白雪聖女様と7人のオーク   作:槍刀拳

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続編 『就労後の寄り道』

 一日の業務を終え、店の戸締りを終えた後はゆきかぜさんが考案した通貨を利用して晩御飯の買い物を済ませる。夕食としてはごく一般的に普及していてかなり質素なものだが、以前の拠点で暮らしていた時とあまり変わらないようなそんな食事だ。

 家に帰ったところで1人っきりということもあって、今日も私は日課の場所に向かうことにした。

 

――コンコンコンッ

 

 木材とコンクリートで建築されたボロボロの一軒家の扉をノックする。この家の周りには心のない避難民によって酷い絵や言葉が書かれたラクガキがされているが、訪れるたびにコンクリートで壁が上塗りにされており、壁だけは以上に分厚い。でも、近所の子供達が描いたであろう絵だけは塗りつぶされずに残されている。そんな居住者の優しさが滲み出ている民家だ。

 

「だだいま」

 

 ――返事はない。

 返事は無いが、それでも気配はある。だから親の顔よりも見た流れで、私は扉を開けて室内に入る。ここでは、他人の家に入る『お邪魔します』ではなく実家に帰ってきたような言葉を発しながら。

 私が電気の電源スイッチを探して点けるよりも先にパッと辺りが明るくなる。……そして。

 

っせーんだよ! オメーはよ!! つまみを買ってくんのに何時間かかってんだ! ゴル……キャン!」

「何を偉そうニ! テメーは、ナベかき回して座ってたダケダロ!」

「やめろ。その言葉は居住スペースの拡張だけをしていたオレにも効く」

「総大将! お嬢が帰ってきたぞー!」

「汝。メシを食う前は手を洗えよ」

「夕食の支度はできていますよ。お勤め、お疲れ様でした」

「…………おかえり」

 

 みんなが出迎えてくれた。

 普通の人なら、こんなオークまみれのオーク臭のするタコ部屋に自ら入るようなことはしないだろう。でも私は彼等なら安心も信頼もできるから。いつものように入り口で靴裏の泥を落として靴のまま上がり込んだ。

 ここはいつも賑やかだ。内装は外装ほどひどくはなく床には木製の板が敷き詰められてフローリングの役割を果たしている。改築前では、オークさんが3人。寝そべってしまえば眠るスペースもないような屋内も、現在では壁が掘られて洞窟の先に拡張スペースが広がっていた。

 チーフさんに促されるまま、流し台で綺麗に手を洗って、オークさんが手渡してきた手ぬぐいで手を拭く。

 ガタガタ口だけは達者なガソリンくんに、私の1食分になる携帯保存食(Eブロック)をつまみとして差し出す。彼は本当に口が悪くて、オーク分隊の中でボコボコにどつきまわされるような悪い子だけど、しつけ甲斐があることが観察しているうちに理解できたので、8フィート級のチワワがキャンキャン喚いていると思えば、彼の事も怖くはなくなっていた。

 肌の色も顔も真っ赤にしているフレイムさんを宥めた後に、私がいつも座っている席に着くと、台所の奥からリビングと台所を繋ぐ扉を開ける羅刹さんと、両手に可愛らしいミトン、頭には黄色の三角巾、胴体には花柄のエプロンを付けたアツアツの土鍋を運んでくる奴隷商さんも現れる。

 あとは出来立ての食事をみんなで囲むように座って。

 

『いただきまーす!!!』

 

 本来、食事を取るという行為は、この世紀末な世の中では、生命活動を維持するうえで端的に行われる儀式だったり、外敵に狙われやすくなる危険な行為であり、楽しむようなスペースはない。

 それに現在、このブレインフレーヤーが支配する世界では、以前のような “動植物生物” を用いたなじみ深い食事は高級品となっており、それよりも普遍的に食べられているのはEブロックなる携帯簡易食の食事で、気持ち程度の味はつけられているものばかりだ。生き永らえるだけの栄養はあるが、まぁ、美味しくはない。

 だがそんな食事の時間も、今では彼等と共に雑談しながら食卓を囲むことによって、この世紀末では味わうことのできない楽しいひと時。息抜きをして人生を楽しむうえでは欠かせないイベントに早変わりしていた。いつまでもこんなひと時が続くことを願いながら、皆と食べるのだった。

 

………

……

 

 食事も終わり、8人分の食器も洗い終えた私は団らん室で好きなことをしている7人の元へ足を運ぶ。

 食事のスペースとは異なり、団らん室のスペースは羅刹さんが拡張した土の中にある。このスペースは本当に広く先ほどまでのギチギチとした食べ方に気を付けないと誰かの肘が誰かの頬にめり込むような狭さは払拭された7人が十分に各々の好きなことができる広さだ。

