7人目の提督   作:山ウニ

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この世界の建造はこんな感じで。
ちなみにドロップは無し。レア艦も特にありません。



初めての建造

ついにドックが完成した。

鷲一も新しい環境に適応しているし、予定通りに建造を開始できる。

吹雪は、北条提督に報告すると、建造の準備を進めていた。

 

「明日は建造をするのね?」

 

興味津々な様子の如月に、肯定の返事をすると、皐月と松風が近付いてきた。

やはり興味があるようだ。

 

「でも、朝潮型かぁ。大丈夫かな?」

 

「大丈夫って、何が?」

 

「あそこ、クセが強いっていうか……ちなみに、吹雪は誰だったら良いと思う?」

 

「それは当然、朝潮ちゃん一択」

 

「そう? 別に朝潮じゃなくても、霞でさえなければ、良いと思うけどなぁ。満潮もあんまりだけど、霞よりはマシだし」

 

半ば予想はしていたが、皐月の心配していることは分かった。

朝潮型は全部で10人。その内の一人である霞は、駆逐艦の中で最も性格がキツイ。

次いでキツイのが曙。更に満潮になるだろう。ただ、二人とも距離を置けば危害は加えないが、霞の場合はそうはいかない。あえて踏み込んできて暴言を吐くキャラだ。

小学生である鷲一には辛いかも知れない。

 

「そうかい? すでに大潮がいるんだ。むしろ霞の方がバランスが取れると思うけどな。

 これで朝潮なんて、甘えた子供にならないか心配だけど」

 

一方の松風は、あえて霞に厳しくさせる事を望んでいるようだ。

 

「甘えた子供って、現に子供なんだからさ」

 

「だったら言い換えよう。成長したら甘えた大人だ。

 考えてもみたまえ。軍人なんて理不尽に耐えるのが仕事だと言っても良い。

 敵も味方も、思い通りにならない諸々の連続が、戦場の現実だよ。理不尽の詰め合わせさ。

 おまけに、今の時代は、前と違って、助けられて当然だって顔をした連中がゴロゴロいる。

 一々、サッチ―みたいに怒っていたら身が持たないさ」

 

皐月が押し黙る。

前に文月が、勝手に漁をしていた民間人を、深海棲艦に襲われそうになったところを救助した。

それなのに、助けるのが遅い、税金泥棒をと罵られた事がある。

皐月は憤慨していたが、それが今の時代の現実だ。いくらかはマシになったが、そんな人たちは多く残っている。

 

「それでも、昔に比べれば随分とマシだって言うからね。凄いと思うよ。自衛隊の人達って。

 実際に、彼等の訓練の第一歩は、理不尽の連続に耐える事らしい。上官の横暴に黙って服従。ここがあった防衛大でさえ、先輩から理不尽な扱いを受けるらしい。

 まあ、受ける方も大変だけど、命令する側も色々悩みながらやってるそうだけどね。

 理不尽な命令への慣れは、一般人から逸脱する儀式。心から尊敬する。戦力が頼りないという声もあるけど、ボクは彼等と共に戦える事を誇りに思っている」

 

戦時は当然で、平時でさえ、命令があれば、どんな任務も引き受けなければならない。

そこで、自身の人権を叫ぶことは許されず、時には無残に死んだ死体を回収する任務もある。

 

「だからこそだ。霞が使う程度の暴言に耐えられない人間に、軍人が務まるはずが無い。

 それとも、提督は別だって言うかい? 少なくともボクはイヤだな。

 現に、僕たちの司令官は霞の暴言に対して、表情一つ変えずにあしらっている。そよ風のごとくだ」

 

「そうだけどさ。急には厳しいよ。

 覚悟を決めた大人と、流されるようにここまで来た子供を一緒にするべきじゃない。

 流された事を責めるとしたら、それこそお門違いだよ。拒否なんて出来るわけが無いしね。

 だいたい潰れでもしたら、どうすんのさ? キミは目的を履き違えているよ。吹雪の目的は、提督としてやっていけるかテストする事じゃない。彼を提督に相応しい人間に育てる事だよ」

 

「それは確かに。すまない。少し焦っていたようだ」

 

「その気持ちは分かるよ。戦力が足らない目の前の現実を見てれば、誰だってそう思う。

 でも、考え方を変えれば、提督の数は今の倍いても足りないんだ。二人追加も三人追加も変わらないね。

 なにしろ、この戦争の勝利達成条件は、世界中の制海権の確保。日本近海の安全を確保したところで、ダラダラと戦い続けるしかないからね。

 このままじゃ、国民の不満も燻り続ける。その怖さは、現実を見ずにアメリカに戦いを挑んだボクたちはイヤというほど知っている」

 

