喫茶ステラ ―異邦人と蝶の残滓―   作:コクーン√

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四季ナツメ視点で始めます。


第19話:後悔

 

 

 お店から出て明月さんと家までの道を辿る。お互い無言のまましばらく歩く。今日起きた事と彼に対しての罪悪感が頭の中でずっと繰り返していた。

 

(澤田君は気にするなと言っていたけど…。彼一人だったなら、多分難なく捕まえていたんだと思う。)

 

思い返す度に考えてしまう。彼は最初から犯人が襲い掛かって来ることを予想していた様に見えた。暗くてしっかりとは見えていなかったが、犯人を倒すまでの行動がスムーズだった。

 

(後ろに気を向かせた隙に顔にポケットからお金を投げたんだと思う…。その直後に買った水で濡らしたタオルで顔を叩いた。倒れた後直ぐにナイフを犯人から遠ざける…。予めすることを決めてないとあんな素早くは動けないと思う。)

 

犯人と対峙している時も緊張感や恐怖心などは見られなかった。煽っている場面もあった。

 

(ただ…。)

 

ナイフで刺された後、その辺りからが予定とは違ったのだろう。私が声を上げたせいで足を刺された。その後、犯人の頭を踏み抵抗出来なくなるまでそれを続けた。

 

刺された事に対してではなくて、あくまで抵抗しなくなるまで淡々と踏みつけている様に見えた。実際、動かなくなった頭を掴んで様子を確認していた。そこに怒りなどは無かった。

 

(普通痛がったり、刺されたことに怒ったりするものじゃないのかな…。)

 

犯人を気絶させた後も特に変わった様子も無くこちらの安否を確認してきた。その変わりの無い事に怖く感じてしまった。

 

(ただ、私に心配されたくない為だったはずなのに…。)

 

私が怖がっていた顔を見て心配させたくなかったのか、痛いのを顔に出さず冗談まで言ってきていた。ナイフが刺さって痛くないはずが無い。彼はそれを必死に我慢していたのだろう。

 

その後お店で閣下が手当してくれたおかげで何とか済んだ。その間私は、それをただ待つことしか出来なかった。

 

(私のせいで怪我を負わせてしまったのに…。)

 

何度考えても自分が悪いと考える。彼はそれは油断した自分が悪いと言ってはいたが気を遣ったのだろう。

 

(やっぱり私は…。)

 

もう何度目か分からない。自分のせいで人に迷惑を掛けてしまった。そう思うだけで自分の存在がどれだけ要らなく、ちっぽけな物だと再認識してしまう。

 

「…ナツメさん。大丈夫ですか?ずっと暗い顔をされていますよ。」

 

私がずっと暗い表情を浮かべていたからか、明月さんが声を掛けてくる。

 

「…今日の事をずっと考えていたの。わたしのせいで怪我をさせてしまった事を…。」

 

「それについてもっと詳しくお話聞かせて頂けますか?軽くは聞いていたのですが…。」

 

「…そう、ね。ちゃんと話しておく。」

 

私は今日の出来事を明月さんに話し始めた。

 

 

「なるほど、その男の人を気絶させた後お店まで戻ってきたと…。」

 

「そう、後は明月さんも知っている事になる…。」

 

「ナツメさんが彼に後ろめたい気持ちになっている事は分かりました。私も今日澤田さんに怪我を負わせてしまったのでとても分かります。」

 

「どっちも彼のせいでは無い怪我なのよね…。」

 

「そうですね…、けど澤田さんはそれを認めようとはしないと思います。あくまで自分が決めた事。行動を起こしたのも自分なのだと。私達のせいで怪我を負っていないと…。」

 

「どう見ても、違うと思う…。」

 

「私もそう思います。私を庇ったが為に受けた傷。ナツメさんの方を見た為に受けた傷。どう考えても澤田さんが悪いとは思えません。けど彼はそれに怒ったり責めたりはして来ないのですよね…。」

 

「いっそ怒鳴られた方が良い…。私達に気を遣わせている分余計罪悪感を感じる…。」

 

「まぁ…、彼の場合は本気で自分の責任と考えているかも入れませんが…。」

 

明月さんが困った様に笑う。

 

「あの…明月さん、聞きたい事があるんだけど…。」

 

「どうかされましたか?」

 

「彼って、一体何者なの?」

 

こちらの問いかけに明月さんは真面目な顔をする。もしかすると聞いてはいけなかったことなのかもしれない。

 

「何か思う事でもありましたか?」

 

「思うところは…色々ある。おかしいと思う事も。澤田君とは関わったばかりなのに不思議に思う事が多すぎる気がして…。」

 

「ナツメさんから見て、彼はどう見えたのですか。」

 

「最初はなんだか普通の人だなとしか、蝶の関係で来たから多少事情が私みたいにあるのかと思っていたからあまり気にはしていなかった。」

 

自己紹介の時、明月さんに確認をしていたから何か言えないことがあるのだろう位には。

 

「話していても特に普通だったし無害そうな人で良かったとかそんな程度。けど今日…。」

 

今日の裏路地での彼を思い出す。

 

「彼を追うために裏路地まで後を付けたんだけど、声を掛けた時驚いている様子が無かったの。最初からバレていたのかなと今では思う。」

 

