白雪聖女様と7人のオーク   作:槍刀拳

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後編 『大悪党の推参』

――カランカラン…

 

 これから拉致をされる絶体絶命な時、再び扉が開かれる。店長が目の前で惨殺されたのを目撃した私は、ホッとするどころか新たに表れた犠牲者に必死に逃げてと祈り続ける。当然、暗殺者部隊のようなローブ全員の視点がそちらに移され、私から奪われた拳銃も扉の先に付きつけられるが……。

 ……そこには誰の姿もなかった。ただ避難所に繋がる通りが広がっている。

 

「おい」

「はっ」

 

 赤ローブが、先ほど店長を惨殺した黒ローブに指示をして扉を閉めさせる。

 今度は邪魔立てが入らないようにと、鍵まで念入りに施錠をして。他の黒ローブも裏口の扉を同じように……閉じて……。

 

「ライトニングパニッシャー! フルコネクト! ネイキッドォッ!!!」

 

 しかし、鍵を掛けたその時。表の扉が眩いサキュラが集団を殲滅させるときに放つ分厚い閃光のような雷撃が、入り口の鍵を閉めた店長殺しの黒ローブの一人を溶かし、床で寝転がっている私と咄嗟に伏せることのできた黒ローブ、そして店長の死体を流れるように盾として流用した赤ローブ以外の店内のあらゆるものが閃光の雷撃で黒く焦がす。

 私はこの雷撃がどういうもので、誰が発しているのかよく知っていた。それは服に付着した感染者の血を落とすためにうちの店へ顔を見せに来てくれる対魔忍の……。

 

「今 で す っ !」

 

「喧嘩の話の時間だ! コラァッ!!!

「“待”ってたぜェ! この“瞬間(トキ)”をよぉ!!!」

「オレサマ、オマエ、マルカジリ!

ヒャッハー! 新鮮なカルティストだー!!!」

「テメェらガタガタうるせぇんだよ! バカヤロー!」

 

 邪教徒達が正面の閃光に怯んだのと同時に裏口の扉が蹴り折り破られ、突き出た足によって黒ローブの1人が吹き飛ばされる。その蹴り飛ばされた衝撃のまま、後頭部を鋭利な机の角に強打させて転がった。

 他にも窓ガラスのない窓枠だけの窓や薄い天井を突き抜けて、武器を片手に乱暴者の蛮族たちがこの洗濯屋に乗り込んでくる。

 全員見たことのある顔だった。正確には最後に見たのは3カ月前。監視房前の通路で分かれたのが最後だ。そう、奴隷商人オークさん、羅刹オークさん、ハイオークチーフさん、フレイムオークさん、オーク傭兵さん、ハイオークさんの姿である。

 

「チィッ! 対魔忍にクソオークども……ッ! 恐れるな! 我々は神に護られし、純潔の血族で構成された信徒だ! 魔のものどもと交わった悪鬼羅刹共に劣る我らではない! 魔の手に堕ちた聖女様を救助するのだ! いあ!! いあ!!!

 

 またたく間に店内は戦場と化した。

 店の外からオークさん達によって破壊された窓や、正面出入り口を通過して黄色のエネルギー弾が飛び交う。黒ローブが閃光によってひるんだ隙をオーク達が鞭や、斧、ナイフで撫で切りにしていく。黒ローブたちもローブの下に隠し持っていた針のような武器などで応戦するも、所詮はヒト。ヒトとオークとでは体の造りが異なればその体格も異なり劣る。オーク達にかなわない生命力や怪力に押し負けて、一人。また一人と力尽きて倒れていく。

 私にできたことは、オークさんたちの戦闘の邪魔にならないように尺取り虫のように拘束された体を動かし、部屋の隅でこの乱闘が終わるのを震えて待つばかりだった。

 ……だが、ある時を境にその震える必要すらなくなる。

 正面出入り口から雷撃がライトマシンガンのように放たれ続けていたのだが、わずかにその射撃が停止する時間があった。その際、1つの巨躯がこの戦場に遅れて登場した。

 

「…………推参ッ」

「やっと真打ち登場か!」

「おせーよホセ! 単独行動はやめろとあれほど!!!」

「レイプは俺達の専売特許だぞ!!! こんな人族のクソ共に出し抜かれそうになってんじゃねーよ!!! クソボケがぁ!」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。雷神の対魔忍を援軍として連れてきたことは評価に値します……よっと!」

「お嬢は左の壁だ!」

「……応ッ!」

 

 私に覆いかぶさる巨大な影。ふわりと浮かび上がる身体。呼吸するたびに胸の奥がきゅんきゅんと熱くなる性欲を刺激される体臭。お姫様のように抱きかかえられ、ごつごつとした鎧が頬にあたる。

 雷神の対魔忍による一撃で暗闇となった店内で、仄かに赤く輝く2つの黒目も白目もない瞳。彼だった。

 しかしその顔は、通路に出て私の視界が天井から吊るされる眩いライトに照らされたことによって見えなくなってしまう。

 

聖女様が奪取されたぞ! 取り戻せ!

