喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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怪我を負い、ステラまで避難したところから始まります。

服は犠牲となりました…。


第15話:負傷の手当て

 

 

人目につかずに何とか店まで辿り着く事が出来た。隣で明月栞那がずっと心配そうに声を掛けてきたが、その慌てぶりが逆に心配になっていた。

 

「澤田さんっ、着きました。今ミカドさん呼びますから!」

 

まるで重症患者に呼び掛けるような言い方と共に、店の扉を開けた。

 

「ミカドさん!戻られていますかっ。」

 

「うわっ、って明月さん?驚かせないでよ…。え、どうしたの?そんなに大声出して。」

 

どうやらフロアには四季ナツメが居たようだ。大学から帰って来たのだろう。そしてなぜか、メイド服を着ていた。

 

「ナツメさん、ミカドさんは見ていませんか?」

 

「閣下…?、閣下なら奥の部屋に居ると思うけど…?って、澤田君、どうしたのその腕…怪我しているの?」

 

きょとんとした顔でこちらに問いかけてくる。俺の右腕の奇抜なファッションに気づいたらしい。物凄く痛いです。

 

「いや、実は服屋の店員さんから今流行の着方を聞いて真似てみたんだけど…、似合ってる?」

 

「馬鹿な事言っている場合ですかっ、確か奥に救急箱があったと思うので、少し待っててください。」

 

俺を席に着かせて、奥へと消えていった。一応傷口は抑えているし、高い位置にあるから少しずつ血は収まって来ている気がする。気のせいかもしれないが。

 

「え?ほんとに怪我してるじゃないっ。大丈夫なの?」

 

「軽く切り傷があるだけだから。そこまで重症じゃない、想像以上に血が出ていて驚いているけどな。」

 

「なんか随分と落ち着いているのだけど…、痛いんじゃないの?」

 

「そりゃ、めちゃくちゃ痛いぞ?今でも痩せ我慢しているぐらいだからな。でも自分以上に慌てている人を見るとなんか冷静になってくるというか。」

 

抑えている場所を見るが少し服に血が滲んできている。そろそろ別のものに変えないといけない。

 

「澤田さん!ミカドさんが居ましたので奥の部屋に行きましょう。」

 

良いタイミングで明月栞那が戻って来た。閣下は居たらしい。

 

「了解、ミカドさんなら安心できそうだな。サポートキャラだし手当ても出来そうなイメージ。」

 

「澤田君…、そのケット・シーはゲームの方だから…。」

 

何言っているんだこいつ、と言わんばかりの顔を向けながらも後ろを付いてくる。多少は怪我が心配らしい。

 

(失礼な。この閣下も超サポートだぞ?自分の尻尾の毛を犠牲にお守り作る位だしな。)

 

閣下の尻尾が円形脱毛症になっているのを想像しながら、奥の部屋に向かった。

 

 

 

 

奥の部屋で閣下に事情を軽く説明しながら手当てを受けていると、経緯を話している内に処置は完了してしまった。

 

「ほれ。これで取り敢えずは大丈夫だろう。暫くはあまり動かさずに安静にしていろ。それから包帯が滲んで来たらまた交換すると良いだろう。」

 

「ありがとう。その時はまた連絡するから出来れば手を貸して欲しいかな。」

 

「……で、なにがあったのだ。詳しく話せ。ナイフで切られたとは聞いているが。」

 

「あー…、そうだな…。今日の帰りに駅で蝶が集まっている人を見かけてさ。」

 

横目で明月栞那を見るが、申し訳なさそうな顔をしていた。多分自分を庇って出来た傷だからだろう。

 

「まぁ、放っておくわけにはいかないから明月さんに話しかけてみようと提案して近づいたんだよ。」

 

「そこで、明月さんが声を掛けている時に異常を感じて俺が話し相手を代わろうとしたら、急にポケットからナイフを出して切り付けて来た。咄嗟にこちら側に引っ張ったからなんとか無事で済んだ。って所だ。」

 

「無事って…、澤田君肩を切られたんでしょ?」

 

「庇わなければ明月さんがもっと酷い怪我をしていた可能性があったからな。それに比べると軽い手当てで済んだ傷は無事になるな。」

 

あの軌道はそのままだったら顔あたりを大きく切っていたはずだ。衝動的とは言え、かなりの殺意が籠っている様に見えた。

 

「で、病院に行くわけにも行かないからここにミカドさんを頼って来たというわけ。」

 

「状況は理解できた。確かに今のお前は病院などに行くと色々と面倒だからな。それは必要になればいく事にしよう。それまでは吾輩が診てやろう」

 

