7人目の提督   作:山ウニ

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見知らぬ地へと

何度目かの車の乗り換えをした。

同じ車両に乗り続けないのは、襲撃の危険から守るためらしい。

高速道路を走り続けているが、燃料の高騰の影響からか、他の車はほとんど見かけない。

だが、厳重な警戒は続いており、休憩に入るパーキングエリアは全て封鎖されており、自衛隊以外の車両が入らないようにしている。

 

関門橋を超えて、山陽自動車道を通ったが、その途中で、家族とは別れた。呉に向かうらしい。

鷲一が向かう先は横須賀なので、その時点では、まだ半分にも達していない。夜を徹して進むので道中居眠りをしたが、疲労がたまっていく。

1トン半トラックに乗るのは初めてだが、想像以上に乗り心地が悪い。

如何にも自衛隊の車と言った風情の車両は、シートは固く、長時間座っていると、尻が痛くなる。

疲れてはいるが、今は身体を動かしたかった。

 

「平気か? もう少しで到着だが」

 

「大丈夫です。むしろ良い経験でした」

 

心配してくれる陸上自衛隊の隊員に笑顔で答える。

辛いのは辛いが、良い経験だというのは、世辞ではなく本音だった。

航空とはいえ、自衛隊に憧れる少年としては、1トン半トラックでの移動は、経験したい事の一つだった。

出来れば、隊員が並んでいる中で座ってみたかったが、横になって休めるように配慮をしてくれたので、広い空間には、鷲一の他には大潮と2名の隊員がいるだけだ。

 

「司令官、司令官」

 

大潮が、幌の隙間から外を眺めながら声をかけて来る。

また、何かを発見したのだろう。発見と言っても1km以上もある長いトンネルや、高いビルなどで、今の時代では珍しいものでは無い。

だが、大潮にとっては、ある種のカルチャーショックの連続で、ずっと興奮していた。

この大潮の反応のお蔭で、新田原基地のある宮崎から、横須賀鎮守府のある神奈川県までの車両での移動に耐えていられる。

 

いや、移動だけではないのだろう。

葬儀の時に感じていた不安や喪失感。あれが耐えられなかったのだ。

父は留守がちだったとはいえ、間違いなく家族の中心だった。

父が帰るのに合わせて、家族でスケジュールを組んでいたのだ。

 

その父が二度と帰らない。だったら家族がどうなっていくか、不安で仕方が無かった。

どう考えても明るい未来が思い浮かばない。優しかった母が変わるかもしれない。

その恐怖に比べたら、家族と離れて提督になる事への不安など、どうという事もなかった。

鍋島を知っているということはあるが、それが無くても躊躇うことなく踏み出していただろう。

 

恐怖から逃げ出した先が、提督と言う道。

そう考えると罪悪感があるが、後には引けない。

やがて、車両が大きく曲がり始めた。高速道路を降りたようだ。

大潮と並んで外を見ると、都会ではあるが空襲の爪痕が散見された。

 

「空襲を受けたんですか?」

 

「ああ、この辺りは酷かったな。前は東京湾の中にまで入り込まれたからな」

 

「今は大丈夫なんですか?」

 

生々しい廃墟が見える。情けないと思いながらも、前と言う言葉に縋ってしまった。

自分がこうも臆病だとは思ってもみなかった。

 

「ああ。横須賀鎮守府が出来たから、今は平気だ。安心して良い」

 

これから向かう先の名前が出て安心する。

テレビでも見たことがあるが、艦娘を擁する鎮守府の存在は、誰にとっても安心をもたらす存在になっていた。

どんなところか、期待と不安があるが、期待がある分だけマシだろう。

 

大潮と外を見ながら進んでいる内に、見る見る暗くなってきた。

もう夕方のようだ。到着は5時前の予定だったが、少し遅れていると思った。

 

「遅くなりそうなんですか?」

 

「いや、現在は16時40分(イチロクヨンマル)。あと10分ほどで到着するから予定通りだ」

 

「まだ、そんな時間? 外は暗いですけど」

 

「ん? 普通だと思うが……ああ、そうか」

 

話がかみ合わないので首を傾げていたら、自衛隊の隊員は納得したように頷いた。

 

「関東は日の出と日没が、九州より早いんだよ。ざっと一時間ほどの差がある。

 そっちだと、17時くらいまでは暗くならないが、朝は7時くらいまで暗いだろ?」

 

「はい。こっちは違うんですか?」

 

「ああ、6時には明るくなる。サラリーマンからしたら、起きたら明るいし、帰る時間は暗くなっている」

 

まさか同じ日本で、日の出と日没の時間に、そんな差があるとは思わなかった。

改めて、遠い場所に来たのだと実感する。

 

「俺、方言とか大丈夫ですかね?」

 

両親は九州の出身ではないし、友人の方言が気になるくらいだった。

だが、自分では標準語を使っているつもりでも、実際は違って何を言っているか分からないなんてことは無いだろうか。

 

「いや、敬語を使っているせいもあるだろうけど、癖は無さそうだ。

 それに、少しくらい方言があっても、気にする必要は無い。確か、艦娘にも方言を使っている娘がいたはずだ」

 

「そうなんですか? 気を付けた方が良い事とかないですか?

