フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆農業とは環境破壊と見つけたり
ルゥルア・ハッシャーシュ女史が治めている土地は、かつては割と肥沃だったものの、長年の灌漑によって塩類集積が起こって不毛の土地になっています。つまり環境破壊済み! なので修復しても特に何も神々からは無いだろうと思われます。他の土地を緑化する際も、人類生存圏が広がれば、その信仰に支えられる神も力を増すのでよっぽどでなければ介入は無い、はず……? 自然の厳しさの側面を持つ神はそちら側の権能を弱められる可能性もあるので歓迎しないかもしれませんが、即座に現世に干渉するほどかと言うとそうでもなく、神官に神託を下して意向を伝えるところから入る可能性が高いかと。マックス君が使徒に襲われたのは今のところ、古い神の封印に自分から突っ込んだ(※腐朽の神&冬虫夏草の使徒)のと、取り込んだその使徒の気配を隠しもせずに派手に動いたから(※牡牛・猪・蛇・海月の使徒)ですね(今は隠蔽している)。(正直、神々の介入ボーダーは決めかねてるところがあります……)
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◆前話
ルゥルアちゃん:天啓受信系サソリアーマー
マックスくん:呪われ異端狂信者マッド富豪実業家
ファーストコンタクトは上々。まあ作中のご時世だと政略結婚はありふれており、ルゥルアちゃんもマックスくんも別に御破算にする意図は無いので無難な立ち上がりです。
私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンが案内されたのは、風化しかけた集落の中でもまだ生活感が感じられる建物であった。
「……本来であれば、全員が冬眠するということはあまりないのですが」
背の方から上に伸びる鋏の触肢から獲物の
「私たち
だからここ数年で節制のために皆が冬眠してしまうことにより補修の手が回らなくなって、家々の壁に塗り込められた泥が剥がれてしまい、その下の日干し煉瓦自体が見えてしまっているのだとか。
ルゥルア・ハッシャーシュ女史は手早く竈に火を起こし、ナン(小麦の無発酵パン)を焼く準備をする。
「調理中の様子など、あまりお客様にお見せするものでもないのですが、御勘弁くださいましね」
恐らく使う薪の節約のためだろう、族長にして祭司長であろう彼女が寝起きしているだろう家はこじんまりしたものだった。
私が通されたのは客間というよりは居間のような部屋で、彼女が炊事場で準備をする様子が目に入ってしまう。
手早く火を起こし、ナンにするための小麦を器で練り、一方で
彼女の背から伸びる真珠色の甲殻の鋏や尾も、調理器具を取り寄せたり、吊るしてある玉葱や香草を下ろしたりと忙しなく動いている。
蠍を背負った人、ということで帝国にギルタブルルの名が伝わるのも納得であった。手とは別々にあれだけ器用にまるで本当に背の蠍に別の意思があるかのごとく鋏と尾が動くのであれば、そうも呼ばれよう。
それに異国の様式というのは、それはそれで見るだけでも興味深いものだ。
“眼” に力を籠めれば、竈や家に着く妖精の類も、帝国とは姿が違う者が混ざっていることに気付く。
……異国の地となれば妖精の好みも変わるのか、別段、私の金髪碧眼にご執心という訳でもなさそうだ。
さて、見ているばかりというのも申し訳ないものがある。
結納の品、というのはまた別途こちらの様式に沿ったもの── 例えば列を成すほどの家畜の群れなど── を集めるとして、私からも食事を提供するくらいはした方が良いだろう。
異文化交流、であるな。
「ルゥルア・ハッシャーシュ卿、交流を深めるために、私も帝国料理を供したいと思うが
「あら、よろしいのですか?
