フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆先祖伝来の魔剣等の “ぶっ壊れ具合” について(妄想設定)
長い歴史を持つ部族、あるいは貴族家であれば、長期キャンペーンの目玉となるようなアイテムや魔剣を複数所持していることも十分ありうるハズ……! と考えています。その中には、【判定機会をこじ開け(『その時不思議な)クリティカルを確定させる(ことが起こった』ができる)】魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』と『運否均衡(うんぷきんこう)の指輪』の組み合せみたいに、マンチ的な “悪さ” ができてしまうコンボもきっと存在するでしょう。例えばライン三重帝国の十三騎士家(建国戦争時の勲臣)とかにも多分そういう、組み合わせるとアカン感じになるアイテムは伝わっているはずです……!(逆に、組み合わせるとヤバいやつはそれぞれ別の家に下賜されたりしてるかもですが)

===

◆前話
未確定ではあるが、ルゥルア女史の姉だという凄腕の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の戦士 マリヤム女史が、動死体化施術されたものの自前の気力で意識を取り戻して逃げ出して武器庫に忍び込み一族伝来の魔剣と魔法の指輪を取り返し、その2つのアイテムの権能のコンボで術者の支配を断ち切り他の動死体の支配権限を奪って部隊を率いている可能性があるようだ。ハッシャーシュの部族の土地に侵攻した理由は不明だが……。
それに対してマックスくんは護衛近侍の巨蟹鬼セバスティアンヌに闘争の機会を提供することも兼ねて、彼女(スティー)に出撃を命じたのだった。
 


24/n はじめての共同作業-3(空飛ぶ絨毯の上で)

 

 中東の砂漠といえば、やはり魔法の絨毯は欠かせないだろう。私の中の異世界人の魂の欠片もそう言っている。

 そのうちこの辺りの民話をまとめてこちらの世界版の千夜一夜物語(アラビアンナイト)を出版してもいいかもしれない。アグリッピナ氏のような書痴を巻き込んだりしてもいいだろう。

 

 まあ、というわけで、私ことマックス・フォン・ミュンヒハウゼンは、婚約者であるルゥルア・ハッシャーシュさんと一緒に、魔法を付与した絨毯に乗って空をスーッと飛んでいた。

 眼下には風に巻かれて砂埃が立つ荒涼とした大地が広がっている。

 隠れがちな太陽はまだ東にあり、雪雲も垂れこめているせいか、冬の寒さが大気には満ちている。

 

「そんなに全力で伏せて絨毯にしがみつかなくても、落としたりはしませんよ?」

「し、信用してないわけではないのですが、そう簡単に割り切れたりはしないのです……! ギルタブルルは地を這う種族ですしっ」

 

 寒くないように風圧遮断と気温維持の結界を張りつつ、隣でべたーっと絨毯に伏せる婚約者殿を見やる。一昨日昨日今日で栄養をとれたおかげか目の下の隈も消え、唇の荒れも治り、全体的に血色も良くなっているのだが、彼女の顔は伏せた時にせり上がった頭部甲殻に覆われて見えない。残念だ、彼女の生来の可憐さ、生命の力強さがより強調されていて気に入っているのだが。

 その代わりに伏せた姿勢では背と肩の真珠色の甲殻がよく見える。彼女が着ているのは、背と肩にある蠍の眼の部分を中心に広くメッシュ状になったちょっとセクシーな外套だ。……これは実は今朝、私がプレゼントした新作だったりする。縫製の仕方や素材、適温維持などの魔導付与にも気を使ってこさえた逸品で、着心地も良い自慢の品である。

 <見えざる手> の術式で、絨毯から落ちないようにさりげなくルゥルアさんを支えるが、彼女はそれだけでは不安なようで、巨大な真珠を連ねたような長い蠍の尻尾を私の胴に巻き付けてきた。甲殻表面の真珠光沢が少しひんやりして心地よい。

 

「…………」

「な、何をお考えですか……??」

「いえ。背面飛行したり、宙返りしたりしたら、どのような反応をお見せになるかと気になってしまって」

「絶対に、ぜぇったいに、止めてくださいまし!?!」

 

