ありふれない邪仙は世界最悪 作:路傍
ーーー青娥にとって許容しがたき青天の霹靂が起こった日。その日も青娥はクラスメイト向けにかぶっている優等生の面越しにクラスメイトとの会話を行なっていた。
「青娥ちゃんは好きな人とかいるの?」
「異性にはいませんわ」
昔結婚していた相手を思い返そうとしながら返答する。
…あら?どんな顔だったかしら?
そんな時に昨晩徹夜でもしていたのかフラフラになっている男子生徒が登校してきたようだった。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
始業チャイムギリギリに登校してきたクラスメイトの南雲ハジメを煽る檜山大介や彼を睨むたった今話していたクラスメイトの園部という名前の女子を見ながら
「…なぁそう思うだろう?青娥?」
「え?えぇ。そう思うわ」
…思考中に話しかけてきた天之川光輝に反射的に返事をする。そして、天之川等が寝ぼけ眼のクラスメイトを囲んでいるのを見て何の話をしていたのかを察した青娥は盛大にやらかしてしまったと悟り、今一番接近したい相手の白崎香織へのフォローを口に出そうとその明晰な頭脳を回転させる。
「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」
その一言は青娥の不意をつき、青娥の腹筋とクラスの男子の嫉妬心を崩壊寸前まで追いやった。
ーーー
昼休み。
青娥は邪仙であるので食物を摂取する必要はない。というか五穀を摂取すべきではない。
しかし、昼ごはんを食べていないとクラスメイトから心配という体で弁当を一緒に食べようだのと誘われてしまう。
その板挟みから彼女が導き出したのが…
――じゅるるる、きゅぽん!
俗に十秒でチャージできる定番のお昼と言われるものに練丹を混ぜたものである。
これの欠点は周りの人が一時的に居眠り常習犯と青娥を同一視してしまうのか、全く人がいなくなる点だがこれは長所ということもできる。
スーツケースの中の彼女の好きな元人間とのコミュニケーションを取るためには、周りに人がいると不都合なのだから。
ーーー
――じゅるるる、きゅぽん!
南雲ハジメは10秒で栄養補給を完了した。転校生もこれを好きなようで、少し親近感を抱いたのだが話し掛けようものならただでさえ高いヘイトがさらに高まってしまうため平穏に生きたいハジメは速攻で話しかける選択肢を切り捨てた。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」
そんな中少し居眠りから起きたのが遅かったのか、這い寄る混沌…ではなくクラスの女神がハジメの目の前に舞い降りた。
自分に対する理不尽なまでの仕打ちに南雲ハジメは天を呪うしか選択肢はなく。
「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
(いい加減にクラスの不穏な空気に気づいて!)
クラスの女神に空気を読むよういうことができる存在をこれほどまでに欲したことはなかったであろう。
そんなハジメに天女が救いの手を差し伸べる。
「白崎さん?そこの光輝くん達と一緒に食べたらどうかしら?」
「あぁ。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」」
天之川光輝もまさしくハジメを救うためのヒーローとなった!
「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」
「「ブフッ」」
雫と青娥が思わず吹き出す。特に青娥はツボにハマったのか、光輝が困ったように話している横でずっとクスクス笑っている。
が、ハジメは笑っているどころではない。良くも悪くも学校一有名な5人に囲まれているので、男子からも女子からもこれでもかというほどの嫌悪感を浴びせられる。
もし目で人を呪えるならば、ハジメが人間辞めて妖魔だの何だのに身を堕とすレベルで浴びせられる視線の圧力がかかっていたハジメは
(もういっそ、こいつら異世界召喚とかされないかな? どう見てもこの四人組、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。……どこかの世界の神か姫か巫女か誰でもいいので召喚してくれませんか~~)
こんなことを考えたのが悪かったのだろうか。光輝の中心から広がり始めた円環と幾何学模様は輝く紋様を形成し、教室全体に広がって。
愛子先生の「皆! 教室から出て!」の声と青娥がいつも学校に持ってきている大きなスーツケースを抱える姿。それがハジメが召喚前の最後の記憶であった。
ーーー
(全くもう!さっきのあれは西洋の魔術かしら?召喚の魔法陣で同じようなものを見た覚えがあるわね)
スーツケースを抱えてあたりを見渡すと、クラスメイトたちは呆然としてあたりをキョロキョロと確認しているようだった。
ちなみに異界から妖魔を召喚したその西洋の魔術師は青娥によって1000年以上前に僵尸となった。
(あの壁画は悪趣味ね。)
縦横10メートルはありそうな壁画に描かれた後光のさす長い金髪の人物の肖像にどこか仏教を感じたのか心の中で毒を吐いていると
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
青娥は内心かなり激怒したが少し話を聞いてみることにした。
…イシュタル・ランゴバルドという名前を心に留めながら。
そして、時は飛び大広間。彼からの説明を要約すると、
⚪︎人間族は魔人族と戦争中。
⚪︎魔人族が妖魔を使役するようになり人間側が押されている。
⚪︎だからエヒト様があなた方を呼び出した。
⚪︎呼びだしたエヒト様のためにも人間側の戦力になれ。
一通り聞いたが青娥は不機嫌にならざるを得ない。
なにせあと一年後までには帰らなければ準備が足りなくなってしまうし、そもそもメリットがない。
神託を受けた時のことを思い出しているのかうっとりとした表情を浮かべるイシュタルを見ながら考える。
(そもそも私はともかくとして彼ら彼女らは戦えるのかしら?)
実際青娥は条件次第では別に戦っても構わないと考えてはいるが、
そんなことを考えていると、この中で倫理観付きの常識を持っている唯一の人間と考えられる社会の教師が言う。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
青娥はその意見に乗っかってみることにした。
娘娘は興味のない人間はほとんど覚えない性格にしてます。
原作主人公は今のところ白崎さんの付属品扱いですね…
追記
誤字報告ありがとうございました。