身内だけで回してもそれはそれで波風が立ちますか」

 

 半端に嘴を突っ込まれるのも嫌だから、他所様(よそさま)を巻き込む時期についてはよく考えたいところだが。

 

「ま、うまくやんなさいな。どうにもならなくなったら泣きついてきて構わないわよ?」

「そうはならないようにしたいですね。後が怖い。──── まあいよいよとなったら頼らせていただきます」

「そうしなさい」

 

 頷いたアグリッピナ氏が、続いて()()()の書状をエーリヒ君に運ばせる。

 

「ではこちらも目を通して」

 

 ……魔導炉の実験場探し以外にも辞令が?

 訝しみながら書状を広げる。

 

「……これは……?」

「見てのとおり。縁談ね」

「え ん だ ん ……」

 

 書状と思ったら釣り書きか、これ。

 

「第二次東方征伐関係で下したり内応させたりした諸族から、子弟を招いて嫁入り婿入りさせているのはご存じ?」

「それは勿論。つまり私のこれもその一環、ということですか」

「まあ地縁血縁に食い込むには手っ取り早いんじゃなくて? これは帝国政府というよりは皇帝陛下直々の私的な斡旋だから断っても構わないけど」

 

 逆に断れるわけないですよね、それ。

 

「お相手は木っ端の小部族だそうだけれど、結構厄介みたいよ、それ。本来であれば他の諸族と同じように帝国に誰ぞを寄こして適当な貴族と縁を結ばせて……、となるのだけれど。族長の系譜が若い娘一人だけしか残っていないのと、東征において帝国にもたらした勲功の大きさゆえにあまり蔑ろにできないみたい」

「外様であるにもかかわらず勲功が大きい、というのは?」

「私はそこまで配慮する必要はないと思うのだけれどね。両賭けしていた暗殺密偵部族のうちの帝国に与した側の生き残り、みたいなもんだと覚えておけば良いわ」

 

 伊賀とか甲賀とか、あるいはアサシン教団みたいなもんか?

 そして私の縁談の相手として挙がっているのは、その族長の系譜で一人生き残った娘さん、と。

 その頭目たる娘さん以外の生き残りがどれほどかは分からないが、まあ、それほど多いわけではないのではないかな。

 

 となると功績が大なるというのも、過去それまでに他部族に雇われて仕事を請け負っていた時に得た情報を手土産にでもしたのかね。

 東の地にある国家の地勢、軍構成、国家のキーパーソンが誰か……それらの諜報に役立つ情報をもたらしたなら、確かに粗略には扱いづらいか。

 あるいはそれに加えてきっと東方征伐時に実働もさせたのだろうし……。

 

 それでも見事に勝ち馬に乗れているということは、博打に勝ったのか、先見の明が優れていたのか。

 もしくはその姫様とやらはよっぽど頭が切れるのかね。

 

「異論無いなら、婚約決定ね。パチパチパチ、おめでとう」

「まあ確かに異論はありませんが……向こうにも婚約の話は通っているのですか?」

「通っているわよ? 婚約者の条件として、“帝国から東のこの地に赴くのに抵抗がない者で、この地にさらに豊かな暮らしをもたらしてくれる者” っていう条件は向こうがつけてきたのですもの」

 

 それ暗にお断りの文言じゃないですかね。

 まあいいですけど。

 その婚約者の部族の治める地がどこか詳しく見ないと分からないが、東に拠点を構えるのも、そこを通るように交易路を開拓したり、あるいは魔導具を使って生活を改善したり産業を興したりってのは、私にとってはそれほど障害にならない条件だ。

 

 むしろ土地の再生だの人材の有効活用だのは、“もったいないおばけ” に信仰を捧げる身としてはライフワークですらある。

 

「じゃあ婚約の件はよろしく。東に行くついでに挨拶しときなさいな」

「は。承知しました」

「あとは裁量の範囲で上手くやりなさい」

 

 貴族としては我田引水してなんぼという向きがあるのは確かだ。

 お役目にかこつけて利益を引き出さないと、配下を食わせられないという事情もある。

 

 流石に帝国政府は末端の腐敗を防ぐために、賄賂の必要のない程度の給金を役人に保証しているが、財源は有限だ。

 高位貴族になるほど、役得前提での事業運営となってくるのは致し方ないというか、国家の奉仕者であるとともに独立事業主でもあるのだから自然とそうなるというか。

 

「……この『魔導炉の研究開発拠点』の視察の権限、かなり上位の権限で出てますよね。いわゆるお目付け的なことも期待されてます?」

「あら。口にしなければ分からないかしら?」

 

 あっはい。

 それは非公式任務という訳ですね。いわゆる目付(めつけ)というやつ。

 東方情勢の別ルートからの実情把握に、場合によっては綱紀粛正も視野に入る、と。

 

 …………面倒だから極力人里離れたルートを開拓しながら向かうか。

 目付云々は口にされてないからボク知ーらないっと!

