フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆大陸横断トンネルが無体で無法すぎる
略図作ったとき自分でもそう思いました。でもまあ、直径30m、全長数百メートルの地底怪獣(※縮退炉じみた魔導炉搭載、残土異空間転送、地質に合わせた分泌物でトンネル壁形成、冬虫夏草の使徒により素体強化済み)がそういう生態として一季節かけてまっすぐ掘り進んだ巣の跡だと考えたらそんなに不思議では……ないような気がしなくもなくなくないです?
なお人類領域の外側を通したら通したで、帝国政府・産業界その他からは「もうちょっと既存交易拠点*1に近い、利便性が高い場所に通せんか?」とか言われた模様。それはそう。

マックス何某「外務部局で各国と折衝してくれたら、帰り道で別ルートも通せますけど」
グラウフロック公爵家(三皇統家の月食み大狼)の血気盛んな人たち「外交折衝とかまだるっこしいことせずに、諸国の要衝を繋げるようにトンネル掘って電撃的に坑道戦術仕掛けて順に陥落させていくのが一番早いと思います。地下道も繋がって、ほら、一石二鳥」
無血帝「やめーや。帝国内の物流整備でトンネルや運河掘るのが先じゃろがい」
何処からか湧いてきたバンドゥード(ボンドルド)卿「トンネルを魔宮化すれば空間が歪んでショートカットが生まれるかもしれませんよ? 人造魔宮、試してみませんか?」
無血帝「やめーや。制御不能になる未来しか見えんわ」

===

◆前話
 マックスくん、働き過ぎじゃね??
 それはそれとして、今後この地で育ててもらいたい作物のサンプルを繁らせてみたのでご覧下さいね!

*1
◆東方交易路の通過拠点である各国の各都市:第二次東方征伐戦争時(到達点が土耳古か波斯か印度か中華かは不明)の進軍路とも重なる諸都市群(一方で人口集積地を避けたマックスくんの大陸横断トンネルとはほぼ重ならない)。東方交易路は西暦世界で言うところのオアシスルート(シルクロード)に相当するような、大中小のオアシス都市同士を網の目のように結ぶ行商交易ルートをイメージしています。




23/n 沙漠(まで/から)愛をこめて-9(開発計画とタンポポと)

 

「おはようございます、いい朝ですね。ルゥルア・ハッシャーシュ卿」

「ひゃいっ!?」

 

 朝になって小神殿の外に気配を感じたので、外に出て挨拶をしたらルゥルア女史にめっちゃ驚かれた件について。

 それでもめげないマックス・フォン・ミュンヒハウゼンです。

 

「あ、そのっ、すみません起こしちゃいましたか? ミュンヒハウゼン卿」

「元から起きてましたので大丈夫ですよ。そもそも睡眠が必要な生態は卒業していますので」

「睡眠って卒業できるものですっけ……。それとも実は長命種(アヌンナキ)だったりします??」

 

 違います。

 落日派魔導師の嗜みです。

 それはさておき。

 

「急にお声がけしてすみません、驚かせてしまいましたね。見入ってらっしゃったので悪いとは思ったのですが」

「いえいえ大丈夫です。ってそれより、これはいったいどういうことなのですか!?」

 

 ルゥルア女史が小神殿の周りを指差して問うてくる。

 背の方の蠍鋏の触肢も興奮してか、わっさー と大げさなジェスチャーをしている。

 ついでに体側から生えて腕を組むように折り畳まれていた2対の歩脚── 伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の衣服はいくつもの袖がついた前掛けのようになっていて、その袖にヒトの腕と蠍の歩脚を通している。冬着なのかもこもこして暖かそうだ。また後ろは甲殻の断熱性が高いのか露出しても平気そうで、紐で編み上げる形式が主流なようだ。その上から外套を羽織るが、その外套は肩の鋏と尻の尾が出せるように、また背と肩の眼の視界を確保できるように工夫されている。── も広がった。……ほぅ、伏せて走る生態を持つにしてはご立派なものをお持ちで。眼福。

 

「いつの間にか緑が! 畑が!!」

「ええ、頑張りました」

「頑張ったからって出来るものじゃないのでは??!」

 

 できるのですよ。そう、魔導ならね!