 ここでは、オークさんは日用品の補充や整理、傭兵さんは全員分の銃火器の整備、羅刹さんも全員の近接武器を研いでいて、フレイムさんは植物に熱意のこもった言葉を話しかけながら家庭菜園。ガソリンくんは私が入ってきたのと同時にこれ見よがしにナイフを取り出して感染者を模った模型にナイフを連続で突き刺して誇らしげな顔をしている。残りのチーフさんは地図を広げて今度の物資回収の目星を付けて、奴隷商さんは眼鏡を掛けながら手に入れた物資のリストアップをしているようだった。

 ここへ遊びに来た最初こそ適正にあった役割分担であると見ていたが、よくよく観察すれば本当にそれぞれの性格や思考にあった行動を取っているだけなのだと気づきを得られる。だからと言って何だという話ではないのだけど。

 

「あぁ、洗い物。お疲れ様でした。もしもまだお帰りになられないようであれば、この前、回収してきた物資の整理を一緒に手伝ってはくれませんか? 新兵くんも、そちらの片づけが済みましたらお手伝いにこちらへ来てください」

「喜んで!」

「…………あぁ」

 

 奴隷商さんは物資の中から、座布団とちゃぶ台を取り出して隣へと置いてくれる。私はそれに座って、右に並べられている物資を手に取り、その物資の名称を声に発して左へ置く奴隷商さんの言葉をノートパソコンにデータとしてブラインドタッチ入力する。入力が済んだものは、印刷機でプリントアウトされて数回は書き直し、書き込みの可能な紙媒体の資料となるのだ。

 世界崩壊から約10年。最初、パソコンを手渡されたときには未だに電化製品が動くことには驚くばかりだったが、どうやらこの地下の建物は地下鉄のデパート街にもつながっており、奴隷商さん曰く ここの電気はゆきかぜさんの電撃をかすめ取って備蓄したもの……ではなくヨミハラのようにデパート街から盗電している電気らしい。テナントの持ち主は、パンデミック発生と共にどこかへ逃げたか、感染者と化したかで居ないそうだが、電気代金は今もなお支払いが続けられているためこのようにして使用することができるらしい。

 

………

……

 

「……今日のところはこんなものですかね。貴女が手伝ってくださるおかげで荷物整理の作業効率が2倍です。人間の中では物覚えも早いですし、本当に助かりますよ。この調子なら世界が元通りになった後でも、私の仕込んだスキルで何処に行っても通用するに違いありませんよ」

「それは奴隷商さんがいろいろ仕込んでくれたおかげでもあって……でも褒め得頂いて、ありがとうございます」

「ふふっ。そうですね、さて夜も更けてきました。あぁ……今日のところは、そろそろ帰った方がいいかもしれません」

「え。あ。本当ですね」

 

 ふと天井に備え付けられた時計に視線を移すと夜の20時を指していた。

 世界がこうなってしまう前であれば、大人は夜の繁華街を散歩していても裏路地にさえ気を付けてさえいれば遊び歩いてもよい時間帯ではあったが……。今の時代これ以上に夜が更けると夜勤の兵士さん達が辺りを巡回しているとはいえ、避難所であれスティール・ロータス教団に拉致される危険もあり、私は別段彼等から必要以上に狙われている以上安心できないこともあった。

 ……あれ? でも、いつもなら傭兵さんやチーフさんが私の分の布団を敷いて、川川儿の字でになって泊っていくかどうかの話を奴隷商さんが持ちかけてくるのに……。今日は何か予定でもあるのだろうか?

 団らん室のスペースで各々の作業を続けるオークさん達に別れの挨拶を済ませて、出口まで歩いていく。出口のところで振り返るが、帰るときにはいつも見送ってもらっているせいか今日はオークさん以外に姿を見せないことに少しだけ寂しさを感じていた。

 

「それじゃ、オークさん。また明日ね」

「…………」

 

 別れの挨拶を告げる私に、彼は少し唇をもにょもにょと動かした。彼が下唇を動かすときは、彼なりに何かを言いたい時だ。オーク分隊の中で口数が少ない彼だが、無口で口数が少ないわけではなく、言葉を選んでいる間に他のオークさん達が先に言葉を発してしまうからそう見えてしまっているだけであって……本当はもっとお話しすること自体はできるはずなのだ。

 

「……?」

 

 だから私は彼が言いたいことをゆっくりと笑顔で待つ。

 

「…………外は危ない。送ろう」

 

 それから、数十秒後。ゆっくりと口を開いた。

 

「本当? 是非ともお願いしたいな。オークさんと一緒なら心強いし、安心できるから」

「…………」

 

 誰も見送りに来てくれない不思議な秋の夜。

 今ならオークの誰にも悟られずに二人だけで抜け出せると思って、こっそり家を出た。

 

 

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