フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

94 / 141
 
前話の動死体兵器がバレた経緯についての描写を少し修正しています。第二次東方征伐において屍戯卿が提供していた動死体兵器は、動死体とは分からない見た目がウリだったようなので、『「かつての戦友の顔をした敵を再殺してもすぐに傷を修復して立ち上がった」ので食屍鬼(グール)の噂が立った』と修正しました。……なお、動死体兵器のことが帝国にバレたきっかけが “東方征伐戦争の置き土産” なのは、置き土産の存在も含めて独自設定です(原作Web版を見るに、征伐戦争時では動死体の顔を変えたりとかバレないように気を使っていたので露見しなかったけど、その後、例えば『馬鹿な貴族(※ただし屍戯卿の熱心なファン)が屍戯卿に作ってもらった動死体兵器を秘密倶楽部とかで見せびらかしてた』、あたりが帝国政府にバレた切っ掛けとして有り得そうかもなーとか思います。ほら、最初の犯行は慎重でも、慣れると雑になって露見するというシリアルキラーあるある的な感じで)。

===

◆前話
(動死体兵器の運用は)まずいですよ!!

マックスくん「これが本当なら、 この地の部族連中に『帝国は動死体を軍で使う気狂い国家だ。エンガチョ……』とか思われてるってことじゃ……? 帝国の看板に腐汁を擦り付けるどころではない背信行為(やらかし)だよ……! 頭が痛い」
 


24/n はじめての共同作業-2(黒曜(くろ)の姉と真珠(しろ)の妹)

 

 面倒ごとはさっさと片付けるに限る。

 

 そう決意した私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンは、四阿(ガゼポ)に出した床几台の上で座椅子に腰掛けた婚約者、真珠の如き甲殻を持つアルビノの伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル) ルゥルア・ハッシャーシュさんに断りを入れて魔法を行使することにした。

 

「……とりあえずは証拠の確保からですかねー」

「この地から魔法が届くのですか?!」

「ええ、ここから帝都までよりは近いですからね。動死体が(たむろ)しているところは余裕で射程距離内ですよ」

 

 空間遷移って拉致るのに最適だよね。

 というわけでスキマ送り(ボッシュート)です。

 

 流石に動死体をこの拠点に招くと、張られている蠍の神の結界でジュッと蒸発しちゃって確保も何も無いので、代わりに虚空の箱庭に落とします。

 まずは目に付いて、特に完成度が高く、術式の癖も分かりやすいやつに遠見の術式で狙いを定めて……。

 

 

 遠隔捕捉空間遷移術式(あしもとのかんせいはとうとつに)

 

 

 はいおっけー。

 まずは一体、無事に虚空の箱庭に落とせました。

 

 これはヒト種の兵士っぽいかな?

 かなり出来が良いから、数を熟して練度が上がった比較的後期の製造物なのだろうかね。

 仕上げは屍戯卿がするにしても、下拵えとかは一派の研究員や聴講生がやったんだろうから、彼らの熟練度的に後期のものの方が完成度が高くなるのは道理であろうし。

 

 じゃあ次に行こう、どんどん行こう。

 

 空間の解れで覗き窓を開けて、遠見の術式で狙いを定めて……。

 

「……は?」

「ど、どうしたのですか? マックスさん」

「いえ、術式が斬られて……」

 

 達人(スケールⅧ)クラスの剣術の使い手なら、魔導も斬れるのは知っているけれど……。

 動死体になってもそのレベルの技量を維持するのって可能なのか??

 

 というか、そのクラスの使い手の素体を手に入れたら、こんなところで放流せずに帝国に持ち帰っていそうなものだが。

 だが魔導は斬られたし……やはり動死体にそんな手練れが混ざっているのか?

 

「──── それはひょっとすると、私の姉かもしれません」

 

 姉?

 

「はい。私と違って黒鉄の甲殻を纏った、少し年の離れた姉、マリヤムは部族で一番の戦士でしたので、一族伝来の魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』と、その効果を高める『運否均衡(うんぷきんこう)の指輪』を預けられていまして……」

「それに魔導を切る効果が?」

「いえ、えーと、説明が難しいのですが、魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』は可能性をこじ開ける短剣だと伝わっています。自らの手に余ることでも、本来は一厘の可能性も無いことであっても、因果に割り込むことで、運命を斬り拓き、その手に可能性を呼び寄せるのだとか」

 

 ぱーどぅん??

