7人目の提督   作:山ウニ

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あどみらる・め~か~

吹雪は平静さを取り戻すと、教導艦姉妹に会い、今回の事を説明した。

預かる子供の教育方針や内容、どのように進めていくか、課題は山という程ある。

 

「なるほど、これは難しいですね。単に戦闘技術を教えるだけでは無いですし」

 

香取が難しい顔をして呟く。

彼女をしても、人間の子供を育てることに、困難さを感じているようだ。

 

「それにしても、東郷元帥ですか。随分と無茶振りでは?」

 

「まあ、そこは理想論と言うか、あくまで希望ですから」

 

「そうですね。そもそも、あの方は叩き上げです。教育で育てられた訳では無いので、再現は不可能でしょう」

 

アドミラルトーゴーで世界中に知られる東郷平八郎は、幕末の薩摩藩士として産まれ、薩英戦争で初陣を経験し、榎本武明の新政府軍との戦争で起きた宮古湾の戦いを始めとする海戦にも参加している。

その後、海外留学で学んだが、実戦を経験した後で学ぶ者と、そうでない者とでは明確な差が出る。

その点が、見栄や保身と言った官僚臭の漂う第二次世界大戦時の首脳陣との、最大の差だろう。

 

「しかし、こうも指針が無ければ、どう進めば良いか分かりませんね」

 

道しるべが無い大海を進めと言っているようなものだ。

下手に進んでも遭難するだけだろう。

 

「私達の知識では、第二次世界大戦を指導した司令部への教育内容になりますからね」

 

「それは司令官が最も嫌うものですよ」

 

現在の自衛隊にも通じるが、精神教育を重視するあまり、戦略・作戦・戦術の研究レベルが低すぎる。

そのため、他国に比べても、兵士は優秀だし、尉官クラスまでの現場の指揮官も悪くない。

だが、佐官クラスからは怪しくなり、将官クラスになると、明らかに他国に見劣りする。

 

「でも、逆に言えば、理想を追い求めて良いんだよね?」

 

重くなりかけた空気を変えたのは、何処かウキウキとした様子の鹿島だった。

 

「何か名案でもあるんですか?」

 

「うん。艦娘(わたしたち)の理想で育てれば良いんじゃないかな?」

 

何を言っているんだと、呆然としながら鹿島の様子を見る。

何を想像しているのか、実に楽しそうだ。

 

「理想と言いますが、それが分からないから苦労しているのですが」

 

「でも、我々が意見を出し合えば……いえ、それを成すのが難しいのでしょう」

 

香取が何か言いかけて、即座に否定する。

要するに艦娘の理想と言っても、一言で言えば優秀な提督だ。

戦略眼や戦術眼に優れ、更に贅沢を言えば、艦娘にとって異性として魅力的な男性。

それは分かるが、どうすればそう育つかは未知数だ。

 

「そうじゃなくて、理想“に”でなく、理想“で”」

 

「え~と……」

 

「私、思うんだよね。提督さんと一緒に勉強出来たら楽しいだろうなって。他に色んな事を経験したり」

 

それは思うが、北条は大人だから……

 

「あれ? 言われてみれば、この子って、艦娘(わたしたち)より、年下?」

 

「その通り♪ おまけに小学5年生だよね。今は12月だから、あと3か月と少しで6年生。更に言えば初期艦は大潮ちゃんだから、最初に出来るのは朝潮型の子達だよね。

 もう、出来過ぎだと思うな♪」

 

「なるほど。確かに今までの実績から、初期艦の姉妹艦は建造で最初に生まれやすい。

 そして、3か月もあれば朝潮型は、大半が建造されそうですね。

 提督と朝潮型が一緒に、小学生生活ですか」

 

「そう。更にその一年があれば、残りの駆逐艦も。中学になったら、朝潮型から別の型にすれば」

 

「面白いですね。艦娘の強さは、固有の能力だけでなく、提督との絆が重視されます。

 それには、提督に艦娘を一人一人知っていただくことが肝要」

 

「おまけに、提督さんを見ていると、同期の人達とは交流があるじゃないですか。

 あれって、羨ましいですよね」

 

北条は防衛大を卒業しているが、苦楽を共にした学友との交流は続いている。

これは、北条だけでなく、他の提督や自衛官を見ていると全員がそうだ。

それに吹雪自身が、最初の苦労を共にしたため、提督とは強い絆を築いている。

逆に、後から建造された艦娘、特に駆逐艦は数が多いため、提督との交流は最低限になってしまう。

艦娘も、自分の事をよく理解してくれない提督では、その能力を発揮しきれはしない。

 

「でも、学校と言っても…」

 

言いかけた言葉は、鹿島が指さす方向を見て、続ける必要は無くなった。

防衛大学、正確には防衛大跡地にある講堂。

 

「そうか。ここって、元は学校か」

 

「うん。提督さんの母校、防衛大学。今は引っ越した後だから、横須賀鎮守府が貰えたけど、施設に関しては残されたままってのが多いから」

 

深海棲艦が誕生して、海岸線の施設は全てが危険地帯になった。

中でも、外洋に近い施設は危険度が高い。

ここ横須賀鎮守府、かつての防衛大学は東京湾の入り口で、横須賀基地で知られる米軍の施設や自衛隊の施設よりも外洋に近く、深海棲艦の急襲を受けやすい立地だ。

防衛大で学んでいる学生は、未来の指導者ではあっても、現役の戦力では無いので、引っ越しを余儀なくされた。

 