「え、病院に行けないの?何その事情って…?」

 

隣から疑問が飛んでくる。スルーしたいが一応軽くは説明しておく。

 

「いやほら、最近生まれ直したって事は戸籍や身分証明が無いからさ。全額負担は嫌だし、事件に巻き込まれたとなると警察とかに確認される可能性があるから避けたいんだよね。」

 

最悪病院までは何とかなるけど警察は流石に無理。自分を証明するものが何一つ無い。

 

「今日はもう大人しくしていると良い。何か体調が崩れたりしたら連絡を頼む。」

 

そういうと閣下は部屋を出ていった。先ほどから何も話さない明月栞那に気を使ったんだろう。

 

「あー。と、言うわけだから、命に別状も無いし、後は怪我の回復を待つだけだ。そんなに落ち込まないでくれると助かるのだか…?」

 

落ち込んいる彼女に心配は無いというが、表情は良くならず。

 

「澤田さん…本当にすみませんでした…。私が不用意に声を掛けてしまい怪我をさせてしまいました。」

 

こちらを向き頭を下げる。やっぱり自分せいだと思っていたのだろう。今回は完全に事故に巻き込まれた形だ。

 

「いや、あれは俺が先に提案していたからな。それに明月さんに代わろうと声を掛けたのが引き金になったはず。だから寧ろ怖い思いをさせたんじゃないかと反省している所だ。」

 

「それに男が何かしてきそうなのは薄々感づいていたからな。もっと早めに止めるべきだったと思う。」

 

これはこっちの落ち度だ。最初から俺が話すべきだったのかもしれない。

 

「い、いえ。私は大丈夫でした。でもやっぱり、もっと警戒しておくべきだったのかと思います…。」

 

「今回は運の悪い事故だったという事で。五体満足で命もある。だから自分を責めないで欲しい。助けたこっちが気を遣ってしまうからな。出来ればいつも通りで頼む。」

 

「……分かりました。澤田さんがそう仰るなら…。」

 

「それにしても今日服を買いに行って正解だったな。もし買って無かったら止血の手間が面倒だった。それに明月さんがマフラーを勧めてくれたおかげで簡単に応急処置が出来た。確かにこれはおすすめをするだけの事はあるな。」

 

「私はそういう使用目的で勧めた訳では無いのですが…。」

 

「けど、明月さんが勧めてくれたからな。まさか…、あの時のおすすめはこの時の為に!?って奴だな。」

 

「いやいや、澤田さんじゃありませんからね?」

 

多少声に元気が戻ってきたようだ。さっきまで部屋にあった暗い雰囲気も無くなっていた。

 

「それにしても、よく澤田君はその人が危ないって気づけたのね。そんなに様子がおかしかったの?」

 

「まぁ……、そうだな。蝶が集まっていたこともあるし、俯きながら何か呪いみたいに呟いていたしな。何よりもパーカーのポケットの中の右手に何かを握っている感じだった。これはもうやばい奴確定ってわけだ。」

 

その時の状況を説明していると、横から明月栞那が小声で話しかけてくる。

 

「澤田さん…もしかして、何か視えていたのですか?」

 

「え、……いや。特にそんなのは無かったけど。うん。」

 

一瞬何の事か忘れていたが、俺が未来視で見たのかと聞いてきたのだろう。残念。不正解。

 

「今の間、何か怪しかったのですが…。分かりました。澤田さんがそう仰るのなら。」

 

思い出すまでの間が怪しく思ったらしいが、ここは訂正を入れずにスルーしておく。

 

「どうしたの?二人とも、小声で話して。」

 

「い、いえ。澤田さんの怪我の様子を伺っていただけなので。特に何も無いですよ。」

 

「ふーん。そう。」

 

(これ、怪しまれていないか?)

 

若干こちらを見る目が疑っている目をしている。

 

「というか、折角服を買ったのにまた買い直さないといけないな。取りあえず服は他のもあるから大丈夫だけど。マフラーは次の機会に買っておくか。他に冬に向けて必要なのがあれば2人に教えてほしいのだが…。」

 

聞かれると面倒なので無理やり他の話題を提供する。

 

帰ることになるまで話を続けていたが、四季ナツメからの疑いの目は無くならなかった。

 

因みに、四季ナツメからのおすすめは炬燵だった。今は無理だから部屋が取れたら買うことになってしまった。

 

 

 

 

 

時間も過ぎ、外が暗くなって来た頃に今日は解散しようと提案した。四季ナツメが着替えるという事で俺はフロアにて待つことになった。

 