 

 え、それって、何でも斬れる、ってコト!?

 いや違う、因果に割り込む、ってことは、エーリヒ君(TRPG脳)風に言えば、『剣を振るう余地さえあれば何時でもどんな判定でもダイスを振れる』ってコトか!!

 さらに言えば、確定した状況でもひっくり返す可能性を生む魔剣、ってこと?!

 

 そしたら『運否均衡の指輪』ってのは……。

 

「ええ、御懸念のとおり。魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』は、あくまで可能性を生むに過ぎませんが、それを補うのが『運否均衡の指輪』です。これは不運を蓄積し、絶対の幸運に変えるという加護を持っています」

 

 あー、絶対失敗(ファンブル)回数をストックして、任意の判定を絶対成功(クリティカル)にするってこと??

 それが魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』と合わさったら……。

 

「絶対に当たらないはずの攻撃が、()()()当たり。

 絶対に避けられないはずの攻撃を、()()()避け。

 抜けられないはずの壁を()()()すり抜け。

 気づかれるはずの万の見張りの眼を()()()欺き。

 使えぬはずの魔導さえも、奇跡さえも、()()()()()()()限定的に使用可能になるのです」

 

 チートや!! チーターや!!

 これあれじゃないですか!

 リアルに『その時 不思議なことが起こった』じゃないですかやだー!!

 

「ルゥルアさん、シナジーが強力すぎませんか?」

「ま、まあ先祖伝来の魔剣ですし……。しかし万能ではありませんよ。使い手の想像可能な範囲でしか因果に介入できませんし、魔剣も指輪も、連続的な発動回数には限りがあります」

 

 まー、流石にそうですよね。

 これで無制限に使えるようだとぶっ壊れ性能が過ぎます。

 

「であれば、私が魔力に任せてゴリ押しすればいつかは通じるというわけですね」

「はい、おそらくは。そして姉は戦場から帰りませんでしたから、きっと()()なったのでしょう」

 

 魔導師の本領は “初見殺し&わからん殺し” ですからねえ。

 魔剣によって因果を切り裂くと言っても、剣の形を取る以上はトリガーとして剣を振るうことは必要でしょう。

 それこそ認識の外から短剣を振るう間もなくやられてしまえば為す術もないわけで。

 実際、先ほども私の一度目の空間遷移による動死体のお仲間の拉致は、認識の範囲外からの初撃だったためか成功していますし。

 

「……となると、ルゥルアさんのお姉さん……マリヤムさんと言いましたか、彼女と推定される動死体は、半ば術者の制御から外れているのかもしれませんね」

「え?」

「施術の途中で短剣と指輪の効果で、自らを縛る支配術式を斬って無効化、周囲の動死体の支配術式の因果に介入して制御を奪取して出奔、あたりが考えられるシナリオかもしれません」

 

 だってそうでもないと、動死体の製造者であろう推定落日派の魔導師が、それほど強力な魔剣の使い手を残置するとか考えられませんからね。

 何らかの原因で逃げ出したと考えるのが妥当です。

 物語であれば、一族の使命のために、とか、残してきた妹(ルゥルアさん)にもう一度会うため、とかそういう動機が付くのかもしれません。……いや逆に、一族を裏切ったルゥルアさんをケジメするためにアンデッドに加工されながらも追ってきた、という線もありえますが。

 

「まあ良いでしょう。貴女のお姉さんが戦士だというなら、そして魔剣の使い手であるというなら、私が魔導で磨り潰すのも無粋というものです」

 

 良き主人というのは、従者に望むものを与えるのだ。

 というか逆に、強敵たる武人の存在を知っていて私が平らげると怒られてしまうよ。

 たとえその方が早く片付くのだとしても。

 

「サンプルも一体は確保したし、ここはスティーに活躍してもらうべきでしょうね」

 