「それでは私からも何品か提供させてもらうとしましょう」
私は思念通話で虚空の箱庭へとオーダーを伝える。
まあ、適当に腸詰を用意してもらえばいいだろう。
それとビタミンが取れるように野菜を使ったものと、デザートの手配も。
「?? しかし荷物はお持ちではないようでしたが、従者の方が近くに参られているのですか?」
「んんー、まあ似たようなものです」
今や虚空の箱庭の私の拠点は、ちょっとした都市のようになっているし、そこで働くホムンクルスらによる経済圏も動いている。
縮退炉じみた魔導炉によって無限に供給されるエネルギーによって支えられているため、ある意味では南国のようなものだ(エネルギー収支が黒字なのでおおらかに暮らしてもやっていける的な意味で)。
品種改良された作物も家畜も育てられているし、まあ大体の食材は揃うのだ。
「(あとで小麦や砂糖その他の物資を納めた蔵をまるごとこちらに召喚するか)」
ご馳走になる御礼にそのくらいはしておくべきであろう。
超極早生小麦や砂糖小麦その他の産物として、虚空の箱庭には唸るほどの物資が蓄えられているので、蔵一つくらいは誤差だよ、誤差。
……こう、分かりやすく甲斐性をアピールできるし。うむ。
「
苦みのない水を贅沢に使った
その私 ルゥルア・ハッシャーシュの様子を見て、彼が少し首を傾げた。
「ホシュマゼ? 美味しい、と良いのですが」
「ええ。とても美味しいです。
「お口にあって何よりです。こちらのナンと、
「あはは、それは良かったです……」
上品にナンを口に運び、鳥の丸焼きを食べるミュンヒハウゼン卿。
こちら式に手で摘まんで食べるのもサマになっている。*1
……いやもう、なんかそんな丸焼きで済みません、という気になってしまうほどだ。
特にこのスープを振舞われた後では。
「本当に、美味しいです」
まず水をふんだんに使う時点で贅沢である。
さらにその水が、苦みもない清涼な水── こちら風に言えば“甘い” 水だ ── を使っている、となれば、ここいらではもう、大富豪しか味わえないような料理だ。
さらに使われている腸詰も味が濃く、腐敗の気配もないものだ。
この冬のただなかにあってこのようなものが口にできるなど信じられない。
一緒に煮こまれている野菜だって新鮮なものだ。
……いやまあ、私が鳥に詰めたこの集落で育てた玉葱だって捨てたものではないのだが。
馴染みのない香辛料も使われているが、複雑にかつ計算されて組み合わされたそれらは、決して不快なものではない。
むしろ大変に美味しい。病みつきになりそうなほどだ。
慣れない匙を使って食べる手が止まらない。
「それではデザートもどうぞ」
「でざぁと」
ミュンヒハウゼン卿がパチリと指を鳴らすと、空になった器が消えて、
「!!? 果物ですか、これっ!?」
「ええ。果物のゼリー寄せです。こちらの蜜を掛けてお召し上がりください」
「ふわぁぁあ……!」
思わずはしたない声が出てしまいましたが許してくださいませ。
だって! 果物ですよ!?
新鮮な果物! 色とりどりの!
しかもこの真冬に!
器もとても透明ですし、こんなの王宮でもなきゃ食べられないような贅沢ですよ!!
いえ、王でも食べられるかどうか!
「た、食べても良いのですか────??」
「どうぞお召し上がりください。お姫様」
「で、では、遠慮なく……!!」
おお、ふるふるしている……。
そ、それではいざ……。
「────っっっ!! んん~~~!!」
ああ、心が洗われるようです……。
こんな贅沢を……皆はまだ空腹を抱えて冬眠しているというのに……。
ごめんなさい、ごめんなさい。でも美味しい……。
蜜を掛けるともっと美味しい……。甘酸っぱい、甘い……。止まらない……。
「気に入っていただけたみたいで何よりです。まあこのくらいのデザートでしたら、毎食食べられるように豊かになりますよ。この集落の皆さん全員」
「ほ、本当ですか!?」
「嘘はつきませんよ。まあ、その証拠に、あちらをご覧ください」
ミュンヒハウゼン卿が外を指差しました。
その先、木枠の窓── ミュンヒハウゼン卿が「ああついでに
「く、蔵が生えてきて……?!」
「こちら風の結納の品はまた別途ご用意しますが、まずは手付というか、初顔合わせの手土産ということで」
地面に何か名状しがたい穴のようなものが開き、そこからこちらでは見ない形式の蔵が迫り上がってきています。
「ひ、非常識すぎる……」
「魔導師ですから」
「それにしたって、ですよ!」
薄々気付いていましたが、我が婚約者たるミュンヒハウゼン卿は、帝国でも選りすぐりの魔導師ですよね? きっと。むしろそうであってください。
我が一族は先の戦争で諜報を受け持っていましたが(暗殺するにも、逆に自らを売り込むのにも、身の振り方を決めるのに情報収集は欠かせない)、それでも彼に匹敵するか上回るような腕前の帝国の兵というのは数えられるくらいしか情報収集の網には引っかからなかったはずです。
─────いえ、数えられるくらいは居る、というのがそもそもおかしいですが。やはり帝国は国力がおかしい(確信)。
デザートをおかわりして食べ終わったあと、問題の蔵の中身を見ましたが、本当に中には食糧がぎっしりと詰まっていました。
信じられませんが、どうやら現実のようです。
えぇ……? ほんとに現実です? 立ったまま夢を見ているのでは?
