7人目の提督   作:山ウニ

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ミッション。母親になれ!

吹雪は、北条提督の呼び出しを受け、早足に歩を進めていた。

自分が呼ばれた理由は分からない。今の北条にとって、最も頭を悩ませているのは、新しく誕生した提督の存在だろうが、それに関して自分に何が出来るのかと疑問に思う。

 

初期艦として、北条と2人で作り上げた鎮守府は、最初に比べると本当に大きくなった。小さかった頃とは別の問題で悩むことが多くなったのだ。

そして業務は膨れ上がり、吹雪では処理能力が追い付かなくなってしまった。

他所の鎮守府もそうだが、巨大な鎮守府を運営するためには初期艦ではなく、処理能力に長けた大淀を秘書艦に替えている。

 

立場を追われた形になった吹雪だが、恨みには思っていないし、当然の処置だと思っている。

むしろ、ここまで鎮守府が大きくなったことに感慨深い想いも抱いていた。何と言っても、この鎮守府は北条との絆の結晶である。二人の子供みたいなものだ。一緒にいる時間は減ったが後悔はない。

ただ、それでも直々に呼び出されて任務を言い渡されると思うと嬉しくなってしまう。自然と足は早まった。

 

「吹雪です。お呼びでしょうか司令官」

 

提督室のドアをノックして声をかけると、即座に入室を促す返事が来た。

入室すると、北条は執務に使っている机では無く、その横にある食事を取る時に使用しているテーブルの椅子に座っており、向かいに座るように促される。

吹雪が着席すると、大淀がお茶を出してくれたので礼を言う。

 

「早速だが、例の子供、横須賀で預かる。だが、現状では任務は無理だろうと思う」

 

「同感です。提督の強い意志無くして、艦娘は力を発揮できません」

 

艦娘は提督の願いに敏感だ。

強さを求めればそうあろうとするし、それ以外でも叶えようとする。そして、提督と艦娘の絆が強いほど、その力を発揮する。

例として、純粋な力を求めた佐世保と大湊の提督の初期艦は叢雲と電だが、明らかに駆逐艦を超えた力を持っているし、まとめ役として苦心していた北条の初期艦である吹雪は、事務能力に長けるようになった。

今のまま、件の少年が提督になり、艦娘に指示を出したとしても、方向性が不安定になるだろう。

 

「おまけに、家族と引き離さざるをえん。こうなると情緒面でも不安だ」

 

家族と離れて暮らすしかない上に、学校に通わすには難しい事。

理由は簡単で、通学は誘拐の危険が多く、そうなると護衛を付ける必要があるが、それは特別な身分だと吹聴して回るようなものだ。同時に特殊な身の上は孤立を招きかねない。

特に学校では同じ年頃の子供と過ごすが、身分を隠し通せるかは疑問だし、イジメにあう可能性もある。

そうなったら最悪だ。未熟な精神に強力な武力を持った存在が起こす事態を想像するのは容易い。

 

「だから、彼の教育を君に任せたい」

 

「わ、私がですか?」

 

何故、自分がと思ってしまう。

教育だったら、教導艦姉妹(香取と鹿島)が適任だろうし、子供の相手なら駆逐艦より軽巡の方が面倒見が良い艦娘が多い。

駆逐艦の艦娘は、精神的に未熟と言うか、姉妹の面倒は見れても、子供の面倒は見たりしない。

だが、軽巡だったら駆逐艦(こども)の面倒を見ることが多いので、実際に子供受けがいいものが多い。

 

「彼は提督として、右も左も分からない状態だからね。おまけに側にいるのは大潮だ。初期艦だから他の大潮とは変わっているかもしれないが、秘書に向いているキャラではない。

 その点、私と一緒に鎮守府を作り上げた君なら、彼が困る事態は想像が付くだろう」

 

「ええと、彼の鎮守府作りをサポートするのが任務でしょうか?」

 

「いや、それも含まれるが、あくまで教育がメインだ。

 逆に言えば、教育に支障があってはいけないから、鎮守府の立ち上げは、戸惑うことなくスムーズに進めたい」

 

