フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
異教の神が遣わした獣型の使徒たちに囲まれ絶体絶命かと思われたマックスくん一行であったが、使徒には使徒をぶつけるというのはマックスくんらにも当てはまる攻略方法だった。
つまり冬虫夏草の使徒の菌糸によって強化した氷の巨人であれば、天の牡牛、天の猪、虹の大蛇、黒き海の大海月に対抗することが可能! ……なはず。
こちらには巨蟹鬼スティーや極光の半妖精ターニャもついている! 仲間と力を合わせて危難に立ち向かえ!!
 


23/n 沙漠(まで/から)愛をこめて-5.5(宴と後始末と交易拠点化計画(白銀灯台+氷床メガフロート+洋上石油コンビナートの構想))

 

 いやあ、神の使徒たちは強敵でしたね!!

 

 いま私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼン魔導副伯は、黒き海の沖合に突き出た氷(繊維強化氷材)の塔の最上階で、先ほどまでの神の使徒との激戦で傷ついた仲間たちを(ねぎら)っていた。

 

「ターニャ、スティー、二人のお陰で無事に生き残ることが出来た。ありがとう」

 私は二人に頭を下げた。

 

「なかなか楽しかったですわね、おかあさま!」 極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)にして電子と光波を司る上位妖精であるターニャはつやつやとしている。「特におかあさまが海水に火球を打ち込んで上昇気流から積乱雲を作って雷を降らせたのは良かったですわ!! 私も雷をたくさん食べてお腹いっぱい! 蓄えた力を相手に叩きつけたのは爽快でしてよ!!」

 多くの神話で神すら打ちのめす裁きの力とされることも多い(いかずち)を何本も食べて、しかもそれを収束してぶつけてくるとか、使徒の側としても予想外だったみたいだけどね。

 魔導を修めて人の理性で以て自らの権能への理解を深めた半妖精の恐ろしさを見た思いだ。

 

「それよりも早う肉を食おうぞ! 使徒の肉の味が気になってしかたない。(あるじ)殿の身体から生やせるそのキノコ使徒で出汁(ダシ)を取れば一体どのような味になるのか……!」

 巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌはジュルリと涎を拭う。

 彼女は私が “もったいないおばけ” に請願した終焉の権能による加護を武器や甲殻に纏わせてやることで、主に襲ってきた使徒たちへのトドメを担当した。

 私が操る白銀巨人の腕によって投石器に投射される岩のようにして射出された彼女は、魔晶に刻まれた生得魔法(じまえ)の重力制御術式(その種の生態として使える魔法は “自然” なものなので神の奇跡では打ち消されにくいようだ)によって一本の鏃となって(ミサイルのように)突入していった。そんなスティーを止めることは、たとえ使徒でも至難の業。傷を負いつつもスティーは役割を完遂した。

 もちろんそれも、彼女の積み上げた武の技量があってのことだ。彼女は尊敬に値する戦士である。

 

「そうだな、可食部位は研究用のサンプルを取った後も十分な量がある! 我らの神に勝利と供物を捧げ、戦勝を祝って宴にしよう! これは勝者の権利だ!!」

 使徒たちと矛を交えるうちに肉体言語で幾らか通じ合った感触もあった。

 きっと向こうの神々にもこちらの実力と状況(私が使徒の菌糸を完全に制御下に置いていること)は十分に伝わっただろう。

 だから第二弾が来るとは考えづらいが、私が自身の内の “冬虫夏草の使徒” の気配を抑えてなかったのが今回の使徒の派遣の一因であるようだし、以後は使徒の神威を漏らさないように体表に気配遮断術式を纏うなど、特に注意するようにしよう。

 

 

 さて、いま私が宴の準備をしているこの場所、洋上に突き出た巨塔は、海底のウミユリの魔獣の死骸をリサイクルしたオブジェをてっぺんにあしらって、まるで超巨大な一本の氷の造花のような見た目になっている。

 

 その高さはこの黒き海の沿岸のどこからでも見えるほど……というと流石に言いすぎたが、類を見ない超高層建築だ(なお上空は気温が低いが室温は術式で調整済みだし、突貫工事だがこのフロアの内装は断熱素材で仕上げてあるため外装の繊維強化氷材の冷気が伝わることはない)

 現に術式で肉体強化した私の眼では、ここからはるか遠くに白く海氷に覆われた沿岸部が見える。

 ついでに先ほどまでの大決戦を目の当たりにして、意気阻喪して跪く現地の人々も。

 

 アクシデントだったが、結果として帝国の武威を思い知らせることが出来ただろうかね?

