7人目の提督   作:山ウニ

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東京湾から相模湾周辺の地理が得意でないのなら、グーグルマップで伊豆大島の位置を確認することをお勧めします。
作中に出てくる場所の地図を見ると、日本のヤバさが伝わると思います。



案内

目が覚めると隣に女の子が寝ていれば、一気に覚醒する。

普段でも寝起きは良い方だが、今日のそれは、良いと言えるのだろうかと疑問に思った。

改めて大潮の寝顔を見る。これで、寝相が悪くて、大口でも開いてくれていれば、微笑ましく思えるだろうが、幸か不幸か、大人しくスヤスヤと寝息を立てている大潮は、可愛らしい少女だと再認識するだけだった。

 

だが、昨夜は眠れないかと心配していたが、そんなことも無く、熟睡から目覚めた朝は快適だった。

外が明るかったので、普段より遅い目覚めだと思ったが、時計を見ると6時。

戸惑ったが、昨日、陸自の人に聞いた話を思い出す。

 

「本当に明るい」

 

一昨日までなら、この明るさは7時くらいだ。

とっくに通学の準備を始めている時間だった。

しかし、それでも寝すぎたと思う。普段は6時前には起きていた。

父の教育で、6時の起床に身体が適応するようにしていたし、そもそも、軍関係(こういうところ)なら、6時起床が普通では無いのかと思う。

 

布団から出て、着替える。

外に出ようかとも思ったが、周囲に何があるか理解していない。

この手の場所は、入ってはいけないところもあるだろうし、勝手な行動は慎むべきだと自制する。

 

「司令官、おはようございます」

 

これからの行動に悩んでいると、大潮が目を覚まし、素早く立ち上がって挨拶をしてくる。

こちらからも挨拶を返すと、普通に着替えを始めだした。

慌てて目を逸らすが、そう待たされることも無く、着替えは終わってくれた。

何時ものように髪留めをすると、活発な女の子が誕生してホッとする。

これからどうするか、相談しようと思ったところで、ドアがノックされる。

 

「おはよう。朝食が出来てるけど、大丈夫?」

 

吹雪だった。タイミングの良さに驚いたが、挨拶を返して食堂へと向かう。

朝食は普通で、ご飯とみそ汁。それにオカラと漬物というメニューだった。

食事を終えると、施設の案内が始まる。

昨日到着した時は、暗かったので分からなかったが、建造物の並びが不自然な部分があった。

 

「ここって以前は防衛大学があった場所なの。深海棲艦の攻撃で壊れた建物なんかもあるし、鎮守府が出来てから作られた建物もあるけど、前に使っていたものは結構あるかな」

 

それで、並びが不自然なんだと思った。

ただ、それよりも新しく作る余裕はあったのだなと、感心しながら進んでいく。

昨日使った体育館や、これから世話になる講堂。図書館もあるが、中の書物は新しい大学へと運んだので空っぽだった。

広い敷地を見て回ると、時間が経過し、昼を回っていた。

 

「さて、基本的にはこんなところかな。午後からは外に…」

 

「ドック、ドックが必要です!」

 

案内を終わろうとする吹雪に、大潮が力説し始めた。

司令官のためのドックを作らなければならないと。

 

「大丈夫。もう建造してるから。ホラ」

 

吹雪が海岸に向かって指を差す。

そこには、今までの学び舎の施設とは明らかに異なる、巨大で無骨な建物があった。

 

「あそこにあるのが横須賀鎮守府の工廠。そこで建造中のがあるでしょ。あれが鷲一くんの工廠になるの。

 中にはドックの他に、入渠施設や艤装の整備を行う施設もあるの。

 でも、完成は3日後の予定だから、それまでお預け」

 

それを聞いて大潮が安堵の声を漏らす。

余程、重要な施設のようだ。

 

「じゃあ、お昼を食べようか。

 その後は、外へ出るから、そのつもりで」

 

そして、昼食をとり、一度離れた吹雪が海自の制服を着て戻ってきた。

中学生にしか見えない吹雪に、海自の制服は似合っていなかったが口には出さない。

 

「自分でも、この格好は無いと思うけど、これ着ないと運転できないから」

 

どうやら車での移動らしい。

吹雪が車の運転が出来ることに驚いたが、本人い言わせれば見た目はコレでも、十分に大人らしい。

自衛隊が使っているオリーブドラブで塗装されたSUV車の後部座席に乗車すると、慣れた様子で運転を始めた。

 

「そんなに遠くないんだけど、流石に歩きだと時間がかかるからね。

 それと、助手席のポケットに地図があるから」

 

そう言いながら、先程の工廠を横に見ながら海岸沿いに進んでいく。

言われた通りの場所には折りたたまれた紙があり、広げると大きな日本地図だった。

 

