7人目の提督   作:山ウニ

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提督になった小学生
大潮との出会い


父さんが死んだ。

 

宇喜多鷲一(うきたしゅういち)は、そのことを最初に聞かされて一週間が過ぎたが、なかなか実感がわかなかった。

友人の家みたいに、父親と毎日会っていれば、一週間も会わなかったら実感がわくのかもしれない。

しかし、父の大地とは、一週間どころか、一か月以上も会わない事が珍しくなかった。

父は、F-15(イーグル)のパイロットだから、家に帰れない事は何度もあったし、今回も深海棲艦の拠点を攻略するから、暫くは帰れないと聞いていた。

あるいは、遺体を見て返事をしない父を見れば違うのかもしれない。それも見ないで言葉だけで死んだと聞かされてもピンと来ない。

 

いや、本当は、ただ認めたくないのだろう。

父の大地とは、客観的に見ても仲の良い親子だった。

会える時間が少ない分、父は一緒にいる間は、家族サービスを大事にした。特に長男の鷲一は、飛行機やパイロットに興味を示したために、特に可愛がられた自覚がある。

 

しかし、今は少しずつ、父が死んだということが、認めざるを得なかった。

たくさんの真っ白な花の上に並んだ写真の中に、父の顔があった。

今回の戦闘で戦死した自衛官の写真。今は戦死した隊員の葬儀の最中だった。

すすり泣く声が聞こえる。悲しみに満ちた空間。嫌でも父の死を突きつけられる。

ここから離れたい。そう思ったが、それが許されない事だと判断できる分別はあった。

妹と弟は、我慢できないと判断されたのだろう、母の友人の家に預かってもらっている。

長男で小学5年生になる鷲一だけが、母と一緒に葬儀に参加していた。

 

その式も、ようやく終了するようだ。係りの人に促されるまま遺族の列にが並び、端から葬儀の参加者が頭を下げながら進み出口へと向かう。

顔見知りの人は短く言葉をかけながら進んでいるようだ。

母は知り合いが多いようで、多くの言葉をかけられている。全員が父の死を悼んでいる。

だが、鷲一にとって、その言葉は父の死を認めろと言っているように聞こえた。

逃げるように、視線だけ動かして、数少ない知り合いを探した。

 

その人物は直ぐに見つかった。本人より、隣にいる少女が目立つので見つけるのは簡単だ。

不自然だと思っていた、青みがかった灰色の髪の毛は、遠くからでも直ぐに分かる。

少女の名前は『叢雲』。人ではない艦娘と称される存在。

そして、彼女を連れている男性は鍋島という名前で、以前は父と同じくF-15のパイロットで、今は提督と呼ばれている。

 

その鍋島と目が合う。その瞬間、彼の話を思い出した。

撃墜され脱出した後、海を漂流中に艦娘が現れた。そして、彼女に請われ提督になったそうだ。

もしかすると、父も何処かで漂流していて、今頃は艦娘に助けられていないか。

そんな希望とも言えない妄想をしていたら、鍋島と叢雲が出口の方に視線を向け、驚いた反応をする。

 

鷲一も出口を見ると、流れとは反対に進む、同じくらいの歳の少女が近付いてくる。

青い髪の毛の上に不格好な帽子を乗せているが、可愛らしい顔立ちだ。

目が合うと、嬉しそうな表情で小走りに寄ってきて正面に立つ。

 

ふと、青い髪の毛に違和感を持っていない事に気付いた。

叢雲の髪を見た時は変な色だと思ったのに、彼女に対しては変だと思わない。

いや、今日は叢雲の髪の色も変だとは思わなかった。

そんな、どうでも良い事を考えていると、目の前に立つ少女が口を開く。

 

「初めまして司令官。大潮って言います」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

元航空自衛隊員にして、現佐世保鎮守府の司令長官である鍋島は慌てて、鷲一と彼の母親を連れて離脱し、会場にいた顔見知りの航空自衛隊員に命じて、すぐ近くの新田原基地に連れ出した。

今は基地司令に任せて一息ついたが、沸々と怒りが湧いてくる。

 

「なに考えてるんだ大潮は!」

 

叢雲と二人きりになり、鍋島はテーブルを叩きながら怒鳴った。

最悪の状況だ。葬儀には地方局のテレビカメラが回っていたし、複数のマスコミもいた。

それだけではない。マスコミの写真のフラッシュに釣られるように、手持ちのスマホで写真を撮っている者もいた。確実に鷲一の顔は、新しい提督として知れ渡るだろう。

 

「落ち着きなさい」

 

「これが落ち着けるか! 宇喜多さんの子供が提督になるんだぞ! まだ小学生なのに!」

 

叢雲にたしなめられるが、とても冷静になれる状況では無かった。

罰なのか。ふと、そんな事を考えた。

首都圏に突きつけられた剣と言える、伊豆大島を奪還した事で、国内は祝賀ムードだった。

それに合わせて、英雄である鍋島も笑顔を見せ続けた。

 

だが、本当は泣きたかった。

伊豆大島を奪還するために、多くの戦友が散った。その中に、恩師である宇喜多大地の名前があった。

それに艦娘にも少なからず轟沈した者がいた。その中には鍋島の佐世保鎮守府に所属する大潮もいた。

会場では泣いても良い。英雄の仮面を外して本音を見せても良いのだと、何処か安堵していた。

 