 そしてこの繊維強化氷材でできた白銀の巨塔も、印象付けられただろうか。

 あ、いやどこの勢力の仕業か分からないだろうから、天に帝国の国旗でも投影しとくか。ぺかーっと。この巨塔の領土主張も兼ねて。

 

 この巨塔は将来的には巨大灯台として運用するつもりであり、そのときは花弁のように開いたウミユリの魔獣のオブジェの触腕の先が強烈に光って、船乗りたちに方角を指し示すようになるだろう。ゲーミングな感じに光らせても良い。

 また、メガフロート的な氷床を塔の根元の海面に広げることで、交易拠点にすることも視野に入れている。

 海底の大陸横断トンネルにも繋がっているので、陸運と海運の結節点にできれば発展するのではなかろうか。

 海底油田などの産物を精製するプラントを作って、いやいっそコンビナートにまで育てて特産にしても良い。

 

 

 周辺国やこの地域の神群との調整は気にしなくていいのかって??

 ふっ、所詮奴らは東方征伐戦争に負けた者ども──── 敗北者じゃけぇ。

 こっちには帝国の代紋がついてるから問題ないでしょ(≒面倒ごとはウビオルム伯爵(アグリッピナ女史)無血帝陛下(マルティン先生)経由で帝国政府の官僚に丸投げします)

 いやあ、組織に所属するって素晴らしいね!! 官僚制による分業万歳!

 

 使徒を返り討ちにしたけれど、こちらは最初から宗教戦争を仕掛けに── というよりも、東方征伐での勝ちを楔として、さらにその楔に槌を叩きつけるように戦果拡大を狙って浸透してきている面もあるのだ。

 この巨大ウミユリオブジェを載せた白銀灯台そのものも、風雲神と水潮神の神殿としての機能を持たせるように内装を整えているところだしな(簡易設計はミカくんとアヌーク同期聴講生が。実働はホムンクルスたちが)

 いずれは風雲神の聖堂と水潮神の聖堂から相応の神官を正式に招く必要があるだろうけれど、今のところは私がライン三重帝国の聖堂勢力への擬態として覚えた作法で祀っておくしかない。……しれっと “もったいないおばけ” も祀っちゃうけど。

 

 やがてこの巨大灯台が黒き海の海運の発展をもたらせば、自動的にここに祀られた風雲神と水潮神も信仰を集めるというわけよ、フフフフフ。

 ついでに “もったいないおばけ” の信仰も高まればもっと良い。

 ……虚空の箱庭のホムンクルスたちだけでも相応の信仰は集まっているし、今後もトンネル掘りの残土で拡張を続けて人員が増えればそれももっと高まるんだけれど、やはりもっと広い世界に布教伝道はしたいからね、私としては。

 

 

 つまり私がやったのは、結果的にはだけど、現地の神々の権威を蹴っ飛ばして揺るがし、ライン三重帝国の神群が入り込む余地を作ったということになるわけだね。

 これは私が信仰を捧げる “もったいないおばけ” の持つ権能や縁起から見ても自然なことだ。なにせ恐らく “もったいないおばけ” というのは信仰圏の果てである虚無の大地を形作った神の欠片であり、かつてそこにあったはずの()()を虚無に帰した終焉の神であろうからだ。

 それにほら、神話でもよくあるでしょ? 土着の神の使徒(侵略者側の物語では土着の化け物として扱われる)を叩きのめして正当を得るみたいな逸話。

 

 少なくとも私は今回の件はそういう流れの中に落とし込むつもりでいる。

 面子を潰されたことによる現地勢力との遺恨もあるかもしれないけど……あれだけの大決戦を見てなおも真正面から挑戦してくる奴が居るとは思えない。

 あとは帝国お得意の飴……つまりは経済的な利益を供与して慰撫してやればいい。今回の場合は白銀灯台の設置による黒き海の交易の活性化という手札もある。あとは大陸横断トンネルの使用権を与えたりとかもね。

