7人目の提督   作:山ウニ

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これから数話、説明回になります。


まず現状

始業式など無く、いきなり授業が始まった。

鹿島も慣れていないのか、戸惑いながらの授業になっているが、4時間を乗り切り、昼食の時間を迎える。

 

「何だか楽しいです」

 

大潮が口火を切ると、全員が騒がしくなってきた。

楽しそうな朝潮たちを見ながら、大根の煮物を口に入れ、麦飯をかきこむ。

 

「ねえ、司令。司令が行ってた学校もこんな感じ?」

 

朝雲が興味深そうに聞いてくる。

彼女たちとしては、これが基準なのか分からないだろう。

だが、鷲一も色んな場所を知っている訳では無い。

 

「まだ分らないな。ただ、昼からのアレ。見当も付かない。そこは普通じゃないって断言できる」

 

「ああ、提督学ってやつね」

 

みんなで予想を話し合う。

艦隊運用として、艦娘が海に出る。その指揮をするという意見もあれば、座学でジョミニの戦争概論やクラウゼヴィッツの戦争論、マハンの海上権力史論を教材に学ぶという意見も出る。

鷲一はクラウゼヴィッツは、何だか聞いたことがある気がするが、他は誰だと思った。

ちなみに荒潮は、提督と艦娘が仲良くするための内容を並べたが、全員に無視されて不貞腐れた。

そんな昼食を終えると、いよいよ午後からの授業がスタートする。

 

「さて、まずは現状を知る事から始めなくてはいけないよね。

 この国と世界の現状。深海棲艦が現れて、何がどうなっているのか。

 鷲一くんは若いし、他の子も、生まれたばかりで、深海棲艦がいない状態を良く分かっていない。

 でも、今の政治家とか、大人はいない方が自然だから、ちゃんと知っておかないと」

 

いわゆるジェネレーションギャップという奴が洒落にならないレベルで、問題が起きる事もあるそうだ。

特に現状に対する不満は、当然ながら年寄りが多く、問題を起こすのも年寄りだ。

 

「さてと、ざっとだけど、私たちが負けた後」

 

その言葉に、朝潮たちの表情が強張る。

そうだ。これから語られるのは、自分達が負けた後の歴史。言わば望まなかった世界のはずだ。

 

「まあ、みんな建造された時点で、何故かある程度の事は分かってると思うけど、改めて説明するね。

 海軍は米国を相手に、当初から恐れていた国力の差を見せつけられて惨敗した。

 この中で最後まで残ったのは霞ちゃんだけど、最後の任務を覚えているかな?」

 

「ええ。大和さんを壊しに行ったわ。私たちは、副葬品ってことかしら。

 あのちょび髭モドキは、最後までクズだったわ」

 

チラリと、朝潮と荒潮を見て吐き捨てる。

大和の特攻は、霞から見ても、単に壊しに行っただけのようだ。

ちょび髭モドキというのが誰かは知らないが、それを口にした際の霞は本気の殺気を放っていた。

ちょび髭と言えば、アドルフ・ヒトラーだろうが、そのモドキだ。碌な人間とは思えなかった。

 

「まあ、ちょび髭モドキ大佐は、あれでも勝算があったのかもね。

 とにかく、勝負は一方的だけど、私たちは奮闘した。し過ぎたと言っても良い。良くも悪くもね」

 

予想外の奮戦をした日本に対して、アメリカは徹底した弱体化を狙い、それが見事に成功した。

おそらく、当のアメリカが困惑するほど弱体化してしまった。

 

「その後、アメリカはソ連との覇権戦争を始めるけど、正面から衝突すれば、お互いに無事では済まない。

 それだけの力を持ってしまったために、冷戦と言われる睨み合いになった」

 

核の誕生だけではない。あまりにも殺し過ぎた第二次世界大戦の反動か、人々に戦争を忌む気持ちが強まった。

日本は行き過ぎた例だが、世界中で戦争を悪とする考えが大きくなった。

 

「更に、食糧問題に大きな変化が現れた。これに気付いていたら、満州を手放しても痛くはなかったって、今なら思うかな」

 

戦争で土地を奪うのは、その国の人が生きるためだ。

人類と言う種が、その生存域を、限られたリソースを奪い合う。

あの当時の日本は、満州の地が無ければ、多くの日本人が飢えて死ぬ事になっただろうが、戦後になって、大革命が起きる。

みどりの革命と呼ばれる農業技術の進歩は、多くの人々を軽く養えるほどの食糧を生産する事が可能になった。

 

「まあ、これも敗戦の影響があるんだけど」

 