 闘争の権化たる我が従者。

 二対神銀の巨大蟹の下半身、静電妖精を呪縛した鋏、伸縮自在の如意鉄棍、神銀の内骨格に、二つ名持ちの巨鬼の上半身、重力制御や精神同調を刻んだ二つの魔結晶を備え、魔導契約ラインによる魔力供給によって支えられる融合魔導生命体。

 巨蟹鬼(クレープス・オーガ)、荒波の女巨人に(あやか)りしラーン部族の戦士、“津波の” セバスティアンヌ。

 

 彼女の出番というわけだ。

 

 だって見た限りだと、瘤馬人(カメルースニィ)蠍馬人(パビルサグ)の弓兵── もちろん接近戦もめっぽう強い── の一隊だけじゃなくて、おそらくハッシャーシュの部族と思しき伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の暗殺者の一団に、なんと戦象人(ガネーシアン)の小隊まで敵の動死体集団には居たのだ。*1*2*3

 ……これはあれだな、特に素体のポテンシャルが高いのを、帝国に持ち帰る用に歩かせるために── それ自体に歩かせることで運搬の手間を省くつもりだったのだろう。何なら、東方征伐戦争に屍戯卿が呼び出された本来目的である “味方兵士の遺体の回収とエンバーミング” において、遺体を運搬させるのにも使うつもりだったのかもしれない── 一か所に纏めておいてたら、魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』を持ったルゥルアさんの姉のマリヤム・ハッシャーシュ女史(の動死体なりかけ)に丸ごと制御奪われたんだろうな……。*4

 

「……結界があるので動死体は入ってきませんし、改めて思えば別に今日明日で片づける必要もないですしね」

「というか今日明日で片づけるつもりだったんですか!!?」

 

 ええまあ。

 今でも出番をスティーに譲らなければ片づけるの自体は直ぐ済みますけどね。

 でもまあ動死体の集団の中に手練れが居るってのも分かったので、配下の仕事と楽しみを奪う訳にもいきませんし。

 

「それより動死体が片付いてからのことを考えましょう! 動死体が片付けば最寄りのバザールまで色々買い付けに行くこともできますし、その時に荷運びの一団を驚かせてこの地の将来をアピールするためにも、一面の緑の絨毯を育てておきたいところですね」

「今まで頭を悩ましていた動死体の件が、“それより” で済まされていく……!」

 

 何やらカルチャーショックを受けているルゥルアさんも可愛いですねー!

 

 

 

§

 

 

 

 さて何やかやあって夕刻。

 客人の持て成しにと、残った唯一の家畜である山羊のココちゃんを手に掛けようとする涙目のルゥルアさんを押しとどめて、虚空の箱庭から料理をデリバリーしてもらって舌鼓を打ち。

 ルゥルアさんと擦り合わせた内容を元にして、ハッシャーシュの領域の開墾計画を修正したり(イチジクやナツメヤシ等の果樹園マシマシ)、巨蟹鬼のセバスティアンヌ(スティー)に動死体の一団の殲滅と残骸の回収に近いうちに出撃するよう頼んだり。

 冬眠しているハッシャーシュの一族の子たちを近日中に起こすことにしたから、冬眠時の体液組成を透析して覚醒時の体液組成にして目覚めさせられるようにする施術のシミュレーションをしてみたり。

 

 記憶の整理や脳のリフレッシュのために久しぶりに寝るかー、ってところで、上司のアグリッピナ・フォン・ウビオルム魔導宮中伯閣下から、急患でーすと呼び出されたり。*5

 措置が終わったのでウビオルム領の関係でもし今後、「死体がたくさん出るような騒動があれば引き取るのでまた御贔屓に」と言い残して空間遷移しようとしたら、治療対象だったエアフトシュタット卿が渋い顔をしていたりしたけれど、何も問題はないでしょう。*6

 

 さて、と。

 それでは婚礼や領地開発の関係を進めて、魔導炉の実験場所も確保しないとなー!