その跡地は海上自衛隊が管理していたが、度重なる深海棲艦との戦闘で、隊員と保有艦艇は減少し、むしろ最初から所有していた施設さえ持て余すようになった。

そこで、新鋭の戦力である艦娘を擁する北条が、古巣の、当時は古巣と言う自覚も無しに、上層部に跡地を預からせてくれと頼みこみ、防衛相も東京湾の入り口に、強力な戦力が出来るならと許可を降ろしたため、ここは横須賀鎮守府として立ち上がった。

 

だが、在校生約2000人と言う大所帯が寮生活をする上に、各種訓練施設や運動施設がある場所は広大で、十分の一という数の艦娘が生活するには広すぎた。

中でも講堂などは、手付かずの代表と言っても良い。

 

「まあ、疎開済みの小学校は有ったけど、建物はやられちゃっているし」

 

更に北の海岸には、小さいながらも漁や釣り関係の店が並んでいたが、そんな商売が成り立つような状況では無く、生き残っていた人も内地へと移動している。

それならと、工廠の建造のために、海岸にあった土地も鎮守府のものとなったので、無駄に広い鎮守府となっていた。

多少は痛んでいるし、横須賀の艦娘との線引きは必要になるので、ある程度は工事も必要になるが、そこは妖精さんにお願いすれば何とかなるだろう。

 

「面白そうですね。ですが、ここで学校をするとなると、教師は…」

 

「ハイ! 私がやる!」

 

勢いよく鹿島が手を挙げる。最初からそのつもりだったのだろう。

だが、吹雪の外見では、無理があるので反対はしない。その点、鹿島なら若く見える新任教師でも通じるだろう。

 

「では、鹿島さんを教師に学生生活を始めるとして、指導方針は?」

 

「そこは任せて。時間割とかも先生の仕事だから。ウフフ、楽しい学校を作るぞ~」

 

「なるほどなるほど。鹿島が楽しいとくれば、私は苦しい担当ですね」

 

「え? 香取さん、何を言って…」

 

「先程も言っていたように、強い絆を育むには苦楽を共にする事です。

 楽しみを共有するだけでは不足。共に立ち向かう試練が必要になります。

 そうですね、素敵なイベントを用意いたしましょう」

 

「あ、あの、盛り上がっているところ悪いのですが、司令官に許可を取ってからでないと」

 

「そうですね。鹿島、急いで計画書を作成しましょうか」

 

「了解。そういえば、この子の学力って……凄い」

 

「ほほう。これはこれは」

 

宇喜多鷲一の成績表を見て、二人が驚きの声を上げる。

無理もない。公立の小学生のテストとは言え、ほぼ満点の上に、運動神経も良い。

 

「将来の夢が戦闘機のパイロットですから、それを目指して頑張って来たようです。

 私達の頃と違って、今のパイロットって士官だけがなれる職種で、体力があって学業も優秀でないと就けない職種だから、この子は勉強もスポーツも得意みたいです」

 

戦闘機のパイロットへの道は実に狭き門だ。

防衛大学を基準とする大学に進学する学力と、音速を超える機体が発するGに耐える体力。

そして、それだけではない様々なテストを乗り越えた者だけがなれる、努力だけでも才能だけでもなれないのが現在の戦闘機パイロットである。

 

「いえ、大事なのは単なる夢では無く、実現に必要な事を聞いて、目指していることです。

 流石は、あの方の御子息と言ったところでしょうか。これは、評価を改める必要がありそうですね」

 

香取が言うあの方の御子息という言葉に緊張感を抱く。

香取だけではない、多くの艦娘や、米軍のパイロットの間でも知られている人物。

 

「下手な教育をすれば、多方面に敵を作りそうですね」

 

「佐世保の提督と旗下の艦娘を筆頭に、米軍にまで何と言われるか」

 

「米軍にもいますよ。パイロット上がりの提督が」

 

「それは大変。これは少し手厳しく行くべきのようですね」

 

「うんうん。間違っても提督になるのは、簡単だったなんて言わないようにしないとね」

 

「その通り。では、計画書を作りますよ」

 

妖しい笑みを浮かべながら作業に没頭する2人を見ながら、吹雪はお手柔らかにというタイミングを見失ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「潰す気かね?」

 

計画書を見ながら、北条が漏らした第一声がそれだった。

おそらく率直な感想なのだろう。

 

「いえ、当面は様子を見ながら、随時修正していきます。

 年度が変わる4月までは、私が家庭教師をしますし、そこで無理と判断したら計画は中止します。

 また、精神面でのケアは、当然ながら最優先で行う予定です」

 

「なるほど、だが、確かに計画自体は良いかもしれない。

 実際に、これを見ると、最初に大潮が現れたのは、このためだったと思えてくる」

 

北条は、もう1人の提督が睦月だったので、逆が良かったという感想を漏らしたそうだ。

だが、大淀に言われて、武藤には睦月が適役だという結論に達した。

大潮には、納得がいっていなかったが、艦娘と学友になって成長するという企画を考えれば、正に大潮は適任だ。

 

「では、彼の鎮守府用として、建造用ドックの作成を始めよう。

 これは、小型で良いか」

 

「むしろ小型が望ましいです。

 現状では戦艦は当然ながら、重巡の艦娘がいても困るくらいですから」

 

「良いだろう。施設の建造は引き受けよう。この計画を進めてくれ」

 

「了解です」

 

 

 

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