緑の革命のメインは、化学肥料による作物の成長だ。機械化や農薬は楽は出来るが、作物が育つわけでは無い。

だが、化学肥料でいくら土壌を改善したところで、穀物のメインである小麦にはある欠点があった。

肥料で栄養を与えたところで、成長するのは茎の部分、ワラとなる場所のみで、実となる部分まで栄養が届かなかった。

それが戦勝国であるアメリカが、日本が研究して作ったある小麦の品種を持ち帰った。

それは、従来の小麦に比べ背丈が低く、肥料を与えても茎が伸びずに、実に養分が行き渡った。

その小麦をベースに生み出したゲインズと呼ばれる小麦は世界中で広まり、多くの飢餓を救う。

命の価値の上昇に、食糧生産の改善。

皮肉にも、多くの命を奪ったあの戦争が、その後の人口爆発を引き起こすのである。

 

「重要なのは、日本において、戦後と呼ばれる時代は、安全が保障され、食べ物が余る時代を迎えたの。

 逆に、戦前と呼ばれる時代は、最悪の時代ってね」

 

「安全が保障される? それって絶対ですか?」

 

朝潮が疑問に思ったようだ。

その反応に、鹿島が苦笑する。

 

「そうね。正直に言えば、単なる平和ボケって奴かな。

 何で人を殺したらいけないんだって、真面目に議論する人がいるくらい」

 

「は? そんなもん、殺されたくないからでしょうが」

 

「その当たり前が、分からないくらい、ボケちゃってるの」

 

霞が言うように、全員が殺されたくないから、全員の殺しを禁ずるのだ。

生きたいという生物としての、当然すぎる欲求や、自分が殺される恐怖すら理解できなくなっている。

そんな、当たり前すぎる話を、分からなくなるくらい、命が保障された国。

当然ながら、紛争地などでは、こんなバカげた議論は起きない。生死を身近に感じている人達なら、考えるまでも無いルールに疑問を感じる者が出る。それが、今の日本だ。

 

「話は戻すけど、あの戦争の後、日本は軍を解体された。一切の軍を持たない国になった。

 でも、そんな状態を続けられる訳が無い。先にも言ったけど、アメリカとソ連は、衝突寸前。

 だから、アメリカの同盟国として軍を再建することになったけど、憲法で軍を持たないって明言しちゃったからね」

 

紆余曲折の末に、自衛隊が誕生した。

だが、国を守るべく生み出された組織は、外より中に敵を抱えた。

軍を持たないという憲法を守り、自衛隊は違憲集団だと貶める人が多く出て来た。

 

「それが、最初に言った、弱体化させた本人であるアメリカでさえ困惑したって話ですか?」

 

「うん。それに、何故か自衛隊を嫌う人は、ソ連や中国が大好きだったみたい」

 

「最悪。単なるスパイじゃない。もしくは内応する準備をしていたか」

 

「そこは不明です。でも、本気でそう思ってる人は多かったみたい。

 まあ、そんな状態だからね。特徴的なのが、その言葉かな。勇ましい言葉を敢えて避けるというか、誤魔化しみたいなものが多かった」

 

駆逐艦を護衛艦。攻撃機を支援戦闘機。歩兵は普通科。

階級は大中少が一二三。あらゆる言葉が綺麗な言葉で誤魔化された。

 

「その辺は問題無いんだけどね。

 ただ、その誤魔化しの中でも、最悪と言っても良い言葉が生まれたの」

 

最悪の言葉というのに首を傾げる。

だが、鹿島の口から出て来たのは、鷲一にとっては、疑問に感じていない単語だった。

 

「専守防衛」

 

そもそも、専守防衛が、何を変えた言葉か分からない。

専守防衛とはどういうものか、鹿島の口から語られるが、次第に朝潮たちの顔色が悪くなってきた。

そして、霞にいたっては、思わず立ち上がっていた。

 

「何よそれ? その意味が分かってるの?」

 

「う~ん、分かっていない人は多いみたいよね。

 実際に鷲一くんは分かっていないみたいだし。ちなみに霞ちゃんは分かるかな?」

 

霞が鷲一を睨む。

分かっていない事を表情で察したのだろう。

悲しみ、怒り、失望。そんな感情が相まった表情で吐き捨てる。

 

「本土決戦……相手が自国に攻撃するまで反撃できないってことは、常に本土決戦をやるってことよ」

 

本土決戦。敵が本土まで乗り込み、そこを戦場として戦う事。確かに専守防衛とは、そういうものだ。

本来なら、恐怖を抱き、避けたいはずの単語が、専守防衛という、本質を誤魔化し美しい単語に書き換えられた。

ショックを受ける鷲一に構わず、鹿島は拍手をしながら話を進める。

 

「はい。霞ちゃん正解です♪

 つまり、我が国は敵の侵攻が予想されても、国民の生命を散らしながら、常に本土決戦を行う国となりました。

 当然、撃退に成功しても、敵の戦力が整って再侵攻してくるまで、大人しく待ってま~す♪」

 

流石にそれは無いか、と、笑いながら呟く。

そこまでされれば、馬鹿でも目を覚ますだろう。

ただ、目を覚ますには生き残る必要があり、目を覚ます前に、永遠に目を覚まさない状況になる可能性もある。

 

「そんな状況になった我が国です。戦うにも、多くの手かせ足かせが付いている。

 そこに現れたのが深海棲艦です」

 

 

 

 

 

 

 

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