7人目の提督   作:山ウニ

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深海棲艦

その兆候は、2010年頃から見られた。

世界中で、謎の海難事故が多発したのだ。原因については様々な仮説が出た。

温暖化による潮流の変化や竜巻の発生。安いからと品質の悪い部品を使用した事による故障。テロリストが潜水艦を手に入れた。時代錯誤の覇権主義を掲げる中国軍の仕業。

いくつもの仮説が出て来たが、実際は一顧だにされなかったオカルト好きの意見が、最も正しかったと今なら言える。

オカルト好きが並べたネタの数々。太古の怪獣や幽霊船。その中に、事故が起きた場所が、初期の段階では第二次世界大戦で、海戦が行われた場所に近い事から、あの戦争で戦死した兵士や軍艦と関連付ける説が出ていた。

 

「最初の頃は、太平洋では、鉄底海峡に最も多く見られたわね」

 

「でも、深海棲艦の出現はランダムだと聞きました。例えば東京湾に突然出現する事もあると」

 

「それに関しては謎ね。一応の説としては、深海棲艦の勢力の増加に伴い、出現する場所が増えているってのが有力。更に生まれたての深海棲艦は、一時間ほどは大人しく浮遊して、周囲を攻撃、もしくは仲間を求めて移動するの」

 

「つまり、多くの仲間がいる鉄底海峡に向かう」

 

「そう、その群れが集まり、一つの意志の元に再び散っていく」

 

上位者の指示に従い、戦略的な行動を開始するようだ。

そして、2012年。その謎の生物と交戦したオーストラリア海軍による映像が公開された。

マッコウクジラの頭部のような謎の生物が、口から砲弾を吐き出すのだ。

その牛よりも小さく、猪よりは大きい生物から、放たれる弾は、当時の駆逐艦が装備している127mm砲に匹敵した。

2013年に入ると、既に海難事故などという甘い話では無くなっており、シーレーンは引き裂かれ、経済的な問題だけでなく、地上にも被害が発生していた。

この謎の生物に対して世界中が戦闘態勢を取り、日本にも協力が要請されたが、本土決戦以外は行わないという日本の勢力の妨害により、協力体制は遅々として進まなかった。

 

そんな頼りにならない日本は無視して、アメリカは戦闘準備を進める。その謎の敵の特徴が、第二次世界大戦の駆逐艦と軽巡洋艦と酷似していることから、謎の生物を『深海棲艦』と命名。

命名直後、正解の褒美だと言うかのように、重巡洋艦の特徴を持つ深海棲艦が現れる。

その人と酷似した姿は衝撃を与えたが、見方を変えれば対話が可能と思われた。様々な試みで接触を図るが、全て失敗に終わり、最終的に対話は不可能と判断される。

そして、太平洋では、米豪連合と深海棲艦との戦いが開始される。

 

また、もう一方の覇権国家である中国は、太平洋の進出を目指しており、急速に発展する海軍力を背景に、自国防衛と友好国の保護を名目に軍を展開する。

台湾を皮切りにベトナムやフィリピンを、その領土にしていった。更にその矛先を沖縄へと向ける。

米軍が動けない隙の火事場泥棒であるが、そのアメリカが抗議をしようにも、それを無視できる状態になっていた。

 

「沖縄は獲られたのですか?」

 

「ええ。でも、中国の動きは米軍が把握していた。

 同時に今のままでは自衛隊が戦えない事もね。最悪、抵抗もせずに降伏すれば、無傷で日本の兵器。つまりはメイド・イン・USAの兵器が渡ってしまう。

 このままでは貴重な戦力を、中国に奪われかねないと思った米国は、要請と言う名の脅迫を行い、航空自衛隊と海上自衛隊の戦力を沖縄から退去させたの」

 

「では抵抗も出来ずに?」

 

「望んだことが叶ったから良いでしょ。無抵抗なら何もされない。だから軍備は不要って人が多かったから。

 ちなみに、その後のことは不明。何と言っても中国が好き勝手出来たのは、深海棲艦の本体とアメリカ海軍が戦っていたからだからね。戦いが終われば、その勝者との戦いが待っている」

 

その勝者は深海棲艦だった。深海棲艦の前に、精強を誇るアメリカ海軍が大打撃を被ったのだ。

いくら最強と謳われていようが、海軍、特に近代では、人に直接攻撃する事は許されていない。その攻撃手段は全て兵器を破壊するためであり、更に高度に進んだ自動化がそれに拍車をかける。

人間サイズで、軍艦の攻撃力と防御力を持つ、想定外も甚だしい深海棲艦には相性が悪すぎた。

更に、深海棲艦の数は、2010年の頃は散発的な発見に留まっていたのが、ここに来て急激に数を増やしている。ねずみ算とまではいかないだろうが、どうやら拠点となる地域を手にすると、その数を爆発的に増やすようだった。

つまり、質の面の相性だけでなく、数の上でも圧倒されたのだ。

これは、太平洋側だけではなく、大西洋でも同様で、軍縮の煽りで、かつての最大の海洋国家だったイギリスを始め、海軍力が低下しきっていたヨーロッパは深海棲艦に大敗北を続ける。

