7人目の提督   作:山ウニ

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別居政策?

北条は、吹雪から相談があると言われて時間を作ると、その吹雪が天龍と一緒にやってきた。

二人とも困った顔をしている。宇喜多鷲一の事だと思うが、何かあったのだろう。

話しやすいようにと、机の前で立ってでは無く、テーブルに向かい合って座るように促した。

 

「それで、何があった?」

 

「はい。どうやら、鷲一くんの中で、苦手な艦娘が出て来たようです」

 

「いや、あれは苦手なんて話じゃねえぞ。嫌がってる」

 

吹雪の柔らかい言い方を天龍が訂正する。

吹雪が反論しないところを見ると、どうやら、こちらの方が正しいようだ。

だが、これまでの報告では、警戒していた艦娘に対しても、問題は無かったと聞いている。

 

「霞は平気だったと聞いたが?」

 

「はい。霞ちゃんは平気なんです。それに曙ちゃんも」

 

警戒していた三人の駆逐艦。

その内、満潮に関しては、早々に八駆だけが揃ったことで、意図しない御機嫌取りになったせいか、今まで横須賀を含め他の鎮守府では見たことが無い、協力的な満潮になっている。

霞と曙に対しても、最初は驚いたようだが、彼女たちの船としての記録を読んで、あの性格にも納得したらしい。

霞に対しては、その言葉を受け入れる時は受け入れ、反発する時は反発する。

自らの非は素直に認める性格なので、彼女の暴言に対してもしっかりと受け止めるが、明らかに理屈に合っていない時は反論もしてくる。朝潮たちが味方に付いていることもあり、霞が必要以上に理不尽なマネをしない事もあるが、ある意味、最も対等な関係を築いている艦娘とも言える。

曙に対しては、現状では距離を置いているそうだ。北条もそうだったが、曙の性格の根底にあるのは、上層部の理不尽に対する怒りだ。

霞も近いものがあるが、曙はそれが激しい。だから、下手に自分を信じろなどと言わず、行動で信頼を勝ち取るしかない。

それを助言するまでもなく、自分で行っているそうだ。

 

「ただ、曙は平気なのに、漣を嫌がっているよな」

 

「漣が?」

 

それこそ、意外な名前だ。漣は艦娘の中でも提督に好意的な艦娘の一人である。

舞鶴鎮守府の一色提督の初期艦が漣であったが、面倒な任務を背負い、沈鬱な気分になりやすい彼を支えてくれている。

また、曙があんな性格なので、彼女との間を取り持つなど、気遣いも出来る。

 

「嫌っているというより、煙たがっている。そんな印象ではありますが」

 

「煙たがるか……ん? もしかして、鷲一に好意的な艦娘ほど嫌がっているのか?」

 

「はい。そんな感じです」

 

「その艦娘たちは、鷲一を可愛がろうとしてないか? 頭を撫でようとしたり」

 

「はい。そうです」

 

「それだ。それが嫌なんだ」

 

「いや、俺もしてるが、別に嫌がってねえぞ。なあ?」

 

「はい。天龍さんは殴りもすれば、撫でもします」

 

「理由は?」

 

「ああ~、俺に敬語を使うと殴る。改めると撫でる」

 

「つまり理由があって、そうするんだろ? で、鷲一が嫌がっている艦娘は何で撫でる?」

 

「特に理由は無く、愛情表現と言いますか……」

 

「私の経験上、それは嫌な対応だな。天龍の場合は理由もあれば、加減も上手いのだろう。

 だが、駆逐艦は朝潮型を除いて、微妙な年上だ。これで天龍や由良くらい離れていれば良いのだろうが」

 

北条の経験上、可愛いと言われて、無邪気に喜ぶ子供であれば良いが、思春期になっても、可愛いと呼ばれて喜ぶ男は少ない。まして、鷲一は実年齢や外見より、精神的には大人びている。

それが理由もわからずに可愛がりに来たら、訳が分からず、戸惑うだろう。

理由さえ分かれば、それが敵意だろうが対応してみせるが、理由の無い好意は、不安の方が大きくなる。

いくら艦娘がそう言うものだと言われても、全員がそうでは無いし、好意的でも適度な距離感を保ってくれる艦娘も多い。

そもそも、あの年頃の少年にとっては、女子中学生の異常に高いテンションは、理解不能な恐怖の対象でしかない。

 

「陽炎や不知火。それに時雨なんかは平気じゃないか?」

 

「はい。彼女らには普通に接しています」

 

予想通り、落ち着いた対応が出来る相手はそうではない。

しかし、大騒ぎしながらやってくる少し年上の少女など、気持ち悪い存在だった。

 

「やはりな……困ったな。対応策が無いぞ」

 