 

「丁度いいので植わっているものを解説させていただきますね」

我が道をゆく(マイペース)ですね……!」

 

 巻きで進める必要があるので。

 

 と、説明しようとしていた私の脇を、小神殿から出てきたホムンクルスたち── みな似通った顔(モブがお)をしているのは規格化された人造生命体だから── が点滴台と点滴袋(無菌調製)や針付きチューブ(滅菌処理済)を持って通過していく。

 こっちの説明もしなきゃでしたね。

 

「あ、そうでした。栄養点滴の方も進めさせていただければ?」

我が道をゆく(マイペース)ですね……。そもそも栄養点滴って何をするのですか」

「針を刺して血管に直接、栄養を溶け込ませた輸液を注入するのです」

「……あー、毒ではなくて、栄養を、というわけですか。なるほど」

 

 ルゥルアさんは少し考えこむと、概要を理解したようだ。

 やはり彼女は頭の回転が速く、理解力もそれを支える教養も高いらしい。

 あるいは毒を注入して敵を殺す伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)だからというのもあるだろうか。何かを体内に打ち込んで吸収させるという行為自体は、彼女にとっても想像しやすいことなのだろう。

 

「そうか、そうですね。毒が吸収されるなら、同じく栄養を直接打ち込むこともできる、と。なるほど。そして冬眠中で胃腸が動いてなくても、直接体内に打ち込むなら関係ない……理にかなっています」

「輸液は冬眠中の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)向けに調整してありますから、ショック症状なども出ないはずですよ」

「いつの間に調製したのですか? 伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)に会ったのは、昨日私と会ったのが初めてのご様子でしたが」

「魔導を用いて仮想的に検証する術があるのです。サンドボックス的な感じで」

 

 虚空の箱庭の世界エミュレータに、こっそり魔導探査して取得しておいたルゥルアさんや集落の冬眠中の皆様のデータを投入して演算し、成分を調整しましたのことよ。

 一晩もかからないどころか時間加速できるので輸液のレシピ作成は十分もあれば最適組成を割り出すに足ります。

 

砂の函(サンドボックス)?? 子供の遊びで使うような???」

「まあ貴女にも後で似たような術式の産物を触ってもらいますから、今はお気になさらず」

「はあ、そうですか……?」

 

 この地の開発計画をお見せするのに、サンドボックス的な術式で開拓シミュレーションを投影*1して、実際にそれを弄ってもらいながら、一緒に修正していけたらと思うのですよ。今日でも明日でも。

 大枠が決まれば、冬眠から目覚めた御同胞の子たちにもそれを弄ってもらえたらと思うし。そうすれば猛スピードで変貌していく故郷にも多少は愛着が湧きやすいだろう。

 

「さてそれでは早速こちらの作物を説明させていただければと思います」

「そう、それです。一夜にしてこれというのも気になりますし、いろいろとご説明いただければ」

 

 もちろん望むところですとも。

 

「温めたミルクに蜂蜜をつけて持ってこさせましょう、話をするのに飲み物くらいはあった方がいい」

「まあ」

「よろしければ果物も(つま)みます?」

「それは是非とも……!」

 

 婚約者殿は昨日ご馳走した品種改良済みのフルーツを大いに気に入ってくれたご様子。

 そうであろう、そうであろう。虚空の箱庭が誇る自信作であるからな!

 ミルクも蜂蜜も自信作なので期待してくれたまえよー!