 そうですね、止めておきましょう。

 私は彼女の反応が可愛らしくてクスクスと笑った。

 

「ほっ……」

 

 お楽しみは取っておくということで。

 

「!?!?」

 

 私が悪戯げに呟いたら、ルゥルアさんが愕然とこちらを見てきたのが可笑しかった。

 フフフ、吊り橋効果とかは狙ってないヨ。ホントだヨ。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

 曲芸飛行はまたの機会で、遊覧飛行を楽しむこと暫し。

 日が中天に昇るより前に、先般 魔導で探知した動死体集団が(たむろ)する拠点の上まで飛んでくることが出来た。

 どうやらルゥルアさんの部族のかつての中心拠点らしい。本丸 落ちとるやんけ……。

 

「あまり今の集落の結界から離れすぎると、維持が切れてしまわないか心配なのですが……」

「お気持ちは分かりますが、今朝出る時に、贄の羊を供物として蠍の神(そちらの神)に捧げてもらいましたし、ここの動死体連中を片付けて帰るまでは問題ないと思いますよ」

「ええ、羊の提供は助かりました。……うちの山羊のココちゃんを手にかけなくて済みましたし……」

 

 神に対して犠牲の羊を捧げることで、それを対価に奇跡を(こいねが)うことは、割りと一般的である。少なくともこの地においては。

 ライン三重帝国において、奇跡を遣わせることへの喜捨として財貨を納めることが一般的であるように、この砂漠の地においては財産たる家畜を捧げるのもまた一般的だというわけである。

 今回は私が虚空の箱庭の牧場から提供した羊を蠍の神への生贄に捧げて、ルゥルアさんが維持していた集落の結界を強化してもらったのだ。

 もちろん、集落の護衛にホムンクルスや巨蟹鬼の中齢幼体も残してきているし、いざ匪賊や動死体が襲ってきたら空間遷移で戻れば良い。

 これで後顧の憂いなくルゥルアさんを連れ出せるというものだ。

 

「動死体の中にはハッシャーシュの一族と思われる伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の戦士たちも居るようですし、確かに私が見届け、また弔いをすべきでしょうね」

「そこら辺の葬祭はお任せします、申し訳ありませんけれど」

「いえいえ、本分ですから。それに護衛の手が増えたおかげで私が集落を離れられるようにもなりましたし、早めに片付けられそうなのは助かります」

 

 ちなみに、いまの拠点としている集落の方では、冬眠中の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の皆さんの覚醒処置が進められている。

 彼らが啓蟄(けいちつ)を待たずして冬眠から目覚めたら、集落を元々の本拠地へ移動させたり、祝言の準備をしたりする予定だ。

 というより、祝言に向けた準備の一環として、動死体(ゾンビ)退治をすると言った方が正しいかも知れない。

 

 

 

 

 眼下では猛烈に砂埃を上げながら走る巨大な多脚の異形の姿が見える。

 言わずと知れた我が護衛、巨蟹鬼のセバスティアンヌ女史だ。

 蟹の下半身に格納された高効率の鰓は、馬を凌ぐ速度と持久力を彼女の種族にもたらしている。

 

 冬の曇りの中でもギラギラと輝く神銀の鋏を四つ備え、四本脚で地を駆ける彼女は、まさにファンタジー世界に現れた多脚戦車。

 巨鬼の上半身もそうだが、巨蟹の甲羅や歩脚などにも魔導と奇跡を付与した一品モノの防具を付けさせている。魔導消去や状態異常回復、矢避けを始めとした効果が付与された、小細工や搦め手を拒否する類の装備だ。それぞれの魔導や奇跡が過干渉しないように組み合わせる(耐性パズル)のは少々手間だった。

 この完全装備状態であれば、帝都地下で金髪の魔法剣士(ケーニヒスシュトゥールのエーリヒ)に鰓を凍らされたような無様は、もう二度と晒さないだろう。

 

 そして防具の重量などものともせずにスティーは地上を爆走していた。

 長駆しても疲れを見せないどころか、ちょうどいいウォーミングアップになったと言わんばかりの余裕の表情をしている。

 

