7人目の提督   作:山ウニ

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日米格差

「さて、話を続ける前に、先ずはこれを見て貰いましょう」

 

そう言うと、鹿島は投影機(プロジェクタ)を操作し、スクリーンに、2枚の写真が表示される。

そこには、米国海軍の駆逐艦フレッチャー級の艦娘と米国軍人らしき人物のツーショット写真。それが二枚あった。

 

「ここに写っているのは、吹雪ちゃんやジョンストンちゃんと同時期に、米国に現れた艦娘と、その提督の写真です」

 

「米国の提督も同時期なんですね?」

 

「そう。同じ日に、日本だけでなく、欧州や中国にも一人ずつ誕生している。ただ、アメリカが3人でイギリスは2人。

 理由は不明だけど、海域の広さから言っても妥当ではあるかな」

 

改めて写真を見ると、双方とも40半ばの男性だ。

軍人らしい精悍さに、アメリカ人らしい陽気さも見られる。

こうして見ると、フレッチャー級の衣装は、何処となく神秘的な感じがするし、顔立ちと相まって妖精らしい感じだ。

朝潮を初めて見た時の感想もそうだった。その前に見た工廠にいる妖精さんとは別種の、妖精の女王や姫様と呼ばれるような、特別な妖精が艦娘では無いかと、本気で思ったくらいだ。

フレッチャーは、その朝潮以上に妖精と言う言葉が似合う。

そんな彼女らが、軍人と一緒にいると、この世界を護りに来た異世界の生き物に見える。

 

「それで、これが例のウォーカー中尉とジョンストンちゃん」

 

そこには、モデルか俳優にでもなれそうな20代半ばの美男と、上着にダボダボのフライトジャケットを着たジョンストンが写っていた。

だが、鷲一の目を引いたのは、そこに写っている人物に見覚えがあったからだ。

 

「カレーの人」

 

「カレー?」

 

何処かで聞いた名前だと思っていたら、何度か父が家に連れてきたことがある。

カレーを気に入っており、美味しそうに食べていたアメリカ人だ。

5年前に提督になったそうだが、そうなると提督になった後も来ていたらしい。

 

「カレーが好きとは、良い人のようですね」

 

「アメリカ人も捨てたものじゃ無いわね」

 

何故か、カレー好きと言うだけで、朝潮たちは高評価だった。

 

「いや、カレー好きは置いといて、ここで重要なのは見た目」

 

鹿島に言われて改めてみるが、少し年が離れている気がするが、普通にイケメンと美少女のカップルにしか見えない。ありていに言えばカッコイイだ。

それを言うと、どうやら正解だった。

 

「前に見せた二組も悪くは無いんだけど、ウォーカー中尉たちのコンビは、如何にもヒーローって感じだよね。

 で、次がこっち」

 

次にスクリーンに映ったのは、よく知っている北条と吹雪のツーショット。

写っている北条の姿は、今より若いが、それでも30前半と言ったところか。

 

「何か冴えないわね」

 

「か、霞!」

 

「だって、何か中途半端に年が離れてるせいか、どんな関係よって思うわよ」

 

霞の歯に衣を着せない発言を朝潮が注意するが、鷲一も同感だった。

ウォーカーの後に見たせいか、北条は平凡な中年と言った感じだ。

そして、吹雪の方も悪い容姿では無いのに、フレッチャー級の艦娘を見た後だと、妙に野暮ったい。

それに、年齢差だ。兄妹や恋人にしては離れすぎているし、親子だとしたら近すぎる。

 

「うん。残念ながら霞ちゃんが正解。

 この見た目の差が、少しばかり影響するの。

 まず、アメリカは、艦娘を救世主、ヒーローとして扱う事にしたの。日本もそれに追従しようとしたけど、その前途は多難だった」

 

アメリカ本国に誕生した艦娘と提督から、事情を聞いたアメリカ政府は、彼等を有効な戦力として認めるとともに、使用した際の問題を検討する。

 

艦娘(私たち)と深海棲艦は非常に似ている。

 少なくとも艦娘(私たち)は人間じゃない。当然ながら拒否反応が出る」

 

艦娘は見ようによっては化け物の一種だ。そんな怪物を味方にすることに抵抗を感じる人は国の東西に関わらずいる。アメリカの場合は、信仰心の強い人ほど、神の摂理に逆らうような存在である艦娘に拒否反応を示す。