 

 

 

§

 

 

 

 見慣れない聖印をした神殿から次から次に出てくるあまり特徴のない顔つきの従僕たち── みな似通った顔をしているのは人造生命体だからとか……え、人造生命体!?── のうちの一人が、私 伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)のルゥルア・ハッシャーシュに銀盆を差し出します。

 その上には湯気を立てるハチミツ入りミルクが入ったカップがありました。

 カップの脇には、ガラスの器に入ったカットフルーツが。ああ、これがとても美味しいのです……瑞々しく、甘く、まさしく天上の果実のごとし。

 

 一夜にして生まれた庭園というか菜園にて、我が婚約者たるマックス・フォン・ミュンヒハウゼン卿がここを作った意図を説明してくれています。

 

「私がこれまでに集めた情報ですと、かつて貴女のハッシャーシュの氏族が賜った土地というのは、広大なものだとか」

「ええ。おっしゃる通りです。もっとも今は土地には塩が浮かんでものの役にも立ちませんし、山の形や水の流れも変わってかつての河も枯れてしまっていますが」

 

 豊かな土地だったのは、今は昔。

 しかも、ゆえあって今、私が掌握できているのは本来の土地の片隅のこの集落── 方々から暗殺稼業を請け負っていた時の名残としての、もしもの場合の避難用の小屋の群れ── のみです。

 本拠地であった集落は、今は私の管理下には無いのです……。

 

「それも存じております。塩に冒された土地の()()が必要であることは大した障害にはなりません。こと()()に関しては、私が最も得意とするところですし、我が信仰の道にも適うものですから」

「……一晩でこのような畝と作物が育っているのですから、それは十分理解しました」

 

 しゃがんで畝の土を掴んで解せば、柔らかく塩気は無い。

 魔導か、奇跡か。

 この婚約者殿は、まさしく私たちの部族に豊かさを齎してくれるのだろう。

 もはや私はそのことについて疑ってはいなかった。

 

 食糧が満杯になった蔵を召喚して丸ごと寄付し。

 あっという間に苦くない井戸を創り出し。

 一夜で土地を甦らせ、緑の畑を茂らせる。

 

 御伽噺に出てくるような大魔法使い。

 

「正当な権利を持っている土地範囲が広大なのは助かりますね。変に揉める要素がなくていい」

「……そうですか。それなら先祖伝来の土地にしがみついてきた甲斐もあったというものです」

 

 さて、揉めたらどうするつもりだったというのか。

 諜報の過程で帝国の戦闘魔導師の威力を知っている身としては空恐ろしい。

 

「それではまず、今後の領地運営の大枠について、私の計画案を説明させてもらいましょうか。作物の説明は、それに合わせて行います」

「わっ、空中に?! これは?!」

 

 ミュンヒハウゼン卿は歩きながら、空中に板のようなものを投影しました。

 そこにはこの地の言葉と帝国の言葉で『注目!』という意味の言葉が浮かんでいます。

 ……ああ、地面に棒で書いたり、蝋板に尖筆で刻むとかするよりもよほどスマートですね、これは。

 

 魔導というのは便利なものですが、我が神も他の大部分の神々と同様に魔導を快くは思っていないので、私自身では習得する気はありません。

 我が婚約者の奉じる神のような魔導に寛容な神というのは稀有なのです。

 

 それはさておき、部族の領域の開発計画、ですか。

 私が見つめる先、空中に投影される文字が変化します。

 

「……『地下用水路形成計画』、『土地改良計画』、『大規模農園運営計画』、『産品加工工場設置計画』、『対帝国交易拠点化計画』……ですか」

「そうです。水を湧かせて地下を通る河を作り、作物が育つ土地に改良し、食料や商品作物を作り、それを加工し、帝国と交易する。言葉にすれば実に王道でしょう?」

「確かに、王道ですね……」

 

 その王道が! やれれば! 苦労はせんのですよ!!

 それをやるだけの水も、労働力も、財貨も、何もかも無かったんですから!