米国は撤退して、自国と外国の中で重要な母港を持つ国で防衛網を構築する羽目になった。

日本は横須賀や佐世保といった地に米軍を匿う事が出来たのは、幸いだったと言える。

優秀な兵と戦力を持ちながら、いざ実戦を前にすると、それを扱う方法を知らない日本政府は、ここでは見栄を張らずに素直に米国に従って防衛網に参加する。

 

この状況に、中国海軍は喜び勇んで、南洋進出を開始するが、アメリカを始めとする各国の目は冷ややかだった。

今度は抗議すらしない。彼らは分かっていたのだ。アメリカ海軍が勝てない相手に、勝利できる海軍がいない事を。米国は、この隙に軍備を整え、深海棲艦に対抗できる兵器の開発に着手する。

だが、米国が望んだ時間稼ぎは叶わなかった。中国海軍は、文字通り一蹴されたのだ。

あれだけの軍備なのだから、もう少しは頑張ってくれると思われたが、そもそも海軍力の要は人である。

近代化の装備にばかり目が行きがちだが、それを扱う人の練度こそが重要であり、欧米は数百年。遅れたとは言え日本には幕末から積み上げた歴史がある。

それを持たない中国海軍は、少しでもマニュアルから外れると統率された行動が出来なくなり、そのマニュアルが通じない深海棲艦に対抗できるはずが無かった。

 

そして、2015年。ついに日本は本土決戦を迎えることになる。

小笠原諸島を皮切りに、その年の内に沖縄諸島と伊豆諸島が陥落。小笠原と伊豆諸島は、民間人の避難は100%とはいかないが、大方は上手く行った。

だが、沖縄に関しては、中国に奪われてしまったので不明。少なくとも避難できたという話は聞いていない。

この頃には、深海棲艦に対抗できる装備もいくつか開発されていたが、それ以前のダメージが大きく、少ない兵力で、沖縄方面からと伊豆諸島方面からの2方向に敵の攻撃を受ける。

また、深海棲艦側にも変化が表れており、半ば予想されていた事だが、戦艦級と空母級の姿が見られるようになっていた。

特に空母級の存在は多くの人々に恐怖を与えることになる。

 

「やっぱり、航空機はヤダよね~」

 

「いいえ、荒潮ちゃん。今の時代の対空兵器を舐めたらダメよ。

 今度、映像で見せてあげるけど、それを見た空母勢や秋月ちゃんたちが涙目になってたから」

 

鷲一も知っている兵器ファランクス。

自動で敵を撃ち落とすセンサーに、戦闘機にも装備され、日米において機関砲の一般名詞化したM61バルカン砲を放つ兵器。

ミサイルさえ撃ち落とす兵器の前では、深海棲艦が操る第二次世界大戦レベルの航空機など、ターキーショット以下だろう。

 

「ですが、ファランクスのセンサーに、深海棲艦の航空機が反応するんですか?」

 

「お? 知ってるね? まあ、さっき話した深海棲艦に対抗できる兵器へ改造した結果の一つね」

 

深海棲艦の反応を調べ、センサーを改造したそうだ。

最初から上手く行ったわけでは無いが、そもそもセンサー無しで手動で撃っても効果は抜群だ。

弾薬の消費は激しいが、近代海軍にとって、深海棲艦の航空機はそう恐れるものでは無い。

 

「むしろ、近代海軍の艦船にとっては、怖いのは戦艦ね。

 的が小さくて当たらないのに、向こうの砲撃は、貧弱になった近代軍艦の装甲を容易に貫通する。

 ただ、空母を恐れるのは、軍では無く、民間人よ」

 

空襲で辺り構わずに爆弾を投下し、瓦礫の山を量産して人を生き埋めにする。

そして、最悪なのが、その空爆の帰りに行う機銃での直接攻撃だ。

 

「今遊んでいるバスケットボール。あれより小さい球状の物体が追ってきて、機銃で人を撃つ。

 あれの使用する武器の威力は、12.7mm機関銃と同レベル」

 

12.7mmと言えば、アンチマテリアルライフルであるバレットなどと同サイズだ。

そんなもので撃たれたら、人の身体など挽肉になって吹き飛ばされる。

そんな光景が、日本の街中で繰り広げられた。

親が、子が、夫が、妻が、友人が、恋人が、大切な人々が目の前で肉片に変えられる。

ここに来て、ようやく日本は戦時中だと意識したと言っても良い。

 

「でも、戦い方を知らない人が多い。

 今まで、何も意識しないで平和を甘受してきた人々には、この状況で、何をどうすれば良いかなんて分からない」

 

黙っていればエサを貰えていたペットや家畜が、突然野生に放り込まれたようなものだ。

狩りの方法も、身を護る術も知らない。

それは政治家も同様。まともな戦略すら考えることが出来なかったのだ。

 

「そんな時に現れたのが艦娘と呼ばれる存在」

 

深海棲艦に匹敵する、いやそれを上回る能力を持った人類の味方。

世界中で提督を見出し、その力を振るいだした。

 

「日本にも、2015年も終わる頃。2人の艦娘が姿を見せるの」

 

 

 

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