7人目の提督   作:山ウニ

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崩壊と再生

日本でも鎮守府を作り、戦力を増やすことが決定されたが、とても順調とは言い難い状況だった。

建設には妖精さんの力を借りられるが、それでも土地の確保を始め、どうしても資金はいる。

防衛大の跡地を手に入れた横須賀は良かった方で、他所では鎮守府を建造するのに、政府や民間で妨害が入ったのだ。

 

何故なら日本では米国と異なり、最初は提督と艦娘を前面に押し出す方法は失敗した。

華やかさに欠けるというのもあるが、少女を前線に立たせる事に抵抗を感じるという、至極真っ当な精神が邪魔をした。

そのため、支持者は集まらないが、逆に反対者は多かった。

いや、元気を取り戻したと言っても良い。政府の決定に反対する野党や、直接、建設に携わる業者への抗議を行う市民団体。

 

「元気になった?」

 

「うん。自衛隊を攻撃していた人たちも、空襲を受けたり、砲撃で海岸の建物が壊されるのを見ると、流石に大人しくなってたの。

 それが、艦娘を見た途端に元気になっちゃって」

 

「何がしたいのよ」

 

「攻撃かな?」

 

元から大日本帝国を憎む人々の集団である。

以前は自衛隊にそれを重ねて攻撃していたが、今度は艦娘を攻撃したくなったようだ。

更に、艦娘が少女の容姿をしている事から、戦わせてはいけないという真っ当な理論を持ち出して、提督を攻撃するのだが、その矛盾には目を逸らしていた。

 

「艦娘って、提督の元で戦いたいって希望してるんだけど?」

 

「そこが矛盾の塊なんだけど、何故か彼女らの中では整合性が取れてるの」

 

「彼女?」

 

「その手の団体は女性が前面に出てるのよ。まあ、後から合流してくる団体も女性だし、とにかく以後は彼女たちで進めるね」

 

艦娘は、軍国主義の化身だから危険だ。

艦娘は、守るべき対象である少女だから戦場に出すな。

艦娘を、攻撃したいのか守りたいのか、どっちなんだと言うような主張を繰り広げながら、政府や鎮守府の前で抗議集会を開始しだした。

 

「でも、艦娘の数が増えれば、駆逐艦だけでなく、戦艦だって来るよね。彼女たちが前面に出てくれば」

 

少女を戦わせるなと言う意見が真っ当なら、成人に見える戦艦や重巡が前に出ればいい。

 

「そうよね。私もそう思うんだけど、何だか変なのまで絡んできてね」

 

鹿島がゲンナリしながら呟く。

 

「フェミニストっていう、女性の人権を尊重する集団のはずなんだけど、それに目を付けられた」

 

「何でよ?」

 

「知らないわよ! 性的だの動くラブドールだの言われて、本気で大変だったの!」

 

鹿島は嫌な事でもあったのか、本気で怒ってた。

艦娘が人間では無いというのもあるが、それ以上に、艦娘の提督(男性)に従順な姿が気に入らなかったらしい。

多様性と言いつつ、自分と異なる価値観を許せない人々は、肌の露出が多い艦娘を攻撃しだしたのだ。

 

「まあ、あの頃は大変だった。彼女らの主張を、頑張って理解しようとしたけど無理だった。

 結論として、自分達が気に入らない存在だから許せない、としか思えないんだもん。

 それが、弱者と言う立場を利用して、言いたい放題」

 

「弱者?」

 

「うん。それ。さすが霞ちゃん、良いところに気付いたね。ある意味、それが重要。

 その頃は弱者の盾って言葉があった」

 

「は? 何で弱者が盾になるのよ?」

 

「弱い相手は守らなければいけない。良い考えよ。それ自体は全然悪くない。

 でもね、彼女らは本当に理解をしていなかった。弱者とは弱いからこそ弱者なのだと。

 霞ちゃんが言うように、本当なら盾として機能しない」

 

2017年。その年は日本にとって最悪の年となる。

燃料の枯渇問題。自衛隊が戦闘出来ない事態になったのだ。

何しろ、海上は深海棲艦のものになっていた。2015年までは自衛隊が護衛する事で、少なくなりながらも輸送は出来たが、それもすでに不可能。外国から輸入に頼っていたものは、何も手に入らない。