とはいえ実は
「……これほどしてもらっても、返せるものは何も無いと思うのです」
現実感がありません。
あっという間に、私の一族の抱える問題の幾つかが片付いてしまいそうです。
その後もミュンヒハウゼン卿は、虚空に名状し難い
「ほほう、貴公が
護衛だという下半身が蟹になっている巨鬼、ラーン部族のセバスティアンヌさんの紹介も受けました。
……彼女のような極まった戦士相手では、きっと私たち
私の持つ一族の家宝たる弓も、最大強化した上であらゆる魔法と奇跡を乗せて、さらに我が身の毒を矢に込めて神に祈って、それでもしも当たったとしたらなんとか勝機が見えるかもしれません。当たれば、というところのハードルが高すぎますが。正直、矢を切り払われる未来しか見えませんね。
今は失われた一族伝来の宝剣があればあるいは、という所でしょうか。組み付いて宝剣で肌を切り裂き尾の毒を打ち込んだ時点で奇跡が起きても相討ちになれるかどうか。まあ、組み付く前に潰されるのが精々でしょうから実質チャンスゼロです。
「わぁ、お義姉さまって呼んでもよろしいかしら?」
妹さんだという虹色の髪が綺麗なターニャちゃんも紹介してもらいましたが、彼女もちょっと尋常じゃないですね。
ああ、可愛さが尋常じゃないということが言いたいのではなくてですね、ミュンヒハウゼン卿。可愛いのは認めますが……って、地味に貴方、妹さんのこと大好きですね? え、娘でもある? どういうことなの……。
こほん。それで、ターニャちゃんですが、背中から虹のような翅を生やしたかと思えば、それで地面を溶かしながらくり抜いて、一瞬でとても深い井戸を作ってしまったんです。
それも壁面が釉薬が溶けたみたいに固まっていて……どれだけの高温だったというのでしょう。
ちょっと戦闘力が高すぎませんか??
貴方がた、どうしてこんな弱小部族に送られてきたんです??
財も相応にお持ちのようですし、悲壮感もあまりなさそうなことから左遷された、とかそういうことでもなさそうなのがますます疑問を呼びます。
「種明かしをするとですね」 ミュンヒハウゼン卿が、ターニャちゃんが刳り抜いた地面の深い深い穴に何かしらの術を掛けます。「……<
ミュンヒハウゼン卿が魔術を掛けた井戸の底から、ごぼごぼという音がしています。
水! 水ですか!? わぁいやったー!
というか帝国までの地下トンネル? 魔導炉研究用地? どういうことです?!?
「あの! 一気に情報を浴びせかけないでいただきたいのですが!」
ミュンヒハウゼン卿というか帝国の壮大な構想に驚けばいいのか、井戸の底から相当な量の水が湧いていることに驚喜すれば良いのか分からなくて情緒がぐちゃぐちゃになります!
っていうかさっきから驚きっぱなしで疲れてきたのですが!!?
「ふむ。ルゥルア・ハッシャーシュ卿は帝国宮廷語も堪能ですし、随分と頭の回転が速いとお見受けしたので、このくらいは大丈夫かと思ったのですが……」
「高く評価いただくのは光栄ですし、多少は私も自分のことに自信はありますが、いくら何でも限度というものがあります……!」
「そうですか……」
落胆した風なミュンヒハウゼン卿ですが、こちらもちょっと心を落ち着ける時間をいただきたいのが本音です。
ちょっと今日だけでいろんなことが起こりすぎました。
「ここに来る途中で貴女がおっしゃっていた『外敵』とやらの話も聞きたいのですが」
「明日で。ええ、明日にしましょう。お願いします」
「まあ私も今後は滞在しますし、確かに……ええ、確かに焦るほどのことはありませんね」
ミュンヒハウゼン卿は深い蒼の瞳を伏せると、少々思案して納得してくださいました。
良かった……。
「それはそれとして、御同胞の皆様に栄養点滴をしたりとかも……」
「明日で」
「ですが万が一も……」
「ミュンヒハウゼン卿の見立てでは、この集落内にそれほど切迫した同胞が居るのですか?」
「いえ、そういうわけでは」
「では明日以降で」
今の状況だとその栄養点滴だとかいう施術の詳細も頭に入らないと思うので、ええ、明日でお願いします。
というかやっぱり普通に何らかの手段で既に集落の冬眠中の同胞たちの健康状態を把握してるのですね、ハハハ。もはや驚き疲れて乾いた笑いしか出ません。
「それでは、どこか適当なところに私たちが寝泊まりする拠点を置いてもよろしいでしょうか? 族長殿」
「それは構いません。ええと、適当に空いているところであれば何処でも。よきにはからえ、ということで」
「ありがとうございます、感謝します」
ええと、族長として客人を放置するなどあるまじきことではあるのですが、ちょっと休ませてください。
私はミュンヒハウゼン卿に断りを入れると、自分の住まいにしている家へと帰りました。
少し寝て、また明日。そう、また明日になれば、きっともう少し冷静になれるはずですから。
……そうだ、とっておきの珈琲を淹れて酔いしれるのも良いかもしれません。*2
………こ、こんなに
そして翌朝。
蠍の神への朝の御勤めを済ませて、昨日水甕に彼らが入れていってくれた苦みのない水を飲んで一息ついて、一匹だけの山羊の世話もして。
さて、ミュンヒハウゼン卿を探して話の続きを聞こうと集落を回ってみると……。
「なんか見慣れない
ええぇ……?? ちょっと意味が分からないですね……。
マックス君「いやまあ今後、ここの土地で作ってもらいたい作物だとかの説明のために実物があった方が良いやん? まあできれば気候適応的には現地の品種をベースに改良したいけど、それは並行してやるつもりだからちょっと後回しかなー」
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◆ダイレクトマーケティング
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