 闘争に特化した構成の生得魔法が巨蟹鬼セバスティアンヌ(スティー)の魔晶には刻まれているし、そのラインナップには高効率の肉体賦活魔法も含まれているのだ。

 空飛ぶ絨毯と同じ速度で地上を並走することくらいは軽い軽い。

 彼女の燃費は悪い(お腹は空きやすい)が、私との使い魔契約的な魔導経路から魔力を供給して補っているので、いまこの時においては問題はない。……働きの褒美にあとでたらふく美食珍味を食わせてやる必要はあるが。彼女(スティー)美食家(グルメ)だからね。

 

 

「さて、そろそろうちの護衛のスティーが接敵するみたいですね」

「……下の景色は見たくないです。ああ、でもせめて見届けないと、族長としての、そして巫女としての責務が……」

「肉眼で見るのが嫌なら、家宝の魔弓の遠隔視界を起動してはいかがです? 私が術式に介入すれば戦場を良い感じに見せてあげることもできますし。肉眼でなければ恐怖心も和らぐかもしれません」

「! そうしましょう! 出来れば我が蠍の神の加護を纏わせた弓矢で引導を渡してあげたかったですから、そのついでです!」

 

 葬祭を司るのは、神に仕える神官にして族長の大事な役目である。

 ルゥルアさん自らが祈りを込めた矢により浄滅することは何よりの供養に違いない。

 

 

 さて、巨鬼というのは、食欲以上に戦闘欲求が大きい種族である。

 スティーは突然変異的にゲテモノ食いにまで踏み込んだ美食家だが、美食への渇望が大きすぎるだけで、闘争本能が小さいわけではない。

 むしろ部族における上位の二つ名を名乗れるほどには、闘争に浸っている。

 鎧の上から極光の半妖精(アウロラ・アールヴ)ターニャの虹色の鱗粉で戦化粧としての紋様を全身にまるで蔦や蛇が巻き付くように施したセバスティアンヌの姿は、恐ろしくもあり、優美でもあった。

 

 

 向かう先には、盾と槍を構えた動死体の集団が見える。その後ろには投石兵や弓兵の姿もある。構成種族はヒト種(メンシュ)が中心のようだ。

 その両翼に、瘤馬人(カメルースニィ)蠍馬人(パビルサグ)ベースの動死体の一団が左右に回り込むように広がっていく。

 戦象人(ガネーシアン)の小隊は槍衾の奥、中央に位置している。

 伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の動死体の集団の姿は見えないが、集落跡の建物の上から狙っているのか、あるいは進路上に文字通りの伏兵となって潜んでいるのだろうか。

 

 いよいよ接敵だ。

 

 動死体相手に細かな名乗り口上は無用とばかりに、巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌ(スティー)は戦吠えを轟かせながら加速した。

 

 

 

§

 

 

 

 動死体の集団の奥。

 そこに、黒曜の甲殻を纏った女性の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の姿があった。

 血の気の失せた褐色の肌は土気色になっているが、死体でもなおその彼女の姿は美しかった。

 

 魔導金属を含んで黒く輝く生体装甲に覆われた背中やハサミ腕、そして尻尾。それは夜闇と星空を凝縮したかのようですらあった。

 いくつもの短剣と弓と矢筒を身に着けた彼女は、死してなお歴戦の戦士の風格があった。

 何より目を惹くのは、尻尾の毒針の先に付けられた専用の治具で握られた、まるで木目のような紋様が浮かんだ短剣。*1

 

 これこそが魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』。

 運命を斬り拓く魔剣である。

 

 つまり、この持ち主の伏蠍人/蠍背人(ギルタブルル)の女武人こそが、黒曜の刺客と謳われるマリヤム・ハッシャーシュ── ルゥルア・ハッシャーシュの姉であり、ハッシャーシュの一族の筆頭戦士── であった。

 

 その彼女は、動死体と化されてもなお、微かに己の意識を残していた。

 

 かつて彼女は敗北した。

 そしてその身体を回収され、帝国に持ち帰るために高度な鮮度維持と最低限の動死体化を施されることとなった。

 

 だが、動死体化の術式を仕込まれて馴染ませる最中に、なんと持ち前の気力で意識を回復させたマリヤムは、支配術式で朦朧とする意識をおして、魔導師の(ねぐら)を彷徨った。*2