「その後、私が一緒に行こうとすると彼は静かに帰ってくれと言ってきた。その時なんていうか…。彼に対して凄く…怖いと感じてしまった。」

 

「他にも凶器を持っている人を相手にするのに怖がっている感じは無くていつも通りだった。実際難なく刃物持った相手を倒していたし…。それに…。」

 

私が…。私のトラウマを、さも知っているかの様に言ってきた。それについてはなぜ知っているのか分からない。

 

「それに…?」

 

「その…、彼は私を引き離すように私のトラウマ…に感じている事を言ってきたの。明月さんや閣下にも話してないのに…。」

 

「まるで心の中を覗かれた様に感じてしまった…、という事でしょうか。」

 

「多分…そう。どこかで感づかれたのかもしれないけどね…、彼、人を良く観察してるみたいだし。」

 

そんなとこだろうと考える。明月さんを見ると何かを考えるように目を閉じていた。

 

「明月さんは彼の事を私より知っている様に見えたから聞いていたのだけど…、もしかして話せないような事を聞いた?」

 

「ナツメさんは…、澤田さんから直接何か聞きましたか?」

 

「え?、特に何も…。借りている部屋位?後は自己紹介の内容程度だけど…。」

 

(そう聞くと彼の事は何も聞いていない。生まれ変わったとは言っていたけどその前の話とか…確か喫茶店で働いていたぐらい?。)

 

「実は澤田さんにも色々話せない事情があります。これについては本人が話せるタイミングで話したいと仰っていたので私やミカドさんも詳しく聞けてないです。」

 

どうやら二人にも話していない事情があるらしい。

 

「私が知っているのは、澤田さんは今に生まれ変わる前の人生では、あまり恵まれた環境では無く、命を落とす可能性が常に隣り合わせな状況を生きられたのだと思います。これはミカドさんの予想ですけど…。」

 

「え…?命の危険が?」

 

「はい。恐らくは…。ナツメさんが今日見たのはその様な環境で培った姿だと思われます。」

 

頭の整理が追いつかない。確かに一般の人じゃないのなら納得は出来る。でもそんな環境に身を置く事なんて日本では考えられない。

 

「軍人や紛争地域に居たとか…?」

 

「それは分かりませんが、多分その様な職に就いては無いかと…。住んでいた場所も日本と言っておられましたし…。」

 

現代の日本でそんな事はあり得るのだろうか疑問に思う。常に命の危険に晒される事になるとは思えない。

 

(でも実際に目の当たりにした事は事実…。普通に過ごしていてあんな事が身につけれるとは到底思えない。)

 

知りたがって聞いたはずなのに更に謎が深まった気がした。

 

(彼は本当何者なのだろう…。)

 

考えれば考えるほど違和感が出てくる。

 

「ナツメさん。」

 

「…何?」

 

「澤田さんの事が分からず不思議に思う事は仕方ありません。私だって未だに何者なのか気になります。けど…。それに対して不気味そうに見たり、恐れたりはしないで下さい。澤田さんが何者であろうが、私達を助けてくれた人には変わりないのですから…。」

 

明月さんが諭すように優しく言ってくる。

 

「……分かってる。恩人である事には変わりないのだし…。」

 

「そうですよ。それに彼は…。思ったより周りを気にする臆病な人ですから…にひ。」

 

「そうは見えないのだけど…。」

 

「まぁまぁ、それは追々知っていきますから。今は帰って休みましょう。澤田さんとは明日改めて話し合いましょうか。」

 

「…そうね。今日は大人しく休むことにする。」

 

頭の整理は出来たが、新たな謎が出てくる。今日は考えるのを止めて休むことにした。

 

 

 

 

明月さんと別れ、お風呂に入りベットに入る。分かってはいたが寝ようとしても眠れない。

 

(帰ってからお風呂の時も同じことを考えていたし…、やっぱり眠れない…。)

 

澤田君に迷惑を掛けた。わたしのせいで足に怪我を負わせてしまった。彼は暫くの間普段の生活に支障をきたしてしまうだろう。

 

(あの時私が引き返していれば…。)

 

何度も後悔をするのは同じ事、あの時そうしていたのなら彼は一人で怪我を負わずに終わっていたのではないかと。

 

(明日、澤田君に謝ろう。そしてなるべく関わるのをやめてしまおう。私が関わる事でまた誰かに迷惑が掛かってしまうなら…。)

 

今までの様に人と距離を置いて、望まない毎日を過ごして行こう。そう決めた。彼の事はもう巻き込んでしまっているけど、これ以上しないようにしていこうと。

 

 

そう心に決め、眠ろうとしたが、結局頭の中に同じことが繰り返され、眠れたのは随分と後の事だった。

 





その頃の主人公

「靴履けないから片足はスリッパとかサンダルになるのか…。てか今日どうやって帰ろう…。部屋まで帰るのだるいぞ。ミカドさん何とか出来ないか?」

「出来るわけ無かろう。大人しくここで泊っていけ。」

「いやほら、ワープとかテレポート?それか大量の猫を呼んでローラーみたいに運んでくれたりとかさ?」

「そんな恩返し的な事は現実では無理だな。そういうのは御伽噺の中だけだ。」

「いや、あんたも十分御伽噺の住人だからな?」

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