(今日は早めに解散しておこう。人通りが多い時に帰った方が安全だろう。それに…。)

 

恐らくだが、犯行はこれで終わるとは思えない。暫くは身を潜めるかもしれないが、そう遠くない内に及ぶ筈だ。時間が経てば経つほど犯人へ足が付く可能性は高くなる。

 

(近々、必ず再犯するだろう。一度目は何とか凌げたが次も一緒に居るとは限らない…。可能ならばその前に見つけて何とかしておきたいし、犯人は明月栞那に顔を見られている。)

 

顔を知られたと逆恨みで襲ってくるかもしれない。それを許すわけにはいかない。原作までの平穏を乱さない為にも裏でひっそりと片付ける必要がある。

 

「なんて顔をしているのだ、貴様は。怒る気持ちも分かるが抑えろ。」

 

これからの事を考えていると、隣から閣下が呆れた声ではなしかけてくる。どうやら変な顔になっていたらしい。

 

「お疲れ様、店には居なかったみたいだけど、もしかして犯人を捜していたとか?」

 

「その通りだ。とは言ってもこれといって話は得られなかったがな。」

 

「それは良かった。情報が無いのならまだ犯行には及んではいないからな。」

 

「そういう風に捉えることも出来るな。だが足取りが分からん以上捕まえることも出来ん。」

 

「近い内にまた犯行に及ぶと思う、それまでは複数人で帰った方が良さそうだな。」

 

「その方が賢明だろう。お前は四季ナツメと帰るが良い。」

 

「俺が送られる側になりそうだけどな。」

 

出来れば向こうを送りたい所だが、怪我人にさせる訳にも行かないと言ってくるだろう。

 

(まぁ流石に今日の内からしてくるとは思えないから大丈夫か。)

 

取りあえずは大丈夫だと判断し、今朝の件を思い出す。

 

「そう言えば、ミカドさんに相談というか話しておきたい事がある。」

 

「どうした。貴様の奇跡の関係か?」

 

「遠からず?今朝店に大家さんが来たのだが、その際に大家さんから零れ出た蝶に触れ…。」

 

「すみません。お待たせしましたー。」

 

「ごめん。私の着替えに時間が掛かって…。」

 

話を始めると奥から着替えを終えた二人が出てきた。

 

「…、この話はまた後で、明月さんも知っているからこの後聞いてて欲しい。」

 

「分かった。今日のところは終わりとしておこう。」

 

「それじゃあ、準備も出来た事だし帰るか。今日は物騒だし四季さんを送っていく。」

 

駄目と言われるのは目に見えていたが、先に言う事でもしかしたら…と低い可能性に賭ける。

 

「澤田さんは怪我人ですから、今日は送られる側です。」

 

「そんな人に送られたりしたら、なんか申し訳ないしね…。」

 

ですよねー。

 

「まぁ…。そうなるよな。今回はお言葉に甘えようかな。」

 

ごねるよりさっさと決めた方が良いだろう。

 

「話は済んだか?それなら早めに帰ると良い、遅くならない内にな。」

 

「了解、それじゃ四季さん。行きましょうか。」

 

「澤田さん。」

 

帰ろうと歩き出すと後ろから声を掛けられる。

 

「明月さん?どうかしたのか。」

 

真剣な顔でこっちを見ている。大方、今日の事で改めて謝るつもりなのだろう。

 

「今日は本当に、ありがとうございました。」

 

頭を下げてこちらに感謝を告げる。

 

「……てっきり謝ってくるにかと思っていた。」

 

「謝っても澤田さんに気を遣わせてしまいますので、それにまだお礼を言えてませんでした…。」

 

「そんなの気にしなくても大丈夫だが…、感謝は受け取っておくよ。今度また買い物にでも付き合って欲しい。」

 

「その位で良いのなら幾らでも。それでは気を付けて帰ってください。」

 

「なるべく()()()()()()()()()()帰るつもりだから。じゃあ、また明日。」

 

明月栞那と閣下に見送られながら、ステラを出た。外は暗くなって来ているが大通りはまだ人の動きはある。直下の問題は…。

 

(四季ナツメと二人で帰るのだが、何を話そう…。無言は気まずいからなぁ…。)

 

 

 

隣を歩く黒髪美少女との距離を、どう測ろうかが悩みだった。

 

 

 




複数人なら大丈夫なのに、いざ二人きりになると話題が思いつかない現象ですね。

主人公の場合は相手に興味が無いのではなく、知っているからこそ逆に何を聞けば良いのかわからない感じですね。


次は送迎される場面からですね。今の話が終わると主人公の過去話を少し触れて行こうかと思います。
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