 そして臨死の一歩向こう側であっても発揮された暗殺部族としての技量で隠密、潜入をこなし、彼女は自らの装備である魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』と『運否均衡の指輪』をその手に取り返すことが出来た。

 所有者の死という特大の不運を貯め込んだ『運否均衡の指輪』の力を用い、マリヤムは魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』の権能により、自らを蝕む支配術式を断ち切ることに成功する。

 

 だが、それでも死は覆らず、動死体化の術式は進行し続ける。

 動死体化の術式を斬れば、それで死は確定するだろう。いま斃れることはできない。

 さしもの魔剣も、死を覆すことまでは出来ないのだろうか。鼓動は戻らない。

 

 あるいは、賢い真珠の妹であれば何かしらの手段を考え出せたかもしれないが、死の境を超えて魂が滅びゆくマリヤムの鈍った思考は、自らの死を斬ることまではできても、生を紡ぐ手段までは考え出すことが出来なかった。

 単に死なないだけに留めることしかできなかったのだ。

 いや、あるいは流石に蘇り(それ)は、魔剣『斬り拓くもの(チャプラハンディ)』の権能を超える願いであったのだろう。

 

 死を覆すことが出来ないのであれば。

 せめて故郷の地に。

 

 祖神である蠍の神の腕に抱かれることだけを支えに。

 蠍の神の支配域に帰ることだけを心に定め、マリヤムは行動した。

 

 魔導師の塒に貯蔵された他の動死体たちに施された支配術式の制御の糸を断ち切り、自らの支配下に。

 武器庫を襲い、それぞれにできるだけ生前の装備を整えさせる。

 幾らかの動死体を撹乱のために魔導師の塒に放ち、足止めに罠と動死体兵士も残して脱出。

 

 そうして逃げた先で、進行する動死体化の運命を魔剣の権能で細かく切って制御しながら、マリヤムは蠍の神の領域、自らの故郷に辿り着いた。

 その頃にはもう、マリヤムがまともに意識を保てる時間はかなり少なくなっていた。

 

 なつかしの故郷が見えてふと意識を失い。

 

 

 気づけば、かつての故郷の()()に佇んでいた。

 

 

 そこからはもう覚えていない。

 いや、思い出したくもない。

 

 幸いなことに、廃墟に同胞の死体は無かった。

 同胞たちは手にかかることなく上手く逃げたのか。もともと居なかったのか。あるいは魔剣の権能で動死体化の術式を真似て同胞の遺骸に仕込み、無意識のうちに軍勢に加えてしまっているのかもしれない。

 もはやマリヤムにはそれすらも曖昧だ。

 

 

 朦朧とした曖昧で途切れ途切れの意識の中、生を失い、死に損なったまま動死体を率いて故郷に辿り着いたマリヤム・ハッシャーシュは、待っている。

 

 己の魂を蠍の神に送り届けてくれる救いの手を。

 

 ──── 願わくば、神の寵愛篤き真珠の妹(ルゥルア)の手で、神の御許に送られんことを。

 

 

 

*1
◆木目模様の刃金:ダマスカスソード。

*2
◆動死体術式への抵抗:マリヤム・ハッシャーシュ女史が意識を回復したのは、魔剣や指輪は関係なしに、完全に自前の気合です。ただ、既に死は確定したあと(※死後数日経過済み)なので、生き返りはできませんでした。TRPG的に言うなら、キャラロスト後に悲運の敵NPCとしてGMに操作が移った感じですね。




 
※ルゥルアちゃんが元の部族と袂を別った時期は、姉のマリヤム女史が出征した直後なので、動死体化したマリヤム女史とは顔を合わせていません。
ルゥルアちゃん「部族を裏切って帝国につく決断をした決定打って、実はマリヤム姉さんの死を天啓で見たからなんですよね……。姉さんがダメなら、まあ、勝ち目無いので……」



◆ダイレクトマーケティング!
 原作コミック版4話更新! → https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19203286010000_68/
 原作WEB版も更新されていますね → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/259/
 7巻特典付きはまだ在庫あるポイ? → https://store.over-lap.co.jp/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=EC1179&vid=&cat=ITC026&swrd=
 
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