これまで、その危険を憂慮し、自衛隊に燃料を優先させる法案が何度か出たが、それはことごとく拒否された。

普段の生活を維持したいのが民衆と言うものだ。それを奪う法案は絶対に反対だし、それに賛成する姿勢を見せる政治家には抗議が殺到した。

何とかなるだろうという甘い見積もりの元、ずるずると伸ばした結果、節約はしていたが決定的な破綻は唐突に訪れる。

電力の停止に、自衛隊が戦えなくなることで深海棲艦から守ってくれる存在が無くなったのだ。

 

「バカなの?」

 

「それに関しては何とも。ただ、この年は日本にとって最悪だった。

 分かるよね。本当に危険な状況では、弱者は役に立たないって」

 

弱者が盾として機能していたのは、弱者が強いからではない。弱者を護る『何か』があったからだ。

社会、倫理、良心、それらの複合である『何か』は消え去った。彼女らが攻撃していた自衛隊は、間違いなく、その『何か』の一部だったが、もう動けなくなった。

弱者を護る『何か』は無くなり、弱者は虐げられるという、自然の摂理が露わになった。

空襲から逃げる際にも、我が子は兎も角、他人の子までは面倒見切れない。足腰の弱い老人や体に障がいがあるものは置いて行かれる。女性だからと無条件に庇うほど男性にも余裕は無い。

弱者は、文字通り弱者の立場を発揮する。弱い者から死んでいく、正しくも悲しい世界が、当然のこととして誕生する。

 

「鎮守府の建設は遅れていたとは言え、その頃には5つの鎮守府が何とか立ち上がっていた。

 そして、私たちの資材は、通常のものとは別だから戦う事が出来た。

 だから、私たちだって戦ったけど、戦力は不足していた。

 アメリカだって半ば見捨てていたしね」

 

その年には、米軍も面倒は見切れないとばかりに、ニミッツ級原子力空母を始め、各戦力を撤退させ始めた。

燃料の供給が無いなら、手助けは無理だと言われては、何も言えない。

 

「それでも、アメリカには未練があった。何故なら、メイド・イン・USAと言っても中身はメイド・イン・ジャパンの集まりって言われているほど、米国の兵器は日本の技術に頼るところがあったからね。

 日本では結構粘った方だと思う。他所では見捨てた国が多かったしね」

 

それでも自国で代替えが効かないかと言われればNOだ。

多少の劣化を受け入れれば、日本を守る必要は無い。少なくとも全滅してでも守る価値は無い。

アメリカは、日本を全滅覚悟で守る気は無いと、批判する人がいるが、そんなのは当たり前だ。

そもそも、軍が全滅覚悟で戦うこと自体が間違っているのだ。当然のように全滅覚悟の敢闘精神を要求する、米軍と大日本帝国を批判する人々ほど、かつての大日本帝国の精神を、引き継いでいる証拠と言えるかもしれない。

 

「まあ、私たちは、その全滅覚悟で挑んだから何も言えないけどね。

 実際に、あれは無理だって思った。深海棲艦の戦力数は、かつての米軍を上回る。5倍どころか10倍はある」

 

「え? それはおかしいです! だって提督は5人ですから、5倍も離れた時点で」

 

朝潮が驚くのも無理はない。日本の戦力は、大日本帝国海軍の戦力×提督数だ。

かつての米軍と比較すれば、5倍離れた時点で、かつての戦争の再現。10倍なら益々勝てるはずが無い。

3年前の時点でそれなら、今に繋がるはずが無いのだ。

 

「理由としては、あの忌まわしいB-29がいない事。空爆の被害が少なかったのは幸いだった。

 そして、この人……」

 

スクリーンに写し出されたのは、新たな提督と艦娘のツーショット。

線の細い、全く身体を鍛えていないことが分かる頼りない青年と、青い髪の少女のコンビ。

 

「5人目の提督、村上隆之さん。23歳で、五月雨ちゃんが選んだ提督。

 この人は、学生で戦い方は知らないし、それどころか戦う気さえない。提督になっても、戦闘は作戦から指揮まで全て艦娘任せ」

 

「え? もう完全に役立たずじゃない。コイツと一緒でしょ」

 

霞にコイツ呼ばわりされても文句は言えない。

自分が役立たずだという自覚はあった。

 

「そうね。最初は私たちもそう思っていた。五月雨ちゃんが、またやらかしたってね。

 戦力にならない提督を選んだのも、あの娘なら仕方がない。そう思ってたけど、実際は思いもよらぬ方向でやらかしてくれていた。

 艦娘はオカルトと科学の融合体。物理法則を始め、あらゆる常識が通じないため、科学的なアプローチは不可能とされていた」

 

