遠征は、また別の話しで。
正月の三日までの休みを終え、資材回収の任務を開始することになった。
そして、由良を旗艦とする艦隊が、初めての遠征任務から戻ってきた。
鷲一は、港まで出て、彼の艦娘を出迎える。全員無事で、怪我一つない事に安堵した。
初任務では、はぐれ駆逐艦にさえ遭遇しなかったようで、由良は兎も角、駆逐艦の4人は不満そうだった。
「それで、資材って?」
彼女らの成果を見たいと思うのと同時に、不思議に思っていたのが資材という存在だった。
海上に現れている、渦と言うスポットから取り出すそうだが、燃料・鋼材・弾薬・ボーキサイトと呼ばれている。
燃料は何となく分かる。鋼材も、まあ鉄鉱石みたいなものだろうと思う。ボーキサイトも同じようなものだろう。
だが、弾薬とは何だ? 自然に採れるものでは無いはずだ。
「それでは、工廠に行こうか」
吹雪に促され、工廠へと向かう。
その中にある、資材保管用のタンクの前まで進むと、回収してきた資材を投入し始める。
そう、投入だ。駆逐艦が一人一個ずつ持ったドラム缶を、ひっくり返してドロリとした液体を注いでいく。
それが終わると、艤装からも同じように注いでいくが、明らかに艤装の体積より、注いでいる中身の方が多かった。
「資材って、全部液体?」
「少し違うかな。見た目はどれも重油みたいだけど、液体どころか物質ですらないの。
成分を調べようと、分析装置にかけたりしたけど、この世にある、どの原子にも該当しないって言ってた。
便宜上に、科学者はエーテルって名付けたみたいだけど、誰も使ってないかな。
要するに霊体みたいな扱いね」
「霊体って、この世のものでは無いって事ですか?」
考えてみれば、艦娘は第二次世界大戦で沈んだ船だ。
ある意味、幽霊だとも言える。
「怖い?」
こちらの考えを見透かしたように吹雪が聞いてくる。
冷静に考えると怖い存在なのだろうが、全くそんな思いが湧かない。
吹雪は優しいし、最初から大潮には気を許している。
朝潮は真っ直ぐに好意を向けて来るので嫌えるはずもないし、満潮は口は悪いが、あの手の子はクラスにもいたので慣れている。
荒潮には振り回されるし、時々怖い笑い声を上げるが、今回のは意味合いが違うだろう。
由良も優しいし、寝相が悪いようで、一緒に寝てると抱き付いてくるが、嫌では無い。むしろ気持ちがいい。
「考えてみると不思議なくらい怖くないです」
冷静に考えると、もう少し警戒をしてもいい位なのだが、全くそんな気にならない。
家族並みに、下手をすれば家族以上に気を許している。
理屈では恐れても良いのに、感情が恐れることを否定している。そんな感じだ。
「ありがとう。でも、やっぱり怖がる人もいるのよ。
建造だって、実際にやっている事は、資材を触媒にした召喚だっていう考えもあるの」
「召喚? ファンタジーなんかで見る、勇者召喚の儀式とか?」
「勇者?」
吹雪が笑い始めた。何か変なことを言ったのだろうか。
「ゴメンね。それは少し誇らしいかな。
でも、他の人は悪魔の召喚だって言うから」
生贄は無いが、悪魔の好むものを捧げて行う儀式だと思うそうだ。
特に最初の頃は、艦娘に批判的な人は多く、悪魔扱いされた事もあったという。
「全然、悪魔には見えません」
「うん。ありがとう。
いけない。脱線しちゃったね。話を戻すけど、資材はこの世の物質では無い。
そして、4種類あって、全てがエネルギーだと言える」
「エネルギー? 燃料はありますよね?」
「うん。でも、燃料と呼んでいるけど、実際は動くためのエネルギーになるの」
第二次世界大戦の頃は、艦船は重油で動かしていたが、航空機はガソリンだ。
しかし、鎮守府で運用する艦娘の艤装も、航空機も動かすのは同じ『燃料』になる。
弾薬にいたっては、7.7㎜機銃から46cm砲まで、同じエネルギー『弾薬』だ。
「不思議に思うだろうけど、そういうものって諦めて。
大事なのは、それらが無いと建造どころか、艦娘は戦う事さえ、いえ、動くことさえ出来ないってこと」
「もしかして、資材回収ってギャンブルみたいなものですか?」
資材の回収に向かうには、艦娘が燃料を、時には弾薬を消費しながら得るのだ。失敗すれば減っていくだけになる。
「そうね。賭け事は嫌い?」
「嫌いです」
「良い事よ。でも、この場合は投資って考えて。何かを売るにしても、先に作る必要があるし、作るからにはお金がいるでしょ」
「言われてみれば」
世の中はそうして回ってると言っても良い。
賭けが嫌いだからと、何もしなければ飢えるだけだ。
「だから、資材の管理はしっかりとやる。
今は空母がいないからボーキは建造で少し使うだけで良いけど、空母の場合は造るにも使うにもボーキが多く必要になる。