最初に会場で大潮を見た時は、大潮が無事だったのかと喜んだが、直ぐに自分の大潮では無いと気付いた。

そして、その喜びは絶望へと変わった。

提督になる。それは世間が言う英雄だ。

特に日本の提督は、イギリスの提督と甲乙つけがたいと言われるほど貴重な存在だ。

一人の提督の下に、その国の第二次世界大戦時の艦が艦娘として現れる以上、当時の戦力に比例する。

一位であるアメリカの提督には遠く及ばないが、日本の提督はイギリスと二位争いをする戦力だ。

 

「まだ、小学生だぞ。あんなに拉致しやすい対象がいるか?」

 

深海棲艦に対抗できるのは艦娘が最も有効だ。

通常兵器での撃破は困難で、世界中で発生している深海棲艦の手で、既に多くの国家が滅亡している。

さらに滅亡の危機に瀕し、日本以上に危機的な状況の国は多くある。

そんな国から、艦娘を支配する提督を貸すように要請されることは少なくなく、さらに強制的な手段に出る国もあった。

鍋島も身の危険を感じたことは一度や二度ではない。鷲一は確実に危険にさらされるだろう。

 

「アンタが愚痴ってても事態は好転しないでしょうが。

 そもそも、何をするべきか、少しは考えなさい。佐世保鎮守府の司令長官として」

 

何処までも悲観的になっていく様に、改めて叢雲が呆れた口調で文句を言いながら、そっと抱きしめた。

抱擁の温もりと、最後に足した言葉が、鍋島の心を落ち着かせる。

戦死した恩師の子供という事で冷静さを失っていたが、提督としてなすべきことがある。

そして、自分がいくら悩んでも妙案は出ないし、仮に出ても自分の立場では何もかも実現させるのは不可能だ。

 

「北条提督に連絡をとる」

 

全提督を統括する横須賀鎮守府の司令長官。

新しい提督が誕生したのだ。何よりも真っ先に、彼に連絡をするべきだった。

 

「今は鎮守府を通すより、携帯にかけたほうが良いわよ」

 

確かに、正式なルートである鎮守府に連絡しても、他の業務の電話と重なれば待たされてしまう。今は急いで連絡を付けたい。何よりも緊急事態だと知らせることが出来る。

提督間や、政府の者だけが知っている北条の携帯番号に、自身の携帯を使って電話をかける。

コールが3度鳴った後、女性の声で返事があった。

 

『お久しぶりです。鍋島提督、大淀です。

 北条提督は電話中ですので、少しお待ちいただけますか』

 

表示で自分からの電話だと知ったのだろう。

秘書の大淀が代わって出てくれた。

 

「ああ、それで北条さんの電話は長くなりそうか?」

 

『相手は大臣ですから、普通なら長くなるでしょうが、早めに切り上げるつもりです。

 あ、終わりました。代わりますね』

 

大臣とだけ言えば、それは防衛省の大臣の事だ。

タイミングが悪かったと後悔したが、代わった北条の声が聞こえた。

 

『待たせたな。それで何があった?』

 

「はい。6人目の提督が誕生しました。ですが…」

 

『待て……側には誰がいる?』

 

新しい提督の誕生に驚いたのか、暫しの沈黙の後、周囲の確認をしてくる。

これから話す事は、更に驚くだろうが、まずは質問に答える。

 

「はい。叢雲がいるだけですが」

 

『叢雲と代われ』

 

「え?」

 

『いいから代われ』

 

強い語気に戸惑いながらも指示に従い、叢雲に携帯を渡す。

 

「叢雲です……宇喜多大地の子供よ。ウチの人がポンコツになった件、大目に見てくれると助かるわ。

 ええ。了解……はい」

 

それだけ言うと、再び携帯を渡してくる。

 

「代わりました」

 

『最初に言っておく。宇喜多一佐の子息は6人目では無く7人目だ。

 今朝、6人目の提督が誕生している。初期艦は睦月だ』

 

予想外の事実に言葉を失う。

呆然としている間に、更なる爆弾が落とされる。

 

『恩師の子供が提督になったのだ。気持ちは分かるから、連絡が遅れたことは不問にする。

 同時に君は、これ以上は何もするな。心配なのは分かるが、安心しろ。

 当面の対策として、新田原基地には、護衛に陸上自衛隊を周囲に配置するよう手配している』

 

連絡が遅くなったと言われ、思わず時計を見ると、葬儀会場を出て1時間近くが経過していた。

その間にやったことは、親子を新田原基地へ連れて来ただけ。他は無駄な時間を過ごしたのかと呆然とする。軍人としてあるまじき失態だ。

逆に、遅れて情報を入手しながら、すでに陸上自衛隊への手配を済ませ、護衛を配置した北条の手腕に感嘆する。

何もするな。その言葉が胸に刺さる。確かに自分が動いても、鷲一の件に関しては足手まといだろう。

 

「鷲一のこと、よろしくお願いします」

 

『任せろ。最善を尽くすつもりだ』

 

絞り出すように言った言葉に、何時もと変らぬ冷静な返事が返ってきた。

そして、自分の手から、あの子が離れてしまった事を自覚せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

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