だが、その一方で、敵と同じ力を持った人間以外の何かが、人間の側に立って戦う。そんなストーリーはアメコミやジャパニメーションによくある話だ。

 

「アメリカでは、抵抗勢力を黙らせ、かつ支持を増やすために、ウォーカー中尉を本国に呼び戻した。

 彼を前面に立てて、アメリカと世界を救うヒーローとして、民衆を味方につける事に成功した。

 でも、日本は、それが出来なかったの。

 アメリカと日本には決定的な差があった。戦勝国と敗戦国と言う差が」

 

日本は付喪神という伝承があるくらいだから、その抵抗はアメリカより低い。

だが、彼女たちを、大日本帝国の亡霊と考えれば、多くの日本人にとって抵抗がある存在だった。

 

「特に差を感じたのが、退役軍人の差。戦勝国であるアメリカでは、あの戦争に参加した人は英雄として敬われ、敗戦国である日本は、犯罪者と罵られたいた」

 

アメリカでは、一種の艦娘ブームが沸き上がった。

その後押しをしたのが、退役軍人と、彼等の子や孫である。

退役軍人の数は減っているが、自分の父や祖父が乗り込んでいた軍艦が人の姿をして、人類を護るために復活したのだ。

父が乗っていた巡洋艦が生まれた。祖父が乗っていた空母が活躍した。彼らは熱狂と共に艦娘を支持した。

 

一方の日本は、昭和の頃までは、それほど酷い扱いでは無かったが、冷戦が終わり、社会主義や共産主義への信仰が消えると、信仰の拠り所を失った彼らは、己の存在意義を、かつての大日本帝国を攻撃する事に見出す。

左派政党だけではなく、彼らと繋がりの深い日教組が支配する教育現場やマスコミで、徹底して叩く方向に向かった。

彼等の発する情報を受け取って育つ若者は、旧日本軍を忌避するようになり、退役軍人は己の経験を子や孫に伝える事が出来ない空気が作られていた。

ネットの普及により、それも随分と変わったが、大声では言えない状況が続いていた。

 

また、妖精のような姿のフレッチャー級と違い、吹雪の外見は中学生の少女だ。

頼りないというだけではなく、人として頼りたくないと考える人もいる。

むしろ、女子中学生に助けを求める男の方が、どうかしているだろう。

 

「更に酷い事態が発生するの」

 

「まだあるの?」

 

「うん。知っての通り、艦娘は最初の吹雪ちゃんたちは2015年の暮れに。続いて2016年に入ると各国で新たな提督が誕生した」

 

そう言うと、スクリーンに新たな提督と艦娘が、次々と写し出される。

提督は軍人が多いが、民間人もいる。女性もいる。アメリカだけでなく各国の提督と艦娘が写し出されるが、やはりフレッチャー級の艦娘が最も華やかな気がする。

 

「そして、これが日本の2番目の提督」

 

「……元の職業はヤクザ?」

 

「いえ、ちゃんとした陸上自衛隊の二等陸尉で、レンジャー試験も突破した優秀な隊員です。

 名前は南部仁、当時26歳。電ちゃんが選んだ提督です」

 

「でも、どう見てもヤクザよ」

 

今度は朝潮も注意することが出来ない。

それほど、スクリーンに写っている人物は人相が悪かった。

屈強な武闘派ヤクザと言われれば、誰だって信じるであろう風貌をした男の後方には、大人しそうな少女が付き従っている。

 

「電が、脅されて連れていかれている女の子にしか見えないわよ」

 

「うん。実際にそんな印象を抱かれたの。

 それで、続いてがこちら。三人目の提督の一色和則さん24歳」

 

「若いし、真面目そうな人ねぇ」

 

続いて写し出されたのは20代半ばの青年で荒潮が言う通り真面目そうな人物だ。

だが、その隣が気になる。

 

「はい、目を逸らさない。これですこれ」

 

鹿島が、写真に写る人物を指差す。そこには気さくな態度で提督と腕を組み、ピースサインにウインクを決めている漣がいる。

 

「漣の奴、何やってんのよ」

 

「提督が真面目そうだから、道を踏み外した若者と、遊んでいる女子中学生に見えるわね」

 

「これ見た後だと、北条提督のところも、怪しい関係に見えてくる」

 