それに戦艦だと、今とは比べ物にならないほど大量に消費するからね」
「資材の管理って、どうやるんです?」
「まず、消費の管理ね。訓練や資材回収の任務をやった後は、誰がどれだけ消費しているを記録するの。
これを表にしていくと、その艦娘の燃費が分かっていく。艦種によっても違うけど、中には同じ艦種でも消費量が多い娘もいる。その場合は、無駄な動きが多いとか問題があるって事だから修正しないとね」
命中率が悪くて無駄に弾薬を消費するなら、命中率の向上の訓練が必要になる。
また、同じ行動をしながら、一人だけ燃料の消費が多いなら、余計な動きをしている証拠だ。その場合は悪癖を治さなくてはいけない。
「それに、回収でも消費が激しい資材を重点的に回収に行った方が良いからね。
何処に何があるか。更に新しい渦が出来ていないかの確認もあるし」
資材の内、現在のメンバーなら、ボーキサイトの消費は少ない。
一番大きいのが燃料だから、燃料を重点的に集める必要があるが、必要になった際にありませんでは困るので、バランスよく集める必要がある。特にボーキサイトは回収できる箇所が少なく、渦も消えてしまう事があるので、新しい渦を捜索しなくてはならない。
「目標として、4種類の資材を均等に増やしていく。
建造や訓練で消費した分はプラスして、回収する事を薦めるかな」
鎮守府によって得意とする戦い方に違いがあるので、消費は一定では無い。
だが、在庫は常に均等に確保して、その量が多くする事を目指すらしい。
「難しそうですね」
「安心して。しばらくは一緒に見てあげる。
そうしてくれれば助かる。
何となくは分かるが、実際にやるとなると、どうしても躊躇ってしまう。
「司令官。よろしければお手伝いします」
「大潮も手伝います」
「別にやってあげても良いわよ」
「荒潮も出来るわよ~」
朝潮たちは分かるようだ。由良は口にはしないが、やりたそうにこちらを見ている。
それなら、困った時は助けて貰おうと思ったが、吹雪は苦笑しながら手を振った。
「うん。私もそうだったから分かるけど、この場合は手伝うより、動いてくれた方が司令官のためになるから、消費と回収を頑張ってくれた方が良いかな」
吹雪も経験した事らしいが、艦娘の数が少ない内は、資材の量の増減は少ないので、そこまで悩む事では無いし、帳票の間違いにも直ぐに気付くそうだ。
だが、艦娘の数が増えてしまうと、当然ながら消費も増えるし、回収できる量も増えるので管理が難しくなる。
それこそ秘書艦が必要になって来るが、中心となる提督がしっかりと理解していないと、どうしても齟齬が生じるそうだ。
回収量が減ったり、消費が多い時は直ぐに対策を練るのは、艦娘の得手では無いので、提督自身の業務と言えるのだが、慣れていなければ、消費の増減の不備に気付くのが遅れてしまうのだ。
特に北条は、同時にやるべきことが多くあったので、資材の管理を吹雪がやることが多かった。
そのためか、資材の増減の不自然さに、気付きにくい提督になってしまった。
北条と吹雪が後悔した出来事の一つである。
そうならないためにも、艦娘が少ない内に数を熟して、慣れた方が良い。
「では、もう一度、行ってまいります」
「うん。そうしてもらいなさい。次のポイントを指定してあげて」
朝潮が、再度の出撃を行うという。
先程は、資材全部が少しずつ上がるようなポイントを回ってもらったが、今回は燃料を多めに回収できるように調整を行う。
「うん。良い感じね」
「じゃあ、このコースで、回収をして来て欲しいけど、その前にお昼ご飯を一緒に食べようか」
吹雪の合格を貰ったので、出撃を依頼する。
だが、もう昼になるので、食事を取ろうと考えた。
疲れた様子は無いし、一日くらいは食事をしなくても大丈夫だとは聞いているが、食べれる時は食べた方が良い。
それに、一人で食べるより、彼女たちと一緒に食べたかった。
「はい。喜んで」
嬉しそうに返事してくれる。
昼食を一緒に食べると、朝潮たちは、再び水平線の彼方へ向かっていった。
「うん。食事に誘ったのは正解ね。
今回は大丈夫そうだったけど、戻ってきた艦娘が疲れていたら、ちゃんと休ませてね。
疲労がある状態で出撃しても、回収は上手く行かないし、下手したら怪我して戻って来るから」
「はい。気を付けます」
「さてと、資材も増えたから、建造が出来るけど?」
「いえ、明日の朝にします。
みんなが、最初に集めた資材ですから、全員が見ている前で使いたいです」
明日も出撃してもらうが、その前に建造をすれば良いだろう。
何時まで続けられるかは分らないけど、出来るだけ一緒に行動したいと思った。