「「「「「いあいあー!!!」」」」」

「行かせないわ! ライトニング・ボルトッ!!!

 

 逃げる私達に追っ手が迫ったものの、再び連射される雷神の対魔忍による黄色の閃光によって黒ローブは店から出ることもかなわず地に伏せていく。

 

「アスカ! 先導をお願い!」

「分かってるわよ! 聖女様にオーク兵……。まさに美女と野獣って感じね。ホラホラ! 退いて、退いてー! 警備員(みんな)は洗濯屋ウォッシャーの店に向かって! “また” スティール・ロータス教団絡みよ!」

 

 洗濯屋ウォッシャーから抜け出した後は、雷神の対魔忍に代わって風神の対魔忍が引き継ぐ。

 彼女が先導して走ってくれることで、どうやら私達の姿は『オークに拉致されそうになっている女性』ではなく『ロータス教団から逃げるのを補助しているオーク』として見られているようだ。また、風神の対魔忍の言葉によってアサルトライフルを担いだ兵士が慌ただしく駆け足ですれ違っていく。

 

………

……

 

 風神の対魔忍を先頭にした逃走劇は、私達が兵士が集う駐屯地に到着したことで終わりを告げた。すぐに大きな机の上に寝転がされて、風神の対魔忍が手に持ったナイフやオークさんがダクトテープのつなぎ目を見つけて口の周りに巻かれた拘束具を外してくれる。

 

「もうここなら安心よ。ここなら私の信頼できる兵士たちがいっぱいいるし、仮にこの中に兵士の格好をしたスティール・ロータス教団の人間が混じっていても、すべて私の風遁の術で守ってあげるわ」

「あ、ありがとうございます。アスカさん……」

「…………」

「それに、オークさんも危険な乱戦の中飛び込んで、私をここまで連れて来てくれて…。助かりました。ありがとうございます」

「…………気にするな」

「……あらら。そっぽを向いちゃって。まったく素直じゃないんだから。ここに私とゆきかぜに助けを求めてきた時のような饒舌で見事な狼狽っぷりを見せてあげたいわ」

「…………」

 

 やれやれと首を横に振るアスカさんに、オークさんは私達二人に完全に背中を見せてしまう。まるでもう喋りかけるなと背中で語っているようにも見えた。

 にししっと悪戯をする子供のような笑顔を浮かべたアスカさんが、オークさんに関して更に何か弄ろうとするような素振りが見えたため、助けてくれたオークさんをフォローしようと私は私の方で拉致しようとしてきたあのローブ集団について尋ねてみることにした。

 

「あの、アスカさん “スティール・ロータス教団”って何なんですか?」

「あー……。最近、レジスタンスの拠点で蔓延っている宗教よ。人間こそ至高で、ブレインフレーヤーや魔族に打ち勝てる最後の希望の星だって盲信している連中なの。信徒の話によれば教祖様がいるらしいけど、その教祖についての本名や素顔は不明。それでも最低限わかっていることは、ある時外から流れてきた避難民でその正体は見たこともない呪文を扱う魔術師。彼女を知っている避難民は、彼女の事を敬語で話す愛想のよい日本人で、教団を開く前は炭酸BARの店主だったとか。大工道具で機械いじりが得意というところまでは分かっているのだけど……」

 

 アスカさんはその表情を曇らせる。アスカさんにとっても、そのスティール・ロータス教団の教祖は気味の悪く厄介ことばかり引き起こす問題児として見ているようだ。そしてオークさんの方をチラチラと見ながら言うべきか、言わないべきか悩んでいる。

 

「……俺のことは気にするなと言っただろう。彼女が知りたがっているなら教えてやった方がいい」

「……スティール・ロータス教団の特徴として、オーク族を目の敵にしているところがあるのよ。……確かに世界がこうなる前は、彼等は乱暴者で傍若無人の限りを尽くしている過去があるけどね。だから、そのスティール・ロータスの教祖は世界滅亡前にはオークに対してひどく恨みを抱えている人物だと睨んではいるわ」

「ひどい話。オーク族にもオークさんみたいに良いオークだっているのに……」

「…そうね。でも頭が固くてその道理が通じないのがスティール・ロータス教団の連中よ。その話しを持ち出すと口を揃えて『良いゴブリン問題』『良きオークとは人前に姿を見せないオークだ』というの。覚えておいて」