満潮と朝雲の失礼な発言に、鹿島は否定するどころか同意を示した。

 

「そうなの。問題はそこ。

 提督さんの過去とか調べられて、離婚歴があるせいで、若い女の子に乗り換えただの、言われたい放題」

 

「え? 離婚してたの?」

 

「ああ、吹雪ちゃんと会う、3年前の話だからね。吹雪ちゃんは関係ないよ」

 

「原因は? まさか、本当に浮気したとか?」

 

「いや、提督さんは、海上勤務が殆どだからね。結婚しても奥さんと会えないって言うか。

 安定した生活目的の、打算で結婚したなら、海上勤務手当がつくし『亭主元気で留守が良い』という理想的な結婚相手なんだけど、普通に相手が好きで結婚した場合は、好きな人と離れ離れで暮らさなきゃいけない。

 全員がそうじゃ無いんだろうけど、愛情が強い人ほど離婚になるそうよ」

 

「あ、朝潮なら待ちます!」

 

「うん。そんなケースもあるだろうけど、好きな相手と一緒にいたいのが普通の人。お金が目当てなら離れてる方が、むしろ良しなんだけどね。提督さんの奥さんは前者だった。

 深海棲艦の活動が活発になり、提督さんが艦長になって、益々家に帰れなくなるって分かったのを機に離婚を決定。慰謝料として貯金は全部持って行かれたの。

 おまけに、別れた奥さんは速攻で新しい人と結婚した」

 

「酷い話ねぇ」

 

ちなみに海上自衛隊は離婚率が高い職業の一つである。

 

「更に、提督さんの過去が広まるに連れ、女房に捨てられた男が、素朴な女子中学生と新たな恋を目指すとか、そんな根も葉もある話が広まったり」

 

「根も葉もあるんだ?」

 

「そりゃあね。提督と艦娘だもの。無い方が変。

 まあ、吹雪ちゃんくらい色気が無い娘だと、卑猥なネタで揶揄われることは少なかったかな。そこは、私じゃ無くて良かったと思う」

 

「確かに鹿島先生なら、提督をたぶらかして離婚に導いたってなりそう」

 

「絶対に、やらしい話になるよねえ」

 

「人間相手では、味わえないカ・イ・ラ・クを♪ そんな感じ~」

 

「淫魔だ淫魔だ」

 

「いや、自分で振っといて何だけど、あまり言うと私だって傷つくんだからね。

 で、これが4人目」

 

新たに映し出される提督と艦娘のツーショット。

それは、鷲一にとって、見覚えのある二人だった。

 

「まとも! 普通よ!」

 

霞が驚く。今までの流れから、どんな酷いのが出て来るか構えていた所に、鍋島と叢雲の二人の写真だ。

実際に、若く端正な顔の鍋島と、前の三人の艦娘と違い、普通ではない雰囲気の叢雲は、ヒーロー扱いが可能に見える。

 

「この人が4人目の提督、叢雲ちゃんが選んだ鍋島慎吾さん。当時26歳で、航空自衛隊のパイロット。

 鷲一くんのお父さんの部下で、叢雲ちゃんと出会った状況的には、ウォーカー中尉のところと似ている」

 

流石に宇喜多大地と戦闘はしていないし、むしろ当初は撃墜されて行方不明になったそうだ。

戦死したと思われて矢先に、叢雲を連れて上官である大地の所へ来たらしい。

彼もウォーカーの事と、ジョンストンとの顛末を知っているので、動揺しつつも叢雲の事は直ぐに受け入れている。

 

「このコンビなら看板になるよね」

 

「良かった~。日本は救われたわ~」

 

「そうね。実際に彼等を表に出していくんだけど……でも、叢雲ちゃんが現れたのは、7月になってからなの。

 漣ちゃんが来てから、既に半年が経過している。

 もう、この頃には、日本での提督と艦娘のイメージは半ば固まっていた」

 

女房に逃げられて、純朴な中学生と真実の愛を目指すオッサン。

女子中学生を危険な戦場へ駆り立てるヤクザ。

遊んでいるJCに振り回される遊び慣れていない真面目な青年。

 

「おまけに、うちは小学生カップルかぁ~」

 

「日本、終わったわね」

 

 

 

 

 




次回はボロボロになる日本の有様からミラクルが起きるまで。
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