フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆蘇りの扱いについて(独自解釈)
マックスくんの扱う蘇りは基本的にバグ技扱いです。時間遡行魔法を魔力でゴリ押しして肉体を死のボーダーの彼岸側に来た直後の状態にまで持って行って、魂魄は過去視術式で観測した死の瞬間の構造(臨死状態)をオーバーライドし、さらに間髪入れずに神の奇跡でもって新生・再誕させてます(蘇生・復活ではない、と解釈。一定の変質を伴うためむしろ分類としては死霊化に近い。)。概念的には復活ではなく、まったく新しい生命として受肉したと解釈することで、死は絶対のものであるという世の理を騙しているわけですね。この詐欺師がよ……。
これを行うためには、時間の秘密に手をかけた高位魔法使いと、馬鹿げた魔力を持った魔力タンク役に加え、生死の境界を侵すことに無頓着な邪神を信仰している高僧の3つの役割が揃う必要があります(マックスくんは一人で全て兼ねています)。……まあこの手法により神の奇跡で新生・再誕した者は、その奇跡を遣わした神の眷属として自動的に組み込まれてしまうのですが。
蠍の神『ほんとにホントにうちのその
◆蠍の神は
蠍の神『……?? 別に怖いとかはないな。世界を滅ぼす権能を持つとされる神なんて珍しくもないしな!』(※
===
◆前話
蘇りがダメな信仰なら蘇りOKな信仰に改宗させれば善しというものよのォ〜〜〜!!
マリヤム女史は生まれ変わって妹とまた暮らせてHappy!
ルゥルアちゃんは姉が新生して帰ってきてHappy!
マックスくんは神託を果たせてHappy!
三方ヨシッ!
25/n 東行の波紋:動死体兵器案件-1(
「生まれ変わった気分はどうですか? えーと、マリヤム・ハッシャーシュさん?」
「……特に何か変わったような感じは──── あ、いや、お腹が空いたな……」
荘厳な宗教画のような光景は終わりました。
魔導の素人である私、ルゥルア・ハッシャーシュでも感じ取れるほどの膨大な魔力による現実改変が行われ、異教の神である “終焉と再始の神” のほぼ降臨にも等しいほどの濃密な神威による奇跡が遣わされたのです。
そしてその結果として、我が姉である部族最高の戦士 “黒曜の刺客” マリヤムは、復活──── いや、新生し、再誕したというわけです。
「あの、マックスさん。貴方、ひょっとして私よりも位階が上の神官であらせられます……??」
死者を蘇らせるなど、通常の御業ではありません。
あ、お腹空いたとか卑しいことを口走った姉には、巨蟹鬼のセバスティアンヌさんが何やら渡しているようですね。
腸詰めか何かでしょうか。どこから取り出したかは全然見えませんでしたが。
お手数かけます……。
姉のことはひとまず置いておいて、私が畏怖を込めて尋ねると、マックスさんは照れたように頭を掻いて答えます。
「いえそういう訳でもないと思いますよ? 単に、新生や再誕は、我が神の権能領域にドンピシャだったのと、そちらの蠍の神の
「……マックスさんには、姉さんの蘇生を望む我が蠍の神の声が聞こえたのですか? 私には聞こえませんでしたのに……」
「あーいや、気にすることはないと思いますよ。きっと今までの教義と矛盾するから、特にルゥルアさんには聞かせたくなかったということなのでしょう」
……そういうことであるならば良いのですが。
いえ、分岐未来についての走馬灯が見えたのがつまりは姉を赦すという我が神の意思表示だったのかも知れません。
「神に例外を認めさせるほど、貴女のお姉さんの才は突出していたということですよ。それを誇りこそすれ、気に病むことはないかと。一番の信徒たる貴女には、蠍の神────
「……そうだとしたら、マックスさんはそれを暴露してもよろしかったのですか……? あと、『
「あはは、いーんです、いーんです。ライン三重帝国の神群の神様方はそういう温かみにあふれた逸話を多数お持ちですから、これから
──── あと『
……これからが結構大変だと思いますが、頑張ってくださいね」
これからが大変、というのは、それはどういう……?
