喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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傷の手当て→状況説明→解散!となります。


第18話:傷の責

 

今回は四季ナツメとステラに戻って来た。

 

(半日の間にまさか2度も来ることになるとはな…。)

 

「ちょっと待ってて、閣下達呼んでくるからっ。」

 

フロアの席に座らされ、慌てるように奥へ消えていった。恐らく二人が間借りしている部屋に向かったのだろう。

 

(この足…、どうしようか。靴の中に血が溜まってはいないけど。抜くの嫌だな…。)

 

この後の事を考えげんなりしていると、奥から走ってこっちに向かってくる音が聞こえて来た。

 

「澤田さんっ!また怪我をされたのですか!?今度は大怪我だって。」

 

「おお、声でかっ。大怪我は大げさな言い方だけど、ちょっとまずいかな…?」

 

右足を少し持ち上げ見せる。

 

「え、これってナイフが刺さっていますよね?どう見ても大怪我なのでは…?」

 

驚愕の表情で固まっている。やっぱりそうなるよね。

 

「これのどこが大げさなのですかっ。早く手当てをしないと…!」

 

「お前は少し落ち着け。」

 

目の前で慌てている明月栞那の後ろから救急箱を持った閣下が出てきた。その後ろには四季ナツメがおり、バケツを持っている。

 

「ミカドさん。流石に2度目は対応が早いな。」

 

「四季ナツメが何やら慌ててきたと思えば血の匂いが付いていたのでな。大方予想は付く。が、まさか追加で怪我をしてくるとは思っては無かったがな…。」

 

救急箱を開けながらチクチクと嫌味を飛ばしてくる。痛いのは怪我だけでは足りないらしい。

 

「これはまた…。急いで処置する必要があるようだな。」

 

「一応軽く応急処置みたいのはしているだけだから。」

 

「分かった。他が汚れないようにバケツに足を入れておくと良い。足を怪我したと聞いていたがナイフが刺さってるなど想定外にも程があるぞ。」

 

「こっちも肩に続き足にも流行が来るとは俺も想定外だった。ファッションには無頓着なつもりだったんだけどな。」

 

「くだらない事を言っている場合か。……栞那と四季ナツメは奥の部屋で待ってると良い。あまり目に映したくない事をするのでな。」

 

「ミカドさん。私は大丈夫です。」

 

「今の四季ナツメを一人にしておくつもりか?奥で落ち着かせてやれ。」

 

横目で見ると四季ナツメが青ざめながら俺の足を見ていた。状況が多少落ち着いた事で怪我の具合がより分かったのだろう。確かにこれ以上見せるのは良くないな。

 

「そうそう、これ以上痛いのを見せたくないし。そろそろやせ我慢するのも限界なんだよね。男のプライドとして情けない所見せたくないから出来れば奥で待ってて欲しい。」

 

「……分かりました。私達は奥で待っていますね。ナツメさん。行きましょう。」

 

「え?あ…、うん。分かった…。」

 

されるがまま連れて行かれた四季ナツメを見届け、閣下を見る。

 

「それじゃあミカドさん…、一思いにやってくれ。」

 

「我慢出来るのか?途中で止めることは出来ないぞ。」

 

「ああ、やってくれ。いや、声出ないように何か布とか噛ませて頂けると助かる…。」

 

「全く…。ほれ、このタオルを嚙んでると良い。」

 

「ありがとう。」

 

小型のタオルを閣下から受け取り、口に咥え、噛む。

 

「では、始めるぞ。」

 

ナイフに手を掛けた閣下に、覚悟決めて頷く。

 

長い長い痛みとの我慢比べが始まろうとしていた。

 

 

 

 

「…これで取り敢えずは一安心だろう。」

 

閣下から完了の言葉が出た。正直痛すぎて体を搔きむしりたかった気分だ。ようやく終わったようだ。

 

(二度と味わいたくないな…。ナイフを抜く感覚とか人生で一度だけで十分だこんなの。)

 

変な汗を拭きながらバケツを見る。中には血で染まった靴と靴下が漬けられていた。処分どうしよう。

 