「小学生だったら地理の授業は無いよね。一応は日本地図の形は習うみたいだけど」

 

「はい。ここが何処かも分かります。三浦半島を海岸沿いに南へ進んでいますよね?」

 

「正解です。これから向かうのは半島の先端にある、劒崎灯台」

 

そう長い間、車に揺られることも無く、その目的地へと到着した。

灯台の立っている丘からは、青い空に、青い海。美しい絶景が広がっていた。

 

「うん。良い天気。さて、それじゃ少しだけ地理の授業。

 まずは西に見えるのが伊豆半島。東に見えるのが房総半島。そして、南に見える海の中にポツンと見えるのが伊豆大島。地図と見比べて」

 

言われた通りに見て、伊豆大島と言う言葉に、ドキッとしたが、最後に地図を確認する。

改めて東京湾の地形を見ると、西の三浦半島より、東の房総半島の方が突き出ている。

むしろ、伊豆半島と房総半島で作られたエリアの真ん中に、小さい三浦半島が突き出ているような感じだ。

そして、伊豆半島と房総半島の先端を結んだライン上に、伊豆大島がある。

 

「凄く近いよね。この間までは、あそこに深海棲艦の拠点があった」

 

目に見える位置にある島に深海棲艦がいた。その言葉は衝撃だった。

宮崎に居た頃は、少なくとも、目に見える場所にはいなかったのだ。

それが首都である東京の直ぐ側にある島に深海棲艦がいた。

 

「のど元に付きつけられた剣。それがあの島。

 私たち横須賀鎮守府は、あの島と戦い続けた。最初は今の鷲一くんと一緒。5年前の司令官には、私しかいなかった。

 司令官と一緒に頑張って、戦力を増やしていったけど、それは敵も一緒で、横須賀鎮守府が出来た頃は、占領された直後だったから、向こうの戦力も少なかったの」

 

それから、長い戦いが語られる。

伊豆諸島の陥落は、日本に衝撃を与えた。

この目と鼻の先にある大島が陥落した時には、海上自衛隊の戦力は壊滅状態に等しく、同時期に設立した鎮守府には大した戦力も無かった。

鎮守府が出来て多少はマシになったとは言え、時には艦砲射撃で、時には空襲で、本土にも大きな被害を受け続けた。

それでも、最初は駆逐艦だけで。続けて軽巡洋艦が生まれ水雷戦隊で戦い、やがて、戦艦や空母が生まれ艦隊決戦を挑んだ。

 

「それが、やっと取り戻すことが出来た。他の鎮守府の力と、自衛隊の力を結集しての勝利。

 今は横須賀の主力艦隊は、あの大島に駐在している。あそこで守っていれば、大きな地点をカバーできる。この勝利は本当に大きかったの」

 

よく理解できる。地図を、そして、目の前に見える光景を見れば。

 

「でも、多くの艦娘、そして自衛隊員の人達の命と引き換えにした勝利」

 

その中に、父もいる。

そして、父の別れ際の言葉を思い出す。

 

「お礼を言わせてほしい。そして、謝らせてほしい。

 私達が、もっと上手く戦えていたら、お父さんも…」

 

その続きを言わせないように、質問を被せる。

 

「大島だけでは無いんですよね?

 聞いたことがあります。艦娘は深海棲艦より強いって。それに、敵が増えると言っても限度があると」

 

「うん。私達が大島で戦っている間に、他の島が完全に制圧されてしまった。

 奪って直ぐは、深海棲艦の数もそんなに増えないから、大島だけなら問題は無かった」

 

深海棲艦は戦略を知っている。

大島で戦争をしている間に、伊豆諸島の他の島を完全に勢力圏に納め、拠点としていった。

 

「中でも、八丈島は第二級拠点にまで進化している」

 

第二級拠点。

深海棲艦の拠点の規模の目安であり、三級で鬼級。二級で姫級。一級だと両者が複数見られる。

北太平洋では、第一級はハワイ諸島のオアフ島のみ。

第二級は、日本の領土だと、沖縄諸島の沖縄島、小笠原諸島の硫黄島、そして、伊豆諸島の八丈島。

改めて地図を見る。南に延びる数々の島。そして、最後の方にある瓢箪(ヒョウタン)のような形の大きな島。

 

父が最後に言った言葉は、「ちょっと、伊豆諸島を取り返してくる。手始めに大島な」だった。

何時ものように明るく、無事に戻って来ることを疑うことも無い様子で出て行った。

あの時の父は、ここ全部を取り返すつもりだったのだ。

それなのに、未だに深海棲艦の拠点として残っている。

それが、どうしようもなく許し難い存在として、消し難い染みのように感じられた。

 

 

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