提督になったことで村上に何があったかは不明。だが、少なくとも彼の脳は大きな変化があった。

艦娘に人間味を感じるなどの変化は、全ての提督に見られるものだが、彼の場合は、それだけではなく、この世ならざる法則を見出したのだ。

 

「艦娘の艤装の強化。朝潮ちゃんは聞いたと思うけど、あの時の如月ちゃんは正式な専用の艤装では無かったの」

 

如月には、朝潮と大潮が2人がかりでも叶わなかった。

あの時に吹雪が言っていた5つある艦娘の強さを決定する項目。その内の三番目の装備。大して気にしていなかったが、重要だったのかもしれない。

 

「はい。吹雪さんに、そう聞きましたが」

 

「うん。元々は艦娘も軍艦だから、その動きは船のそれだった。例の模擬戦でも朝潮ちゃん達に合わせて、新しい装備の機能は切っていたの。で、これが今の正式な装備の本当の性能」

 

スクリーンに新たな映像、今度は動画が写し出される。

そこには、海上を疾走する艦娘たちが写っているが、前に見た如月とは明らかに動きが違う。

疾走するアイススケート選手のように動き回り、時には宙を飛んで方向を変える。

武器も、船の主砲の様だった武器では無く、自動小銃(アサルトライフル)狙撃銃(スナイパーライフル)を持ち、中にはナイフや戦斧を持った者もいる。他にも、とても人が振り回すサイズではない武器や、見たことも無い武器を持っている者もいる。

 

「艤装の出力から、武装の強化。艦娘(私たち)はオカルトと科学の融合体だけど、正確に言えばオカルトと第二次世界大戦時の科学の融合体だった。

 でも、今は違う。オカルトと現代科学の融合体。村上提督のお蔭で、日本は質の面で深海棲艦を。他国の艦娘を圧倒できる力を手に入れた」

 

以前見た如月の力が、順調に成長した艦娘の姿だとすれば、映像に映っている彼女たちは別次元の強さだ。

朝潮たちも呆然としながら見ている。

 

「この力は、米軍にとっての未練であったメイド・イン・ジャパンを遥かに上回る魅力がある。

 見捨てようとしたことなんて、無かったかのように擦り寄って来た」

 

「図々しい」

 

「それが正しい世界の関係よ。日本人はその辺が甘いと思う。すぐに白か黒で分けたがるのよね。

 今の政府は弱腰だし、相も変わらずの、前例主義だけど、幸い国際感覚は前より良くなった。

 この力を有効に、外交で利用することにした」

 

情報は公開したが、艤装の改造は妖精さんが手を貸すことで1日で終わるが、一部は繊細で、村上本人でしか触れないところがある。その改造をするのに村上の拘束時間は10分程度だが、1日の改造可能数を20名とする。

そのため、改造をしたければ、日本に来るように発表した。

アメリカやイギリスは村上を招こうとしたが、これを村上は拒否。これは村上が根っからの軍オタであり、日本軍を愛しているという理由であった。むしろイギリス嫌いでもある。

結果的に米国とは正式に軍事同盟を締結。米国の提督はローテーションで日本に来ることになり、かつてと同様に日本の駐留軍は日本を守ることになる。これは改造しにきた艦娘も同様である。

つまり、日本は常駐するアメリカ提督を一人手に入れたことになる。

また、装備開発に米軍と共同開発を行うことになり、基本コンセプトや大まかな設計を米国が行い、日本でこれを実戦使用可能なレベルに仕上げる方式が取られた。

こうして、日米両国で艦娘用の新兵装が生産され始める。

 

また、欧州各国は新兵装を買い上げるとともに、艤装改造の優先権を手に入れるため、日本に贈り物をすることになる。

これは、食糧を始め、今の日本に不足しているものが喜ばれた。

ちなみに、別に賄賂ではなく、燃料の枯渇で崩壊しかけた日本への純粋な支援だと言い張った。

そして、目玉となるのがロシアとの同盟だ。海上防衛を日本に大きく頼るのと同時に、新兵装の格安での輸出。

また、半導体を始め、通常兵器のパーツとなるものもを、米軍の許可を得たものは輸出可能となった。

それに対し、天然ガスや原油を、移送は日本任せという条件だが、格安で輸入する事が可能になった。

 

「こうして、絶望的だった日本に光が差し込んだ。

 私たちは、しばらくの間、神様、仏様、五月雨様と呼んで彼女を敬ったわ」

 

なお、本人が全力で嫌がったので止めになった。

 

「そして、2018年。日本は息を吹き返すのだけど、最後の大掃除が残っていたの」

 

 

 


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