「なるほど、分かりました。ですが、教育といっても、私は経験がありませんし、何か方向性のようなものはありますか?」

 

「そうだな……」

 

北条は、少し躊躇した後、現状の説明を始める。

すでに、小学生が提督に選ばれたことは、世間に知れ渡っている。

マスコミは抑え込んでいる、というより信用が失墜しているので、民衆はマスコミに情報発信以外の機能を求めていない。

かつてのように、情報番組でコメンテイターが世論を誘導しようとしても、不可能になっている。

 

マスコミは深海棲艦との戦争が始まった初期には反戦キャンペーンをやり、艦娘の登場には軍国主義の化身と批判した。

だが、中国と韓国が助けを求めるようになると、一転して艦娘を助けに向かわせるように報道した。

特に後半は異常な言動が多く、ネット社会では当初から批判されていたが、ネットでの情報を見ない世代にまで流石におかしいと思う者が増えてきた。

そんな時、大手マスコミの経営陣が中国と韓国から情報を操作するように資金を受け取ったとして一斉逮捕される事件が発生する。

 

実際は、在日外国人が知人のマスコミに頼んだ程度の件が殆どだったのだが、流れが悪かった。

日本が被害にあっても、あれだけ艦娘を認めなかったコメンテイターが数名だが、見事な掌返しすぎたし、実際に戦争が起きたことで、日本社会はある意味で風通しが良くなってしまった。

日本社会では大声で言えない空気だった韓国や中国への批判をしやすくなったのだ。

特に戦争の被害にあった者は、未だに軍縮を叫んでいる政権や団体に不満を持ったし、彼等の主張が日本より外国に利するという現実は、ある種の説得力を持たせた。

ネット上ではかねてから噂されていたが、マスコミは在日が実権を握っているという話が世間に広まった。

 

艦娘の登場で激減したとはいえ、多くの者が経験した空襲の恐怖や、食糧難に娯楽の激減。これら溜まりに溜まったストレス。ここに至って、日本人が持つ排斥性に凶暴性が上乗せされた。

ある新聞記者がリンチに合い、マスコミのビルに放火される事件が起きた。そして親がマスコミの子供はイジメの対象になって自殺者まで出た。

マスコミ自体が日本の敵と認識され、手が出せない深海棲艦に代わる、手の届く敵になってしまったのだ。

 

更に当時を知る艦娘の長門から爆弾が投下される。

元々、凶暴性が増してきた日本人に冷静になるように呼び掛けるよう、政府の主導で艦娘にインタビューを行う形式だったのだが、あの戦争はマスコミが国民を煽ったために、政府は止めるに止められず始めた戦争だと、当時を振り返ったのである。

今も昔も変わらない。マスコミの主張は内容は変わったが、過激なものが多いから、国民は冷静に判断するように、長門は呼び掛けたのだが、言い換えればマスコミの言う通りにすれば破滅だぞ。である。

 

国民は暴動こそ行わなくなったが、信用が失墜したマスコミに対する世間の目は冷ややかだった。

マスコミが何を言っても耳を貸さない。そうなれば基本的に営利団体であるマスコミは金にならないコメンテイターが発言する情報番組を打ち切りにして、純粋な情報番組に変更した。

無機質であり、何の主張も行わないので、かえって世間では議論が活発し出した。

 

「新しい提督に関して、すでにハッキリと誘拐の危険があるので、保護下に置いている事は公表している。

 だが、世論を誘導する事は不可能だし、世間がどう思っているか掴みかねている」

 

困ったように口にする北条に、どう反応すれば分からなくて吹雪は戸惑う。

あの事件を主導し、現状へと導いたのは目の前に居る男なのだ。

長門に言い含め、世間の暴走を抑えつつも、敵対するマスコミを無力化し、在日特権を剝奪する下準備を整えた。

だが、ああしなければ、内乱が起きていた可能性も否定できないし、現状で税金は節約したい。

何より、今いる提督も、これからなる提督も、今より危険な状況になっている事は間違いの無い事だ。

 