 まあやれたらやれたで別の苦労はあるのでしょうけれど。

 

「水は昨日の井戸……あの自噴井のように湧かせることが出来るのですか?」

 私は庭園に導かれた水の路を眺めて尋ねた。水が染み込まないように石のような材質で固められた水路を。

「ええもちろん。あれは私が抱える海水鉱山の副産物たる純水の、さらに一部を転移させているのです。全量ではないですから」

「本来はもっと多く湧き出させられる、と。素晴らしいですね! ところで海水鉱山というのは、いったい?」

 

 海、というのを語彙としては知っていても、見たことは無いのです。荒野の育ちですからね。

 海水鉱山とは、塩田の言い換えか何かでしょうか?

 

「海には色んな資源が溶け込んでいまして、塩の他にも、金や銀も、極々微量ですが溶けているのです」

「金や銀!?!?」

「それらを抽出した副産物に、真水があるのです。まとまった量の元素資源を取り出すには、それこそ大量の海水を処理しなくてはなりませんから、真水は有り余ってましてね」

 

 つ、つまり、金山や銀山を所有しているも同じということではないですか…………!!??

 

「その海水鉱山がまあ、ざっと遠洋に百以上」

「ひゃくぅ!?」

「沿岸部は仕方ないのでその地の諸侯貴族に預けていますが、遠洋のものは実は誰にも報告してない隠し鉱山なんですよ」

「隠し鉱山!?!?」

 

 え、しれっとまたヤバい話を!!

 この婚約者殿は!!

 何処の国でも隠し鉱山は一族郎党連座されかねない極刑ものの厄ネタ!

 

 こちらの王朝でも、銀器金器の交易による流出を避けるために金銀を使った器の禁止令が出るほど。

 ……器は陶磁でというのは、今では標準になって久しいのです。

 

 ああああ、聞かなかったことにできないかしら。

 というかどうか冗談であって欲しいのですが。

 でも実際に井戸から水は湧いちゃってるんですよねえ…………! 傍証が揃っている……!!

 

「ああ、ご安心ください、全て生半には辿り着けない遠洋にあります。監察官の手が入るような場所には作ってませんよ。あと、今、そもそも海水鉱山というのが、鉱山なのか、工廠なのか、塩田の類なのかで、海水鉱山を寄付した貴族諸侯と帝国政府の間で係争してたりもしますし。それによって税率とか適用法令も変わるもんでバチバチやり合ってるようでして」

「…………き、聞かなかったことにします。その海水鉱山とやらがこの土地にある訳ではありませんし」

「そうですね、些事でした。ご放念を。

 重要なのは地下浸透させない前提でならば、私が保有するすべての海水鉱山から常に、大河になるほどの真水を提供可能ということです。それを乾いてしまわぬように地下に通し、全域に行き渡らせます」

 

 なるほど、つまりカナートですね。

 それなら分かります。

 ──── いやあの、全域にカナートを行き渡らせるのって相当な労力と時間がかかるのでは?

 

「あるいは、地下の岩盤のさらに下に広大な貯水槽を作り、そこから汲み上げるとかも考えられますね。あとは、灌漑のやりすぎで地下水位が上昇しすぎないように、地下水位を下げる排水管も埋めたりしましょうか」

「それはやはり……魔法で行うのですよ、ね?」

「魔法というか、そういう穴掘り専用の魔導生物がおりますので、それを操ってですね」

 

 そう言った彼の足元から、人の腕の太さほどある、目のない蛇というか無肢竜の幼生のようなというか、ミミズの化け物のような何かが顔を出した。

 話の流れ的にこれがその魔導生物? なのでしょうか。

 空中に投影されている映像は、その魔導生物が何十匹も放たれて、部族の土地の地下に水路を広げていく様子を示しています。……なるほど、確かにこうして示されると分かりやすいですね。

 

「大きな本体から分枝した穴掘り魔導生物 穿地巨蟲 の小型版を運用し、勾配に気をつけて地下水路を通していきます、この映像のように」

「なるほど……」

「それと並行して排水系の敷設が終われば、湛水して排水してを何度か繰り返す感じですね。土地に集積している塩を抜かないとなりませんから」

 

 そして塩を抜ければ、いよいよ作物を植える、と。

 