「暫くは動かないようにしておけ。肩も極力動かさないように。また傷口が開くからな。」

 

絶対安静を告げた閣下は、バケツを持って席を外す。

 

(あ、後処理までしてくれるのか。本当に助かる。)

 

後で何かお礼をしないといけないと考えていると、奥の部屋から二人が出てきた。

 

「お二人さん。どう?四季さんは落ち着いた?」

 

「ええ…。少しは。それより怪我の方は…。」

 

「ミカドさんに手当して貰ったから一先ずは大丈夫。まぁ、暫くは安静にするのと、履物が履けなくなった位かな。」

 

踵を地面に下ろす。振動で痛みはあるが、歩こうと思えば歩けなくは無い。怪我を治すなら安静にするのが無難だろう。

 

「取り敢えずは大丈夫なのですね…。はぁぁ、良かったです…。」

 

明月栞那から安堵のため息が出る。気が気じゃなかったご様子。

 

「あの、澤田さん。一体何があったのですか…?」

 

「まぁ色々と?軽く説明すると今日駅に居た犯人を追って行ったら怪我を負った感じになるかな。」

 

「え、それって駅に居たあの人ですか?」

 

「そう、その人。撃破には成功したんだけど、反撃されたのがこれ。」

 

左指で足を指す。

 

「どうしてそんな危険な事を…。」

 

「こっちにも色々と事情があってさ。出来る今の内に片付けておきたかった。詳しくは企業秘密って事じゃ駄目か?」

 

説明する気力が起きない為、奇跡関連で行動したと杭を打つ。

 

「……、なんだか全部それではぐらかしてしまいそうですね。もやもやします。」

 

明月栞那も察したのか四季ナツメをチラ見し、聞くのを止める。うん、俺も便利な言葉だと思う。

 

「澤田君が怪我をしたのは…、私が声を上げてしまったからなの…。」

 

すると、横から説明が始まってしまった。

 

「四季さん、ストップ。あれは四季さんが悪いわけではない。」

 

「で、でもっ、私の方を見たから…!それのせいで足を…。」

 

「違う。あれは目を離した俺が悪い。大丈夫だと油断して四季さんの方を見てしまったからな。」

 

「私が悲鳴を上げなければ見ることも無かった…。」

 

「いやいや、普通ナイフが自分の所に滑って来たら誰でも驚くから。だから仕方なかった。それを言ったら後ろに蹴った俺の責任でもあるからな?」

 

「あのー…、お二人で盛り上がているのですが…、状況が全く見えなくて。」

 

言い合いをしていると横から申し訳なさそうに明月栞那が手を挙げる。

 

「犯人を澤田君が取り押さえたんだけど…、その際持っていたナイフを犯人から遠ざける為に蹴ったの。それが私の場所に来て思わず声を上げちゃって…。心配してこっちを見た隙に足を刺されたの…。」

 

「なるほど…、それでどっちの責任か言い合っていたのですね。」

 

「犯人と対峙しているのに油断した俺が悪い。完全に仕留めたか確認もせず隙を見せた。そこを犯人に衝かれた。声を上げた四季さんの安全を確認する判断をしたのも俺。だから気にしなくて良い。」

 

「気にする…私が居たことで澤田君が怪我を負ってしまったんだから…。」

 

「何をさっきから騒いでおるのだ?」

 

埒が明かないなと思い始めていた時、奥からミカドさんが戻ってきた。どうやら片付けが終わったらしい。

 

「いや、怪我の責任の所在を話し合っていただけだ。」

 

「まぁ…。お互いに平行線に行きそうな気がするのですが…。」

 

苦笑いしながら明月栞那がそう言ってくる。確かに同感。

 

「今日はもう遅い。話し合いは明日にしておけ。どうせこのままだと決着はつかないのであろう?」

 

話し合いが終わりそうにに無い事を察したのか、閣下から解散の提案が出る。

 

「そうだな。時間も遅いし今日は解散としようか。念のため明月さんは四季さんを送って貰っても良いか?」

 