確かにハッシャーシュの一族が帝国に
疑問が顔に出た私に対して、マックスさんが解説を続けてくれました。
「ハハハ、まあ帝国ではですね、異教の神を自らのところの神群に迎え入れた際には、聖堂においてその神の由来縁起を新たに……おっと失敬、えーと、失われたはずの記録を
「ええ、私もそのように伺っていますが……」
確か、そのような流れになるということで、何度かその帝国の神話体系における我が神の位置づけ
あまりにも誤った解釈を書かれると堪ったものではないですからね。
「ああ、それで、帝国における名前が『
そういえば思い出してきました。帝国の僧会との書簡のやり取りの中で幾つかの候補が示されていた中の一つですね」
文字と発音が結びついていませんでした。
なるほど、書簡に書かれていた書状の中で書かれていた『螫蝎神』というのは、『せきかつしん』と読むのですね。
確か、蠍の神、という意味でしたか。
得心がいった私に、マックスさんが付け加えます。
「安穏としてられませんよ、ルゥルアさん。私との婚姻を機に、そちらの部族神の『蠍の神』を、帝国においては『
「?? ええ、理解していますよ」
「……帝国の数万人という僧会関係者に、帝国の神群として位置づけられた『
あ、あー!
そういうことですか……!
「神の在り方というのは、そこに寄せられる人々の認識によって影響されます。ルゥルアさんが正しい祭祀を守らなければ、いえ、守っていたとしても、不可避的に
「くっ、大国ゆえの強みを生かした神話体系への侵略というわけですか……! というかもう既に実は影響が出始めていませんか!? 姉の蘇りの件も、私の知る我が神は、いくら姉が英雄級の戦士だとしてもそこまで例外を設けるような方では無かったと思うのですが!」
「……解釈違いということであれば、頑張ってこれまでの『蠍の神』の在り方を推してくださいね。これまで以上に」
あああああーーー!
いや無理ですよぅ、いまうちの一族は戦争と動死体の件で数が減ってるんですもの!
そんな苦悩する私をよそに、若干空気の読めない姉さんがマックスさんに話しかけます。
どうやら巨蟹鬼のセバスティアンヌさんから渡された肉の腸詰やら清澄な水などで腹を満たして落ち着いた様子。
まあ、数年ぶりの生身での食事とあれば、がつがつと手づかみで食べるようなはしたなさもお目こぼししましょう……。
「なあ、帝国魔導師。……いや、神官長殿とでもお呼びした方が?」
流石にあれほどの奇跡を見せつけられては、帝国に敵愾心を持つ姉さんとて神妙にならざるを得ないみたいです。
この地では神官というのは支配者階級と同義ですからね。
それ以前に、私が族長として帝国に寝返ると決めたのですから、ハッシャーシュの戦士として姉さんにもその決定に従ってもらいませんと。
というか何なんですかね、急にしおらしくなっちゃってまあ。
気持ちは分かりますけど、気に入りません。
ええ、はい、さっきの奇跡が降りてきた光景では、私も圧倒されてしまって口を挟むことはできないくらいでしたから、姉の豹変の気持ちも分かりますケド。
でも気に入りませんねえ、なにをそんなにモジモジ(※当社比。肉親ゆえの些細な変化への気付き)してるんだか。
まあ私自身、己の内心で、強い姉がマックスさんに
実際、複数の強い感情が自我を引き裂くようにバラバラのベクトルに発生して、の、脳が、焼けて壊れそうです……!
さっきとは違う意味で懊悩し始めた私をよそにして、姉マリヤムの問いかけに、マックスさんが対応します。
「呼び方は御随意に。義弟殿とでも呼んでもらえたらありがたいかもですが」
「義弟……そうか、ルゥルアの夫であれば、そうなるか」
なぁんで姉さんはそこで残念そうな顔するんですかね??
は?? マックスさんは私の夫だから渡しませんけど??
「ああ、そもそも名乗っていませんでしたかね。
私は帝国で魔導副伯に任じられていますマックス・フォン・ミュンヒハウゼンと申します。趣味で神官もしております……まあ、我が神は再生を主に司る神格ですが、マイナーもいいところなので、私がほぼトップの神官という認識で間違いではないですよ。
──── 以後良しなに」
「ああ。先ほどは失礼した……ハッシャーシュの戦士、マリヤムだ」
「ええ、ルゥルアさんから聞き及んでいます。戦士マリヤム。コンゴトモヨロシク」
そこで握手する二人。
というか姉さんは、服がズタボロになっているのを少しは恥じらうべきでは?