「育てる作物は、まずは塩を蓄える作物を植えて、それを回収してさらに塩分濃度を下げます。そして次に、主食となる小麦や大麦などなどの他に、この辺でオーソドックスな作物を。自給用と輸出用ですね」

「それは基本ですね。やはり食べるものがなくては」

「作業には農業機械やゴーレムを提供します。百人力は軽くあるでしょう。もちろん肥料と殺虫剤や除草剤といった農薬も。灌漑設備の設置も当然」

 

 空中投影映像に、麦を植えたりする何らかの機械が映されました。

 少しずつ歩きながら説明していくうちに、ちょうど今の畑は麦畑に差し掛かっていました。

 狭い菜園に、様々な植物が所狭しと生えています。

 

「旱魃や洪水その他に備えて、現地品種も含めて色んな品種の苗も用意します。何かあったときに苗を全滅させないように多様性は必要ですからね」

「確かに……」

「そして大量に穀物などを作って、収穫して、貯蔵して、あとで言いますが加工工場も作ってしまうつもりです」

「なるほど……」

 

 いや、これは凄いですね。

 投影映像の中で、広大な麦畑から収穫された麦がまさしく山になっている将来イメージが示されています。

 ……説明を受けた感じだと、伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の子たちだけじゃ人数は足りなくなってしまいそうですが。

 

「当面はホムンクルスと、そいつらが操作するゴーレムや機械で対応する形ですね。もちろん将来的には教育を経て部族の皆さんにも従事していただくことを計画しています」

「それは勿論です。施されるばかりでは矜持が腐ります」

「大変結構。では次に、穀物ではなく食糧にもならない作物についてです」

 

 確か、商品作物、とミュンヒハウゼン卿は言っていましたか。

 

「例えば繊維を取るための『綿』。食品用や工業用の油を搾るための直立性の『豆』。そして、ゴムを取るための『タンポポ』。主にはこの3つですね」

「あの、果物は?」

「果物の類も育てますよ。飛び切り美味しいやつを。ご安心ください」

 

 さらに畝を移動してみると、そこには生育段階の異なる植物が。

 『綿』はまあ、分かります。小さな羊が()っているような実をつける植物です。

 

「この綿は、品種改良して繊維を長く細くなるようにしたものです。種も離れやすくしてあります。耐塩性も向上しており、生育も早い。ああ、品種も幾つかあるので繊維が太くて短いものや、最初から色がついたものもあります」

「綿繰りとか糸紡ぎとか大変なんですよね……」

「それも機械化、自動化です! ここなら同業者組合も煩く言いませんし、新技術の導入も楽で良いですね! ああそうだ、種からは油も絞りましょう」

 

 投影画像では、物凄く高く積み上げられた綿玉が、流れるように処理されていく様子が映っています。

 ……『産品加工工場設置計画』とか言っていましたから、この機械設備もこの土地に建てるつもりなのでしょう。

 

「お次は蔓による匍匐性じゃない、直立性の豆です。これは油を搾ったり、搾りかすを家畜の餌や食品原料にしたりします。大豆(ソイ)というやつですね」

「これも耐塩性は上げてあるということですか?」

「ええもちろん!」

 

 熟しても種が落ちないようにまで家畜化(かいなら)された豆の鞘を手に取ります。かなり大粒です。

 豆というと蔓を巻き付かせるものだと思いましたが、これはそうではなく、小さな低木のような佇まいになっています。

 世話はしやすそうですね。

 

 映像の中では何らかの動力で回転する刃によって粉砕されたソイのペーストに、別の透明なサラサラしたものが流し込まれ、そのサラサラに豆のペーストに含まれる油を溶かし込んで抽出していく様子が映されていました。

 

「そしてタンポポです! 本当はもっと北の品種なのですが、その汁に含まれるネバネバ成分『ゴム』をさらに増量する品種改良をしたものです」*2

「これがタンポポ? まるで根菜のようですね」

ゴム樹液(ラテックス)を蓄えさせる根が太い方が良いかと思って魔改造したものです。まあ、食用には向きませんね」

「そもそもゴムというのは何なのですか?」

「そうですね、例えばこれを」

 