 日本では普通でも、海外だと変に思われることがあるって聞いたことがあります」

 

「いや、海外では無いんだから、そう気にするな」

 

笑われてしまったが、問題は無さそうなので安心する。

すると、もう一人の隊員が、何かを思い出したように、アドバイスをくれる。

 

「方言は愛嬌の一種だから気にしないで良いよ。

 ただ、物を片付ける時に『直す』って言い方は勘違いされるかな」

 

「この辺は言わないんですか?」

 

「ああ、九州と言うより、西の方では普通に使うし、標準語だと思っていたが、前に掃除道具を片付ける時に、『これ直しておきます』って言ったら、『何処が壊れたんだ』って、返って来たよ」

 

その隊員は福岡の出身だそうだ。その時は、お互いに話が嚙み合わずにポカンとしたそうだ。

だが、そんな間違いも、結局は笑い話になるだけだから、積極的に間違っていけと言ってくれた。

間違わなければ、正しい事も分からないそうだ。確かにそう考えると気が楽になる。

 

「到着したな」

 

雑談をしている間に、目的地である横須賀鎮守府に到着した。

停車した1トン半トラックから降りると、前後を挟んで移動していた車両からも隊員が降りており、周囲を警戒しているようだ。

そんな中に、セーラー服を着た中学生くらいの少女が近付いてきた。

屈強な男性を前にしても怯むことなく、毅然とした態度で、ここまで同行してくれた隊員に敬礼をする。

 

「駆逐艦吹雪です。彼を送って下さり、ありがとうございました」

 

「任務ですのでお気になさらず。この子のこと、よろしくお願いします」

 

「了解です。責任を持って預からせていただきます」

 

少し驚いた顔をした後、柔らかい笑みを浮かべて返答する。

髪の色といい、鷲一が知っている大潮や叢雲と違い、典型的な日本人に見える容姿だが、他の人にはどう見えているのか少しだけ気になった。

そんな彼女が、こちらに近付くと柔らかい笑みを浮かべる。

 

「宇喜多鷲一君だね。私の名は吹雪。これからの生活で分らない事や困ったことがあれば、何でも言ってね」

 

「宇喜多鷲一です。よろしくお願いします」

 

「大潮です!」

 

挨拶を交わした後、送ってくれた陸自の隊員に礼を言いながら頭を下げる。

そのまま、吹雪に促されて施設の奥へと進んだ。

そして、道中行き先を告げられる。

 

「じゃあ、まずは司令官に、ここ横須賀鎮守府の提督に会ってもらうね」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「明るい少年で助かりましたね」

 

「そうだな。泣く子供を引きずる覚悟もしていたんだが」

 

護送任務を終えた陸自の隊員は、帰路につきながら安堵の言葉を漏らしていた。

任務を受けた時は、小学生の子供を家族から引き離すような仕事内容に、憂鬱な気分だったが、実際に接してみると、そんな暗い雰囲気は無く、平然とした様子だった。

むしろ、途中で立ち寄ったパーキングでは、もう直ぐ会えなくなる母親よりも、家族と別れる原因である艦娘と親しく話していた。

道中でも、終始仲が良く、戸惑いさえ覚えたほどだ。

 

「でも、やはり複雑ですよね。最後に言葉をかけようと思ってたんですが、どう言えばいいか分かりませんでした」

 

「俺もそうだよ」

 

あの少年への想い。『立派な提督になってくれ』『子供らしく楽しい生活をしてくれ』どちらも本心だ。

だが、それは相反する願いだった。

口にする事は許されないと思った。

ただ、楽しそうにしている幼い提督と艦娘のコンビが、これからも笑顔でいられることを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

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「私が北条だ。何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってくれ」

 

「宇喜多です。お世話になります」

 

柔らかい笑顔で挨拶をしてくれた北条は、父の大地より落ち着いた雰囲気だが、同じくらいの年齢だろう。

鍋島よりも、提督と言う言葉の雰囲気に合っていると思えた。

だが、雰囲気は違っても、父や鍋島と言った親しい大人と、何処か同じ感じがする。

緊張よりも安らぎを感じてた。

 

「夕食は19時からになる。食事は一緒にとろう。その後、入浴が20時。

 それまで時間があるから、吹雪に軽く施設の案内をしてもらうと良い。質問があれば吹雪に何でも聞いてくれ」

 

「分かりました」

 

そう言って、提督室を出ると、吹雪の後について行く。

 

「じゃあ、生活する部屋のあるところへ案内するね。

 全体の案内は、外が明るくなってからした方が良いから、明日にするとして、今日はゆっくりした方が良いと思うけど、何か質問とか希望はあるかな」

 

「お風呂は近いんですか?」

 

燃料代の高騰は、入浴にも影響している。

庶民にとって毎日の入浴は贅沢になったと言って良い。

汗をかく仕事の場合は、会社側が入浴施設を設置し、汚れを落として帰宅し、家庭では風呂を炊くことはしないで、一日間隔くらいで銭湯へと向かうのが庶民の基本的な生活だ。

 

「ここは、軍施設と言って良いからね。施設内にお風呂はあるし、毎日入ることが出来るよ」

 

それは良い環境だった。

その分、身体を動かすことも多いかも知れないが、運動は苦手ではない。

むしろ、今はそれを求めていた。

 

「ここって、運動できる場所はありますか?」

 

 

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