少し現実を見れば、両国の戦力差は明らかだ。

それなのに、戦争に突入したのも、負けが明らかになった後も戦い続けるのも、現在で言われているように、一部の軍人の暴走などで出来るはずが無い。

 

「だからこそ、この企画は面白いんだ。悪い意味じゃないよ。単純に見てて面白いってのは否定しないしね。

 ただ、やはり興味があるな。あの子が、どう育っていくのか。

 この現状を変える切り札になってくれたら。そんな事を思うんだ」

 

「良いね。その希望に僕も乗ろう。現状で打開策が無いのは確かだ。

 そのためには、プレッシャーで顔色が悪くなっている吹雪の体調なんて軽いものだろう」

 

「え? 吹雪?」

 

お腹が痛い。

ただでさえ子供を育てるなんて、無茶振りが来てるのに、それを期待し過ぎている友人の言葉は、心でなく胃に突き刺さる。

 

「ところで、吹雪ちゃんが朝潮ちゃん一択だって思う理由は?」

 

気を使ってくれたのか、今まで黙っていた如月が話を戻してくれる。

逃げる訳では無いが、その言葉に甘えて自分の考えを述べる。

 

「予想として、自分の提督(司令官)が、他所の提督の支配下にある事に、不満を覚える艦娘が出てくる。

 この面倒ごとの対処法として色々考えたけど、朝潮ちゃんが最初に来てくれれば凄く楽になる」

 

「あ、悪い顔してる」

 

「優しさもあるよ。もう直ぐ、年が明けるからね。年内の建造は5回を予定してるけど」

 

「5回? 今日は20日だよ。残り10日あるから10回はいけるよね?」

 

「いきなり増やすのもね。あの子の基本方針は、艦娘との絆を太くすることだから、一日おきが妥当かなと。

 それに、甘いって言われるかもしれないけど、最初の正月は平和な環境で迎えて欲しいし」

 

駆逐艦なら一日で建造されるが、矢継ぎ早で建造をして、正月を知らない少女に囲まれるのは、精神衛生上も好ましくない。

 

「それに、今は横須賀の資材を回しているけど、年明けからは、自分達で資材の回収に向かってもらう予定なの。

 その任務のためにも、朝潮型をまとめる朝潮ちゃんが早くほしい。

 霞ちゃんと満潮ちゃんだけでなく、荒潮ちゃんや霰ちゃんも、別の方向で難しいし、まとめ役の朝潮ちゃんは最初にいてくれた方が、本人にも妹たちにとってもやりやすいから」

 

最悪、最後に朝潮だと、姉妹の力関係で朝潮が低くなりかねない。

そうなったら、あの面子はまとまりを無くしてしまう可能性がある。

 

「確かにね。睦月ちゃんは後の方だったから、上手く妹をまとめきれてないし」

 

如月が納得したようにしているが、睦月の場合は最初から苦手な気がしないでもない。

吹雪も得意とは言えないが、姉力の低さでは、睦月が長女勢の中でもダントツ最下位だろう。

 

「ちなみに、如月は誰がお勧め?」

 

「う~ん、技の荒潮ちゃんか、力の峯雲ちゃんか。悩むところね」

 

テクがどうの、おっぱいは正義とか呟いている。

どうして、こうも下の話に持って行きたがるのだろう。

 

「まあ、朝潮押しの理由は分かったし、納得もいったよ。

 確かに、5回建造して、満潮、荒潮、山雲、霰、霞なんかだったら、お正月は大変だろうね」

 

その光景を想像して頭を押さえる。態度が悪い二人に、謎の多い言動で振り回すのが二人。更に重度のシスコンがいて、まとめ役不在。

最初になんて贅沢は言わないが、少なくとも年内には朝潮に来て欲しい。

 

「でも、結局のところボクたちが騒いだところで、最終的には、あの子の運試しだ。

 かの東郷元帥は、強運だと言われていたそうだが、あの子はどうなんだろうね?」

 

戦場で、運と言うのは馬鹿にならない。

運が悪ければ、流れ弾に当たってあっさりと戦死だ。かの織田信長も、桶狭間の奇襲で戦死していたら、単なる無謀で身の程知らずな愚将として歴史に名を残していただろう。

むしろ、名将と愚将を分けるのは、運によって左右された結果から論じてるだけかもしれない。

最初の建造で運が試される。どうにも、ただの建造ではなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「これが建造ドック?」

 

巨大なプールに言葉を失う。初めて見た妖精の存在にも驚いたが、この規格外の大きさのプールも驚きだ。

狭い方でさえ、学校にあったプールより長いだろう。

深さもあり、海水が入っているが、底が見えない。

いや、形はプールだが、これは絶対に別物だ。大きすぎる。

 

「縦に200メートル、横で50メートル、深さも50メートルよ」

 