 ミュンヒハウゼン卿が差し出してきたのは、手首を一回りするくらいの大きさの輪っかでした。

 

「輪ゴムです。ものを束ねるのなんかに使えます」

「へー……伸び縮みするんですねえ」

「伸縮性の他にも、水を通さないので防水加工に使ったりできますよ」

「そうなんですね。水を通さないなら水筒に良さそうですね」

 

 なんでも帝国の工業化にゴムは必須なのだとか。例えば弾力を生かして車輪に巻くタイヤというのにしたりとか。

 まあ、馬車の車輪全部にゴムの弾力あるタイヤを履かせるだけでも莫大な需要になりそうなのは分かります。

 しかもタイヤは消耗品ですから、需要が無くなることもありませんし。

 

 

 他にもミュンヒハウゼン卿は、タンポポから採蜜させる養蜂や、養鶉(イワシャコを改良した大人しく、多産卵の品種)についても構想を語ってくれました。

 改良品種は、出来るだけ現地の生物をベースにしたり、かけ合わせたりしたいのだそうです。

 気候適応が簡単だからとか。

 

 そしてそれらの産物を効率的に加工する集約的な工場設備についても教えてくれました。

 流石にここまで来ると技術的にも高度になり、私も詳細までは理解できず、概略を何とか把握できたに過ぎませんが。

 

 

 最後の帝国との交易計画ですが……。

 

「え?? すぐそこまで帝国から直通のトンネルを引いている、ん、ですか??」

「そうなのです。ほら、中間地点の諸国を通すより、直接こちらと取引できた方が良いでしょう?」

 

 言いたいことは分かります。

 テーブルに(こぼ)れた水が流れてくるのを端で待って舐めるより、グラスにストロー(葦藁)を差し込んで飲んだ方が確実ですし、ロスも少ない……そういう話なのでしょう。

 中間諸国を介さず利益を吸い上げられれば、また、販売の窓口を直接設けられれば、これまでの比じゃない利益を叩き出せます。

 

 

 ……なるほど、段々と事の重大性が理解できてきました。

 最初はなぜこんな木っ端部族に── 先の戦争においていち早く寝返った功があるとはいえ── ミュンヒハウゼン卿のような将来有望な人員が婿として送られてきたのかと思いましたが……。

 これほどの計画を持って、この地を農産物とその加工品の一大拠点にしようとしているのであれば納得です。

 むしろ帝国でも、これだけの大規模な造成を短期間で行える魔導師は、彼くらいしか居ないのではないでしょうか。

 彼以外にもいるようであれば、帝国はとっくに世界制覇していないと可笑しいですからね。*3

 

 この地の発展という面ではこの上なく。

 これが信賞必罰、ということであれば、やはり帝国は侮れませんし……これほどの配慮が頂けたなら部族を裏切った甲斐もあったというものです。

 

 

 

 

 

 

 粗方の話を終えたころには、日は高く上ってしまっていました。

 

「他にもサンドボックス的な術式で領地を再現しながら、具体的な農地や工場の設営や、水路や道路の敷設についてミニチュアを見ながら議論したいところですけれど……」

 

 ミュンヒハウゼン卿が続けて言わんとすることは分かります。

 私からもそれを話さなければ不誠実だと思っていたところですから。

 

「……それより先に、ミュンヒハウゼン卿には『外敵』について話を聞いていただく必要があるでしょう」

「そう、それです。『外敵』についてです。

 先祖伝来の土地すべてを掌握できていないことは、なんとなく察しています。

 神の奇跡で強固な結界を築かなければならないほどですから、それ相応の相手が、この集落以外の場所に居座っているのでしょう?」

 

 ミュンヒハウゼン卿の推理に、私は頷きます。

 

「そうです。貴方は、“もはや我らは一蓮托生” と言ってくださった。それを頼りにお話ししましょう、その『外敵』について。あの冥府からの悍ましき者どもについて」

 