 

*1
◆瘤馬人カメルースニィ:駱駝の獣人。ケンタウロスの駱駝版。東方征伐戦争時は騎射で帝国軍を苦しめた(原作にて言及がある種族)。

*2
◆蠍馬人パビルサグ:メソポタミアにおける都市神の一つを語源に持つ馬肢人の亜種。蠍の尾を持つ半人半馬。先祖返りすると翼も生えるとか。独自設定。

*3
◆戦象人ガネーシアン:立ち上がった象のような姿の獣人。まさにスモトリ。ヨコヅナ。巨鬼並みに戦闘に特化した肉体を持つが、根は優しい者が多いとか。独自設定。→ 追記:南方(アフリカ)大陸出身の同様の種族に牙長人(マンクァ)が居る。ほぼ同種族だが、牙長人がアフリカゾウなら、戦象人はインドゾウに当たるだろう。

*4
◆黒曜の刺客 マリヤム・ハッシャーシュ:伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の若き凄腕戦士。ルゥルア女史の姉で、黒い美しい光沢の甲殻と褐色の肌を持つ美女。第二次東方征伐戦争で殉死。一族伝来の短剣である魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』と『運否均衡(うんぷきんこう)の指輪』を与えられており、任意の判定を創り出して勝手に2D6を振っては無理やりクリティカルにして状況を打開してくるぶっ壊れ。素の技量も達人級以上で、背のハサミ腕にそれぞれ長弓を持たせてヒト腕で間断なく連射してきたり、接近戦ではハサミ腕、ヒト腕、尻尾にそれぞれ毒剣を持たせて五刀流してきたりするそうな(グリーヴァス将軍かな?)。独自設定。

*5
◆アグリッピナ氏からの急患呼出:原作小説5巻において、ウビオルム伯爵領の忠臣エアフトシュタット卿が刺客に負傷させられた件の再生治療のために呼び出されたので、術式と奇跡でささっと治した。ついでに自殺して脳を焼いて証拠隠滅を図った刺客の死体の復元も行った。刺客の死体の復元については、過去遡行術式で自爆直前の刺客の精神を観測し(※タイムテレビ)、それを再生させた脳髄にオーバーライドすることで死にたてほやほやくらいの鮮度で再現するという魔力頼りの力技であった。

*6
◆渋い顔のエアフトシュタット卿:ウビオルム伯の下で働くということは、魔導関係では()()がある意味同僚になるのか……。と辟易している様子。




 
====

原作小説7巻良かったです!! いよいよマルスハイムに到着したのですが、冒険者の氏族関係が掘り下げられていて大変美味しゅうございました。マルスハイムってオーサカっていうか、ロアナプラじみてるな? と思うなど。冒険者の集う酒場のマスターやるにしても、HSの上品なバーとはまた違った感じで、なぜかいつも抗争の中心地になって吹き飛ばされる大衆向け酒場(※ロアナプラのイエローフラッグ)的なのがあっても面白いかも、などと思いました。新キャラはどなたもキャラが立っているので好きですが、魔導師系のおねーさん方(バルドゥル氏族長やゼイナブ女史)が特に好きですねー! そうだ、みなさん書籍版を読んだら是非公式HPのアンケートに答えて壁紙もゲットしましょう! → https://over-lap.co.jp/TRPG%e3%83%97%e3%83%ac%e3%82%a4%e3%83%a4%e3%83%bc%e3%81%8c%e7%95%b0%e4%b8%96%e7%95%8c%e3%81%a7%e6%9c%80%e5%bc%b7%e3%83%93%e3%83%ab%e3%83%89%e3%82%92%e7%9b%ae%e6%8c%87%e3%81%99+7%e3%80%80%ef%bd%9e%e3%83%98%e3%83%b3%e3%83%80%e3%83%bc%e3%82%bd%e3%83%b3%e6%b0%8f%e3%81%ae%e7%a6%8f%e9%9f%b3%e3%82%92%ef%bd%9e/product/0/9784824003355/?cat=BNK&swrd=

そしてWEB版最新話キテますわね。 https://ncode.syosetu.com/n4811fg/258/ 聖者さんつっよ! あと試練神はともかく、輪転神と水潮神のルビはそれでいいんだ……。水潮神は、あれかな、人魚姫じみた感じの逸話で奇跡を下ろしたりしたことがあるのかもしれませんね。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。