あと今気づきましたが、マリヤム姉さんがごく自然に帝国の宮廷語を話してますね……。
なるほどそれで、巨蟹鬼のセバスティアンヌさんと円滑にやり取りできていたわけですね。
…………なんでいきなり帝国語を喋れるようになったかは、全然 “なるほど” ではないですが。
「色々と聞きたいことが……ある、あります。急にそちらの言葉が分かるようになったこととか────」
あ、やはり姉さんも言葉について違和感を覚えていたんですね。
「──── あと、この尾のこととか」
そう言ってマリヤム姉さんが掲げたのは、黒々とした甲殻の自慢の蠍尾。
………ですが、それは常とは違っていて。
「二叉になっている……?」
思わず私の口から呟きが漏れました。
そう、姉の尾は、途中から二叉に分かれていたのです。
「あとはこれも、だ。です。この、
…………私の身体に何をした、しましたか?」
そう言った姉の背から、まるで
ああ、確かにマックスさんは、先程の儀式を “復活” のためとは
“再誕” である、と……。そう言っていたのは、こういうわけだったのですか……。
で、まあ。
「ああ、それですか! どうですか? 素晴らしいでしょう! 我が神の御業は!!」
「………え? は?」
喜色満面という感じにマリヤム姉さんに捲し立てるマックスさん。
私はそれを見て、“まあそうなりますよね” という感想を抱いた。
信仰する神の御業なのですから、マックスさんがそれに疑問を挟むことも異を唱えることも、ましてや悪びれることすらありえませんよね。私も信仰者として分かります。
「ここからさらに東の伝説で言うところの『
「い、いやそういう事を聞きたいのではなくてだな、ですね」
「技能の振り直しに、魂魄の潜在能力の解放と、それに応じた肉体の再構築に最適化! 素晴らしいですね!!
─────── それともまさか、我 が 神 の 御 業 に ご 不 満 が あ る と で も────??」
ぞわり、と不気味な圧力がマックスさんから吹き出しました。
そうなりかねないと予期していた私は、素早く2人の間に身を割り込ませました。
「マックスさん、すみません。姉もまだ混乱しているようです」
「ルゥルアさん。ええ、はい、分かっていますとも。
…………思い返せば私も、かつて我が神の御業によって再誕したときは混乱したものでした」
「ご寛恕、感謝いたします」
姉を引っ張って彼の前から少し離れます。
……そうか、マックスさんも再誕者なのですね。
おそらくは巨蟹鬼のセバスティアンヌさんも、極光の半妖精のターニャちゃんも。あるいは下働きのホムンクルスたちでさえ。
そしてマリヤム姉さんも、その列に連なった。
死して、生まれ直す。あるいは、生まれ変わる。
再誕こそが、彼の教義における信仰告白と同義なのでしょう。
それこそが、真なる同胞となる資格なのでしょう。
そしてマリヤム姉さんは、その資格を得た、ということですか……。
「……マリヤム姉さん」
「ルゥルア、済まない。苦労を掛けた上に、こうやって教義に背き舞い戻った」
本当にそうですよ。
貴女がいない間に、私がどれだけ苦労をしたと…………。
「済まない……。だが、私は本当に私のままなのだろうか? こうやって姿かたちが変わってしまっているし……」
「貴女は間違いなく、マリヤム姉さんですよ。私が、保証します」
頼りになって、私には無いものをたくさん持っていて、大好きな、私の姉さんです。
実際のところ、我が蠍の神の加護によって、私の目にはマリヤム姉さんの魂が見えていますから、それは断言できます。
動死体として一族の本拠地を襲ったせいか、ドス汚れた穢れが魂に付着しているのもまた見えていますが。
蘇りは教義に反しますが、蘇ったものを殺すべきだと考えるほどに教条的ではないつもりです。
いまのマリヤム姉さんは、動死体として動いているのではなく、正真正銘、生きているようですからね。
まして、今はマックスさんの信仰する神の預かりということであれば、私が言うべき筋でもありません。
危うく一触即発だったので、そこは割り込ませてもらいましたが。
「姉さん。あれほどの神の奇跡を疑うような言動は慎んでくださいね。マックスさんを怒らせるのは得策ではありません」
「それは、もちろん。私もそのようなつもりはなかったのだ」
「……まあ、私も気持ちは分かりますが」
尾が二つに分かれるだけなら私も部族の伝説に聞いたこともありますが、翅が生えるだなんて聞いたこともありません。
ましてや姉さんの状況的に、帝国の外法で動死体にされ、さらに改造を施されるところだったようですし、その下手人と同門と思われるマックスさんに対して疑念を持っても致し方ない面はあります。