「…………」

 

 その言葉を区切りに誰も言葉を発さなくなる。誰かが咳払いするぐらい以外の物音がせず、少し通夜のようなムードになる駐屯地。

 その時、出入り口の扉が荒々しく開かれた。兵士の数人が即座に立ち上がり銃口を向け、背を向けていたオークさんもショットガンを構えるが……。すぐに全員武器を降ろしてくれた。

 当然の反応だ。そこに立っていたのは……。

 

「ゆきかぜ!」

「こっちは無事に制圧が済んだわ」

「あのスティール・ロータス教団の幹部は?」

「駄目。また捕まえる前に、笑いながらいつもの意味不明な言語を叫んで……自分の額に釘を打ち込んで……」

「そう……」

 

 ゆきかぜさんの言葉に再び場は静まり返るが、その静寂も瞬時に終わりを告げた。

 

「任務終了。ここに服に付いた血液をクリーニングしてくれるベテランの店員さんがいるって聞いたんだが……」

「お嬢。安否確認とお迎えに上がりました」

「ゲヒャヒャヒャヒャ! オメー、カスカルトから聖女様って呼ばれてるんだってぇ? クソ芋おぼこ娘がよォォオォオオ! オゴッ!」

「だから私の目に狂いはないって普段から言っているでしょう? あの子は輝く原石だって……! こんな時代じゃなければ二つ名と調教次第で一千万はくだらない商品だって……!!!」

「すみません。すみません! いや、ほんとにうちのモンがすみません!!! ちゃんと儂が後で言って聞かせますから! 総大将! アァーッ! 首の骨は折らないで! お願いします! 何でもしますから! 電気鞭で電流は! 電流はああああああああああ!!!」

「バカばっかダナ」

 

 全員、あの邪教徒の返り血で血まみれだったが全員無事な様子だった。

 血の付いた毛皮のコートを脱いで半裸になった羅刹オークさん、気さくにこちらへ敬礼するオーク傭兵さん、汚い言葉で真実を語ったがゆえに首を絞められるハイオークさん、ハイオークさんの首を鞭で締め上げる奴隷商人オークさん、奴隷商さんに必死に謝罪するハイオークチーフさん、あきれた様子のフレイムオークさんの順で入ってくる。

 みんな恐ろしい牙を歪めて駐屯地にいる兵士さん方の顔は緊張の趣だったが、ゲラゲラと賑やかで楽しそうだと私は思った。

 6人は兵士に囲まれても気にする様子もなく、私の元まで歩み寄ってくる。それから最低でも約8フィートもある巨漢な壁がぐるり取り囲んだが、初めて会ったあの時とは違って別段恐怖を感じることはなかった。

 

「んで? お嬢、アレはコイツから貰ったか?」

「アレ? アレって?」

「ンだヨ。サッサと渡しチまえヨ」

「そんなんじゃ、いつまで経ってもオークから、オーク兵にジョブチェンジしないぞ」

「オラッ! イケッ! 恥ずかしがってんじゃねー! 出せ!」

 

 私が首をかしげると、オークさんをのぞいた他のオークさん達が『なんだよ。まだ渡してなかったのかよ』と言った様子で肘や膝で、オークさんをつつきまわされる。

 オーク基準の殴打がどれほどの威力が普通なのかは分からないが、彼等に肘打ち、膝蹴り、頭を叩かれたオークさんはその巨体をまるでドラム式の洗濯機で脱水されるときのようにぐるぐると打ち回される。オークさん基準では、痛そうな顔はしていないので、きっと彼等にとっては小突きあうぐらいなのかもしれない。

 洗濯機で遠心力脱水状態が終わらない彼を見ながら、ゆきかぜさんやアスカさんの二人を見ると、アスカさんは子供っぽく『ニシシっ♪』と楽しそうに笑い、ゆきかぜさんは肩を竦めて呆れた顔をしていた。

 

 5分ぐらい小突き回されたあと、オークさんがオーク族らしくないもじもじとした様子でポーチを開ける。

 そこから出てきたのは、枝で一束にされ、芽吹いたばかりの若葉と、未開花のつぼみをいっぱいつけた小さな白い花の集合体の花束だった。

 その花は弧を描く様な咲き方をしており、まるでアジサイのように広がっている。でも、花弁の形としては桜に似ていて、桜よりも小さな白い花だった。

 

「…………外で咲いていた……感染者やハンターに踏み荒らされてなくて綺麗で……採ってきた……お前にやる」

「あ、ありがとうございま……す」

 