「そんな!」

 

「それは拙いだろ。何とかしねえと」

 

二人が焦るのも無理はない。このままでは、多くの駆逐艦を嫌悪する提督の誕生だ。

そんな鎮守府は、まともに機能しないだろう。

 

「落ち着け。直ぐに改善できる対策が、取りたくない方法なだけだ」

 

「直ぐに? では時間をかければ大丈夫だと?」

 

「ああ。普通に時間が解決する問題だ」

 

「ちなみに、直ぐに打てる手って?」

 

「簡単だ。提督命令で近付くなと言えば良い」

 

「それはダメだろ」

 

艦娘にとって提督命令は絶対だ。

死ねと言われれば死ぬ。勝ち目のない相手にでも、命令とあれば立ち向かう。

だから、近付くなと言われれば、それがどれだけ受け入れがたい命令であっても従う。

しかし、そうやった後は、提督との絆が無い、弱い艦娘が生まれるだけだ。今回のコンセプトである、提督と艦娘を共に学ばせて、絆を育みながら成長するという考えとは、正反対の方法だ。

 

「ですが、どれだけ時間がかかるのでしょうか?」

 

「そうだな。予定通りの学友として過ごさせる年齢に……」

 

間違ったことは言っていない。

だが、正しくも無い。吹雪の前で言い難くはあるが、彼女の前で自分を取り繕うより、より正確な知識を持っていた方が、今後とも良いだろうと考え、ぶっちゃげることにする。

 

「正確には、鷲一にとって、恋愛の対象、もしくは性欲の対象になれば問題は無い」

 

美しい女性や可愛らしい少女に囲まれるのは、多くの男にとって憧れる状況なのだ。

それを望む理由は、肉体的、あるいは精神的な快楽を求めているからだ。

そうと知れば、拒絶する理由も、難しい事では無い。

決して、そういう目で見る対象で無いのに、大勢で近付いてくるから嫌なのだ。

 

「性欲に関しては微妙だからな。興味はあるだろうが、何処まで知っているかは不明だ。

 ただ、幸いと言っては何だが、朝潮たちは脈がある」

 

朝潮型に対しては、全員が集まって来ても、嫌な顔をしないのなら、彼女たちは、恋愛や性的好奇心の対象になっているということだ。

彼女たちと一年も共に過ごせば、色気も付くだろう。

 

「時間が解決する問題だ。だが……」

 

「それって、鷲一くんを朝潮型以外の娘を引き離すってことですよね?」

 

「俺らが我慢すれば良いって話だよな。でもなぁ」

 

北条が濁した言葉を、吹雪も天龍も正確に察してくれた。

艦娘が提督から引き離される。それは艦娘にとって家族や恋人と引き離されるに等しい行為だ。平静ではいられない。必ずや不満を抱く。

現状では横須賀鎮守府はそれに近い形だ。ほとんどの艦娘。それも主力と呼ばれている強力な戦力の艦娘は、現在は伊豆大島にいるので、提督である北条とは毎日会うことは出来ない。

それでも不満を抱かないのは、誇りがあるからだ。

自身の務めである、伊豆大島を拠点とした防衛網が、国民と国土を護るという使命に対する誇り。

己の主である北条が、全ての提督のトップであり、自身の配下だけでなく、自衛隊や政府との協力関係を構築する任務を持っている事に対する誇り。

故に離れていても耐えられる。何時もは会えないからこそ、提督と自分の任務の重要性が大きいのだと信じられる。

 

だが、宇喜多鷲一が生み出した艦娘には何の誇りも無い。

正直に打ち明けでもしたら、提督に嫌われているという事実を突きつけられるだけだ。

おそらく信じないで、鷲一に詰め寄るだろう。

 

「俺は大丈夫だぜ。話は分かる。それが良いとも思うぜ。だけど、駆逐どもはなぁ~」

 

天龍が嘆息する。

彼女が全てを言わずとも分かる。

鷲一から引き離したい艦娘は、むしろ鷲一と離れたくないと思っている艦娘なのだ。

絶対に不満を持つし、納得はしないだろう。

 

「今いる軽巡は三名だったな?」

 

「はい。ここにいる天龍さんに、龍田さん。それに由良さんです」

 

「三名で駆逐艦の少女を抑えることは……」

 

天龍が難しい顔をしている。その状況を想像しているのだろう。

 

(ワリ)い。無理だわ。数が多すぎる。一人でざっと十人だかんなぁ」

 

天龍はそう言うが、おそらく天龍なら平気だろう。

彼女の気質なら十人くらいは面倒を見切れるし、抑えることも可能だ。

だが、由良と龍田は難しいだろう。それを口にしない彼女の気質は好ましいが、事態の好転にはならない。

不満を抱く艦娘を、どうやって抑えるかだ。

 

