7人目の提督   作:山ウニ

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艦娘の登場

「2人?」

 

鷲一は首を傾げた。

日本の最初の艦娘は、吹雪だと聞いていた。

だが2人なら、吹雪が最初の艦娘と言うのはおかしい。

 

「そう。この日本で現れた艦娘のケースは、艦娘と言う存在の特徴を表す好例だと、研究者の間では評判になっているみたいね」

 

「艦娘の特徴?」

 

「まあ、色々あるけど、気になっている答えを先に言います。1人は当然、吹雪ちゃん。この横須賀鎮守府の艦娘で、提督は海上自衛隊の護衛艦艦長、北条達邦。

 2人目は、ジョンストン。提督はアメリカ海軍のパイロット、アルヴィン・ウォーカー」

 

何処かで聞いた名前だと思ったが、思い出せない。

それより、日本でアメリカの提督が誕生したというのが引っ掛かった。

それは、朝潮たちも同様のようだ。

 

「ジョンストン? 何故、彼女が日本に?」

 

「それも、米国海軍のパイロットって?」

 

「そこに関しては、何の確証も無いの。

 ただ、分かっている事は、艦娘は国では無く、提督個人に従属するって説が有力になっている。

 試したことが無いから、確証は無いけれど、例えば私たちの北条提督が、他国に亡命を希望した場合、私たちは日本に残って別の提督を探すか、それとも提督に付いて行くか?

 正直に言って想像も出来ない。少なくとも北条提督は、どのような状況になろうと日本を捨てることは無いだろうし、私たちはそんな提督をお慕いしている」

 

だが、客観的に見れば、艦娘は提督に従うだろうと言うのが、一般的な見方だ。

事実、オーストラリアは崩壊しており、脱出したオーストラリアの提督はアメリカに身を寄せている。

そして、付き従う艦娘は、無理にオーストラリアの奪還を要求はしていない。

 

「まあ、順を追って話すね。先ずは吹雪ちゃんのケース」

 

彼女が現れたのは、北条が指揮する護衛艦『きりさめ』が、伊豆大島から撤退中の友軍を支援している最中だった。

きりさめは、いささか旧式の部類に入る汎用護衛艦だが、若き艦長である北条は殿軍を務め、民間人を乗せた船と、それを護衛する艦艇の盾になり、撃沈覚悟で奮戦していた。

砲撃を受けて、船体の横には穴が開いており、ミサイルも撃ち尽くした。流石にこれまでかと思われた矢先に、彼女は現れた。

セーラー服を着た少女が海上を滑りながら、手にした奇妙な装備から、砲撃を放つと深海棲艦の頑丈な身体を砕いて沈めていく。そんな白日夢のような光景を繰り広げた。

追撃する深海棲艦の駆逐艦を蹴散らすと、何かを求めるように徘徊しながら、やがて、きりさめに乗り込んで来た。

当然、梯子なんて無く、砲撃で開いた船体に指をかけながらよじ登って来るのだ。

 

「何かシュールな光景ね」

 

「いいえ。提督さんの部下から聞いたけど、その時の光景はシュールどころか、ホラーだったそうよ」

 

眼には何の光も灯さず、口も開かない。

そんな幽鬼のような少女が、それも、先程まで自分達を脅かしていた深海棲艦を蹴散らした少女が、船に乗り込んで来たのだ。

 

「幸いと言っては何だけど、海上自衛隊の隊員さんって、船内で装備を持たないのよね。

 一応は小銃があるけど、厳重に保管しているし、引き金を引くのに抵抗がある人ばかりだから」

 

つまりは、普通に撃たれても不思議はない状況だったらしい。

もし、拳銃を持っていたら、流石に引き金を引いただろう。

そんな、ホラーな少女は艦内を進む。この不測の事態に、北条は自ら、謎のホラー少女と相対しようと、CICを出て、少女の前に立ち塞がった。

 

「はじめまして吹雪です。よろしくお願い致します」

 

北条を見た途端に、目に光が灯り、それまでの幽鬼のような表情から、年相応? の明るい表情に変化した。

 

「ちなみに、吹雪ちゃんには、提督と会うまでの記憶は無いの。どうやって生まれたかは当然、先程まで戦っていた事すら覚えていなかった」

 

「大潮もそうなの?」

 

「はい。司令官に会うまでの記憶はありません」

 

大潮だけでは無いが、艦娘は提督に会いに陸上まで上がって来る。

いや、上がって来るかも定かではない。何故なら、海から距離がある場所に現れた場合、普通なら目撃者がいそうなものだが、それが無いのだ。

 