「君はどう思う? 提督になった子供に何を求める?」

 

何を求めるか。

得た力を振るう事を求め、提督としての活躍を望むか。

自由を奪われた子供に同情して、子供らしい生活を望むのか。

 

「分かりません。難しいと思います。

 誰だってそうだと思います。提督になったのなら仕事をしてほしいと願うでしょうし、かと言って、拘束された状態は願わないでしょう」

 

いくら戦時中とは言え、子供に無理を強いるほど世間は冷たくないだろう。

だが、力を持ちながら遊ばせておくには余裕が無い。

 

「そうだ。正解は無い。どのようにしたところで不満は絶対に出るだろう。

 だから、自分の子供だと思って育てて欲しい」

 

「私の子供ですか?」

 

実感がわかない。

艦娘は子供を産むことは出来ないとされているし、実際に出産を経験した艦娘は存在しない。

人間の母親なら、自分の子供にどう育ってほしいと願うのだろうか。

 

「あの、司令官は何か希望はありますか? 例えば司令官が彼の父親だったら」

 

「そ、そうだな……希望を言えば、東郷元帥のような立派な人物になってほしいな」

 

「それは随分と高望みですね」

 

「あくまで希望だ」

 

落ち着いて考える。

子供の教育だ。良くも悪くも、かつて右も左も分からないまま鎮守府を作り上げた時とは違う。

失敗は取り返しが効かない。だが、今は頼れる仲間が大勢いる。

 

「あの、香取さんと鹿島さんに、協力をお願いしても良いでしょうか?」

 

「構わない。その二人に関わらず、必要だと思えば協力を要請しなさい」

 

「了解しました。早速、相談してみます」

 

ここで悩んでいるより、誰かと相談しながら悩んだ方が良い。

特に教導艦として、駆逐艦や海防艦を鍛え上げた二人なら、自分よりも良い案が出るだろう。

北条に敬礼すると、行動に移すべく部屋を出て教導艦姉妹の下へと向かう。

 

「母親代わりか」

 

途中の廊下で呟く。

荷が重いと思う反面、経験がない行為に興味が湧いてくる。

同時に胸が暖かくなる。

 

「あれ? そういえば……」

 

先程の会話を思い出す。

教育方針に関して、提督に自分が父親ならと聞いてしまった。

これでは、まるで提督と自分の子供ではないか。

二人の子供を育てる。その想像をして、顔を真っ赤にして固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あの、私は外していた方が良かったでしょうか?」

 

「いや。何の問題も無いが」

 

吹雪が出て行った後、大淀は揶揄うように提督に告げた。

北条は平静を装っているが、そうでないことは分かる。

提督が艦娘と関係を持つのは不自然では無い。

そうでない者は、艦娘に対して無機質なものを感じるのに、提督になった者は、間違い無く艦娘に対して欲情するのが証拠だと言える。

 

同時に、肉体関係に対して、積極的な艦娘もいれば、そうでない艦娘もいる。

前者の場合だと、あまりにも相手にされないと士気の低下を招くので、おりを見て抱いた方が良い。

むろん、提督の好みもあるで全員を抱くことは無いが、艦娘の精神的ケアの最も簡単な方法を取らないという選択肢は無いだろう。

 

まして、北条は合理的な判断を優先するので、抱くとしたら自分の好みより、積極的な艦娘を優先させる。

そして、吹雪は北条にとって、特別でありながら、積極的では無い艦娘だ。

表には出さないが、苦楽を共にした吹雪を想う気持ちは強い。それは大淀を始め、多くの艦娘が周知している事実だ。

最近は抱いていないはずだが、そんな相手に二人の子供を連想させるようなことを言われて平静でいられるはずが無い。

 

「少し、明るくなりそうですね」

 

そんな事を連想させる子供が来るのだ。

多少の嫉妬はあるだろうが、歓迎されるだろう。

この先行きの見えない戦争の中でも、明るい話題があれば立ち向かえる。

そう思わずにはいられなかった。

 

 

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