 この花を受け取り、オークさんの言葉に思わず顔が赤く染まっていくのを感じる。この赤くなってしまったのは、彼の体臭で性欲を刺激されたからではない。純粋に彼の取ってきたこの花を貰ってから自然にこうなってしまったのだ。

 だって……。

 

「「「「「ヒューヒュー!!!」」」」」

 

 オークさんの背後で、他のオークさん達がこの白い花の花束を手渡してきたオークを囃し立てる。……大体、この囃し立てているのは、オーク分隊の総大将である奴隷商人オークさん以外の他のオーク達なのだが。

 

「あーあ、渡しちゃったわね」

「でも良いんじゃない? 彼女が嫌がってなければ、それで」

「それに、これは突き返してないしぃ~? つ・ま・り?」

 

 アスカさんも、オークさんから受け取った小さな白い花束を両手で抱える私を囃し立ててくる。ますます、私の顔が真っ赤に染まっていく。この花を渡してきたオークさんの顔が見れなくなって、でも心の中はうれしくて。

 

「…………な、なんだ。……も、もしかして、この花……人間の女にとって毒だったのか!?」

 

 わたふたし始めるオークさん。オークさんの言葉に、えっまじかよ、そんなモンを渡したのかよとでも言いたげに驚愕し、明らかな動揺を見せ始める様子の他オーク達、生暖かい目でこちらを眺める奴隷商人オークさん。誰もこの意味を理解していないような顔をした駐屯所の兵士さんたち。それでも、アスカさんとゆきかぜさんは奴隷商人オークさんと同じように、意味が分かっているようでこちらを見てきている。

 

「言っちゃっていい? ねぇ、言っちゃってもいい?」

「それを決めるのは彼女よ。アスカはこう言っているけど、あなたはどうなの? このままだと、その花についてアスカが説明しちゃうけど……?」

「…………いいえ。自分で……言います……」

 

 おろおろ、わたふたするオークさんに、私は先ほどまで寝転がされていた机から降りて一歩、歩み寄る。

 そして何とかして、彼の顔を見ようと顔を上げるも、どうしても顔がどんどん真っ赤に染まってしまって、顔が上げられず少し俯いた。結局。上目遣いで話してしまう事になる。

 

「あの……ですね……オークさん」

「お、おう!?」

「この花は自体は別に毒じゃないです…………」

「…………おぉ」

「……このお花は、『ナナカマド』という……木に生えるお花で……木の材質が堅くて7度かまどに入れても燃え残るという語源があって、ナナカマドって言うんですけど……」

「……」

 

 私の説明にオークさんは耳を傾け、真剣な様子でこっちを見ている。

 オークさんだけじゃない。この部屋にいる全員が私の言葉に耳を傾けて、事の成り行きを見守っている。

 

「えっと……。…………えっと……」

 

 頭から湯気が出てしまいそうだ。

 ナナカマドの花に鼻を突っ込んで匂いを嗅ぐ。ナナカマドの花の香は、バラの花びらが腐ったようなひどい臭いだったけど……それでも、この火照りが引く様なそんな気がして。

 

「あ゙ぁ゙! もうっ! じれったいわね!!! ねぇ、言っても良い!? もう言っても良いわよね!?」

「アスカ」

「言うわよ! 言うんんんん゙ん゙ん゙~~~~っ!!!

 

 暴走するアスカさんの口を抑えるゆきかぜさん、再び訪れる静寂。

 深呼吸して、オークさんを見て。

 

「……どの花にも……ほとんどの場合……は、花言葉ってものがあって……」

「…………花言葉」

 

 自分の心拍音が周囲に聞こえているんじゃないかと思うほどに鼓動が高鳴る。

 だから、その心拍音を搔き消せるように声を振り絞って。

 

「……ナナカマドの花言葉は、『あなたを守る』って意味があるんです……」

「…………」

 

 赤い瞳をまんまるにするオークさん。

 もうこれ以上ないくらいに顔が真っ赤になってギュッと目を瞑る私。

 ふたつの赤い実を挟むように存在するナナカマドの白い花。

 

——ウオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!!

 

 周囲の状況は、分からないけど沸き上がる歓声。

 これが目を瞑った状態でも、赤い目をまんまるにしたオークさん以外のオークさん達の声や、兵士たちの歓声ということは分かった。私の隣と正面から、ゆきかぜさんから開放されて動き回るアスカさんの『ヨシッ! オッシ!』との言えたという歓喜の声が混じって聞こえる。

 そしてゆきかぜさんと奴隷商人オークさんの拍手の音も。その音は、どんどん増えて行って……。

 

 

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