 ──── 先の戦争の、帝国の置き土産。

 ──── かつての同胞、その成れの果て。

 ──── 飢えず、渇かず、無限に襲い来るもの。

 

「つまり『外敵』というのは────」

 

 ──── () () () で す 。

 

*1
◆サンドボックス的なシミュレーション術式: もしかして:「Minecraft」

*2
◆タンポポからゴム:ロシアタンポポからゴムを産業レベルで生産する研究は、資源の多角化のため、西暦世界でも行われている(※参考:2012年のブリジストンのプレスリリース 『天然ゴム資源「ロシアタンポポ」の研究活動を加速』 https://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2012051701.html)。合成ゴムが開発されても、天然ゴムの高い引っ張り強度特性による需要は無くならない。合成と天然、それぞれの良さがあるということだ。

*3
◆魔導師としてのマックスくんの強み:強みはやはり無限に等しい魔力。持続力(※縮退炉的な魔導炉を複数内蔵)と瞬間出力(※未来出力の過去転送(=先取り)による出力超強化)共にチート。特に大規模建造物の造成に威力を発揮する。魔法チート転生者はインフラ整備に突っ込むべし。




 
◆帝国の置き土産
原作WEB本編のシュマイツァー卿の一派が東方征伐戦争でこっそり運用していたという敵国兵士の再利用品(虎嬢や豹嬢ほど洗練されてない世代と想定)。https://ncode.syosetu.com/n4811fg/227/ の後半参照。
なおそのうちマックス君に本編で語らせますが、マックス君と屍戯卿は、三魂搭載で狂信者属性というシンパシー/同族嫌悪が相半ばする一方で、がっつり思想性が不倶戴天レベルで違っているので、人格的相性は非常に悪いという想定をしています。


◆余談:マルギットさんとルゥルアちゃんの名前
どちらも真珠を意味する女性名。ニュアンス的には、香子(かおるこ)香子(きょうこ)みたいなイメージでしょうか。音で聞くと別でも、意味は似通っている的な意味で。


◆海水鉱山について(追記)
Q.海水鉱山ってミュンヒハウゼン男爵邸に防諜対策しに行ったときは数十基とか言ってなかったっけ? 百基まで増やしたんだ?
A.キリのいいとこまで増やしました。なお帝国近海のものは帝国政府と近場の貴族の預かりにしているので、100というのはそれらを除いた数(=隠し鉱山としての数)になります。隠し鉱山として作っているのは北海の遠洋深海域がメインですが、幾つかは黒海やカスピ海の海底にもトンネル掘りがてら作っています。ロータスタイプの他に、完全海中型のウミユリタイプやホヤタイプなどもあるようです(大きさは魔力溜りの規模によりけり)。自己組織化術式によりある程度は放っておいても魔力さえあれば造成されていくため、魔宮を攻略したり魔宮未満の魔力溜りにタネだけ仕込んで放置してるうちに数が増えた感じですね。海中攻略部隊は魔宮ボスをリサイクルしてたりするので、何もマックス君一人で回してるわけでもなかったり。
なお、海水鉱山は一基あたりの取水量を20-100㎥/s程度と想定しているため、100基の海水鉱山からの水を転移で全力で吐き出させた場合、ざっくり6,000㎥/sの河川流量になるとしておきましょうか。いえ、Google検索によるとナイル川が流量2,830㎥/s、ライン川が2,300㎥/s、利根川が250㎥/sなので、流石に全力で流すまではやりませんが。ヤバいことになるので。現状、影響をできるだけコントロールするために不透水性の水路を地下に敷いて必要な水量だけ投入する運用方針となっています。

===

WEB本編で落日派らしいというか後日談(ネクロニカ)な新キャラ出ましたねえ、良いですねえ。
あ、特典付き7巻、まだ買えるみたいですね! まだの人は是非お買い求めを! → https://store.over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=EC1179&vid=&cat=ITC026&swrd=
 
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