 

 一応今後、帝都に戻って帝国政府の外交筋や聖堂勢力と諮る必要はあるけど……実は婚約者(まだ会えてない)とのハネムーンを口実にバックレようかと考えている。

 本来の任務である『閉鎖循環魔導炉の実験候補地の選定(ふっとばしちゃってもいいばしょえらび)』についてもこれからだし。

 それに圧倒的な武威を見せつけた後に利益で懐柔するのは帝国外交の得意技(おはこ)だ。丸投げしてもいつも通りに上手くやるだろうさ。

 

 

 まあ、それはともかく、いまは宴だ!!

 

 口にする使徒の肉は “もったいないおばけ” の再生の権能を施して、念入りに呪いを好転させてやれば問題ないだろう。もちろん我が神に捧げ物をすることも忘れない。というよりも、私たちが口にするものの方が、神への捧げもののおこぼれに当たると言うのが正しいか。

 バイソンのシチュー、猪の塊肉の丸焼き、大蛇のから揚げ、大海月のサラダ、冬虫夏草で出汁を取ったごった煮……。

 他にも虚空の箱庭のホムンクルスのシェフたちの技術の粋を集めた豪華な料理が神に捧げられ……そして “もったいないおばけ” の教義のとおり、そのまま腐らせるのも “もったいない” から私たちの口に入るのだ。

 

「美味しいですわ! とっても濃厚!」

「うーまーいーぞー!! この一口のために我が武の練磨の日々があったのだ!!」

「おお、力が湧き出る気がするな、素晴らしい!」

 

 黒き海の対岸までトンネルを貫かせ、さらにその先の山脈を越え、その向こうにまたある大きな内海だか巨大塩湖を越えれば、帝国政府から斡旋されたまだ見ぬ婚約者殿が待つ目的の沙漠荒野地帯だ。

 さあ英気を養って、どんどんトンネルを掘り進めよう!

 




 
◆マックス君の聖堂・神群へのスタンスについて(補足)
実はマックス君って陽導神や夜陰神といった神様それ自体への配慮というよりも、帝国内における聖堂勢力などのヒトの社会に対して配慮してる面が強いです。知的好奇心を満たしやすい快適環境を守るためには、魔導院近辺(≒帝都の政府首班&聖堂中枢)と軋轢を生じさせると面倒なのでそこを気にしている形です(マックス君も当初の街ひとつの悪漢を催眠掛けて誘き出して一網打尽にしたりとかしてたころよりは、しがらみが増えて社会性に割くリソースも増しているわけですね。もはや無頼漢ではいられない……と言いつつ割とこれからも無茶苦茶させると思いますが)。なにせ彼が尊重すべき神というのは、究極的には “もったいないおばけ” ただ一柱だけですから、他の神に対しては一定の敬意は持ちつつも “帝国社会に溶け込むために有用なツール” や “既存社会を円滑に動かしていくのに必要なシステム” として見ている節が割とあります。……一方で進歩主義者なので世の中はどんどん便利にさせたいと思っているようですが、聖堂勢力と決定的な亀裂を生みたいわけではなく、まずは穏便に落としどころを探るスタンスです(これは魔導院を擁する帝国政府の方針でもあるでしょう)。まあそんなんなので帝国の代紋を背負って尖兵として働ける名分があれば、むしろ望んで他勢力を叩きのめすこともあります。あくまで配慮すべきと思っているのは帝国内の聖堂勢力ですので。今回の大決戦は、東西横断大陸貫通トンネルの施工上でのアクシデントであり、しかも流儀の分からない神群の領域での急襲だったので衝突を避けようがなかった(そのままだと自分がやられる緊急事態だった)というのもありますね。それでも最終的に使徒の討伐まで行きつくにしても、帝国政府の後ろ盾(ケツもち)があるからなんとでも出来るだろうという計算はしていましたし、他国・異教(しかも一度は征伐済みの地域)なのでむしろ帝国臣民としては切り取ってやるぜくらいの勢いです。小国の悲哀であり、大国の傲慢でもあり……。

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道中が長くなりましたが、次回こそは婚約者の蠍アーマー娘ちゃん(アルビノ巫女)が待つ砂漠に辿り着きます……!
 

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