「吹雪ちゃんの場合も、唐突に海上に居たらしいの。

 戦闘中で、監視体制は十分だったにも関わらずにね。正に湧いて出たって感じ」

 

「本当にホラーですね」

 

「まあ、オカルト寄りだって自覚はあるかな。

 吹雪ちゃんの事は、未だに怖がっている隊員さんもいるけどね。

 あ、これ吹雪ちゃんの前で言わないようにね。隠してる訳じゃないけど、お化け扱いされると傷つくから」

 

北条の部下とは、その後も交流があり、『ずっと目が死んでたのに、艦長にあった途端、急に可愛い子ぶりやがった」などと揶揄われる分には良いが、普通に怯える者もいるようだ。

 

「ところで、海上自衛隊の隊員が、銃を持っていなくて幸いって言ってたけど、もしかして、撃ったら反撃してたって事ですか?」

 

満潮が疑問を挟む。その口調は艦娘が人間に反撃するのは無いと思っているようだった。

だが鹿島は、そんな予想をアッサリと否定してみせる。

 

「うん。大方の予想では、反撃を開始して艦内は血の海になってたかな」

 

「いや、だって相手は人間、しかも日本人よ」

 

「確証は無いんだけどね。もう一つのケースが、艦娘は人間と戦える可能性を示唆している」

 

「随分と中途半端な」

 

同じようなケースで攻撃をしたなら、可能であり、攻撃していないなら不可能だ。

だが、鹿島の物言いでは、可能性どまりでハッキリとはしていない。

 

「その、もう一つのケースなんだけど、ジョンストンちゃんは人類を相手に戦闘をしているの」

 

「あ、相手は……無事なわけがないか」

 

艦娘と戦って人間が無事に済むわけがない。

 

「誤解しないようにね。戦闘と言っても生身の人間では無いの。そこが、判断を曖昧にしているところなのよね。

 ちなみに相手は、自衛隊所属のF-15J戦闘機。パイロットは宇喜多大地三等空佐」

 

唐突に出された父の名前に衝撃を受ける。

朝潮たちも、名前は聞いているのか、興味深そうに見て来るので視線が痛い。

 

「状況なんだけど、もう一つの戦線の沖縄方面では、佐世保基地に在籍する米海軍と共同、実質的に米軍の指揮下で、奄美大島に最終防衛線を構築していたの」

 

奄美大島を突破されれば、その先は屋久島と種子島しかない。

特に種子島には、衛星を発射する種子島宇宙センターがあるので、絶対に近付かせたくない場所であった。

この頃には、最悪の手段として弾道ロケットを使用する可能性も考えられたのだ。

 

「米海軍のニミッツ級原子力空母は、前は横須賀基地に待機してたけど、この頃は佐世保基地を母港としていたの。

 アルヴィン・ウォーカー中尉は、そこに所属するパイロットだった」

 

空母の配属先変更の理由は不明だが、有力なのは、いざと言う時に、逃げ道が無い横須賀を嫌ったためだと言われている。伊豆諸島から来る敵に対し、東京湾は、まさしく袋のネズミである。それに比べ沖縄に対する佐世保なら、日本海を沿って北上する逃げ道がある。

そんな米軍の思惑とは別に、ウォーカー中尉は20代半ばの陽気なアメリカ人気質で、親日家であり、海上自衛隊だけでなく、航空自衛隊のパイロットとも交流を結ぶ社交的な人物であった。

また、日本にいる米海軍のパイロットの中でも、屈指の腕前。

正確に言えば、日米両国で彼を上回るパイロットは、宇喜多大地だけだろう。

その大地を慕い、素直に教えを受けて、腕を磨き続けるという、天才肌であり努力家。

そんな日米双方の軍人に慕われていた彼は、奄美大島沖に出現した深海棲艦の駆逐艦と航空機を相手の迎撃任務に参加していたが、その戦闘で彼の搭乗するF/A-18(スーパーホーネット)が撃墜される。

緊急脱出することが出来たし、間もなく深海棲艦を排除したので、救出を待つだけと言う状況になった。

 

「ジョンストンちゃんは、そんな時に現れた。

 さて問題です。それを見た日米のパイロットは艦娘を知りません。彼らが海上を滑るように進む少女を見て、どう思うでしょうか?」

 

「深海棲艦の援軍だと思います」

 