 

 

 

「では確かに魔導炉研究拠点の探索と開発について、辞令拝命しました。また良き縁談を紹介いただいたこと、陛下にも何卒よろしくお伝えください」

「ええ、伝えておくわ」

 

 まあ長期出張とはいえ、御上のご意向であれば仕方ない。

 

 

 

「それと私が抱えている案件ですが、それはどのように?」

「ああ、それはそこの従僕に引き継いでおいて」 「!?」

「なるほど。了解しました」 「!?」*2

 

 脇で愕然としているエーリヒ君には悪いけど、そらそうなるよ。引継ぎ先は君しか居ないんだし。

 だから『笑ってられるのは今のうち』だって言ったんだ。

 ちょっと一人で処理する分量にはならないと思うけど、私も社交のために <空間遷移> でたびたび戻ってくる予定だからそんなに酷いことにはならないんじゃないかな。ならないといいね。知らんけど。

 

「しかし宜しいので? ここで隙を見せれば色々と鬱陶しいのが寄って来るでしょうに」

「むしろ今のうちに一網打尽にしたいのよね。ほら、面倒ごとは早く片付けるに限るじゃない?」

 

 ああ、なるほど。

 人員不足であっぷあっぷしているように見られるのも織り込み済みというわけですか。

 ご自身を囮にするつもりなのだろうが、付き合わされるエーリヒ君が可哀そうだねえ。

 

 すると私の方もこれは餌というわけだな。

 帝都から離れたらこれ幸いと切り崩しのために接触してくるのが居そうだ。

 

「では今回の辞令の向きを左遷ととらえて私の方に離間のために寄ってくる輩がいたらお知らせしますね」

「何ならそっちで取り込んで配下に組み込んでくれても構わないわよ」

「必要があればそうします」

 

 ともあれ東行の計画を立てよう。

 地図の確認に、将来の地下鉄道を掘るための “穿地巨蟲(ヴュラ・ダォンター)” の統括個体、仮称“シュド=メル級” の完成も急がなければ。

 他にも色々とやることが……!

 

 

 

§

 

 

 

 ライン三重帝国から東へ行った沙漠の地。

 そこに伏蠍人あるいは蠍背人と呼ばれる人類種の一部族の集落があった。

 

 巨大な蠍を背負ったような姿の彼らはこの地では『蠍の人』や『ギルタブルル』と称され、非常に優秀な狩人集団として、また暗殺者の集団としても知られ、畏怖されていた。

 

 しかし帝国の言うところの第二次東方征伐戦争によって、その数も随分と減った。

 戦える戦士は少なくなったが、生き残ったこちらに子供たちが多いのは、部族の将来を考えれば僥倖というところか。

 部族をまとめる巫覡(ふげき)の一族の血筋を引き、その祭祀を完全に伝えるのも、いまや神に愛されし白子(アルビノ)の娘がただ一人のみ。

 

 聡明なる彼女は幼いうちから頭角を現しており、第二次東方征伐戦争の早くから帝国側に着くことで、一族を割りつつも、なんとか命脈を保つことに成功したのだった。

 敬愛する神の縁起が歪められようとも、たとえ父母と袂を分かとうとも、裏切り者と謗られようとも…… 一族全てが滅ぶよりはよほど良いとそう信じて。

 

 日課として潔斎を済ませて祈りを捧げる伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の白い巫女に、“蟲の知らせ” が降りる。

 つまりは神託。

 

 清算の時は近い。

 裏切りの吉凶が決まる日は近い。

 西のライン三重帝国から、()()はやって来るだろう。

 

 それは彼女にとっての死神か、あるいは福音か……。

 

*1
無茶振りされる前のマックスを眺めるウビオルム伯の従僕:エーリヒ君「だ、だめだ、わ、わらうな……こらえるんだ……」プフッ

*2
にわかに仕事が倍増することになった従僕:エーリヒ君「え…………? は…………??」




 
というわけで原作5巻ではエーリヒ君はムカデ娘なナケイシャ嬢(密偵、多腕、褐色娘)との縁が出来るわけですが、我らがマックス君はサソリ娘(アラクネタイプではなくサソリ型アーマーを背負っているようなタイプ)との縁が出来ます。アルビノ! 巫女さん! 毒使い! アサシン(ニンジャ)! お嫁さん! そんな感じです。伏蠍人/蠍背人を含めてまるっと独自設定ですがよろしくお願いいたします。

===

次回は、とにかく人跡未踏の無人地帯(森、山、etc…)を東に向けてシュド=メル級の穿地巨蟲(ちをうがつま)に地下を掘らせながら、地上は巨蟹軍で制圧していくマックス君一行が、強力なモンスターに襲われたり、激おこな山の神や大地の神(ライン三重帝国の神群とは別の神)の使徒に襲われたりする話になるかと思います。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。