考えを読まれたようで、吹雪が教えてくれる。

何の装置か、数値を入力する箇所が4つと、いくつかのスイッチがある装置の前まで連れていかれた。

 

「じゃあ、始めるけど、今回は、数値は最低限で良いから操作する必要は無いわ。あとは…」

 

それほど難しい事では無さそうだ。

だが、これで艦娘を建造できるというのが理解できない。

 

「まあ、ものは試しってことで。こればかりは、口で言っても理解しにくいからね」

 

言われた通りにやってみる。

プールに何かが投入されているが、それが何かは良く分からない。

やがて、広がりつつも、プール全体には行き渡らず、おぼろげな船のような形状で落ち着いてきた。

 

「うん。この影の大きさから駆逐艦ね。軽巡だったら時間がかかるけど、駆逐艦なら明日の朝には出来てるよ」

 

「駆逐艦と軽巡で違うんですか?」

 

「艦種によって建造日数は変わっていくの。駆逐艦なら1日。戦艦や空母だと一か月はかかるの」

 

「むしろ、そんなに早く出来る方が信じられないんですけど」

 

「まあね。日刊駆逐艦に、月刊空母。米帝プレイをリアルでやれるんだから、艦娘って凄いよねぇ……って、通じないネタだったね。まあ、明日まではお預けってことだから、今日はここまで」

 

どうなっていくか見ていたい気もするが、流石に一日中見ていると飽きるだろう。

後ろ髪を引かれる想いながらも、工廠を離れて、吹雪の監修のもとで勉強をする。

本格的な勉強は、4月の新年度からなのだが、サボる訳には行かない。

その日は集中力が散漫になりかけながらも、何とかやり過ごし、翌日の朝を迎えることが出来た。

 

「船が沈んでいる」

 

それを見た時は、自然と声が出た。

昨日は、おぼろな影に見えたが、今日は沈んでいる船がハッキリと見えた。

深い海水の濁りがあって、細かい輪郭は分からないが、200メートルのプールの、半分を占める全長だ。

それに主砲らしいものも見える。間違いなく軍艦だ。

 

「朝潮型です!」

 

「うん。間違いないね。誰かは分かる?」

 

「ゴメンなさい。そこまでは無理ですぅ」

 

艦娘と聞いていたが、本物の船を作ったのだろうか?

不思議に思いながらも、次にどうすれば良いのか悩む。

 

「鷲一くん。呼びかけて。声に出さなくても良い。名前も分からないから呼ぶ必要もない。

 ただ、目を覚ますように、起きろと命じてくれればいい」

 

言われた通り、心に念じる。だが、命じろというのは、抵抗があるので、お願いする。

起きてくれ。目を覚ましてくれと。声に出さずに、優しく呼び掛けてみる。

すると、沈んでいた船が淡く光り出す。

そして、水底から蛍が飛んでくるように、無数の小さな光が水面へと向かて来る。

それは一か所に集まり、水面の上で、人の形を作り出す。

人の形が出来るのと、半比例するように、沈んでいた船は消えていく。

もう、水底に船の形は無い。水面に立つ人型は、おぼろげながら長い髪の毛をしている。

 

「ヨシ、大当たり!」

 

吹雪が、はしゃいだような声を上げた。

何か喜ぶようなことがあったのかと聞こうとしたが、そんな余裕は無くなった。

水面に立つ人型の全容が見えてきた。光の集まりだったのが、現実の物質に代わっていた。

黒い髪、白い肌、大潮と同じような服装をしているが、大きな違いとして、右手に軍艦の主砲のようなものを。左手には細長い筒を並べた様な物を付けている。

そして、ランドセルと思ったが、背負っているのは、船の艦橋に見える。

 

「あ、ああ」

 

大潮が何か言おうとしているが、涙ぐんでいて声が出せない。

その少女が目を開く。青とも緑とも言える、写真で見た海外の美しいビーチの海の色。

こちらを見ると、ゆっくりと近付いてくる。歩きではない。水面を滑るように、足も動かさずに近付いてきた。

足元を見ると、船の形をしたサンダルのようなものを履いている。

プールの淵まで辿り着くと、片足を上げて、地面へと踏み出す。

船のような履物は、地面に着く前に幻のように消え、上履きにしか見えない普通の靴へと変わった。

両足で地面に降り立つと、手にしていた武器と、背負っていたランドセル状のものも消える。

普段から見ている大潮の姿と一緒の格好になった少女は、綺麗な敬礼を決める。

 

「駆逐艦朝潮、着任しました」

 

 




流石に30分で完成は、作品のイメージに合わないので、駆逐艦は丸一日。
戦艦や空母は約一か月で完成する設定です。
軽巡洋艦はバラツキあり。最短の天龍は二日で、最大の大淀は七日。
重巡や軽空母は15日前後。
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