「分かりました。確かにお互い少し時間を置いて落ち着いた方が良いかもしれませんね。」

 

「という事で、四季さん。今日は解散という事で。今日は帰って気持ちを落ち付かせてほしい。」

 

「……わかった。今日はそうする。」

 

しょんぼりと落ち込んでいるが、自分以外が解散ムードの為それを受け入れた様だ。

 

「それでは私はナツメさんを送り届けてきますね。」

 

「おう、夜道に変な人に声掛けられても付いていくなよー。」

 

「子供じゃありませんししませんよそんな事…。」

 

「あの…。澤田君…。」

 

「ん?四季さんもまた明日。気を付けて帰ってくれよな。って俺が言えた事ではないかもしれないけど。」

 

「あ…。うん、また明日…。」

 

何か言おうとしていたが、無理やり送り出す。明月栞那に連れられ店を出ていった。店に残ったのは俺と閣下だけだった。

 

「…さて、話を聞かせてもらおうか。四季ナツメの事は栞那に任せておくと良い。」

 

「そうする。って言っても大した話じゃないけどな。」

 

閣下に今日店から出た後の流れをざっくり話した。途中で何か言いたげではあったが話の最後まで口には出さなかった。

 

 

「経緯は理解した。全く貴様は…。捕まえに行ったのに怪我をして帰って来るとは…。しかも犯人から目を離した隙を突かれたとはな。」

 

「まぁ確かに四季さんが付いて来たことで怪我をしたとも言えなくは無いが、大丈夫だと判断したのも俺だからな。それで怪我を負ったのならその責任は俺にある。向こうは納得してくれ無さそうだけど…。」

 

「当たり前であろう。四季ナツメから見れば自分が無理やり付いて来た挙句足手まといになったと思っている筈だ。自分を優先したせいで刺されたのだとな。」

 

「その認識が間違っていると思うのだけどなぁ…。そこは価値観の違いによる物か。明日そこも含めて話し合ってみるさ。」

 

「平行線にならんようにするのだな。それより貴様、その男の蝶に触れたのに影響はないのか?」

 

「ん?ああ。感情を左右されたりとかは何とも。情報が急に来て驚いた位だな。魂の方は…。よくわからないが何か変わってたりする?」

 

「いや、説明の最中に見たがこれと言って変化は見られなかった。」

 

「そうなのか、大丈夫なら良かった。」

 

「普通なら多少影響が及ぶ筈なのだが…、絶望や憎しみの感情などは特に魂に影響を及ぼしやすい。耐えられるとは思えないのだが…。」

 

「でも実際変わっていないのだろ?」

 

「そうなのだ。だから不思議に思っている。揺らぎの一つすら見当たらないとは…。何か心当たりなどは無いのか?」

 

「心当たりか…、いや特に思い当たらないな。しいて言うなら蝶から流れ込んできた感情?が言う程伝わって来なかったっていうのか。あんなに殺意があった割にはしょぼかった印象を受けたな。」

 

「今朝の大家の時はどうだったのだ。」

 

「大家さんの時は、悲しみや失望感があったな。その時は特に違和感は無かったな。多分ダイレクトに来ていたと思う。」

 

「その二回で何か違いがあるかもしれん。何か分かったら小さなことでも良いから言うといい。お前については未だに謎だらけだからな。」

 

「了解。何か分かったらその時改めて連絡する。それと出来ればで良いんだが頼みごとがある。」

 

「どうかしたのか?」

 

「明月さんが戻って来たらでいいんだけど、犯人が居た現場を後で確認してきて欲しい。男がどうなったかと、もしかしたら未だに蝶が彷徨って居るかもしれない。」

 

「場所の詳細を聞こう。紙を持ってくるからそれに駅からのルートと蝶を回収した場所も書いてくれ。」

 

閣下から紙を受け取り、出来るだけ道のりを細かく書き終え明月栞那の帰りを待った。

 

 




痛いシーンは避けさせていただきました…。書きながらこれは辞めておこうかと書き直しました。

次回は四季ナツメ視点から始めます。落ち込んでいられますからね…。
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