己の肉体が変容していることに対する混乱、そして、違和感を覚えて然るべき変容に対して違和感を覚えないどころかしっくり来ているという己の思考の不気味さと、何が起こっているか分からない不安、それらが渾然となって、マリヤム姉さんはマックスさんに詰問しかけたのでしょう。
「ともあれ、その身体のことは問題ないでしょう。何せ正真正銘、神の奇跡の賜物です」
「ああ……冷静に考えると恐れ多いことだな……」
「普通であれば聖人扱いされて然るべきですし、たとえ遺体になっても聖遺物として認定されるでしょうね」
まあ、マックスさんの信仰的には、再誕そのものはありふれたとまでは言わないものの、珍しくはないようですが。
それも彼の神が司っているという権能ゆえ、でしょうね。
“終焉と再始”、でしたか。
「死体さえ聖遺物だ、などと縁起でもないことを言うな。まだ暫くは死ぬ気は無いぞ」
「ええもちろん、そう簡単に死んでもらっては困ります。こうやって蠍の神が他の神に付託してまで蘇らせて、その穢れを
そして最終的には、
神が特別に蘇りすら許したほどの戦士となれば、その死後に楽園にて重用されるのは確実です。
……私としても後に姉さんが再び蠍の神に帰依して、列聖したときに備えて、今から姉さんの行状を纏め始めるべきでしょうね。
「積もる話はありますが、ひとまずは──── おかえりなさい、マリヤム姉さん」
「…………! ああっ、ただいま、ルゥルア」
そうやってしばし、私とマリヤム姉さんは、抱きしめ合ったのでした。
さてそろそろマックスさんも落ち着いた頃かと、彼のもとに戻った私たちが見たものは────。
「ああ、先ほどは気が高ぶっていてすみません。
え?
──── 非常に大量の日干し煉瓦が積み上げられてできた塊でした。
家ほどの大きさに積み上げられた日干し煉瓦の塊が、でん、と鎮座しています。
見れば、廃墟と化した集落の中に、同様の煉瓦の山が幾つも見えます。
「戦士マリヤム。貴女は職人ではなく戦士ですが、我が神が蠍の神たる
我が神の教義として、重要なのは再生です。復興と言い換えても良いでしょう。
つまり? この廃墟と化したハッシャーシュの部族の本拠地は、絶好の功徳の積み場というわけです!
ましてやここを破壊したのは、意識が曖昧になっていたとはいえ戦士マリヤム、貴女だというではありませんか。このまま放置してはかえって徳を落とします。
ですから、まずはこの集落の復興からやっていきましょうね!」
な、なるほどぉ……。
祭壇の前で祈りや供物を捧げるというより、その行いを以てこそ功徳が積める、とそういう考え方なわけですね……。実践派……!
「えっと、これを、一人で、ですか? ミュンヒハウゼン卿」
おずおずと姉がマックスさんに尋ねます。
流石に及び腰ですね……。
職人としての経験なんて積んでいるわけもないので当然ですが。
「いえいえ、そこはきちんと指示を出せる現場監督や、下働きの子蟹たちを付けますとも。出来が悪くては本末転倒ですからね。壊れる前より高機能にするのが、目指すべきところですし。
とはいえ造るためには、新しい造営計画が必要ですから、それが出来るまで待っていただかなくてはなりません。これはあとでルゥルアさんや、冬眠から起こした一族の子の意見も聞きながら調整しましょう。
なので、今できることは、まずは廃墟を更地にするところからですね。使える建材は極力再使用したいので丁寧な作業を心掛けていただければ。
ああ、なに、心配いりませんよ。我が神の奇跡を受けて生まれ変わったからには、この手の作業や再生可能そうなものを目利きする適性も上がっていることは確実です。やってみれば案外すんなりできるはずです」
……帝国語をマスターさせたり、再生や復興に対する適正を上げたり、何らかの代償はあるのでしょうがやはり彼の神から姉さんの魂魄への強い干渉があったようです。
流石は神の御業、というところでしょう。
まあ、恐らくはそう悪いことにはなっていないはずです。
「では春までにここで私とルゥルアさんの婚礼を盛大に上げられるように、急いで作業していきましょうね!」
──── あっ、そうでした! 結婚式!
動死体の軍勢を片付けに来たのも、そのための段取りの第一歩なのでした!!
にっこりと私を見て笑いかけるマックスさんの顔を見て、私は思わず赤面してしまうのでした。
2023年初の素数日は1/3(=20230103)ですね(あけおめことよろの意)。
マックスくんが請願した奇跡なので、肉体改造が含まれてしまいましたとさ(請願者の無意識をもったいないおばけが汲み取り、サービスで反映した模様)。これだから落日派はよぅ……。
今回のタイトルは『沙漠開拓と実験魔導炉』ですが、本題である開拓や魔導炉関係に入る前に後始末関係で話数が嵩みそうになったら、改題するかもしれません。
→ 改題しました。