「はい正解。お父さんだけじゃ無く、当作戦に参加していたパイロットは、みんなそうだと思いました」

 

吹雪のように深海棲艦を倒す姿を見せつけたのなら兎も角、その時は深海棲艦の戦力は排除済み。

ジョンストンを見たパイロットたちが、新たな敵の増援だと思うのも無理はなかった。

しかも、海上には、ウォーカーの他にも、海上で救援を待つパイロットがいるのだ。

当然の選択として、残るパイロットによる迎撃が決定される。

この時には、対深海棲艦用の対空と対艦ミサイルが開発されていた。対空ミサイルは、従来の接触と爆風によるダメージでは無く、直前で爆発。ミサイル前方に配置された20mm弾頭をその爆発で飛ばす一種の散弾砲であり、対艦ミサイルは、接触による爆発だが、先端に硬質の杭状の物質が配置され、それを前方に吹き飛ばす、一種のパイルバンカーであった。

だが、誘導システムが不十分であり、散弾である対空ミサイルはともかく、対艦ミサイルは命中率が低く、この時点では、対艦ミサイルを残している航空機は一機も残っていなかった。

また、燃料も残り少なく、これ以上の戦闘に耐えるF/A-18(スーパーホーネット)F-15J(イーグル)も残っていなかった。

ただ、一機のみ、宇喜多三等空佐のF-15Jのみは、ミサイルは無くなったが、燃料は大量に残っていたので、時間稼ぎの迎撃を提案。残りは急いで補給に行って戻って来る事になった。

 

「まあ、何でお父さんだけ、燃料が大量に残っていたのかは、分からないんだけどね」

 

鷲一は答えを知っていた。理由は簡単だ。燃料を無駄に消費せずに飛んだだけ。

空気の壁や流れを見る。逆らえば燃料を消費するし、従えば消費しない。必要が無い限りは空気の流れに沿って飛べば良いだけだ。

それを学ぶために、父に滑空機(グライダー)に乗せて貰った。父にかかれば、グライダーは何時までも飛び続けられる。教えられて鷲一も長時間飛び続けられるようになった。

父が嬉しそうに、お前にも見える。そう言ってくれた。

だが、それを口に出すことは出来ない。あれは父との秘密だ。父の知り合いという事で目を瞑ってくれたが、年齢的に鷲一は乗ってはいけないのだ。

 

「とにかく、駆逐艦型艦娘とF-15Jの一騎打ちが始まる。

 F-15の武装は残り少ない機関砲だけ」

 

ウォーカーに近付きたいジョンストンに、それを邪魔する戦闘機。

ジョンストンは、この障害物を排除するため、5インチ砲や20㎜機銃で迎撃を開始する。

それに対するF-15が装備している20㎜機関砲Ⅿ-61機関砲は、100発/秒だが、装弾数は900発余り。

しかも、大地はそのバルカン砲で深海棲艦の戦闘機を撃墜できる腕を持つため、先の戦闘でも使用しており、ジョンストンとの戦闘時には200発を切っていた。

それで駆逐艦を撃墜する事は不可能で、最終的には直近を高速飛行して風圧による攻撃も試みているが、服がめくれる程度のダメージしか与えていない。

 

「まあ、結局はウォーカー中尉が、ジョンストンちゃんが深海棲艦とは違うことに気付いて、戦闘を止めたの。

 ただ、この件で分かるのは、艦娘にとって、提督に会うのを邪魔する者は、敵としいう認識になること。

 更に人間への攻撃が可能だという事ね」

 

あのまま戦い続けたら、決定打の無い大地は撤退、最悪は撃墜されていただろう。

もし、そうなっていたら、艦娘は敵視された可能性がある。父のせいで艦娘の扱いは変わっていたかもしれないと思うと、ゾッとする。

この時の戦闘の後、ジョンストンは、最近の戦闘機って速い! 機銃が痛い! と泣き言を言っているが、機銃が効かない少女が何を言っていると、大地も呆れていたそうだ。

もっとも、ジョンストンが一番怒っていたのは、愛しのアドミラルとの最初の出会いなのに、攻撃で服が破れ、胸が露出した姿になった事だったらしい。

 

「まあ、艦娘の特徴は、ここで考察したところで結論は出ないし、今日の授業の内容は、今の状況に至る出来事だからね。

 日本に現れた2人の艦娘。その後の軌跡を見ると、有事に対する米国の強さと、日本の酷さと共に、今に至った状況が分かりやすいの」

 

 

 

 

 




次回は日本の苦難のお話。
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