「吹雪。悪役をしてくれるか?」

 

「了解です。離すのは鷲一くんでは無く、横須賀の決定という事にします」

 

「すまねえが、それだけじゃ不足だ。抑え役が欲しい。川内型の三人。最低でも神通が欲しい」

 

「そうだな。資材の投入量を増やして、軽巡を建造させてくれ。

 今のドックでも問題ないはずだ」

 

「はい。理論上は大淀さん以外は建造可能です。

 その代わり、重巡が生まれる可能性がありますが?」

 

今使っているドックは200メートルだから、それを超える艦娘は建造されない。

だが、軽巡で200越えは大淀だけで、阿賀野型も確率は下がるが建造可能だ。

そして、重巡に200メートル以下の軍艦がいるので、彼女らが建造される可能性がある。

その、可能性があるのは、古鷹、加古、青葉、衣笠の4名だ。

 

「青葉か……面倒だな」

 

取材と称して、何かしでかす可能性がある。

 

「いや、逆に取材させて良いんじゃね?

 提督が何をしてるかは、離れていたら興味はあるし、正しいメディアの使い方だろ?」

 

「それもそうだな」

 

天龍の意見に同意する。

集団で来なければ、鷲一も平気だろう。時々、青葉の相手をさせて、引き離している艦娘のガス抜きに使えば良い。

今後の予定として、建造に投入する資材の量を増やして、軽巡を狙う。

学生組、初年度は朝潮型のみ、提督と共に、講堂を中心に生活させて、それ以外の艦娘は生活スペースを切り離して訓練と資材の回収任務を行わせる。

実行は、神通が建造されたら。

彼女に駆逐艦の訓練を担当させて、学生組と分ける事にする。

 

「問題は、残り一か月で神通が建造されるかだな」

 

「それは大丈夫な気がしますが」

 

吹雪の反応に苦笑する。

運試しの第二弾とういわけだが、出て欲しくない艦娘がいるわけではないので、気楽にやれば良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「総員、朝演習開始。轟沈判定を受けた者は、直ぐに資材回収任務を五往復。

 完了するまで睡眠無しです」

 

「き、厳しすぎない?」

 

鷲一が、困惑しながら問いただすが、聞かれた神通は、言ってる意味が分からないと言わんばかりの反応だ。

言われた駆逐艦たちも、不平一つ零さずに従っている。

何かを諦めたような表情のように見えるのは気のせいだろうか?

悩んでいた神通が閃いたという反応で、鷲一が心配しているだろうことに答える。

 

「大丈夫ですよ。ご飯は抜きにしませんから。海上で食べる御握りは格別な味ですよ」

 

「いや、そうじゃなくて。資材回収は、敵艦と遭遇する危険があるから……」

 

「それこそ大丈夫です。駆逐艦の子だけで行かせはしません。天龍さん、龍田さん、球磨さん、長良さん、五十鈴さん、交代で付き合ってもらいます」

 

「由良や北上は?」

 

「那珂ちゃんも含めて演習に協力してもらっています。

 腑抜けた行動を取れば、彼女らが攻撃をする手筈です」

 

「みんなー、頑張ってねーキャハッ♪」

 

「……そう言えば、お姉さんは?」

 

諦めて、周囲を見渡すと、神通と那珂はいるが、川内が見当たらない。

 

「その、川内姉さんは、朝は弱いので」

 

溜息を吐きつつ困った表情の神通に何も言えず演習を見守る。

あの中には、川内に付き合って夜戦演習をした子も混じっているはずだ。

 

「よし、朝演習終了。帰投せよ。ご飯をいただきつつ、続いて、昼演習用意、はじめ!」

 

「もう!?」

 

「え? ご飯は食べましたが?」

 

困惑する鷲一とマイペースな神通のやり取りを、少し離れたところから吹雪と天龍が見守っている。

天龍が呆れた様に呟く。

 

「恐ろしい引きだな」

 

「まあ、最初も驚きましたが、改めて凄い強運ですね」

 

資材を多く投入したとはいえ、7人連続で軽巡。しかも、神通を最初に川内型が揃ったので、逆らう駆逐艦はいなかった。

予定通りに隔離してしまい、今では大人しくしごかれている。

 

「まあ、後はそちらの鹿島任せか」

 

「ええ。いよいよです」

 

これまで長かった気がするが、本番はこれからだ。

ようやく、学生生活が幕を開ける。吹雪に出来ることは少なくなるだろう。

それでも、提督として独り立ちするまでは、見守って行こう。そう考えながら、青い空を見上げた。

 

本日、3月31日。明日から学校が始まる。

 

 


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